第四十一話 僕…参上!
これはミル達が基地に向かった後の話。
ベットで眠る正人の話。
遠くで...助けを呼ぶ聲がする…。
震える声で…泣いて…僕じゃない誰かが震えている。
焼けた屋敷とその中で叫んでいる少女を僕は知っている。
ただ僕の中に存在しないはずの記憶に違和感を覚えず… 記憶の地を歩いている。
終わる頃にはきっと忘れている。覚えさせてはくれない。僕が覚えたままなのを許すとは思えない。僕もそうするから...。
自身にとって辛い記憶は誰にも共有なんてしたくない見られたくないから。
ただ僕は見ている偶然が作った夢を、説明も感情も伝わるほどリアルな夢を。
一人の愛した人を自身の手で殺せと愛した者から言われて焼けた屋敷の中で叫んでいる。
少女からしたらとても下らなく考えたくもなる我が身を焼こうとする炎よりも熱く苦痛の記憶。
そして、少女は深く考えた。このまま自身がそう…ならないために考えて考えて考え…考えた。
人じゃない、私は人じゃないから平気だと、きっとこれが必要だと… 私が選ばれて良かったと。
だからって… 殺したくはない。親同然に愛した者を私が殺す...。その気持ちが手足を震わせ立つ意思と力を抜く。
雑な言い訳を…考えて考えて…本音を埋もれさせようとする。
「殺したくはない…」と呟く声は小さくではあったが僕の耳に良く聞こえるほど近くで見ている。
記憶だからなにも出来ない、意識もぼやけた夢意識だが感情だけが伝わる。
殺したくない、まだ一緒に暮らしていたい。
晴れた空、高い空の上で浮かぶ雲… まだ一緒に居たい…。
食べたくない… 血は飲みたくない…。待っている、けどあの人は待っている…。だから屋敷を焼いて逃げ場を無くし…私を引きずり出そうとする。
呼んでいる私を呼んで… 殺させようとする。
けれど… 少女は動かなかった。
だから… アイツに... ルルは殺された…。
私がやらなくちゃいけなかったのに...。
「あぁ… うあぁぁぁ…」
泣いていた。
涙は流れる度に炎により枯れたとある原初の話だった。
やがて原初となったミルは...人間と別の原初が起こしたとても無意味な争い…吸血鬼側からしたら意味の無い戦いを人間の死体を積み終わらせる。
争いを起こした原初と人間のトップを殺して終わらせた。
これはミルの記憶が僕に流れてきている。
ハッと気づけば僕は夢を見ていたかのように目を覚ます。
とても見覚えのある空間で辺りが真っ白な空間で目を開ける。
目の前には一人小さな子供の姿をした先代原初のルルが椅子に座り待っていた。
椅子に座る原初を前に僕は床で寝ていたようだ…。
「ぐっ! イタ… 今のは…何だ」
頭が酷く痛い…。
脳みそに直接針を刺されたように痛い…。
酷い頭痛だ。
同時に見た記憶はどんどんと消えていく…。
吸われていく様に消えていく。
そして、思い出せなくなる。
「起きたか我が友の眷属… と言ってもまだ夢と変わらない場所ではあるが… 目は覚めたか?」
「あ...れ? どうして僕はここに…」
目の前には以前も会ったルルがいた。
「…まずは座れ眷属。そのためにお前を呼んだ」
そう言われるまま僕は用意された椅子に座る。
ルルが何もない空を撫でると薄く大きく広い板が空に現れた。
「…。説明は見ながらしよう。まずはこれを見ろ眷属」
板には映像が流れだしそこにミルが映っていた。
紙を持ったロビックと思われる男が今にも泣きそうな顔のミル。その隣にいる、顔色一つ変えず見ているヒューズと話す姿が映っている。
会話の内容的に、ミルは紙に書かれた内容で契約させようとしているらしい…。
僕を助けるために。
なぜだ…なぜだ。
なぜ僕はそこにいない…。
僕のせいで...ミルを困らせてしまった。
あんなにも怯え苦しむ姿は… 基地で浅草の作戦を話す時以上で、本当に見ていられない。
目をそらさず見ては胸が痛い。
