第八話 3ヶ月の成果と作戦前の緊張感
あれから2ヶ月が過ぎ、訓練の重りが日を増す毎に増えていく。
1ヶ月前、僕がつい「軽い」と透さんに言ってしまい… 「辛くなるまで日を増す毎に重くする」と透さんが言っていた。
今では毎日重くなる服にも慣れ… てはない。
「おっ! 良いね今の蹴り返し教えた通りだ! だんだん身に付いてきているよ!」
「今日は負けません!」
「『今日も』の間違いでしょ…。ここ最近君に負けてばかりな気がするよ僕は」
色んな事を透さんに教わった。主に防御など護衛などに使える系だが、相手を押さえつける組み技は反射的に出きるようになった。
「ほら、正人くん… また組み伏せられてるけど?」
すぐに組み伏せられた状態から腕を脱して反撃することも出きるようになった。
「ここは… こう!」
腕を脱力させ、瞬間的に力をいれ脱し止まらず透さんの腕を掴みやり返す。教えてもらった通りに体を使う。
「僕もそれなりに成長していますから。また僕の勝ちですね」
訓練を終えて一人部屋に戻る。基地にもある程度慣れてきた頃に、一人での行動を少ない移動範囲で認められるようになった。
これも全部あの笹原防衛大臣からの通知と手紙で見た時は、普通なら嬉しいや少しはマシになったと生活の発展を喜ぶべきなのかもしれないが… 笹原と言う男からの指示と理解した頭が、それらを否定したいと思っていた。
だって、あんな男のおかげで自由度が上がったと思いたくない…。
けど… ありがたい…。
そうなんとなく1ヶ月前の事を思い出しては部屋に着き、扉を開ける。部屋の中から薄灰色の煙と香ばしい匂いが漂ってくる。
おかしい… 火の元の確認は毎日してから行っていたが… 今日も見てから部屋を出た。
そんな事を考えていたが、帰宅に気付いてか、部屋内のリビングの扉を開けミルの姿が見える。
「お? 帰ったか。おかえりなさいだ!」
「はい、ただいま帰りましたミル。あの、奥から良い匂いがするのですが… 何かしていたのですか?」
「ふっふっふ… よくぞ気付いた! 今日はお前に私の手料理を食べてもらおうとな準備した」
ミルは僕の着ている服を掴み引っ張りリビングに連れていく。
「どうだ!」
「おっ… 美味しそうですね…」
米は炊飯器だから形はちゃんとしていたが…。焦げた魚らしきものと卵を焼いたものだろうか。
山盛りのザク切りキャベツのサラダと黒い味噌汁だろう汁物… ほぼ匂いと感で予想するそれらがテーブルに並ぶ。
「ふふん。普段頑張っているおまえのために作ったんだ。主人のご飯に感謝しろ!」
「はい、嬉しいです… ははは…」
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「いや、そう! 訓練に疲れてです! さ、さあ! いただきましょうか!」
椅子に座りミルは何時も通り血液パックをそして僕は…。
「いただきます…」
「うむ! たんと食らいつけ!」
「ではご飯から…」
米はお粥というまではいかないが、とても柔らかい炊飯器はあったはずだが水加減を間違えたか… それか一から炊いたのだろう。魚を食べれば良く味わえばこれが鯖だとわかるが… 卵と同じでとても苦くもあり、所々で美味しいと感じる… 一応。
嫌なわけではなく、もちろん嬉しいけど… 不味い… そんな料理だ、初めてにしては良くできた方だ。
こんなこと相手に言わないのが… 察せられることすら怖いのが日本人だ。
いや、京都人なら… ぶぶ漬けくらいの言葉に含みを持たせて言ってやれるのだろうか… 怖いなそれは…。
「どうだ? 美味しいか?」
「最後…。味噌汁… ゴクリ…。…! え? うまい…」
「そうか! 美味しいか!」
「はい、(味噌汁だけ)とても美味しいです!」
何とか食事を終えて食器を洗うためキッチンを見ると…。ミルが使った残骸が積まれていた。
「よ~し洗うぞ~!」
何とか洗い物を終えミルと話す。
「あの、いったい誰に料理を教わったんですか?」
テーブルでミルとお茶を飲みながら話す。
「それは…。その… おまえが普段仲良くしている人間達に…」
「そうだったんですね」
「でも… あの人間達に迷惑がかからないように時間が空いた時だけ教えてもらっていた」
指をポリポリと掻きながら話すミル。
きっと多くの失敗や成功をして僕に手料理を作ってくれたんだと思う。
「ミル、ありがとうございます」
「うむ…」
そうしてお茶をのみ終えて僕らは二人寝室に向かい昼寝する。
さらに1ヶ月後いよいよ最終日だ。
