第五十三話 道しるべ
瞬きする間もない、命尽きる寸でに僕の視界も相手の視界も、ここにいる皆の視界が一人の少女に集まり思考を僅かに揺らす。
状況を一番理解出来てない僕でも... この異常性を理解できない頭ではない。
だけど…これは違うと思えた。
今僕が見ている少女は本当に…僕が知る少女か、考えてしまう。
感じてしまう違和感にその肩に手が触れそうになるが、良く分からない、知らないものに触れる恐怖から僕は掴もうとする手を止める。
少女の見た目は、赤い体に赤い服をしたミルが目の前に立っていた。
次第に赤からいつもの見え方で肌の色が赤から白く艶やかで月の光のような綺麗な肌に、髪も白髪にも金髪にも見えるぼんやりとした美しい髪色になっていた。
着ている服からすべて見える全てでこの女はミルと思えた。
だが、違うとハッキリと思える。
この血は沸き立ち視界を自分の目を疑いたくなるが、違う、違うとまるで別人だと思う。
僕の記憶と血がそう判断してか、心から求めていても… 手を伸ばせば届くとしても触れられない。
不思議と… そう思った僕の判断が間違いなら、素直に謝るけど間違いではない。
そう思える。不思議と… 少女から感じる。
「君はだれ…?」そう僕は目の前に立つ少女に聞こえる大きさで聞いていた。
「…なぜここに原初様が... けど…侵入者さん、逃げるなら今ですわよ?」
ルーナは、驚いていた。突然現れた原初に。
「あれが原初ですと? ハハ、戯言を。多少の違いも理解できぬ小娘…が、あれごときで小生が逃げると。人形遊びをしている暇はない…」
侵入者は気付いていた。それが偽者であると。
「…! 今のうちに逃げて眷属さん! くっ!」
シーナは、僕と侵入者の吸血鬼との間に薄い板状の結界を張る。
彼女はこの状況を利用しミルの眷属正人の救助を最も早くに考えた。
「…え?」
だが結界は、剣を構えたミルの姿をした少女の突進により壊される。
気遣い無用とも違う、邪魔とさえ思わず自身の敵を殺しに向かう。
殴るわけでも切るでもなく頭から突進して割っていく少女の姿が見えぬほど速く、割れる結界だけが少女の位置を知らせていた。
まさに一瞬で相手の懐に結界を壊しながら入っていた。
侵入者は何も驚く様子もなく、想定どおりと思わせるニコリと笑い少女を見ては… 僕を見て来る視線に恐怖を感じた。
気持ちの悪い感覚、冷や汗と目を瞑りたくなるほど僕はあの吸血鬼に怯えている。
ミルがいないこの状況に恐怖し、それと戦う… もしくは守ってくれるあの少女にどこか安心感を感じてもいる。
僕はその様子を見ながら少女とは逆方向に逃げている。
「半端ものにそこまでして、たかが眷属一人を守りたいと? …まったく… 美しい心をお持ちで… 泣けます、スレ切れそうなあなたの心に…」
再び激しい鉄の切れるような音と火花。当たり擦れる音、何か肉を切る音、血の匂いがどんどん強くなっていく。
視界にとらえられるギリギリで見えたのはミルの姿をした少女が押している様子だった。
戦闘による風圧か、机や椅子が飛んできて避けるため中々ルーナ達の元に行けない。
初めに距離をとったことが... 仇となった。
もう少し様子を見てから動こう…。まだ少女と侵入者は戦っている、隙を見て一気に戻ろう。
「ですが… 小生はか弱い… 紙とペンで戦う演出家兼演者… お手柔らかにお願いしますよレディ?」
血で紙とペンを作る侵入者。
産み出した紙が少女の視界を封じるように広がるが、全てが一瞬で切られ細かな塵に変わる。
持っていたペンと剣でまた激しく二人は戦っていた。
「今だ!」
僕はその隙にルーナ達二人の元に走る。
それに合わせてか、はたまた偶然か。急に僕が走ると同時に少女は侵入者を掴み外に通じる窓ガラスに向かって投げる。
窓ガラスがある方向は僕がいる方向でもあり、僕の背後に影が二つ外に出た。
パラパラと割れたガラスの一部が部屋内に残る。
怪我はない、だけど外ではまだ音が聞こえる。
「大丈夫ですか眷属さん?」
そう僕を心配するルーナ。横で逃げる途中で割れる音に驚きこけた僕に手を貸そうと手を出すシーナ。
「ほら眷属さん、すぐ立って… じゃないと置いて行っちゃうから」
「ごめん、ありがとうシーナ」
手をとり立ち上がり、僕たちは急ぎ外に向かう。
この目で何が起こっているのか確かめに行く。