何度も心臓を針の付いた手袋で潰されて治されてまた潰されるように痛い。
いや…ミルはそれ以上にきっと苦しんでいる。
苦しんでいる原因が僕でどうしてそんなに苦しそうな顔を…するんですか。
もう嫌だ…こんな目覚めは…。
また大事な人が居なくなる朝は嫌だ…。
僕が助けに行かなくちゃ… 僕が助けなくちゃ駄目だ。
ミルが取られてしまう前に… 僕が行かなくちゃ。
見ている間、心の底から重くなる。
全身に力が入り握る肘掛けを壊してしまいそうだ… 血が肉が皮の外に飛び出してしまいそうだ…。
取られたくない、取られたくない、取られたくない… そうずっと思う、僕の大切を取られてしまう。
嫌だ…怖いのはもう嫌だ、一人は…ずっと一人は…嫌だ…帰れない…。
誰も待ってない場所…。
お帰りと返事のしない誰もいないリビング… 暖かであっても楽しくない食事…。
嫌だ…嫌だもう嫌だ。
目が乾燥するほど瞬きを忘れ僕は見ていた…。
「僕のせいで…。クッ…! 僕が…行かなくちゃ…!」
目は泳ぎ出口を探すが辺りに出口らしき壁も扉も無くただ真っ白な世界だった。
「…まだ話は終わってはいない。少しは落ち着き我が話を聞け」
睨むルル。
「だとさても…僕が生きる理由はミルです。ミルの眷属である僕が一番彼女を護らなくちゃ生きている意味はないんです… 行かせてくださいルル様」
「ほざけ…」
ルルは正人の発言に小さくも正人の耳にも聞こえる大きさで呟く。その声に正人はルルの怒りを感じる。
「生きる意味とは… ミルに何を期待している。なんとも貴様都合を吐く…。…タナカ・マサト、貴様はミルの何を知っている…?」
「それは今は関係な――」
感情のまま立ち上がる正人だが、それを見てルルは正人の言葉を止めるため正人に近より頬を叩く。
パチンと綺麗な音で響く、叩かれた箇所は赤く腫れ… 正人は何をされたかを考えてキョトンとする。
「え…」
「痛いと思うのなら今は我が話を聞け」
「…なぜ叩くのですか」
「…叩く意味は無い。ただ貴様の発する言葉が我が心を煮えたぎらせるからだ」
正人は椅子に座った。
椅子に座った瞬間、手足は椅子に拘束される。
「初めからこうすれば良かった。私はずっとあの日から後悔している...。あぁすまないミル…」
自身の目の前にいる正人が拘束された様子を見ているルルの目には怒りと悲しみが透けて見えた。言葉にもその気配を感じられ、正人にはルルの目的が理解することが出来なかった。
「なっ! なぜ僕を拘束するんですか!?」
「お前は… 元が人間だからか人間らしい思考だ。吸血鬼としても日も浅く簡単に捕らえることができる… 利用しない手はない」
ルルは自身の椅子に戻り座る。
「私はお前やミルの血ではあるが原初…。それがお前の本来あるべき姿に戻ったにすぎないタナカ・マサト」
「これのどこが...!」
正人は自身を縛る拘束を解こうと動くが手首などを痛めるだけだった。
「何も変ではない。原初の血をもらい人間から吸血鬼に変わる。原初に自身の血を与え、その血と肉と魂まで余すこと無く全てを原初のために使う。吸血鬼とは初めからそう言う生き物だ」
「あなただって吸血鬼だ! 血を食事とするあなただって…!」
「…吸血鬼? ハハハ。違う…勉強不足だ…。一度とはいえ思い出せ… 原初とは吸血鬼とも違う呪いを撒き吸血鬼を作る化物の名だとな。初めに我がミルから教わったはずだろタナカ・マサト」
「だとしても、僕を拘束することになんの意味が… 血が欲しいからですか…」
ルルは立ち上がると空は赤黒く変わるとカーテンが降りた窓みたいに空間全体が変わる。
「なに簡単な話…。お前の全てを奪うだけだ…」
「奪う… 僕から何を奪う気ですか! 血肉以外僕から奪えるものなんて…」
必死に拘束を解こうと動かそうが手足は動かず、暴れる度に擦り傷が出来、傷口から流れる血が地面に落ちる。
ポチャンと、確かに聞こえた。
乾いた地面に落ちる際に聞こえたと思えば、辺りを赤黒い、色で染まる。
