第三十七話 抑制剤その後
薬を飲み始めて2日が経った日。
基地に来てあまり話してはいないがヒューズさんがまた部屋に来た。
『ども… ヒューズです… すみませんが開けてもらえませんか…?』
そうモニター越しに言われ、鍵を開け玄関で会うと… ヒューズさんの娘か小学生くらい? の女の子がヒューズさんの裏に隠れていた。
「…。はぁ…すみません。この子は…私の娘で…」そう頭を掻きながら言う。
「あー… 娘さん居たんですね? それで今日はどのような用事で?」
「はい、今日は… 娘が皆さんに会いたいと言い… 部屋で暴れるので連れて来てしまい… 皆さんに会わせても大丈夫ですか?」
「なるほど... 分かりました。そういうことなら ヒューズさんが帰ってくるまでで良いのですよね?」
「いえ、私もこの部屋で過ごさせてください... 今は休暇中で… やること無いし… 娘と居たいので... ご迷惑でなければ」
「そうなんですね、分かりましたではリビングにどうぞ」
「…。ありがとうございます…」
未だ口を開かずお父さんの後ろでチラチラとこちらを見てくる娘さんはお父さんと手を繋ぎリビングに案内する。
「…。今はミルは寝ていて… ルーナ達も部屋に… あ! 呼んできましょうか? ルーナ達なら子供好きそうですし…」
「あー…お願いします。遊んで満足すれば娘も疲れて眠ると思うのでそれまで…」
「あ! その前に... 確かこの辺に...」
僕はキッチンに置いた箱の中にお菓子が入っていたのを思い出す。
「ん… はい、これどうぞ!」
「ん… あ… ありがとう…」
「では… あ、今ならソファーに座って大丈夫ですから… ごゆっくりとしていてください」
箱に入ったチョコを娘さんに渡しルーナ達の部屋に向かう。
「あのー… 失礼します…」
「んー? 何ですか眷属さん、お昼にはまだ早いと思いますよ?」
ルーナ達ミルのスタイルに習ってかTシャツと短パンのセットを着て仲良くチェスや将棋などのボードゲームやトランプなどのカードゲームをしていた。
部屋中は散らかりその痕跡と思える駒やカードが散らばっていた。
「…。はぁ… 掃除、後でしといてよね? それよりも二人に会いたいって女の子が今来ていて会ってもらえる?」
「…。今なんと言いました眷属さん…。年齢は? 身長は?」
「え… 分からないけど… 小学生くらいには見えた… よ?」
「行こうルーナ… 私達を呼ぶ女の子が今リビングにいる…」
「えぇ行きましょうシーナ、遊んであげるくらいはしてあげなくは…フフ」
シーナはどこか興奮気味に部屋を出る、足音こそしなかったが、ルーナと違い落ち着きの無いシーナだった。
「えぇ…二人を連れてきました」
「わー! お姉ちゃん達きれい!」
え? と思い後ろを振り向くといつの間にか着替え終えていた二人がいた…。
「お姉ちゃんたちも吸血鬼なの?」
「へー… 物知りなのねぇ。あー…可愛い!」
膝を曲げ座るシーナは女の子と目線を合わせて頭を撫でていた。
「ううん、ここの人達から聞いた! あとお父さんに!」
「そうなんだね、お父さんに…」
頭を撫でる手は一瞬止まったかに思えたが撫で続けていた。
「あー可愛い! なんて可愛い子なの!」
「あー… シーナ落ち着いて… 親御さんの前だから...」
「いや、私のことは気にせず… 娘と遊んであげてください…」
そう言いソファーに座りながらにこやかに眺めているヒューズさん。
「ねぇ、あなた名前は?」
「ふふん! ポラリス!」
「よろしくねポラリスちゃん!」
なんか… 以外と言うか想定外と言うか… ここまでシーナが子供にデレデレになるとは…。
後ろでただ見守るように立つルーナも部屋からだろうか、オモチャやゲームを持ち出してきたな…。
その後、ポラリスとルーナ達はリビングで遊び、気づけばお昼になっていた。
