第六十七話 迷い
"サガスナ" ワタシヲサガスナ"
声が聞こえる。よく知る声で目の前で言われているように聞こえた。
声は、だんだんとはっきりと聞こえてくる。
「来るな!」
耳元で言われるような大声で言われた気がして目を開ける。
どうやら、僕はいつの間にか眠っていたらしい。
「わぁ…!」
驚いた際の声を気にして、辺りを見回すが誰一人いない。
「あれ… みんなどこに?」
改めてよく見回すと、車内ではなかった。
どんよりと重くなる肩と足。
進むことを躊躇するほど真っ暗な空間に立っていた。
「…これは夢?」そう思うほど現実ではない。
「こっち…」
再び声が聞こえる。
体は自然と声の方に歩き始める。
何故だろう、行ってはいけない…。そう思った。
だけど声は、再び、"こっちだ"と言ってくるから行かなきゃいけない。
手を引かれるように自然と体の操縦を失った。もう僕の意思で体は動いていなかった。
その声に導かれるまま暗闇の中を何時間も歩いた気がするし、数分だったかもしれない間歩いた気がする。
分からない、意識もだんだん… 無くなって… 何かと一つになる。
歩いていたのではなく... 引き寄せられていたのかもしれない。僕がよく知るあの声に…。
「ダメ!」
闇の中で閃光が弾けるような声が僕の体を止めた。
「眷属さんだけは来てはいけませんわ…。原初様には眷属さんが必要ですから…」
「ダ… 誰?」
「…ただの命の恩人様達を想う一人の吸血鬼ですわ…。だからまだこっちには来てはいけませんわ。もう少し先でお待ちしております…原初様の心と共に...。眷属さん」
「ルーナ…?」
突き飛ばされたような衝撃と共に目を覚ます。
「…これは夢… それとも現実…?」
「…ちっ、起きたか」
「へ?」
僕の喉を掴む腕と心臓に向けられたナイフを持つシルバーさんが目の前にいた。
「わ、わぁ!」
「うるせぇ! 黙れ…」
体は反射的に暴れようとするのを静止するが、シルバーさんの目に映る自身が見えるほどの危機を落ち着かせるために深呼吸する。
シルバーさんは、溜め息を漏らしながら奥の席に戻る。
「…な、なぜ僕を殺そうとするのかこの際聞きません…。理由は分かっていますから…」
そう言えば… 僕の危機にいつも反応するメリーさんが今回は反応しなかったな、何故だろう…。
いつもなら車が吹き飛んでいたはず…。
「お前の連れの事が気になるのなら、安心しろ。眠っている」
「…そうですか」
落ち着いたところで車内を見回すと僕とシルバーさん以外居なくなっていた。
「あ、あの! 他の人達は…」
「…お嬢様達を救出に向かった」
「え! 置いていかれたって事… ですか僕とシルバーさん!?」
「…お前、運が無いなフフ…ざまぁねぇ。俺はお前の監視として残った…。危険なお前の連れの監視を含めて… 俺は原初の眷属であるお前を少しでも殺せる機会を得るためにな…」
「監視…。それは確かに... 信頼してもらおうとは思ってここまで来たわけではないですが…」
「社長… シルお嬢様のお父様もお前を初めは認めたわけではない…。だが、いきなり気が変わったようだお前と会ってから…」
「…そうですか」
正人とシルバーとの間には壁が出来ていた。空気が湿り車内には独特の空気が流れていた。
喋る空気が出来ていた。
「何を話したかは聞かない。だが、何が... お前をそこまで動かす… 俺達に関わるのならそれ相応の理由があるはずだ…」
「聞きたいのですか? 意外です… 僕の話を聞かない人なのかと…」
「あ…? 良いから話せ。俺に殺される前に… 今にもナイフを投げそうだ…」
「え…分かりました話しますから! ナイフを構えないで、しまってください! 恩返しです!」
空気に乗るように正人は勢いのまま話していた。
「…ただの恩返しです。恥ずかしくて本人達には言えませんが協会から連れて逃げてくれた時… 本当は泣きたいほど怖くて... そんな時に見た二人の顔が不覚にも... とても嬉しかった…」
「…」
「それと… ミル。僕のことをいつも考えてくれたミルのためでもあります…。だから… 僕の手で助けたい… と思ってました」
「…それで終わりか?」
「…すみません、もっとあるのですが言葉にする自信が無くて...伝えられるのだけを伝えました…」
難しい。