辺りを赤い液体が流れてくる。
匂いで分かる… これが全て血だと。
地面は血に変わり…辺りからドロドロとした血が流れ落ちてくる。
正人はその血の中にルルと共に沈む。
息は出来たが喉を通る血の暖かさと匂いに咳き込み口を閉じる。
「全てだ、お前の持つ全てを奪う…。これが今唯一私がミルにしてやれる事だからだ」
地面に着くと立ち上がり、ぬチャリと血のような滑り気ある音をだし近づくルル。
一歩と近づくにつれて幼い見た目からどんどん成長していく。
服装も変わり… 別人のように変わる。
「な、あ…あぁ…」
あまりの恐怖から声が出ない。
その見た目はあまりにも美しく恐ろしい。
拘束が解かれようと、体に無数の針で刺されたような痛みがあろうとこの場から動けない。
見とれてなどいない… ただ逃げたくはある。
「あぁ… そうだったな…。息をしても良い... 声も好きに話せ」
「…!? はぁはぁ…」
ルルの言葉かは分からないが呼吸と声が戻る。
「眷属として弱いお前には強すぎたな…。だが、手を抜かない」
あまりの唐突な事が続き正人は混乱していた。息を忘れるほど僕はとても長い時間見てたと思うほどその目から脳裏に焼き付く恐怖。
それは椅子に座っていたからでもあるが、見上げるほど大きな姿をした赤黒い髪と真紅に染まる目をした純然たる吸血鬼と呼べる姿をした、ルルだと理解してもあまりの変わりように混乱している。
それは、正人の座る背もたれにドンっ!と手を付き顔を近づける。
「お前はここで私に肉体を奪われる…。魂を壊れされる地獄の苦しみを味わった後… 私がお前として生きてやろう」
「そんな事が… 原初には出来るのですか…。けど貸すことは出来ません僕の体ですから僕がミルを助けに行きます」
「借りるのではない。奪うんだお前の先の人生を私が生きミルを支える…。お前以上に上手く肉体を使いこなせる私なら… 吸血鬼が相手だろうとミルを守れる」
「だからと言って…素直に肉体を奪われる気は…無い!」
僕は骨を折り自身の肉を引き千切り手の拘束を外し、足も同様に外した。
「ぐっ、あぁァアぁ…!」
千切れた箇所を繋げ足から治し、立ち上がり手も治す。
くそ痛い… 痛くて痛くてそれだけで気を失いそうになる。だけど、痛みで鳴いている暇はない…。
手足が治ったが…後はルルをどうにかしなくちゃ…終わらない。
「痛みに泣かないか。良いだろう…お前のその覚悟に免じ… 少し遊んでやろう… お前の人生を賭けたラストゲームだ」
「僕たちに遊んでいる暇は…」
「拒否権は無いどっちにしろお前ではこの空間を出ることは出来ない。それとも手足を切られ続けたいか?」
「…ぐっ」
「私の言葉をしかと聞け… 余すこと無くな…。これより我が鬼となり鬼ごっことしよう…」
「は? 鬼ごっこ…ですか?」
「そうだ… 逃げきれたらお前の勝ち… 捕まればお前の負けで肉体をいただく… どうだ。命だけは助けてやろう。何なら…ミルを助けるための力も貸す…」
「それってルル様が勝って終わりのゲームじゃないですか… 元から僕に勝ち目なん――」
右腕の感覚が消えると同時に痛みが走る。
「ぐっ…あぁ…!」
「忠告したはずだ話は最後まで聞けと…。手加減くらいはしてやる。お前から見て黙視できぬよりも遠くから私は追いかける。そして… 10秒間逃げきれたらお前の勝ちだ…。さっさと腕をくっつけて治せ」
「ぐっ…はぁはぁ…。治すの無茶苦茶痛いのに...。グッ! それじゃいつスタートか分からないじゃないですか…」
「チッ…ならば、お前が十秒数えろば良い。お前の判断だ好きな時に数えろ… 数え終わると同時にお前を捕まえに向かう…。それならば良いだろう? 他に質問は?」
「無いです! だから腕はもう…。それで始めましょう…はい」
「よし…」と言うとルルは音もなく姿を消す。