「あ、そろそろ帰ります… ポラリス帰るよ?」
「うん分かった、じゃあねお姉ちゃん達!」
「あー… 行っちゃった…」
玄関から出ていくポラリスだけを最後まで見送る、ルーナ達であった。
さて、起こしに行くか。
ミルも起こし終え、どこか落ち込んでいる様子の二人を他所にご飯を食べ…。
「ん…」
薬を飲む。
今のところ特に効果らしい効果は出ていない。抑制剤と言っていたが、本当に効果あるのか…。
まぁ、飲むと言ったからには効果が出るまで飲むけど…。
あー、もどかしい日々だ…。
まだ時間があるとはいえ一年の猶予だからか… 焦りが恐怖に変わろうとしている。
まだ小さな焦りと恐怖だし、薬の効果信じよう! うん! それしかない…。
「はぁ… 死ぬよりはましか…」
洗濯物を干しいつもと変わらぬ日常が過ぎ、あっという間に薬を飲んで半月が過ぎていた。
ヒューズさんの付き添いで周三くらいのペースでポラリスも来るようになり、ルーナ達は喜び、一六さんも参加してどんちゃん騒ぎしミルに怒られてからは、おとなしくトランプやボードゲームなどをして過ごすようになった。
なんかここ最近体が少し重い…。
気もなんか沈んだ感じで、これは薬の効果が出てきたのか…?。
だけど...副作用か分からないけど… このままじゃ立てなくなるかもしれない…。
「はぁはぁ...」
一歩、歩くだけでも百歩歩いたみたいに体がズシと重くなる。
「大丈夫ですか眷属さん…? 最近は顔色もあまりよろしくないように思いますわ...」
「ん… 大丈夫だから… きっと… 薬の効果が…」
視界が回る、上が下に下が上にとぐるぐると回りその場で足に力が入らなくなり、へたりと座り込む形で倒れる。
「え… 眷属さん!」
「…。ん…」
何だここは… あ、ベットの上か…。
「…。ん… 起きたかマサト…」
「あ… ミル…」
体をおこす。
「無理せず横になれ…」
「あ… はい… あの… 今ってどういう状況で...」
「あー… ベランダでルーナと一緒に洗濯物を干していたおまえが倒れこの部屋までルーナが運んでくれたんだ…。 ……辛いか、やはり…」
「…。あー… はは… カッコ悪いところ見られたな… ルーナに…」
ベットに横になりながらもミルの方を見ていた。
「…。やはり、薬を飲むのは…やめに...」
「良いんです、このまま飲み続ければ… 吸血鬼化を止める時間を延ばし…止める可能性があるんですから...」
「そうか… だが無理はするな。お前には…こんなにも苦しむ理由なんてなかったのだから...」
ミルは僕の手を握る。
コンコンと扉を叩き部屋に一六がお粥を持って入ってくる。
「簡単なものですが、腹が減ってはですので作ってきました!」
「そうか、ではおまえは戻っとれ… ここは私一人で十分だ」
お粥を受け取ったミルは一六を部屋から追い出し扉を閉じる。
「…。ほらあーん…」
「…。あの… ミル…。さすがに一人で食べられますから…」
「…。そ、そうか」
ミルは蓮華ですくったお粥を別の容器に分け僕に手渡してくる。
うん! とても美味しいお粥だ。
「元気そうで安心した…」
お粥を食べ終えたらかなり元気が出てきた。
もしかしたらお腹が空いていただけだったと思いたいが、腕や足に力が入らなくなっていた。
動かせはするけど重りを付けているみたいに重く倦怠感がある感じだ。
「今日はこのまま寝ていろ… 明日、人間達が見に来るからそれまでこの部屋で… 寝ていろ…」
「あ… はい…」
横でいるのがとても楽で吸い込まれるように眠ってしまった。
ふわふわとする意識の中で誰かが歌っている。子守唄だろうか、優しい歌声が霞む意識の中で聞こえた気がした。
「良く寝れますように…」そう願いをこめ、ミルは眠る正人に子守唄を歌っている。
翌朝。
ピンポーン!
