【短編】義妹に「いやしい子」と虐げられ続け、身代わり花嫁となった庶子ですが、やっぱり嫁ぎ先では溺愛されるようです
「泥棒の子がいるせいで、家の雰囲気は最悪よ!」
義妹は私を叩いた。
泥棒は、私の母のこと。
母が存命の間は、父が伯爵様だと知らなかった。
他に家庭があることも。
でも、母はパン屋を経営してた。
伯爵家に頼って生活したわけじゃない。
問題は、政略結婚前から両親は恋人で、結婚後も父は母と過ごしたこと。
父に引き取られ、義母からぶつけられたのは、憎悪だった。
「ソティルばかりをかわいがって。まだあの女が忘れられないのね!」
「だからって、ソティルを叩く必要があるか?」
「私だって好きで貴方と結婚したわけじゃないわ」
「だから、別れてくれと何度も頼んでる」
「貴方を幸せになんか絶対しない!」
毎晩、義母と父の罵り合う言葉が聞こえる。
一年もしないうちに、父は領地に寄りつかなくなった。
父にまた愛人ができたのだ。
私はそれが悲しかった。
義母は義母で、若い愛人がいるから、どうでもいいみたい。
そして私は、厨房を手伝いながら、なんとか生きてる。
「いやしい血の子は、残飯で十分よ!」
義妹に「いやしい」と言われるたび、悔しくて、涙が出る。
苦労知らずで叱られず育った義妹は、私には怪物に見える。
──────── 妹視点────────
「この子が、私のお姉様? お人形みたいね!」
「そうだ。パジー。仲良くしてくれるね?」
「もちろん!」
お父様がソティルを屋敷に連れてきた日は、嬉しかったわ。
でもね、ソティルは使用人に、ちやほやされまくんの!
「ソティル様。ドーナツはいかがです?」
「ありがとうございます」
こんな感じ。使用人にお礼を言うのよ!?
いやしいパン屋の娘だから。
そうなると、比べられた私が感じ悪いお嬢様になるじゃない?
すっごく不快。
私は先祖が王家のお血筋なのよ?
見下されるなんて許せない。
だから私、ドーナツを奪い取って、食べてやったの。
ソティルは、私が恐れ多くて、文句も言えないのよ。
ふふふ。この瞬間、上下関係は決まったわ。
「ソティル。フォアグラなんて、食べたことないだろ?」
「はい。おいしそうです」
フォアグラも横から奪って、食べてやったわ。
お父様は目を丸くされたけど、お母様は久しぶりに笑った!
だからソティルの物は、全て奪うことにしたの。
奪うって言い方は誤りね。
だって、ソティルの物は私の物。でしょ?
「この家に、泥棒の子の物は何一つないわ。だけど私は慈悲深いから、レッスンを受けさせてあげる」
「ありがとうございます」
ふふ。いやしいソティルはまんまと引っかかったわ。
外国語、ダンス、礼儀作法。どの先生も怖いの!
私の代わりに怒られればいいのよ。
ソティルの存在そのものが、悪なんだから!
しかもソティルは、はしたないのよ。
料理人見習いの、ジェフとイチャイチャしてるの。
下賤の者同士、お似合いだけど、むかつくわ。
でもね。
「贅沢三昧するせいで、財政が傾いてる。パジー、男爵家に後妻として嫁ぎなさい。経済支援してもらうことになった」
「嫌よ。お父様。男爵家で裕福なんて、ただの成金でしょ? 私は王家の血を引いてるのよ?」
「もう十五歳になったのだから、わがままはやめなさい。先方は、若ければなんでもいいそうだ」
「そんな色ボケオヤジなら、十六歳のソティルでもいいでしょ!」
我ながらナイスアイデア!
どうせ、いちゃつくなら家の役に立ちなさいって話よ。
「パジーの言うことはもっともですわ。男爵家など、ソティルに嫁がせればよいでしょう? いいわね。ソティル?」
「私などでは」
「パジーとして嫁ぐの。卑しい血は隠して。他の使用人がどうなってもいいの?」
「かしこまりました。お母様」
ついにソティルがいなくなる! 嬉しい!
すると、さみしいのか、ジェフが私に優しくなった。
連日、甘いお菓子を作ってくれるのよ!
チーズケーキ。ダコワーズ。ノネット。ブレダラ。カヌレ。サブレ。クイニーアマン。ゴーフル。ランドグシャ。ケーク。マドレーヌ。ナヴェット。ブリオッシュ。ヌガー。フィナンシェ。ガレット。
十二月になると、連日シュトーレン!
ま、私は下賤の者なんて相手にしないけどね!