僕は直ぐに逆の方向に向かって走る、時間がない直ぐに終わらせなくちゃ駄目だ…。無駄な時間だと思っても、勝たなくちゃ駄目だった。
だから、ただ全力で走りながら十秒数える。消えたルルとは逆に走り続けてだいぶ遠くに来たと思う…それでもまだ不安はあれど時間は無い...。
そして僕は数を数えた、タイミングは自由と言っていたのでズルかもしれないが距離を離した後に数えた。数えながらも数を数え。
「7、8、9、10!」と数え終わると当時に背後から…音もなくルルは現れる。
「ひ…」と僕の声が聞こえると同時に足は凍ったように動かなくなる。
走る中でコケごろごろと転がりながら全身を痛め… 起き上がると肩にポンとルルの手が置かれていた。
再び椅子が用意された。
頭が真っ白になった。
抵抗する事も許さない速さで僕は負けた... 完敗だ。
勝てるとは思ってはなかったが… 勝つ気で逃げて、捕まった。もう…おしまいなのかこれで。
椅子に座ると今度は拘束はされなかった。
座り考える正人だったが一つしか思うことはなかった。
「良かった...」と。
口に出し、正人自身もそう心から思っていた。
僕から出た言葉かと、ハッ! と驚いて口を抑えていた。
だって何も良くはないから、何が良いんだこれの...。けど発した言葉は僕の頭の中で何度も…。
良かった...良かった...良かった...良かった...と繰り返し記憶に焼き付けるように言っている。
何も良くない…。
分からない、名前の無い僕の知らない恐怖が僕だと教えてくれる。
向こうからはなにもしてこないのに僕の方が怖がっている。
ジーと見ては良かったと、言って去っていく。
酷くお粗末な感覚が… 僕に言わせた。
その感覚は肉と骨を噛み砕き、身を震わせる。
治らない傷をつけようとする。
僕が、僕を殺し、押し殺す感覚だ。
抑えていた感情が底からふつふつと滲み出てきていた。
けどソイツは満足そうにこちらを見て去っていく。
何も良くないし…分からないが、なんか納得してはいた。
心から良かったと言って良かったと。
「…では私の勝ちだ。なにか最後に言うことは?」
ルルは勝負に勝って当然だからか顔色変えず話してくる。今の僕の感情とは無縁なルルを見て悲しくなった。
「…お願いします、殺さないでください…ミルを僕に守らせてください...」
「…正に人だ。私の友の名を使い命乞いするかお前… 酷いな…」
「違います僕は…。もっと一緒に――」
そう言う僕の胸をルルの手が貫く。
まだ言いきれてなかった…。
だが痛みも苦しみも無く…。
僕は... 生きていた。
ルルは突く手を胸から離し正人の目の前に立つ。
「…。…え? な、何で…。僕、生きてる…」
「ミルの眷属、喜べ… お前は生きている…」
その言葉に頭が理解できていなかった。
「生きて… 僕を…殺すはずじゃ無かったのですか! 気が変わったんですか?」
「気が変わったのではない… 初めからお前として生きることなんて私には出来ないだけだ…。魂は壊せても、空いた肉体に私は入れない。私の魂では肉体の方が持たず自壊。つまり貧弱なお前では私の器にもなれないと言うわけだ」
ただその言葉を聞いて泣きたくなったが、まだしも理由が分からないため涙を我慢した。
「だったら何でこんな事をしている暇なんて無い今すぐミルの元に…」
「行ってどうする」
走ろうとする正人をルルが呼び止める。
「言ったはずだお前では雑兵にすら勝てず死ぬと…これは嘘ではない。一人二人殺せても数十と終わりの見えない兵に殺されて終わり、その時一番に気付き悲しむのは私の友…ミルだ。それだけは避けたかった…」
ルルの体はどんどん元の小さな子供に戻っていく。
「ならどうすれば良いんですか! ここでただ見ているだけでは何も変わらない、僕が動いて少しでも変わるのなら囮でも...壁でも何でもします…。ミルを助けるために動けます!」
