第七十六話 友情の誕生日(後編)
パーティーを抜け、会場となる屋敷の外に出たシーナは一人階段に座る。
「はぁ... このまま部屋にでも戻ろうかなぁ」
シーナは一人考える。
考えるのが嫌になるほどルーナという存在の事を。
なぜルーナに対してこうも冷静になれないか、清く美しく可愛く完璧な自分が自分じゃない状態になってしまうのか分からずにいた。
イラつく事はあれどそれは、普段も感じる時はある自身の思い通りにいかないこと、話を理解できない者との話等々。
シーナは全て優れた自分が悪いと誇らしく思っていた。
可笑しいのお馬鹿な周り、父親だけが話を理解し、理解者の少ないシーナは孤独を感じる事もあったがそれとは違う。あのお馬鹿さんには何か別の気持ちが私をイラつかせているのだと理解し始める。
「はぁ… もう友達だって認めちゃおうかな… ハハ…」
完璧で天才な自分とあのお馬鹿さんが、友達に? 悪くはない。あの人間達と同じで教育すれば良いと思ったが… なぜかそれをする気は起こらずイラつきだけが溜まっていた。
シーナは分からずにいた。ルーナだけが現在とはかなり違う特別な何か、その何かがシーナには分からなかった。経験に無い事だからただ考えることしかできず、考えても考え続けてもその答えにたどり着けず… 自分らしくないと思いながらも自暴自棄になりそうだった。
「はぁ... パーティー抜けたは良いけど戻っても楽しくない…。やっぱり部屋にでも戻って本でも…」
「あら本をお読みに? 何の本かしら」
ひょっこりとシーナの背後から腰を座らせたルーナが顔を覗いてくる。
「えぇそう。お父さんの部屋からこっそり借りた原初様に関する本… あんなに厳重にしまっているならとても素晴らしい知識が… って? うわぁ! いつからそこに!?」
シーナはルーナに気付かず独り言を呟いていたが、ルーナに聞かれていた。
「ふっふっふん! なにやら会場を出たそうにしていたので、シルの後をこっそりと着いてきましたわ! まさか本当に気付いてなかったとは… ワタクシも驚きましたわ」
「つまり最初から聞いてたの… シュミワル(ボソ)」
シーナは顔を紅く染める。一人と思って気が抜けていたシーナにとって自分の許した者だけに見せる素顔の一部でも見られた事はとても恥ずかしいことだった。
それがルーナに見られ、シーナは生まれてから1番恥ずかしい気持ちになった。
「また耳まで赤くさせて、可愛らしいですわ」
「え!?」
サッと右耳を右手で隠すシーナだが、スッと冷静さを取り戻す。
「あら…」
顔の赤さが引いていくのを気の抜けた声で見ているルーナ。
「どうして私の後を、そんなに私と話したいことでも? 友達の件ならまた別の日に…」
「またそうして誤魔化して! ワタクシはあなたがワタクシと本気で友達になりたいのか聞きたいからこうして後を追いましたわ!」
「はぁ…? そんな事今じゃなくても...」
何を言っているのかシーナは理解することを躊躇った。頭痛がするほどのお馬鹿さんにシーナはまたも無視しようかと考えたが効果はないと思い少しは話そうする。
「ワタクシ、最初はあなたが友達になりたいのだと思ってましたがワタクシもあなたと友達になりたいんだと、思うようになったんですわ!」
「…そうなんですね」
「だから聞きますわ! さぁシル! ワタクシの友達にしてあげますから、友達になりたいとはっきりと声に出して聞かせてくださいません?」
「…」
シーナは我慢した。
うざいコイツに今はなにもしてはいけないと。
一人になりたいのに察する事すら出来ないお馬鹿な同じ同種と思うのが嫌になるほど嫌いになっていた。
(あぁそうか、だから嫌いなんだこのお馬鹿さんの事が。お馬鹿を見るのにも慣れていると思ってたけど… ここまで愚かなお馬鹿さんはこの猿が初めて… いえ猿の方が物分りが良い…。友達と言っていっそう飼殺しにでもすれば私の今の気持ちと釣り合うかな…)