──────── 姉視点────────
「遠い所をいらしてくださったのに、大変恐縮なのですが、当主は亡くなり、明日より葬儀なのです」
男爵家の家令はおっしゃった。
「人が集まるのでしたら、厨房をお手伝いします」
「パジー様が厨房を?」
「はい。葬儀用ビスケットを焼きましょう」
「結婚はなくなりましたのに?」
「わかっています。大変な時ですから、お手伝いしたいだけです」
「───では、よろしくお願いします」
私は一緒に来た使用人を連れて、厨房に入った。
使用人とは名ばかりで、私にとっては五年間一緒に働いてきた仲間。
「料理長はどなたです?」
「私ですが?」
「明日の葬儀の準備を手伝います。メニューは決まっていますか?」
「冬ですので、温かいスープをメインに」
「では、パンとビスケットを今日中に焼こうと思うのですが?」
「できるのですか!?」
「任せてください」
この国では、葬儀参列者にお礼にビスケットを配る習慣がある。
私達は、さっそく取り掛かった。
「当主となりました、エドワードと申します。昨日、今日は、大変慌ただしく、ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
「お悔やみを申し上げます。パジーと申します」
新たな男爵様とお会いしたのは、葬儀が一段落した後。
「家令からも、料理人からも、とても助かったと聞いております」
「お役に立てて何よりです。では片付けて、明日帰りますので」
「いいえ。お待ちください。あの。結婚は私とでは、いけませんか?」
「え?」
「まだ十七歳と若輩者ですが、パジー様と支え合って生きていけたらと」
「申し訳ありません。実は。私はパジーではなく、姉のソティルです。庶子で、パン屋で生まれ育ったのです」
「かまいません。お優しい貴女がよいのです」
エドワード様と私は結婚した。
若すぎる私達は、周りの助けでなんとか前に進みだした。
「あの……。このまま、男爵家に残ってはいけませんか?」
使用人は、伯爵家の惨状をエドワード様に伝えた。
領主が、領地を顧みないことも。
「希望する使用人は皆、男爵家で引き受けよう。だが経済支援しても無駄かな……」
「支援を止めてかまいません。私は偽物花嫁ですし」
自分が愛されることばかり求める父も義母も、どうでもいい。
むしろ元凶は、父だと思うし。
優しく育ててくれた使用人こそ助けたい。
──────── 妹視点────────
「男爵家に行きましょう。ソティル様は美しい男爵様と、とても仲睦まじく……」
「ねえ。美しい男爵様ってどういうこと? 油ギッシュなデブオヤジじゃないの?」
ソティルの嫁ぎ先から戻った召し使いの、おしゃべりが聞こえたの。
たとえ男爵でも、美しいなら話は別よね?
「ぱ、パジー様!? 大変失礼致しました!」
「いいから。ソティルの結婚相手について説明しなさいよ」
「まだ十七歳の、麗しい好青年で……」
「十七で後妻!?」
「いえ。あの。前当主さまは亡くなり、息子となる方と、ご結婚なさいました」
「はぁ!? 見に行かなきゃ!」
許せない! ソティルのくせに!
「ジェフは、本当に私が好きなのね」
キャンディー。チョコレート。マカロン。ピーナッツバタークロワッサン。
道中まで、ジェフは私をスイーツで楽しませてくれる。
ソティルを好きだったジェフが、今は私を好き。
ふふふ。なんて気分がいい!
「エドワードにございます」
現れた当主は、美しいなんてもんじゃない!
しかもソティルまで、成金らしく私より豪華なドレス!
ソティルの物は私の物なのにッ!
「私が本物のパジーです。エドワード様。結婚してあげてもよくってよ?」
「不可能です。私はソティルを愛していますから」
「あらあら。どちらが高貴かわからないようね?」
「優しく、かわいらしく、気が利いて、素直で、美しく、魅力的で、知的で、優雅で、かつ働き者で、愛しい妻がいる私に、何を言ってるのですか!?」
妻の修飾語が必要以上に長いわッ!
「でもね。ソティルは、卑しいのよ?」
「お帰りください! どちらが、卑しいのか。雪だるまみたいに丸いくせに」
「なんですって! エドワード様だって将来、若い子好きのデレデレ助平オヤジになるくせにッ!」
「一生、ソティル以外求めない! ソティルひとすじだ! どんな手を使っても、ソティルを逃がす気はない!」
「すでにデレデレしてるじゃないッ!」
エドワード様は首まで赤くなる。
ムキ──────ッ!!!
ずるいッ! 悔しいッ!! 妬ましいッ!!!
──────── 姉視点────────
あのね。パジー。知ってる?
毎日、ドーナツを十個食べたら太るのよ?
なんでも私の物を奪うから、おいしいメニューばかり作ったの。
「下賤の者」と呼ばれ続けた使用人は、ノリノリで協力してくれた。
ジェフと私は、新メニューを閃くと、即挑戦したわ。
「蜂蜜とバターがぐっしょり染み込んだパンケーキはどうだろう?」
「なら私は、バニラ香るカスタードどっしりたっぷりのアップルパイを焼くわ」
何度も母親を泥棒と言われて、私は怒ってるのよ?
「いやしい血のくせに!」
パジーは叫んだ。
この言葉も何度も言われた。
「パジーもよ? 貴女はお父様の娘じゃないのよ? お父様は屋敷にいなかったのだから。どうしてお父様は、先にパジーを嫁がせようとしたのか、考えてみて?」
「ふぇ!?」
驚きのあまり、パジーは尻もちをついた。
ドスンっ!! 地響きが轟く。
──────── 妹視点────────
ソティルに勝てる唯一の物。
それが「血」だったのに……。
目の前が真っ暗。自分の存在価値さえわからないまま帰宅する。
雪だるまは酷い。と鏡を見たら、雪だるまだった!!
だから私、今、雪かきしてるの。
人手不足だし。
そしたら庭師が「ありがとうございます」ですって……。
嬉しいもんなのね、お礼って。
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性悪悪女と辛辣メイドの、お見合いミッション
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後日談を書きました。
もしよろしければ読んでみてください!