「動いてどうする。死ぬお前をミルに見せたくないと言った私を倒すか? お前はただ生きてさえいれば良い。たとえミルが死ぬ時が来てもお前は生きていれば今のミルは幸せなんだ…」
「そんなの駄目だ、行かせてください。死ぬためにいくんじゃありません助けるために向かうんです。ミルが悲しむ姿を見たくない気持ちは同じはずです… 行かせてください僕を」
「…無理だと言ったはずだお前は大人しく止まっていろ」
「止まっているのは駄目なんです…。僕はミルと出会ってやっとまた動けるようになれた…。時間だけが過ぎていき身と心を削る絶望はもう嫌なんです。暖かく優しく寄り添う希望をミルに分けてもらえた…与えられた分を僕は返したいんです。お願いします行かせてください… 僕が生きる意味なんですミルは!」
「…なぜそこまで言う。お前は得たはずだお前の幸せを、ならばお前は私があの娘を思う気持ちにも寄り添い… ここで止まっていれば良いと言うのに…共に過ごしミルがここに堕ちる時を待っていれば… 良いと言うのに… なぜ私の意に反する愚かなる者...」
ルルから「私の友達…」と小さく聞こえたが…正人はそれについて言及する気にはなれなかった時間が無いと思うからでもあったが… それはミルとルルの二人だけの秘密なのかもしれないからだ。
「力を貸そう…」
「え…?」
「力だ、私がお前に力を貸そう…」
「つまり…ここから出て良いと?」
「…死なせぬための力だが、同時にお前は苦しむ事に変わりはない。お前の苦しみは今のミルに移るが… 少し気が変わった」
パチンと指を鳴らすとルルと正人は元の白い空間に戻っていた。
「だが、10秒だけだ。外に出て10秒だけお前に力を貸す…」
「ありがとうございます! ならさっそく出口は!」
パチンと指をルルが鳴らすと視界は歪みルルの顔がどこか悲しげな様に見え目を覚ます。
胸に手をあて考える。
さて…どうするかと…。
心はまだ重いままで... 後に引けないにしても... こういう時にミルの声が聞きたくなる。
『…聞こえるか眷属?』
「え…」
現実で知らないベットの上でルルの声が聞こえる。
夢かと…寝ぼけていると思ったがどうやら現実らしい。
『…おい、聞こえているなら返事しろ、治療代取るぞ!』
「治療代って何の…って! 何でルル様の声が聞こえるのですか!」
『力を貸すと言ったはずだ。力を与えるついでに体の毒を治しただけだ』
「…確かに変なダルさも、痛みも無い。けど…どうして僕に力を…ルル様は僕の事を嫌いなんじゃ…」
『全て…ミルのためだ』
頭の中に直接聞こえるため…以前経験した二八の術と似ていると思えたが...二八の術は電話越しのような雑音がしたが… 今の状態は、とても良いクリアな声で聞こえる。
『早く動け… 亀』
「ここ何処です…。目が覚めたら知らないベットって事もあり…色々と混乱して...」
『…お前を助ける際に協力したヒューズと言う人間の部屋だと言っていた。分かったのならさっさと動け…』
「ヒューズさんの…」
ベットから降り扉を開け研究室から外に出る。
外は曇り空と少し強めの風が吹き体を震わせた。
『何だ武者震いか?』
「違います、寒いだけです… それで…どうやって中に…ナビとかしてくれる感じですか?」
『力技だが...手足を捨てる覚悟のあるお前なら出来るだろう…。我が娘のいる建物に向かい足に力を溜めろ…』
「おぉ!? なんか普段よりも...力が入る感じ…」
『…言っておくが、私が抑えてはいるが一時的な三次覚醒と同等の力をお前に与える… 代償として、いくら抑えようと呪いは呪いだ… 毒を消すと同様に代償として吸血鬼化まで残り5ヶ月となる』
「な…! けど、分かりました。それくらい必要って事ですね...助けるには…」
『…そうだ。だが、安心しろ5ヶ月とはいえ…残りの月だ。力は一時的なものであり10秒だけしか無理だ。だからこそ…私が一次覚醒レベルまで呪いを抑えよう…』
「…ミルのためにありがとうございます力を貸してくれて...」