途中玄関の階段で「何事だ」と屋敷の異常を感知したルナの父親と使用人達が来たがそれよりも今は侵入者の方が!。
皆で外に出る。
「…あれが君の主人か?」とルーナの父親が聞いてきた。
「いえ…。だけど... ここまで力の差が… あったんだ」
圧倒的… なんて言葉で片付けられないほど力の差が有ってか…戦いは既に終わっていた。
玄関を出て僕は驚く、他のルーナ達や父親達は…吸血鬼をよく知っているからか、あまり驚いている様子はなかった。
だけど僕は心の底から驚いて何も言えない、状況説明を無限に頭でして理解しようとしているが… 到底理解できないほど圧倒的な存在感だ。
屋敷の玄関の扉を開けると相手の吸血鬼の心臓だろうか何度も胸に向かって剣で刺しているミルの姿をしたものがいた。
手を止めず、ただひたすらに急所を刺していた。
「…ハ、ハハ。さすがに…今の小生では… 手に… 余ると… ハ、ハハ」
まだ息が有ってか少女に目も暮れず、死にかけと思えないほど視線でこちらを見て、倒れて灰になりながらもこちらに指を指し。
「良いのかい? 小生ばかり見ていては… 月を失い… 沈む日々に戻る… ぞ?」
何かにハッとしたルーナの父親は背後を見る。
「ほら、ここにいた二人はどこへ…?。君たちの大事なお友達と家族はご無事かな?」
その声は目の前で死にかけている者の声で後ろから僕には聞こえてきた。
そうハッキリと聞こえた。
「はっ!」と僕も声に出し後ろを振り返ると…。
「ばあ! ハハハ…ハァ!」と驚かし笑う侵入者の姿があった。
先程まで背後にいたはずだったルーナ達は音もなく消えこの男が僕とルナの父の肩に手をかけ間に入っていた。
「…おい。ガキが調子に乗るなよ? 娘達をどこに隠した… 遊びで済ませてさっさと返せ小僧…!」
「怒鳴って大物ぶるなモルモット。モルモットの老兵が吸血鬼を育てていると知った時は驚いたが… まさか真実だとは… ふははは!」
怒りで侵入者は肩を掴もうとするルナ父の腕を避け屋敷の屋根にくるりと回りながら飛ぶ。
「人間でありながら人間以下の化物にそう言われるほど堕ちちゃいないぞ… 吸血鬼狩り《ハント》。小生はただ今を生きている! 一人でも多くに来てもらうために努力している言わば劇における功労者だ」
「ルーナの父親が… 人間…」
「お前には関係ない話だ…。吸血鬼狩りだったことを知っているなら分かるだろ? 返さないと...ただじゃ帰さねぇ…。屋敷を荒らした件も含めて許してやるから返せ…。じゃないと俺の宝に手を出したとしてぶっ殺すぞ小僧…」
隣から殺気を感じる、とても人間が出して良い殺気ではない。
声や視線から本気だと伝わるほどルーナの父親から感じる。
「だめです、ここは一旦逃げましょうお父さん!? 僕達じゃ敵うわけない!」
「あ? …何が逃げるだ逃げるのは… もうたくさんだ…。今度こそ侵入者は捕まえて絶対吐かせてやる」
「…捕まえると申されても、小生の目的は済みましたし帰らせてもらいます…。ですがその前に...」
気づけばまた僕の胸を貫こうとする腕があった。
だがそれをミルの姿をした少女が切り敵を塵に変える。
「…。まだ意識が、いいや命令だからか、健気ですね。フフ、まぁ…良いでしょう。本来の目的も達成した事ですし私もおとなしく帰るとしましょう…。ですから、屋根に近づき小生を捕まえようとしても無駄です…」
「…!」
屋根に闇から現れた執事やメイド達が一斉に男を襲うがすり抜ける。
「無駄、無駄。ここにはもう小生はいない。大事な宝を二つ抱えて去った後。取り返したくば…おとなしく指示を待たれよ…宝の安否が大事なら? バーイ」
侵入者が消えた事を見てすぐルーナの父親は使用人達を集める。
「…セバス! 急ぎシークにも伝えろ。また急ぎ捜索班の準備もだ。急げ! 周辺に残る痕跡も探せ! 塵一つ残さず集めろ!」
「良いんですか! 二人の安否が…」
「お前は部屋に戻っておとなしくしていろ、後はこっちで片付ける」
「僕も二人が心配なんです!」
「…必要ない、この件は私達で片付ける。部外者のお前は部屋に戻り日本に帰る準備でもしていろ」
そう関係の無いと突き放すルーナの父親。だけどなにもしない自分でいたく無い。
とても遠回りで… もしかしたらもう二度と会えなくなる事になるかもしれない。
大事な人と会えなくなるかもしれない… けどこれは違う。
ここで動かないとより後悔してしまう。
