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第四十七話 寂しい化物:止まった時間

 ミル視点。


 油断した…。

 体に力が入らない…。

 本気を出せばここからなら数分で元の場所まで戻れるが… 眷属同士での争いを嫌うルルの命令のせいか…体に触れられている限り無理だ。


「おい、…いい加減おろせ」


 私を脇に抱える吸血鬼に言う。

 他二人も含めて顔見知りの、私の友人達だった者達。

 また会う日が来るとはこれもビクターの差し金か…。

 

「おいおいミル、俺達を前にして久しぶりの会話がそれか?」

「おい、ハッシュ! 様をつけろと言ったはずだ! …姫様もご理解を」

「…分かっている」

「そうでした... すみませんミル様」

「…」


 私を抱え一日中走り続ける男はハッシュ、それを叱る男の吸血鬼はヨド。そして…前を走る男はよく知る顔のビクター。私の古き友人達だった者達だがなぜこのような行動をしたのか分かる…私はまたあの屋敷(いえ)に帰るのだな。


 屋敷に付き、玄関前に並ぶ眷属達は私が受け継いだ者達だが…。

 その姿が嫌だ、まるで人形のように道を作り両端に並び私に頭を下げる姿が嫌だ。


 嫌で嫌で、顔をしかめるミル。

 ハッシュがミルを床にそっとおろす。


「おかりなさいませ我が主…」


 男三人の出迎えを後に一斉に同じように復唱する屋敷の使用人達。


「おかえりなさいませ… 我らが主」


 とても無機質で一斉に… 私を… 私をそう呼ぶなと言ってやりたいがその期待は私も以前持っていたもの、否定はしないが今の私では肯定も出来ない。

 この血を憎みたくはないが…どうしようもない怒りと虚無感が心に同席する。


「…すまない、部屋で休みたい」

「では、こちらに」

「いや、いい… 一人で行ける」

「…そうですか」


 そう言いながらもビクターは一人、あとの二人と使用人達を置いて着いてくる。

 指示もしてない者が着いてくることに以前は自身が後ろをついて回るだけだった事を思い出す。

 楽しい日々、幸せを期待し与えられてた日々を思い出す。その期待が私がルルに求めていたものとは別のものが私に向けられていた。

 それが私にはとても痛く生身で鋭い刃を何本も刺されるように辛く...逃げてしまった。後悔もしている…だが、耐えられない、あの日も今もこんな場耐えられるわけがない…。


「…もういい帰ってくれ」

「何かありましたらお呼びを…」


 向かった部屋は以前はミルが大勢の他の眷属と寝ていた部屋だった。

 扉は閉じる。

 やっと一人になれたと肩の力も多少は抜ける、壁の傷や棚に並ぶ本は当時のまま変わってないが… その部屋に不釣り合いなベットが置かれていた。

 それも気になったが、机の方に目を向ける、椅子に座り目を瞑る。


「ルル様、ルル様!」

「ふふ、何だミルか、今日は何をして遊ぶ?」


 聞こえないはずの返事が聞こえた気がした。聞こえてしまえば、胸を締め付けられるような気持ちから、今いる部屋に水が満たされたみたいに体は冷たく息も出来ない苦しさが襲う。

 流されてしまいたい…どこかまた遠くに流されて…忘れてしまいたい。


「…ふぅ」


 ほこり一つ無い部屋で一呼吸する。

 良く見なくても分かる手入れされた部屋、なのに傷はそのまま…当時のままで懐かしさすらする。

 目に見えて分かる傷でもはあえて残しているのかただ見逃してか知らないがクスリと一瞬笑えた。

 懐かしさから来る笑みだ。


「ふふ…」 


 今は昼ぐらいだが窓の外は真っ暗で雨でも降りそうだった。

 まぁ、雨水がこの屋敷に触れることは無いだろうが。

 嫌な場所だ、思い出を汚すようで苦しくなるが嫌な場所だ屋敷(ここ)は。

 楽しいから嫌だ、幸せに包まれた記憶しかないから嫌になる。

 壊したいとか消えてほしいわけではない、要らんことを考えてしまうけどここは私にとって守りたい場所でもあるからこそ…帰りたくなかった。

 きっと今でも一番にこの屋敷を守ることに変わりはない…変わらないから、後悔してしまう。


 ベットに向かい横になる。

 向こうのより高級感もあり寝やすいベットだ。


「向こうは大丈夫だろうか…」


 そう考えてはいるけど体は動かない、置いてきてしまった皆は生きていると分かっているからなのか、今戻ってどんな顔でマサトに会えば良いのか分からない。


 あの瞬間、自覚してしまったから。暗く閉ざされた私の世界に一筋の光を見せてくれた眷属に私はこの立場にありながら眷属を… マサトを好きになってしまった。

 好きになって…良いのだろうか…私みたいな化物があんな優しき男を好きになって良いのだろうか…。私はまだ期待しているだろう、マサトになら良いと…私を受け止めてくれると…。