もっとあるはずなのに… 言葉にしようとするとそれがとてもむず痒く感じる。
誰かに話して良いと感じない。とても恥ずかしい僕の本音なのだろうか…。
「…夢の中でルーナに会いました。とてもおかしな事を言ってましたが… 僕の事を命の恩人って言ってましたが… 彼女たちに救われたのは僕の方なのに…」
「だからなんだ。今すぐお前を連れていけと?」
「…!」
「弱いお前に何が出来る… 助けられてばかりのお前を俺は助けない。それともお前の連れに今回は助けてもらうのか?」
「…たぶんそうなるのかもしれません今回も」
「ち…! なんだよ…。嫌味だぞ…。少しは反論してみろよ! 気に食わない… 死人みたいな目をした原初も… 今のお前も... なぜお前みたいなヤツが今になって… 俺の前に…。あぁ!」
シルバーさんを苛つかせてしまったらしい。
「…ごめんなさい」
嫌なヤツだったらしい僕は…。
シルバーさんは何か言おうと口を一瞬開けたが… 言う前に飲み込み外に行ってしまった。
天井に空いた穴から木漏れ日が見えたが、眩しくて目を瞑った。
シルバーさんと別に友達やある程度仲良くなりたいとかではない。
適度に話せるくらいの中で良かったのに… 僕は嫌なヤツだったらしいシルバーさんにとっての嫌なヤツだったらしい僕はそんな自分が嫌いだ。
嫌われる自分が嫌いだ…。
こんな僕ではミルと会う時嫌われるんじゃないかって… 余計に嫌いになる。
「はぁ…」
そうだ、考えすぎだ。
焦っている僕は… ミルがいない現状と共にルーナ達を助けに行けなかった事が重なり… いや、やっぱり元から僕は冷静とは呼べない。
焦っていたから着いてきた…。
手頃な安心ほしさに… 心を落ち着けたくて…。
嫌いだ。そんな自分が嫌いだ。
嫌いで...憎んで…憎悪している。
頭が痛い…。
こんな気持ちを忘れたい… 嫌だ。気持ちの悪い嫌いな自分を嫌う自分を忘れたい。
「はぁ…はぁはぁ…」
呼吸が荒くなっていく… 落ち着け… 落ち着け!。
落ち着け…落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!。
落ち着け!。
「落ち着いてマサトさん」
僕の手に優しく触れるメリーさん。
「はぁ…はぁ」
「ゆっくり呼吸しながら私の声を聞いて… それ意外何も今は考えない。良い…?」
僕は軽く頷き返答する。
だんだんと落ち着き始める。
「うん。良くできました。もう大丈夫そうですね」
「あ…ありがとう」
「ううん、こんなことで感謝する必要ない。今はもっと大事な時に取っておいて...」
「…」
「…私はいつまで貴方の側に居れるかは分からないから... 感謝は全て本体に伝えてくれると嬉しい」
「何で...そんなことを…」
「…なんとなくそう思ったからかな。伝えときたかったんです。何も伝えずお別れは嫌だから」
「…だったらいま―」
「…私はただ偶然意識が芽生えた本体の模造品。そんな模造品に感謝していてはマサトさんの喉を潰してしまいます。私とても優秀ですから!」
話を逸らされた気がした。
だが、もうその先の言葉を言う事は止められる… そう言われた気がした。
「はぁ… 確かに、メリーさんがいないと今僕はここまで来れなかったか… だったら消える時まで僕を助けてくれる?」
「助けるのではありません…。私を使ってください。そのために私は生まれましたから」
「強引だなメリーさんは…」
また泣きたくなった。
堪えたが、別れと聞くと途端に泣きたくなる。
メリーさんはいつの間にか僕の中で大切の一人に入っていたらしい。
メリーさんが開けた天井の木漏れ日と草木の揺れる音。
ただ隣に座るメリーさんを見て僕は途端に悲しくなった。
とても消える、そうは見えない一人を見てこの先どうするか考える。
まずは… シルバーさんをどうにかしなくては…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
中々書く手が進まず、続きが日を追う事に書けなくなってきていて… キャラの口調ももしかしたら変わっていたりするかもしれません。その時は気付き次第戻します。
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