表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/31

【第二章:愚者、命令する】

―視察官ツラギ、将軍に物申す(つもりだった)―

守霧島司令部。会議室にて。


政導審官ツラギ・カナメは、重厚な扉を開けると、無言のまま室内を見回した。


「……ふん。相変わらず軍人らしい空気ですね。息が詰まりそうだ」


机に並ぶ士官たちが直立する中、ただ一人、背を向けて作戦図を見ていた人物――

ジェネラル・オルデンが、ゆっくりと振り返る。


「ようこそ、守霧島へ。審官殿」


「うむ。……今後、この島の政務と軍備はすべて、私の“監督対象”となる。

将軍も、軍部の一部門として、私の“調整”には従っていただく立場であることを、理解していただけていれば良いが」


明らかに含みのある口調。

だがオルデンは何も動じず、淡々と答える。


「審官はあくまで政導庁の代表。

私は軍令の範疇で動いている。記録はすべて開示しよう。だが軍備判断に干渉される理由はない」


ツラギの口がピクリと歪む。


「……しかし、しかしですね将軍? 本国は既にこの島を“後方整理区域”として位置付けている。

すなわち、もはや霊脈防衛も、騎士団の常駐も過剰措置だ。無駄なのですよ」


「無駄かどうかは、敵が来た時に決まる」


「来ない。来ないのです。条約がある。不可侵なのです!」


オルデンの目が鋭くなる。

だがツラギはそれに目を合わせることができない。

自分が“将軍より下の階級”であることを本能的に理解しており、正面から対抗することができないのだ。


だからこそ、言葉を選ぶ。

遠回しに、陰で刺すような言い回しばかりだ。


「……まぁ、あなたのような現場主義者には、国家の外交バランスなど理解しづらいでしょうが」


(言ってやった)という顔をしたツラギ。

だがオルデンはすでに、彼を“障害物の一つ”としてしか認識していなかった。


◆部下への態度:暴君の仮面

会議を終えると、ツラギは部下の参謀士官を捕まえて吠えた。


「記録報告が二分遅れていた! 貴様、私を誰だと思っている?

オルデンにはあれこれ言えぬが、お前にはすべて命令できるのだ!

明日から書類は三重チェックだ。睡眠は削れ!」


「し、失礼しました……!」


「失礼では足りん! お前が私の足を引っ張っているという自覚を――!」


その声は、階段の影から聞こえてきた“若い兵士たちの苦笑”で、ピタリと止まった。


ツラギの目がギロリと光る。


「何を笑っている……! まったくこの島は、統制がなっておらん!」


◆そして、その瞬間

その日の夜。


北の霊脈塔が、突如として赤く点滅した。

「霧外反応アリ」――結界に触れた魔導物質の衝突を意味する、極めて危険な警告。


騎士団が集まり、魔導兵が配備に走る中――

司令部ではツラギが血相を変えて怒鳴っていた。


「こ、これはどういうことだ!? 敵が……!? まさか本当に!?

……私は政導審官だぞ!? 本国に戻る必要がある!直ちに船を!船を用意しろ!!」


参謀が戸惑う。


「ですが霧が濃く、出航は不可能で……」


「じゃあ風を止めろ!!魔導風でも使え!何でもいい!

とにかく私はここにいるべき人間じゃないんだ!命が惜しいんだ!!」


その姿は、威厳の欠片もなかった。

小物が剥き出しになった“ただの男”だった。


◆ジェネラルの独白

その様子を見たオルデンは、遠くから呟いた。


「……霧の中で最も危険なのは、敵ではない。

信じていた味方が、最初に背を向けるときだ」


そして、静かに背を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