 なにをバカを言うんだ!私は…。私がそれを良いと本気で思えるはずがない。眷属の前ではカッコつけてばっかりで、素直になれた時は笑えても…私はマサトになにも話せてはいない。

 嘘つきだ…私は…。力はあっても結局…私は眷属一人救えない、私だけを救おうとマサトを利用する卑怯者だ私は…。

 怖い…一人は怖い…怖くて怖くて怖くて! 私は…やはり…けどそれでも…会いたくなってしまう。


 好きで... 好きで…側にずっといてほしいと思ってしまう。

 好きなのか…本当に、これが愛なのか…。こんなドロドロとした熱が愛や恋なのか…。

 私が知るものとは違う…。

 ならば違う…。こんなのが愛と呼べるわけがない…。

 酷く醜い化物だ私は…心の底まで醜い化物だ。

 嘘だ…違う! 私は…マサトとの約束が、私を否定するな…してはいけない...。

 だが、どうすれば良い…。

 私は自分を嫌いになり続けてる。どこまでも身勝手な私が… どう飾ろうとマサトをこの道に巻き込んだのは私で...基地での事全部が私のせいで、巻き込んでばかりだ。

 そんな気持ちから来る私が産んだ幻想が記憶をねじ曲げているように… そう思いたいほど… 苦しいから… 何で私は…。


 私は駄目だ、今はマサトが居ないと駄目になってしまった。

 一人で生きるのが怖くなってしまう、この先マサトが人間に戻れたら私は心から喜べるかは分からない。

 マサトを殺して無理やりまた眷属にしてしまうかもしれない。

 嫌だ、そんなのは嫌だ…。

 けど、側に来てほしい、目の届く距離にいてほしい。


 私は後悔している。何度も後悔してしまう…。


「やめろ…考えるな… ぁあ! あ、あああぁ! やめろ… やめてください...」


 自らの行動を振り返り… 走馬灯のようにくっきりと思い出と共にあの日の事を思い出しては口から心臓が飛び出てしまいそうなほど息が詰まる気持ちになる。


 苦しい…。

 とても苦しいの… どうして胸がこんなにもいたいの… 私のせい… なら仕方の無い… 私の身勝手さ... 何もかも全てが...私のせいだったんだ…。使命を果たせたい、元友達の声すら聞けない、眷属一人救えない私に…生きる意味が有るの…。

 どうやったらこの苦しみは消えるの?。

 私はこの苦しいがすぐ消す方法を… 思い出す。


 「…そうだ」


 私が死ねば良いんだ。


「そうだ、死んだら会える…ルルにも… そして眷属も自由に出来る…」


 そしたら… 寂しくもなくなる、孤独感も消えてマサトも苦しまずに... 私が死んだら全部がうまくいく!。

  

 漠然とそう思えてきた… 普通なら思いもしない、閃きだ…。


「ハハハ…」


 なんだ… こんな簡単な方法があったのか… なあに二度目だ今度は誰にも止められず死んでみせる。


 ミルは立ち上がり血を指先から流す、血で陣を地面に書きその上に立つ。


 原初は死ねない、死ぬ方法はあっても死ぬことは無い種族に残された自決の方法は… 自らを呪い魂を壊す方法だけだった。


 吸血鬼の、自身の魂に干渉し砕く。吸血鬼になる際に壊された魂に二度目は無い。

 想像絶する痛みと苦しみが自らを焼き一度使われれば術者が死ぬまで終らない痛みと苦しみの中死ぬ呪い。

 血を媒介に行う最強の呪術…それが原初の自殺、誰が始めか分からないがいつの間にか広まっていた原初自身が編み出した禁忌だった。


「できた…これでまた!」


 部屋の中に血の陣、ミルはフラフラと自制心無き傀儡のようにその一握りの希望を乗せ陣の上に立つ、後は術の発動を告げる血を一滴垂らすだけだった。

 垂らし痛みに耐えれば楽になれる。

 苦痛は自身の業と思い耐えられる。

 また会いたいヒトに会えるのなら…耐えられる…きっと。

 分かっていた、こんなことで全部うまくいくことは無いと、だが、楽になりたかった。

 今まで目先の快楽に身を寄せてきたミルの精神は糸の切れるギリギリの状態であり、正人との出会い、ルーナとシーナとの出会い含めてギリギリのところにテープでグルグルに修正したが気づきと不安のハサミが容赦なく切り裂く。