「…そろそろ私は戻ります。あなたと私の父とで何か準備しているらしいので…」
「…まだ答えを聞いて―」
「あぁ… あなたも一緒に行きましょう。来ないのなら私の方から遅れてくると知らせておきます。それと友達の件はまた後日にでも手紙でお知らせします。私もこういった経験は初めてで考える時間をくださると嬉しいです…」
「確かに… そういった場合は考える時間も必要ですわ… 配慮に欠けまして申し訳ありませんわ。まだ友達ではありませんが一緒に戻っても?」
「…。…えぇ、一緒に戻ってパーティーの続きをしましょう」
二人は並んで会場に戻る。
シーナは考える。
パーティーが始まって考えることに疲れ、しかもお馬鹿の相手をした事で知恵熱とアレルギーからか頭痛がしたと本人は考える。
パーティーが早く終わってほしい。そう思うようになった最悪の誕生日だと。
だが、これは今の現在の本人も最悪の誕生日パーティーだと思っている。最低な自分とルーナという最高の親友と出会えたパーティーなのに…「最低だわ自分」と思い出す度に憂鬱になりルーナにイイコイイコされないと立ち直れないほどの黒歴史となっている。
二人は煌びやかに装飾された会場に戻る、満点の星空と太陽が融合したと幻視するほど綺麗会場に。
「戻ったかルナ! ハッハハ!。シルちゃんとは大丈夫だったか?」
「シル、どうかなルナちゃんとは仲良く出来そうかい?」
「その件に関しては本人にもお伝えしております。また後日手紙でお知らせすると… ですから今はパーティーを楽しみます」
「お父様! ワタクシはシルを絶対、ゼッタイ! 手に入れて見せますわ!! 頑張りますわ! お友達♪ お友達♪」
会場に戻り、お互いの父親と話す二人。
「ふふ、君が冷静で知的でお利口で完璧なのは父としても誇らしいが… こうも見せつけるような仕草混じりだともう決まったようなものだと思うよシル」
「…? 何の事を言っているのですかお父さん?」
「とぼけるのは君らしくもない… いや、そうだとすると君のいたずらかなルナちゃん? シルの手を気付かずに繋ぐとは中々の手際だ…」
「え…?」
シーナはふと自身の隣に立つ者の顔を見て下の方に視線を移しハッとした。気付けば自身とルーナは手を繋いでいた事に気付いていなかったからである。
確かに隣を歩いていた。歩いていただけで私からは何もアクションを起こしていない。
つまりはそういうことをされた。私自身の許可も無くしたのかと。
「…くっ!」
「フッフッフ~、シルやっと気付きましたわ! それにまた耳まで赤くさせて、そんなに照れなくて良いのですわ! これからはそれが当たり前に―」
「帰ります…」
シーナはルーナの手を強引に振りほどき、会場を後にしようとする。
「ちょっと待ってほしいですわ、何がいけなかったの?! ワタクシ何かあなたを怒らせるような事を…」
ルーナは引き留めるため、怒った原因を聞くためにシーナの肩を掴む。
そして、シーナの黒歴史となる更なる原因が起ころうとする。
「…! 離して!」
シーナは我慢強い方だが怒りやすい子ではあった。一度怒るような事があれば原因を究明し二度と怒ら無いようにしてきた積み重ねからだった。多くそういった経験をしたシーナでも今回何が気にくわないのか分からずにいた。
お馬鹿の相手でもう怒る事は無いと、未熟なのは自身なのか、自身が主役ではないこのパーティーなのか、考え続けたがルーナが追いかけて肩を掴んだ事で吹っ切れた。
緊張の糸が切れるように、プツンとシーナの耳に確かに聞こえた。
「いい加減にして…。しつこいうざいお馬鹿さんが…。私は帰るこんな場所にいてはイライラしてあなたを殺してしまうから... それとも先程の答えを聞きたいの? だったら今伝える! 友達? あなたとなるわけないでしょ? お馬鹿なあなたとなんか、友達になるわけ無い」