『当然だ… 後はお前次第だ。今度のカウントは私が取ろう… 3秒後にスタートだ』
「はい…」
正人はクラウチングスタートの体制になる。
中学頃の経験から体制を瞬時に思い出す。
『いくぞ、3…2…』
届くと信じて、クラウチングスタートの体制をキープ。先に進んだミル達が暴れたからか瓦礫や人の死体が見える…。何があったとしても今は… ミルを助けるそれが僕が今走る理由だ。
『1…』
踏み出す足に力を入れる。
全身の血が足に集まる圧倒的加速を意識し大きく肺に酸素を溜めるため息を吸う。
『スタート!』
そして、スタートした!。
後ろには蹴る足のスタートダッシュで出た抉れ吹き飛ぶ地面の破片。
勢い良く地上に生息するどの生き物よりも速く呼吸すら止めて基地内部に入っていく。
音速を越えると衝撃波が出ると聞くが建物への被害は無い。走りながらすぎるものを見て気づく、思考速度も速くなっている。
動体視力も以前の何倍も速く歩いている速度で景色だけが変わっていくみたいだった。
『10… 9…』
景色は一瞬で過ぎ去り、途中、一六が戦っていた気もするが邪魔だから壁を走り目的地だと思われる部屋に着く。
「え~今、正人殿が!?」そう声が聞こえたが振り向いて確かめる暇は無い。
『8… 7… 6…』
奥の部屋から聞こえるミルの声が。
助けを呼ぶ声が聞こえる。
『5… 4…』
部屋の前でルーナ達も基地の隊員達と戦っていたが道を塞ぐ結界に空いた隙間を目掛けて、学生時代に映画の赤い線のトラップを避けるイメトレしてたからか避けれた。部屋に向かって思い切り走りの勢いのまま蹴りを入れる。
『3… 2…』
部屋の壁は扉事砕け部屋内に入っていく。
そこから見えるミルを目掛けて再度、地面を思い切り足に力を入れ踏み込む。
『1…』
下を向くミルを抱き抱え、僕は大事な主様を守る気持ちを固めその場を去りたくもあったが… 足にさっきと違いこれ以上力が入らず、止まる。
『0…。眷属。お前が護れるのは最後まで一人だけだ』
ルルの聞こえずらくなる声と共に肉体の力も戻っていく。視力や体の調子も戻る。
『多くのものに護られていても… お前かミルか… その一人だけだ。だから護りきれミルを… 私では無理だったミルを助けてやってくれ…』
『じゃあな』その声を最後にルルの声は聞こえなくなった。
僕からは何か返事する間を与えず消えていった。
「な… 何でおまえが…」
ミルが驚き僕の顔を見ている。目を丸く涙と鼻水で濡らした顔で再び顔から水が溢れていた。
「助けに来てくれたのか… 私を」
そんな言葉を言ってもらえる資格が僕にはあるのだろうか、必要な力が無い僕には守る力も... 心の強さも... 足りない僕に…。
「だって助けを呼ばれた気がしましたから...」
結局はそれだけで僕は... 聞こえた気がした声に導かれてここまで来ていた。
それが理由だ。
だからこそ… 今度は守りきる… 守られるだけじゃなくて守る。言葉じゃなくてちゃんと成果として…ミルを連れてこの場を脱出する…。
「はい、ミル。だから一緒に帰りましょう家に…」
「うん…」
僕はその小さな体を抱きしめた。気持ちいっぱいに、ミルも締め付ける気持ちのままだろうか僕が苦しい時と同じ気持ちにさせるほど強く抱きしめてきた。
良かった…。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
やっとここまで書けた!。
まだ謎残るヒューズやロビック達ですが、その秘密は基地に関する秘密でもあるので、書ききる自信はあまり無いですが、書ききりたいです。
正人君のせいで腕を折ったポラリスの分まで…。
何か分からないことなどありましたら感想にお書きください。説明できる範囲で説明します。
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