「うん…上手くいく...全部上手くいくんだ… これで幸せが皆にも」


 心の底で分かっている、けど…もう無理…。


 陣の上に指を出す、指先から血を垂らす。


 一滴赤い血が流れた、流れた傷跡は塞がり一滴の血だけが落ちていく。


 早く落ちてほしい気持ち、やっぱり嫌かもと思う気持ちがありながらもただ目を閉じその時を待つ。


 だが、血は地面に触れる前に理由も分からず燃える。

 陣には触れず燃えて蒸発する。


 いくら待ってもその瞬間が来ないことに焦りを感じ地面を見ると陣も消えただ部屋内で立っているだけだった。


「え… 何で... 何で死なせてくれないの… どうして…誰が」


 成功する自信はあった。

 本気で死にたいと思っていた、後悔はあっても死ぬことが私に出来ることだと思っていた。


「なのに...どうして死なせてくれないの、何がいけないの…。死んで何がわるいの! 嫌だ…悪くないもん私は…何も悪いことしてないもん…」


 声は一人部屋内で泣く声以外無い。

 部屋の外で異常を感じた者達がその様子をただ見ていた。

 扉越しでは何も見えてはないが、何があったか、何をしようとしたかそれは以前と変わらず今回は止める必要が無いと安堵して全員は立ち去った。


「…良いんですか?」

「何がだ…」

「…ミル… 様がの事ですよ…」


「…話したはずだ、あのお方はもういない。新たな原初として選ばれた…ミル様を永劫守るのが我々の使命だと… それに…今は一人にさせてあげなくては...

もう私達では...姫様を救うことなど… 心を閉ざす原因を作った私達では... 救えはしない」


「…けど、俺はまだ…アイツの力になってやりたいんです… 守る以上の存在で...ありたいんです…」


「ハッシュ… 若く姫様と共に育ったからといって…あのお方を前と同じと思うな…。分かるはずだ、体に流れる血があのお方がどういう存在か教えてくれているはずだ…心は捨てなさい…辛いのは皆同じだ」


「けど、ビクターさん! 俺は、変わりたくはない。アイツを守るって約束が... あるから... 心からそう思う… 忘れたくないんだ…この気持ちを…」


「なら、今はそれを胸にしまいなさい… 辛いだけだ…お互い…」

「はい…」


 扉と壁を挟み部屋から離れる気配に気づかず部屋内でうずくまり泣く少女。

 本来の姿とは違う少女。

 覚悟足り無き少女は昔を懐かしむ、昔の方が良かった、気の抜けた仲間とルル…原初と楽しい日々。

 歌って踊って本を読んだり、町の人間達の噂を聞いたりと飽きない日々が。


 外に雨はない、だが、部屋には聞こえる小さな雨が湿る眼球から流れる大粒の雨が。

 次第に少女は泣き疲れてその場で眠る。

 あの青き空を懐かしみながらミルは少女の姿から少し成長した若い女性の姿となり眠る。


 どこまでも呑気で永遠と続く幸せな夢を見ながら寝返りをうちながら眠る。


 部屋の外にコツコツと歩く者の足音が消えないほど深く眠る。


「ロンドン橋落ちた、落ちた落ちた...♪」


 屋敷の者は全員が眠っていた、外の見張りも執事もメイドも全員が一斉に眠る。

 とても不可思議な現象の中で原初のいる部屋に向かう足音だけが聞こえる。


「ロンドン橋落ちた…。マイ・フェア・レディ…♪」


 呟くように歌う声も誰も聞こえない、ドアを開ける音にも誰も気づかない、侵入者を誰も止めない。

 コツコツと原初のいる部屋に入ると侵入者は原初の影に触れる。


「さぁ...我が劇場に招待しようか…原初よ」


 触れる影に侵入者は沈んでいく、水に溶けるように沈んでいく。


「力無き王か…孤独に震える声。ふふ、見えるぞ悲劇に酔い過去を捨てきれない孤独な王が...ならばあなたの演目は... 喜劇といたしましょうか? 観客を笑顔にあなたの人生をドラマチックに彩り見せましょう!」


 揺れる影と苦しむ声、誰にも触れない無い、触れてほしくないものに無理やり触れられる。


「さぁ...今宵は眠れる夜となりましょう」


 影に作られし劇場に響く高らかな声と、演目の始まりを告げるベルの音、観客は無し主演はミル、侵入者の描くシナリオ通りに話しは進んでいく。


 夢見る少女は影を踏まない、踏めない影に掴まれてただ沈んでいく。


 夢の中で沈んでいく。


 目覚めの朝日はまだ遠い…。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 辛い過去を書けば同情できるのか、そう思う事が多くなりました。

 本当は幸せな話を書きたいですがどうしても根がそうなのか書けないです。

 ミルは今も昔も表面的な明るさからは想像も出来ない苦しみがあります。それが正人達との出会い含めて傷は広がってしまいました。

 仲間が目の前で原初になった瞬間から部下とも違う奴隷のように見えた時から、友達がそうなったら嫌です。血が記憶と魂を引き継ぎ枯れない限りミルは死ぬことを許されない。

 台詞少なめで面白くないと感じさせてしまったらすみません。

 侵入者は男の吸血鬼です。屋敷内では力を封じられる事を利用されたのと気持ちが不安定な時に来られて余計に分が悪い状況です。

 話の中で説明できずすみません。


 感想など待ってますお待ちしています。


 評価とブックマークも面白いと感じたらお願いします、気が向いたらでいいので

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