シーナは全てがどうでも良くなった。
良かった。
ここには本当の私を知る存在が多くて、コイツにどう思われようと今後一切会う気が無いから何を言ってもどう思われようと関係ないと。
「え…」
ルーナは引いた声で驚いていた。
「それになに? あなたのしゃべる時の語尾。ですわ~って、馬鹿丸出しのしゃべり方。物語のお姫様にでもなったつもり? 物語の主役はあなた...? 誰にも言われてこなかったようねだから私が言ってあげる。あなた変よその喋り方。あなたのウザさが倍になって余計に嫌いになる。止めるって言うなら手紙限定だけど話し相手になってあげる。それで良いなら手紙を書きなさい、あなたに書けるならだけど?」
ルーナは震える肩と目から落ちる涙。腕を振り上げシーナに近づき思い切り平手打ちをかました。
バチーン! と気持ちの良い音が会場の外にいた使用人にも聞こえるほど響いた。
叩かれたシーナは床に倒れ、何が起こったか理解できず放心状態でルーナを見上げる。
「これでお相子ですわ... シル」
見て改めて自身がルーナに平手打ちされ倒されたのだと理解する。
ルーナの父親が二人の間に入ろうとするがシーナの父親に止められる。
「シー…だロウ。ここで私達が邪魔してはいけない」
小さく呟くシーナの父親だが、ルーナの父親はそんな事言う親友対して拳を固めていた。
が、拳を緩める。
「分かった… 二人に決めさせよう。だがな深刻な事態になる前には俺は絶対にあの娘達を止めるからな!」
「譲歩してくれてありがとう、さすが我が友だ」
倒れたシーナと、それを見下ろすルーナ。
シーナにはこの現状に納得が出来なかった。周りよりも賢い自分がこんなお馬鹿な猿以下の吸血鬼に倒された事が。
自身よりも劣っていると思っていた相手に倒されたことは当時の彼女にとって最大の侮辱だった。
「死になさい…!」
シーナは立ち上がる際にルーナを結界の壁で会場の壁まで押し付ける。
「あなたが悪い。私をここまでコケにした自身のお馬鹿な頭を使って謝るのなら許したのに… 何が、何が… 何がお相子よ! 何も釣り合ってない」
壁に押し付ける力は増し、壁にヒビが走る。ヒビと共に屋敷は揺れる。崩壊な免れないと会場の使用人や建てた本人達は考えるようになった。
だが、頭に血が上ったシーナにはそんなの関係とばかりに押し出す力は増し続けた。
ビキ… ビキビキ。
「…! うっ嘘… 結界が...」
シーナは驚いた。5歳にして大人顔負けの力を持つ自身の力は自身が絶対足る自身の1つだった。だがその自身と結界にヒビが走る。
ガチン、バチ、バチバチと鉱物の擦れるような音がなる。
パキ…パキパキと結界の割れ欠ける音と共に。
「ここまで追い込まれたのはあなたが初めてですわ... 力はコントロールするもの… 本気になったのはあなたが初めてシル」
結界の向こうで呟く声をシーナは拾う。
「嘘ウソよ! 私は絶対! 最強… なのに!」
バキン! の音と共に結界は砕け、生涯の友が立っていた。
「あら残念ですわ。最強がもう一人生まれてしまいましたわ…」
手には体格に合わない大剣を振り風が纏っていたかのように壊れた壁と塵を吹き飛ばす。
「許さない…」
「それは… ワタクシのセリフですわ~!。…シルとは友達になれると本気で思ってましたのに… とても残念ですわ」
「全部お前が悪いくせに何が残念だ…」
「ワタクシ? あなたにも原因があったのではなくて?」
「違う! 私は何も悪くない。私を怒らせたあなたが全部悪い。くっ! お前がウザくて強引で話を聞かない無礼者じゃなかったら楽しいパーティーの思い出だったのに… 血生臭い思い出になりそうお前のせいで」
「それもワタクシのセリフですわ... 今日のワタクシ、普段の誰に対しても優しく元気で美しくて可愛いワタクシには戻れなさそうですわ。あなたを完膚なきまで叩きのめすまでは… ね!」