インク銃はミルが酔うことなく避けることに成功した。
「ミル大丈夫でしたか?」
「ああ、平気だ!。マサト、次… 頑張れよ…」
「…! はい!」
そっとおろした後ミルは部屋の壁側に向かい歩く。
「戦闘訓練… 開始!」
透さんの合図で向かい合う。
透さんのフェイントや攻撃を予想しながら避け察して攻撃を仕掛けたりする。
「ほんと、避けるのは上手いねぇ君は… 眼を狙いたいけど… 治るのかな君は…」
「それは… まだ試してないので分かりませんが浅い傷くらいなら治るの早いですよ、包丁で切った時そうでした」
「真面目に答えなくて良いよ。ただ君の気を逸らしたい… だけ、だか… ラ‼」
初日から教わっていけど、訓練時よりも動きが速い...!。
正人は、いきなりの速さ驚き顔に拳による打撃を一発受ける。
「まさか、本気じゃ無かったんですね…」
口を切ったらしいが傷はなくなり血の味が消える。
「君の目は確かに良い銃の弾も君には止まって見えるだろう… だがそれは来ると分かってのこと、君のイメージの問題だ。あえてこれは最終日までに伝えずに来たがそれが君の敗因へと繋がり実戦では死となる」
「驚きはしたが次は... 避けてみせる、そして華々しく勝ってあの人の顔も殴ってみせますよ!」
正人は再度、眼で透の全身を捉えられる位置まで下がる。
「あくまでも護りか、攻めては来ないのかな正人くん?」
「これは… 僕がミルを護れるかの訓練です。僕自身を護れ無いとミルを護るなんて端から無理な事になる」
透は正人と距離を縮める。
「勝てマサト! お前は私の眷属だ絶対に勝てる!」
ミルが部屋の壁の方で正人を応援する
「お前ならやれる、私は… お前の勝利を信じる」
透が正人の目の前に立つ手を伸ばせば指先が届く距離まで近づく。
透の「はぁ!」と呼吸をいれた拳と蹴りが正人の顔や体目掛けて入れる。
正人はその攻撃を避け、受け流し反撃のチャンスを伺う。
正人は透の拳を掴みそのまま組み伏せる。初日にされたことをそのまま返す。
「ぐっ、ギブギブ! 骨折れるから…。いや~成長したね正人くん」
「いえ教えてくれた。透さんのおかげです」
「ははは!」
こうして僕の訓練は終わった。
そして…。
いよいよ作戦が実行される前まできた。
僕とミルは訓練の次の日から防衛大臣に呼ばれて前と同じ部屋に案内される。
「やあ、来てくれたか」
「ふん… 呼ばれたからな」
「ふふ…。相当嫌われているのは分かっていたが、可愛らしい態度で顔を背けるとは姫」
「話、進めなくて良いんですか… 笹原防衛大臣?」
「アイスブレイクだよ。久しぶりに会う君達に気を使った僕なりの優しさだよ」
笹原防衛大臣の指がテーブルに触れるとスマホの画面みたいに大きな白と青と黒で統一された地図が出てくる。
ほんと、この基地の未来感謎技術には驚かされてばっかりだ。
「君の要望通り話を進めよう。これを見てくれ。近年起こっている吸血鬼によるものだと思われる事件の資料だ。多くは明るみに出る前に我々の基地に持ち込まれるものだ信頼してくれて良い…」
「これは… いったいどういうことだ!」
ミルは大きな声で笹原防衛大臣に聞く。
地図を見ると、世界地図に見える赤い点の大群が少しずつ日本に向かって行く。
それが全部吸血鬼と思われる赤い点だった。
「さすがの姫でも驚きますか。そう…。移動しているんです少しづつですがね。吸血鬼の大行進だ。町から街へ国にから国へまだ数は少ないが世界中から日本に確実に近づいてきている。あの日の襲撃から」
「やはり私が原因か…」
「ですがご安心を、その為の囮作戦なのですから」
笹原さんは作戦時の行動等を説明してくれた。聞いている僕に多く疑問が残ったが一つ聞いてみることにした。
「どうしてそこまで吸血鬼を消し去ろうとするんですか…」
正人は笹原に聞くこの作戦の意味を。
「こんなリスクしか無い作戦をしてまでですよ… あの時とは違う冷静に考えられる今の僕でも分かる。日本を戦場にでもしたいんですか貴方は!?」
「はぁ…」とでかい溜め息を笹原防衛大臣はする。
「君は何も理解していないようだ。いや、君には最低限の常識もないみたいだ。『何故吸血鬼を消し去ろうとするか』そんなものは決まっている。人類の敵だからだ! あの者たちがいてはいずれ人間は滅ぶ運命だと分からないのか? 元人間として奮い立たないのか? 人間が滅ぶ可能性はいくらあれどあれらほど脅威となる生き物はいない。人間を食料とする化物が野に暮らして良いとでも?」
笹原防衛大臣は顔を僕に近づけ指を指しながらギョロとした視線にゾクリと身震いをしそうになった。