「…。来たか…」
起き上がれない正人に代わり玄関に向かうミルは会いたくもないと思っていた男とまた再開する。
「…。それで… 助けれるのか…?」
「開けてすぐそう言われても状態を見なくては分かりませんので入れてもらえますか?」
ロビックは玄関の扉を開けたミルを見ている。
そのままミルに案内され寝室に向かい、正人の状態を確認する。
「…。うーん、これはかなり進んでいるね… ヒューズ君薬を…」
「はい…」
ヒューズは持ってきた鞄から薬の入った注射器を取り出しロビックに渡す。
「…。ところで姫様。少し私、個人のお願いを聞いてくれませんか…?」
注射器をヒューズから受け取りその針を正人の腕に刺そうとする手前で止め、ミルにお願いをするロビック。
正人は微かに残る意識の中で声すら出せず、ただ聞いていることだけしかできなかった。
「…。後にしろ… 今はマサトを助けるのが最優先だ…」
「…。なら、言い方を変えましょう、正人君は後十数分もすれば死にます… 助けて欲しければ私の言いなりになってください…」
「……………あ?」
部屋全体が揺れる、割れる照明とヒビが入る部屋の家具。
「おい貴様…。今は貴様の戯れ言を聞いているほど暇ではない…。さっさとマサトを助けることに尽力しろ…!」
「ふ…。ハハハ、戯れ言ではありませんよ… 本気です…」
そう言い、ロビックは注射器を刺し、薬を体内に送る。
「う…!。ぐっ、ああ! ああああああああああああああああああああ!!!」
薬を入れたとたんに暴れる正人。
「熱い熱い熱い、痛い熱い痛い痛いイタイ! ああああ!」
「マサト!!? 貴様… 何をした…!」
「ハハ…!。これは、抑制剤を促進させる薬で主に吸血鬼の拷問用でして… それを彼に射ちました…!」
「な、なにをして… ぐっ…! 貴様!」
状況を理解し、ロビックの首を掴み宙に浮かすミル。
「吐け! 助ける方法を今すぐ吐け!」
「ぎ… ガハ… もちろん、助ける方法は… アリマス…!」
「…! なら急ぎ助けろ!」
ロビックを地面を叩くようにおろす。
「はぁ…。だから… それをするためにも… 姫様には私のものになってください...!」
「ぐっ、未だそのような戯れ言を!」
「…。良いのですか、彼死んじゃいますよ…?」
「……。分かった…! だが助かったと確認できるまで貴様のものになど…」
「…はぁ。そうですよね、ではついてきてください… 薬は別室にあるので… ヒューズ君は正人君を運こびなさい。後これを彼に射っておきなさい」
「…。はい…」
暴れる正人を背負うヒューズ。ロビックから渡される注射器を正人に射つと正人は落ち着き眠っている。
「一時的な鎮静剤ですが、時間が来ればまた暴れますので…」
ミル達は部屋を出て、ロビックに着いていく。
どんどんと基地の奥に進みロビックの仕事場だろうか広い部屋にソファーとテーブルが置かれた部屋に着く。
ロビックは迷わず、真っ直ぐと自身の仕事用のデスクに向かい暗号化されたロックされた引き出しを開けて1本の注射器を取り出した。
「…。これが正人君を助ける奇跡です…。うっかり落としでもしたら彼の命はもう無いでしょう…」
「…。早く刺せ!」
「待ってください姫様、その前にこちらの契約書に自身の血でサインを…?」
引き出しの中にもう一枚入っていた魔術で作られた契約書を取り出す。
血での魔術の契約は魂での契約とされる。
魂ではたとえ原初の吸血鬼とはいえ逆らうことが出来ず、一度すれば死ぬか契約が解消や契約者が死ぬまで縛られ続ける。
それをミルは分かっていた。
契約すれば何をされようと契約書に書いてあることには逆らえない。
だが、しなくては正人が助けられない。
しなくては眷属と呼べぬ思えぬほど大切な家族を失ってしまうことが嫌だった。
「ぐっ…」
あの日本の基地で孤独な時間を過ごしてきた彼女にとってはもう命より大切な存在になろうとしている正人を失いたくないと思える。
「…。助けるためなら今の姫様なら簡単ですよね…?」
「く…! 分かった… 契約書をそこに置け…」
私は今さら後悔してしまった。
あの日の夜、正人を眷属にしてしまったことを。やはりあの人間の言葉は正しく、私は一人が寂しいだけで... ルルが居なくなってしまった現実に甘えるように正人を眷属にしてしまったんだと。
だからか、納得してか少しも心が動かない。これが罪か、巻き込み殺してしまった私の罪が今来ただけだ。
指を噛み血を流すミルはゆっくりとロビックのもとに近づく。
ロビックはデスクに契約書を置き待っている。
「マ… テ…。ミル… ダメ… だ…」
話を薄れる意識の中聞いていた、掠れた声で力一杯に出した正人。伸ばせない腕を立てない足をバタつかせている。
バイバイだマサト…。
こんな別れなら、別れの言葉を決めておくんだったな、最後にこのようでは…なんとも閉まりの無い別れだ…。
涙は不思議と出ず、すたすたと歩みはロビックの方に進む。
「…。はぁ… やっぱ、殺るしかないか…」ヒューズがそうこの現状を見て言う。
ゆっくりと近づきあと一歩でロビックのもとにミルが来ると思われると同時に聞こえる拳銃の音。
「ではここにサイン… を…!?」
バン!!!
視線がミルに向いていたロビックの頭を一発の銃弾が撃ち抜く。
「え…」
ミルが頭を撃ち抜かれたロビックに唖然としながら後ろを振り向くと拳銃を構えているヒューズの姿があった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
銃を使ったカッコいいシーンを書きたいなと思い最近思い付いたラストシーンでした…。
一応言っておくと、殺るしかないかと言っていたのはヒューズさんです。
この後の展開も考えていますので気力次第で書きます!。
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