ルーナは地面を弾むように踏み距離を一瞬で距離を縮める。
シーナは馬鹿の考える手だと、結界で念のため二重の壁をルーナの通り道に置きぶつかり顔面を潰そうと考える。
だがルーナは地面に大剣を刺し勢いを落とし止まる。
止まると同時にシーナの足元から無数の赤い拳の塊が体目掛けて襲う。
「まさか血で!」
シーナは血で形を作るのが得意では無かった。弱者が出す武器だと軽視していたからだ。
だが、ある程度吸血鬼由縁の感覚として見て直感的に理解する。
武器は血で出来ているものだとシーナも理解していたが、地面に刺して血で地面を掘って殴ってくるなんて使い方は初めて見た。
大雑把な形なら即座に作ることは出来るがこうも一瞬で確実にルートを決めてから殴ってくる技、こんなお馬鹿なアイツにそんな知恵があるのかとシーナは考えたが、避ける。
「いや馬鹿だから考えてないアドリブで... 結界が砕かれたのも私が咄嗟いに出した出来損ないだから… アイツの方が上だからじゃない!」
「ならここで証明してあげますわお・馬・鹿・さん!。ワタクシ、原初様に憧れて常に最強で美しい吸血鬼を目指していますわ。そのワタクシの実力があなたのプライドとどちらが上かを」
二人の喧嘩はどちらかが倒れるまで続いた。
「…。会った日に本気の殺し合いとは…」
父親二人は見守る前でどちらが死んでもおかしくない戦いが、起こっていた。
「大丈夫か会場の方は? 知り合いに良い解体屋を知っている」
「そうか! 連絡先を聞こう。持ちべきはやはり情報通な親友だ」
「…嘘つけ。部下を使いに出して情報を聞いたら帰らせるくせして何が親友だ…。もてなす準備をしてた俺の気持ちを少しは考えろ!」
ルーナの父親から連絡先を聞くシーナの父親。
ルーナ、シーナ。二人殺し合いは朝まで続き、会場は解体屋が必要ないほどさら地に変わっていた。決着は二人同時の気絶で引き分けだった。
会うことは無いと二人は思ったが、行きつけの服屋や小物店など会うたびに争う事が当たり前になり、いつの日かなぜこうも会うのか、なぜ争っていたのか忘れるようになり、シーナは手紙でルーナの自宅に向かうと送った。
謝罪をするためだった理由はどうあれ…うやむやにはしたくないと思ったからだ。
どうやらルーナも謝る気だったのか同じ日に同じ内容の手紙を送りお互いの手元に届き、誕生日会場だったさら地でお互い「ごめんなさい」と謝罪し泣いて抱き合った。
その後は加速度的に仲を深め幸せな日々を過ごすのでした。
そう… 見知らぬ吸血鬼に着いて行き、日本に向かうあの日までは…。
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「そう… これがこの子の人生ってわけ。うん、理解した!」
それは、ルーナの魂があった場所から聞こえてくる偽りの魂。本人不在の肉体を乗っ取り語る口は肉体本人の声に変わろうとしていた。
肉体に馴染み初めていた。
かつて原初に成り立てのミルにより屠られた原初が、再びルーナの肉体を使い復活する。
目的は不明、ただの気まぐれか遊びか。それは、原初のみぞ知る。
「待っててネェ、シ~ルちゃん♪ 私が… ルーナが今目を覚ますからネェ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
能天気なルーナ、傲慢なシーナ。二人は喧嘩こそ多いですがする機会は減っていきます。ルーナの瀕死も相まってシーナの過保護化がより強固になりました。そうなってもルーナは危険に飛び込むことにあまり躊躇の無い性格特に自身が大事と思った事に対しては、シーナも同じで大事だからこそ守りたい。大事にしている人の大事な物ごと。
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