「だとしてもですよ。共存の道は無いんですか? 同じ生き物として… 保護でも何でも!」
笹原さんは笑っていた。僕の発言に対してだろう嘲笑するように乾いた笑い方した口で言う。
「“無い” わけではない…。だが、それにはコストよりも多いリスクがある。他の市民たちの理解が必要なんだ。理解出来ない脅威への理解が。世界に暮らす化物を知ってもらわなくちゃいけない。仮に隠して保護したとするが隠すにも限界は来る。理解しろ国民が理解する前に君が! この現状を理解しろ不可能に近い可能性を理解して君の脳に焼き付けておけ! この世には理不尽な未来もあることを」
血を食料とする吸血鬼には血が必要。それを産み出すためには人間が必要。
理解していない訳ではない。
そうした理解がされにくい世であることも分かっている。きっと不可能に近い理不尽と思いたくなるほど僕の心はミルを知ってから吸血鬼側に寄っている。
知ってしまえばもう後戻りは出来ない。全部知った日にはもう吸血鬼を見るだけで逃げてしまうかもしれない。こんな現実味の無い体験は今後何度生まれ変わろうと出来ないだろう。けど僕は変えたいと身勝手にも思ってしまっていた。
今の僕にはそれを変える力は無い。ただその時を待つだけしか出来ない。揺らいでいるから少し歯痒い気持ちで話している。
「分かるよ君が理解したくない理由は。純粋に日常を生きた正人君には僕の考える考えに納得はしないことも分かっている」
「したくありません… こんな作戦の意味なんて…」
「反抗的だ。だがその君の新鮮さは面白い。きっと姫様の為にもなるだろう」
笹原はテーブルに両の手を置き自身の口を隠すように正人を哀れみを含んだ乾いた目で見る。
「ハハ…。もちろん、君は正しい。…けどその正しさはなんの実態も力もない空っぽの正義だ。言葉だけで人は動きはしないし、同じ感情を持つ吸血鬼だって納得はしない。君が思う正しさは君の中にある国でしか価値のない通貨だ」
笹原は声一つとして落ち着き顔に焦りや怒りといった表情もなく正人の方を見る。
冷たく恐怖していた瞳は安らぎと暖かさを覚える慈愛と嘲笑を混ぜた濁った乾いた目をした顔の下の口で言う言葉に正人は酷く動揺していた。笹原の言葉は心の底から嫌なものであったが同時に心に貼り付けられたような気持ちにさせられたからだ。
何か言い返そうと思ったけど言い返す言葉が思いつかなかった。
「話を戻させていただきます」
笹原は淡々とした態度で二人を見る。
「まず… お二人には街に出てもらいます」
「街に出ても良いのか…」
ミルが笹原の目を食い入る様に見ていた。嬉しそうと言った方が正しい。
「ホントに... 街に出て良いんだな!?」
「はい、今回限りかもしれませんが囮なので昼間から人間の街を歩いてもらう必要があるため。仮に昼間から姫様たちを襲う吸血鬼がいたとしても監視していますから直ぐに対応出ます。さすがに人が多い場所で人間を襲う吸血鬼も居ないと思いますし… 仮にいても隠れている秘密兵器が即刻消し炭にしますのでご安心を」
笹原防衛大臣は東京を指差す。
「場所は東京の浅草とします。繁華街などで人も多く吸血鬼が多くいると思われますから」
「分かった…。それで日時は…?」
「今から移動します。なので正人君。急いでこの段ボールに入ってる服に着替えなさい。そんな締まりの無い服では一般人が怪しみますから…」
「分かりました…」
まだ色々と言いたいことがあるが、スーと下から段ボールを持ち出し手渡され急いで案内された部屋で用意された服に着替えてきた。
「サイズは… あってるか。では行きましょうか浅草へ…。車の用意は済んでいます」
早足ぎみに歩く笹原防衛大臣についていく。
建物から出るとタクシーと運転手姿の顔見知りがいた。
「ご苦労さまです! ささ、お二人とも後ろの席に乗ってください」
「では、僕はここで」と言いタクシーに乗車した僕たちを見送るように笹原防衛大臣が見ている。
「あっ、正人さんだけすみませんが、情報漏洩を避けるためにこの目隠しと耳栓を俺が吸血鬼さんに良いと言うまで着けていてくれませんか?」
「あ、はい」
手渡されたアイマスク状の目隠しと耳栓をつける。車のエンジンオンの後に動きはじめる。目的地は東京の浅草。作戦実行の時は近い。
読んでくれてありがとうございます。一応この編で新キャラをどんどん出そうと考えていますが…。
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