一人のために動くより、僕は自分のために… 我が儘になってでも納得して動きたい。
じゃないと... 自信がない。
ミルに会った時…笑える自信が無い。
嘘の笑顔ではミルは喜んでくれない。前に言われた…。
嘘の笑顔じゃ… 駄目なんだ。ミルの前では嘘の笑顔じゃ駄目なんだ。
心の底から笑える僕じゃないとダメなんだ!。
「…僕も捜索に協力させてください!」
だから、絶対に助けるんだ。
「客人は帰れ、部屋に戻り寝て忘れろ。お前に出きることは何もない…」
例え僕が居ないところで解決するであろう事でも...。
「…嫌です、帰りません! 僕も二人が心配だから... 目の前で安否を確かめるまで帰れません!」
僕のこの手で助けたい…。我が儘だけど... 助けたいと僕の心が叫んでいる。
「何故だ関係は無いお前が…。…はぁ、分かった…。客人を巻き込むのは少々心が痛むが…」
「…! ありがとうございます」
「勘違いするな…。必要が無くなればお前を日本に帰す…。それか協会に預ける。それだけしか私には出来ない」
「協会って… あの協会を知っているんですか?」
「知っている…。だが古い付き合いってだけだ。…私の昔話を聞くより今はおまえの見た話を全部聞かせてもらうのが先だ… さぁ、話してもらおうお前が会ったあの侵入者の話をな…」
「あ… はい!」
僕はさっきまであったことを全て話した。
急に現れた侵入者のこと、ミルの姿をした少女と勝手にそう呼んでいるモノの事を。
少女については僕も詳しく知らないので、あまり話さなかった。
知らないものを話せと言われても困るから、姿形はミルにそっくりだと説明して終わった。
その後僕は少女共に部屋に戻された。
聞くことを終えて元の部屋に帰る。
「…」
帰りながらも思ったが、このミルはいつ消えるのだろうか…。
先ほどからついてきてはくれるけど…すごくミルって見た目をして安心は出来るけど…。
喋らないのが不気味だ。
部屋に戻り椅子に座らせる。僕もベットに座り軽く会話出来るか試してみる。
「…こんばんわ?」
「…」
やはり喋らなかった…。
「こんばんわ!」
「あの、そう叫ばなくても聞こえます…ので」
「しゃ、喋った…! あ? え、えぇ、君が喋ったの? 今?」
「はい、私が喋りました。何か問題でも?」
「…いや問題は無いです。はい…」
嘘。会話できた…が。なんかゾワッとした背筋を撫でた。
不気味を通り越して… 怖い…。
日本人形が動いてるみたいで… 怖い。
「…あの、ちなみに名前とかはあります?」
「ナマエ…。名前…?」
何か考えている様子だ…。頭に手を当て考えている。
考える時の癖まで同じとは…もはや本物と思えてしまうが、やっぱり声と見た目だけ一緒でしかないと…モヤッとした気持ちで待つ事数分。
「…。すみません。本来私には自我すら無く... 何かのアクシデントでこのように話せていますが… 名前も...無いようです、記憶を辿る限り…ですが」
肩を落としシュンとしているように見えた。どうやら感情はあるらしい。
「記憶ねぇ…。そうなんだ… 何か覚えていることはない?」
さっぱり理解できないが、それぽい事を聞いてみる。
「覚えていることは… そうですね… あなたとの記憶です。全部そうです…。それと…本体が残した… いえ無意識に送った… メッセージでしょうか... 聞きますか?」
「え、メッセージ? 聞きたいです!」
そんな機能が!。
「では再生します。…ゴホン」
再生するとい言うが… スピーカーも付いてないからそうか、彼女の口から話すよね。どこか変形するロボをイメージしてたがグロテスクなるな… 考えるのはもう止めよう。
再生された彼女の口からハッキリと聞こえた。
「ごめんなさい」と何度も謝るミルの声だった。同じ姿で声も... 同じ。
いや、ミルの声なのは当たり前だけど… こんなにも何回も終わるのかと思えるほど何回も… 泣いて…鼻を啜る音さえリアルに再現する。
だから僕は… 「やめろ!」と言った。言っていた、腹の底が重くなるのを感じたから反射的に止めていたのだろう。
「…。まだ終わってませんが良いのですか?」
「…やめろ。おまえ、ミルの居場所が分かったりはしない?」
「…。本体の方から分かっても、私の方からは何も分かりません」
「そう…。そうなんだ… けどもうそれはもう、聞きたくない…。あの… ミルは最後まで謝ってたの?」
