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第七十四話 取引をしよう

断罪室視点。


「取引をしよう」


 笹原は、冷たく静かな部屋で、トイレ昨日の付いた椅子に縛られた状態で同じ状態の少年に変わった元共犯者に話しかける。


 本部の最下層に位置する光届かない部屋でなぜこうも楽しげに話せるとロビックは考えたが… より自身の惨めさが思考を埋め尽くす事に気付き考えることを止めた。


 死ぬ事がこうも恐ろしい事など知っている。心より欲したモノが他者にとられ… 予備の肉体の事も忘れるほどの悲しみと憎しみが今も思い出しただけで沸く。


 笹原が、ウキウキに同じ話しかしない事にロビック(少年)は何回目か数える気もないNoを言う。


「貴方との約束は守ったはず、そんな睨まずとも...」


「…おまえのせいで僕は生き地獄だ! 基地も壊され… 優秀な駒も消え… 台無しだぁ…」


「…それはとても悪い事をしました。僕に出来ることがあれば何でも言ってください」


 (ヘラヘラ笑う。眼の奥でコケにしていると隠す気のない目だ)


 そう分かっているが、ロビックもこのまま終わる気もなかった。


「…実は、僕には貴方の他に共犯者がいます」


「…だからなんだよ。この基地を壊して脱するとでも?」


「ふふふ。聞く気になってくれてありがとう。共犯者と言っても... 人間では無いのですがね」


「ははは、そうか… 吸血鬼と手を組んだと? それでその王子様が助けに来ると... ばかばかしい… おまえ、本部のヤツらが化物揃いだと知らないのか? 特にこの部屋に僕らを入れたあの番犬と飼い主が侵入者に気付かないはずがない…」