「いえ、途中からは死にたいとか、消えたいとか言っています。けど眷属であるあなたのことは好きだったようですよ? 記憶を見る限りは… よほど好かれた眷属さんですね、パチパチ」
彼女は手拍子をしながら声に出して言う。
「いや、それは本人から聞くとして…。やっぱり名前がないと呼びにくい…」
「どうしてですか? おまえとか君で良いんですよ?」
「いや... ミルの姿をした人形? とは言え…」
「人形…」
「…ごめん、傷付けたかな?」
「いえ、私がそれほど瓜二つで美しく可愛いという事と受け止めていますので」
「…変に自己評価が高いのも一緒とは… 確かに可愛くて美しいけど…」
「なぜそれを本体に伝えないのです? パーフェクトに美しくて可愛いと」
「それは… 伝えるのが恥ずかしいから言えないだろ… それくらい察しろ。感謝は伝えているから良いんだよ…」
「そうですか、とても残念です伝えれば貴方への好感度は天元突破して「好き好き大好き♡」と本体からも伝えるはずなのですが…。残念ついでに朗報です、人形と言う言葉から記憶にあるものでオススメな呼び名があります」
「…なに? 忙しいヤツだな…」
「メリーさんなんてどうでしょう?」
「え… 呪われないですかそれ? 背後から来ない…?」
「大丈夫です、私一応強いですから、呪いくらいなら弾けます、バッチコイ!」
「…まぁ、可愛らしい名前だし良いか、それじゃあ? よろしくメリー… さん?」
「誰が羊だ! すみません、ふざけすぎましたね。改めてメリーさんですよろしくお願いします、あなたの身は私が必ずお守りします」
「…うん、よろしくメリーさん」
互いに握手を交わし手を握る。
手の感触まで一緒とは…。
「ところで、メリーさんはいつ消えるの?」
「私は本体の意思無しに消えることは出来ません。今回出てきたのもあなたの身を守るためであり、今後もそのつもりです…」
「消えないとなると… ベット…どうしようかぁ… 大きいとはいえ… メリーさんはミルじゃないし一緒に寝るのは…」
「そのまま寝れば良いのでは? 私の事が気になるのでしたらお一人でお眠りください、私は朝まで起きてますので」
「いや、さすがにそこまでは… 出来ないよ」
「ですよね! なら、本体同様一緒に寝ましょう。いやぁ、さすがに朝まで起きてるのは精神的に辛いですからね? ささ、こちらに?」
ベットに横になり手のひらでベットを軽く叩き来るよう合図するメリーさん。
「…まぁ、良いか。いや、よくない良くない…!」
「何をしているんですか? 寝ますよ」
「ちょ、引っ張らないで…折れる…腕折れる...!」
「…おやすみなさい」
そのまま手を引かれ無理やり横にされ全身抱き枕状態になり動けないまま朝まで眠ってしまった。
こんな夜だったが、最悪と感じる相手と会って、友達を拐われて、ただ見ているだけで依然と変わることもない。
だけど、変わることが全てじゃない。
諦めない、この気持ちを叫ぶが聞こえないとしても、僕は...次会う時は絶対にミルの笑顔がみたい。
誰一人かけることのない。
会ってしまい気持ちを知り仲良くなれば…それは見捨てられるほど薄情でもない、見捨てる勇気がないだけかもだが…僕にはそれが出来ない、そんな自分のままじゃ会えないから。
ルーナ達を助けてから…いや、助けながらでもわずかな情報でも集めてまた会いましょうミル。
会う時は絶対に笑顔で…会うと決めています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
何がどうなってと言う状況になりまして…キリコ言う吸血鬼はなぜルーナ達を拐ったのか。
何で護衛用のミルの分身が意思を持ったのかは言えます、ルルに力を貰った時に術がバグって発動と同時に意思を持つようになりました。
普通なら戦い終われば消えるはずだったんです、その時にはミルが来ていたはずだからけど来なかった。
来れない理由があったから。
等々、日本を離れて海外での物語ですが…ハッキリ言って辛いです、書いていてこれは大丈夫か?と思う日々です。
続きは書きにくくなってきましたが、完結はさせます。
わりとギャグチックになってしまいましたが、一応シリアスな展開が続いています。
次か次くらいにルーナ達方面の話をまた書くと思います。
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