「確かに... 恐ろしい。けど不可能ではない」


 二人以外誰もいない部屋でガタリと椅子が揺れる。


 椅子に座る笹原の影からドロリとした黒い塊から人形の大男に変わる。


「…」


「これが僕の共犯者の一人…」


「…スカー」


 スカーとロビックに名乗る大男は、暗く顔がハッキリとは見えなかったが、気配で人間でない事が分かった。


「驚いた… まさか本部に吸血鬼を入れるとは… だが、鼻の利く犬がこの部屋の吸血鬼に気づいただろう… やはり脱することなど―」


 ロビックが話している間に椅子の拘束から脱した笹原が話を指で止める。


「ふふ、ご心配無く... 私はあなたが必要だからあえてこの部屋に来た。もとより協会の誘いもこのために受けたのです… 私のために」


「…おい、気付かれた。するなら早くしろ…」


 スカーは笹原の方を見て言う。


「やはり貴方でも影から出れば気付かれる。予想はしてましたが優秀な部下をお持ちで…。どうしますか? 私達はここを脱する。貴方はここでただ死を待つか、選びなさい」


「…ははは。そんなのは決まっている、まだ死ぬ気など無い。共に行こう」


「では…」そう笹原が言うとグニャリと空間は揺れ、部屋事別の場所に移動する。

 笹原達は気付けば外に出ていた。何処かも分からない雪原の中、部屋の壁や床など事、部屋を無理やり切り取ったように移動していた。


「ふぅ... 急ぎの転移で適当に飛びましたが一応は本部の結界外… です… はぁはぁ」


「空間転移とは、しかも部屋事… おまえはただの人間では無いのか?」


「肉体は借り物ですが一応は人間なので、我々だけの繊細な転移は無理で... しかも外と中を遮断する結界内からの転移で部屋事無理矢理でしか突破できず… ははは」


「肉体は… と言うと…」


「ふふ… 今は、人間ですよ貴方と同じ… ね?」


「はぁ、しかし空間転移を隠していたのなら無理やり最初から飛べば良かっただろう… なぜしなかった?」


「貴方の口から直接言わせた方が良いと決めていたので、その方が貴方も心置きなく私達に協力してくれるでしょうから」


「そうだな… だが、取引は内容を聞くまでのる気にはなれない。最低限の協力は約束しよう… だが、僕の意思に反するモノにはのる気はない!」


「でしょうね。ですが、私の話を聞けば貴方(ロビック)は私達の仲間になると知っている...」


「オイ…」


 スカーは、何もない場所を睨む。


「…どうやら適当に飛んだが直ぐ様場所がバレたらしい…。まったく優秀なこと」


「…なんだと!? おいおい僕は戦いが出来るタイプじゃない! 前の僕なら戦えたが… 今の僕では無理だ! 逃げるぞ!?」


「ご安心を、私とスカーが戦います… それにここは既に結界の外… ふふ、迎えが来ます」


「来る...!」


 スカーが言うと同時に、ピリッと首筋に痛痒いものを感じる。


「…! ぐぉ…!」


 スカーの腕に噛みつく狼。何もない場所からと思うスカーだが、ヘシリアが逃げられることを察し自身よりも先に飛ばした狼に噛まれる。


「私から逃げられるとでも思ったか… ロビックはともかく、貴方はまだ審議する前だと言うのに… 愚かな。まったく… 死ぬ前に全て話してもらおう」


 ヘシリアは、何もない場所から現れる。


「ぐぉぉ!」


 体ごと腕を振り手に噛みつく獣を振り払うスカー。


「…殺すか?」


 狼は人形に戻り、ヘシリアの前に立ち聞く。


「いいや、吸血鬼はともかくあの二人は拘束しろ。特に… 日本人の方は優先的に」


「はいはいッと…!」


 狼の姿に変えグルルと唸る。


「どうする、殺すか?」


 スカーは笹原に聞く。


「狼の方は殺れるが、人間の方は今の僕達では無理だ。ここは迎えを待ちロビックを連れてお前は逃げろ。殺すな」


「分かった…」


 スカーは、まだ椅子に拘束されたロビックを抱え急ぎ持ち走り去る。常人のロビックにとっては体が急に風の中で立っている感覚に感じるまで数秒の遅れを感じるほどだった。


「…追うか?」


「追え… 残った方は私が拘束する。吸血鬼は殺し、罪人(ツミビト)は殺さず拘束しろ」


「はいはい… ッと!」


 笹原は、走り去る狼を視界に捉えていたが目の前の人間相手では見逃す以外の選択が出来なかった。


「やれやれ… 僕一人で相手するにはだいぶ手に余る… 吸血鬼相手の方がマシなくらいだろうね…」


「あの御方を裏切るとは… 貴様みたいな人間にも生きる猶予を与え、聞かせてもらおう理由を。大人しく拘束されろ… ジッとその場を動くな」


 ジリジリと歩き、笹原に近づくヘシリア。


「ふふふ。裏切り者。確かに...僕がしたことは重犯… 立場が立場なだけ君達が作ったオリジナリティーに溢れた法ではまだ生かされている… 実に滑稽だ。だから利用され続けるんだ、協会は実に都合の良い宿だったよ…」


「…!」


 ヘシリアは、殺さぬよう力を緩め、かつ確実に痛みが残るように拳を握り笹原の胸を掴み殴る。


「黙れ、殺せずとも殺さぬ程度に痛め付ける事は許されている。…良いか、私やフラン様の前で協会やフラン様を侮辱する発言をすれば次は目を潰す…。続けるようであれば指を足を無くなれば最後首を切る…」


「ははっ… はは。殺さない… 殺せない。ルールを決めた者の過ちだな… 傷が痛みが何の意味がある。そんなのは常人ではない人外(おまえ)達からすれば取るに足らんものだろう… ふふふ。未だ人間だとでも思っているのか… あの娘は… ふふ、はははははは!」


 ドン! 胸ぐらを片手で掴んだまま地面に笹原を叩き付けるヘシリア。


「時間はだいぶ稼いだかな… は、…はは」


「無駄だどんなに遠くだろうと必ず見つける」


 笹原を拘束するためヘシリアは笹原の手を掴もうと胸ぐらから手を離す一瞬。


「…!」


 ヘシリアは反射的に躱す。新たに突如現れた吸血鬼に気付き躱し、視線は笹原の方を見る。


「そうか… 全て計画の内だと…」


 ヘシリアは気付く。笹原と居る吸血鬼が、以前協会に侵入して原初と共に姿を消した吸血鬼であると。そして全て一人の人間の計画の内だったと。


「ならば、断罪する…」


 ヘシリアは、剣を抜き構える。


「二人は?」


「既に送った… 後はお前だけ」


「逃げれそう?」


「あんたはまだ利用できる。必ず連れて帰る…」


「そう… ふふ」


 笹原は立ち上がり、ヘシリアの方を見える。


「証拠は揃った。罪人(ツミビト)を断罪する」


「どうやらお別れの時間だ… バーイ」


 笹原は、ガッカリとした態度で言う。


 ヘシリアは、吸血鬼に向かって剣を振るう。


 吸血鬼もそれに気付き避けるが、先程までヘシリアの居た位置から遅れて火の魔法が吸血鬼に当たり爆発する。

 炎に燃え火ダルマの吸血鬼に剣で切るが、感触は無く辺りを確認するが笹原の姿も消えていた。


 辺りを探るが、気配は無く。追跡をしようにもヘシリアの魔法にも反応は無く完全に見失う。


「逃げられたのか?」


「そっちもだろ…」


 遅れて戻る狼。


「今は逃げられた事を悔いてる暇はない。報告が先だ… 行くぞ」


 スッとその場から姿を消すヘシリアと狼。

 最後まで見ていただきありがとうございます。


 場面としては、正人君がミルの中に行った後の話です。

 

 色々とやりたいのでやります。


 ヘシリアさんの力はギリギリまで隠したいのでこの程度ですが… 笹原さんにも一応に秘密はあります。


 スカーさんは今後出るか知りませんが、ゼルさんにはまだ働いてもらいます。タクシーみたいな役が多いですが移動が便利で...。


 元の展開からコロコロと変わりすみません。


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