第三十話 原初と笹原(防)
変化とは常に向こうから来るものだと思う。
自身が望もうと望まなくても勝手に来るものだと。
なぜこのようなことを思うかと言えば決まっている。
朝御飯の片付けをしていたらヤツが… 笹原防衛大臣が来たからだ…。
「…」
「…。はぁ、それでどうして姫様もご一緒なので?」
笹原を睨み嫌うミルは嫌悪に満ちた顔で睨み続けていた。
まるで獲物を取られまいと威嚇する獣みたいに... 唸りを今にもあげそうなほど鋭い視線で睨むこと数分。
事前に笹原からまた来るとは言われていたが、突然の来訪だったこともありミルはめっちゃ不機嫌だった。
これは… 以前の作戦のこともあり何かと溜まっていたのだろう…。
じゃなければ机がミルから出る覇気か威圧かは知らないけど、こんなにも揺れはしない…。
「…。黙っているのは何かの抗議ですか姫様」
「貴様らが私の眷属を利用しようとしているのではと警戒しているだけだ…」
「正人君を作戦での事でなら今後もそのつもりですが… 今回の件は違いますのでご安心を姫様。
それにしても、正人君はちゃんとご主人様にお使いが出来たようで… 良かったよ」
「…」
どうやら全て笹原の作戦だったようだ。
この男の手のひらで踊らされるのはすごくしゃくだが、今日のところは水に流してあげるとしよう。
「さてさて… それで? 正人君。
君はどうする… 姫様に話した内容を伝えたって事はまだ迷っているのかい?」
「それも僕が何を答えるか分かってて聞いてますよね?」
「当たり前だ、君は素直でお人好しだ。
こんなお使いを仕掛けといて何だが君は絶対にこのチャンスを掴むと決まっている。そこで睨む姫様の安心のためにも君は行く…」
「そうですね、僕の考えの解説ありがとうございます。解説通り僕は行きますけど、可能性でも今は行かなくちゃ気が済まなくなってますから... あなたが言ったように全部ミルのためにも行きます海外の基地に!」
笹原は大きく僕の発言を祝うように拍手する。
「ハハ、ならば明日この基地から出る飛行機で向かうとする。遅刻は勿論厳禁だ、持ち物はこちらで用意するゆえ何も気にすることはない」
「それは、太っ腹な対応感謝します笹原防衛大臣」
「一緒に暮らさせている吸血鬼二人も同行するよう言っておいてくれ、この基地も明日から忙しくなるゆえ吸血鬼二人は扱いに困るからな」
「…。了解しました…」
さすがに怪しい。
薙という戦力がいながらそれはさすがに怪しい。
たとえ薙出なくても他の二八とそれくらい強い隊員もいると思っていたから、笹原の言動全てが怪しいが今回は二人を置いていくことにならなそうで良かったとだけ思っておこう。
「では僕はそろそろ失礼するよ…。正人君姫様また明日の朝に迎えを寄越しますので」
そう言い笹原は玄関に向かい部屋を出る。
「よし、マサト塩を撒くぞ! 台所から塩をとってこい」
「…。だめです」
さすがに塩がもったいないので断る。
玄関に向かうミルを目で追うと扉を開けこちらを覗くルーナとシーナがいた。
「…。もうあの人は帰ったけど、二人に話があるからこっちに来てください」
二人は椅子に座る。
「話ってなに眷属さん?」
「…。ごめん、今回も強制で僕達と一緒に海外にある基地に向かってもらう必要が出来た。これは吸血鬼化を止めるためだから僕のせいでもあるから…」
全部言いきる前に二人は言う。
「別に気にしませんわ、私達を置いて他所に行かれては寂しいですから」
「うん、私もルーナと同じ、怖い人間達がいる基地でも原初様や眷属さんと一緒の方が安全だし」
「…。はぁ、おまえは気にしすぎだ。責任感の鬼か…?」
玄関から帰ってきたミルに言われてしまったが、そこまで責任感があるわけではない。
僕とミルがいない間に二人に何かあるかもっと思う不安感から来る恐れがそう言ってしまうだけだ。
「…。二人がそれで良いなら…。うん、気にしないことにするよ」
「…。気にしないでとは言ってませんわ。私達は気にしませんけど眷属さんは私達の護衛役として守ってくださいね?」
「…。原初様がいるからって余所見した間に私達が拐われでもしたら眷属さんはとてもショックをうけますよ?」
「…。はぁ、分かったよ。責任を持って三人を守ります。でも優先順位はミルが一番だからそのお覚悟で! あとシーナは結界で守れるから一番下だ!」
「ムカ… だとしても眷属さんがルーナを守れなかった時は全身の血を抜き殺しますから!」
「…。おい、誰の眷属の血をだと… それを私が見過ごすとでも... 調子に乗るなぁ!」
ミルはシーナに手加減してデコピンをする。
音からしてとても痛そうな音とゴムが弾ける音がしたシーナのおでこは赤く腫れていた。
「ぐぅぅぅ… 痛い」
「ふん、反省しろ!」
ミルにデコピンされたシーナを見てルーナは顔を青くする。
これ以上自身も失言しまいと心に決める。
「では私達は部屋に…」
「待って、基地に行くのは明日だからね」
危うく場の雰囲気で言い忘れかけたが部屋を出ようとする二人に伝える。
ルーナ達は自室に帰りミルと二人になる。
「はぁ、あの二人はいつも調子の良いことを…」
「良いじゃないですか、あの二人もミルと同じで元気になって… 浅草の時は大変でしたから...」
「おまえが甘やかすから付け上がるだ! もっと自重しろ!」
「うぐ… でも、泣いてたり、死にかけたりした二人をどうにか忘れられるほど元気にしたく…」
「はぁ、だとしても私の眷属であることを忘れるな。
眷属ならば威張れとは言わないが常に胸を張りあのような小娘にあのような事を言われぬようにしろ」
「はい、すみません…」
怒られてしまった…。
眷属生活は何かと大変です。
「よし、マサト! ソファに座れ」
「え?」
「良いから座れ!」
「はい」
急かさせる形でソファに座るとミルが膝の上に乗ってくる。
とても柔らかく軽いミルがいきなり座るのでびっくりする。
(うわぁ、僕ってキモいなぁ...)
そう自己嫌悪に陥りそうになる。
「え、あの… えーとこれは?」
「何を驚くか、これこそ主人と眷属の関係の全てだ。おまえは私の頭を撫でていれば良い」
そう言われ気づけば右手が勝手に!。
日々ケアされた、きっと最近になりルーナ達が使っているトリートメントなどを使っているからか前より艶良く柔らかな触り心地のシルクのような髪を撫でる。
「ふわ…」
手が触れた瞬間つい乙女いた声が出る。
「なぁ、マサト… おまえはこうして私といることで今後より大きな事に巻き込まれるかもしれない…」
ちょっと待ってくださいミル。
いきなりシリアス空気にしないで… 撫でながらだと気持ちが追い付かない
「おまえはいつかこの基地を出るチャンスが来るだろう… その時が来ればおまえは絶対に外に出ろ...」
「…。それは出来ませんよミル、何を当たり前の事を聞くんです… 出るならミルと一緒にですから、それとルーナ達も一緒にですよ絶対に」
「うん、おまえならそう言うと思ったけど… 私の事は置いていくことだ…」
撫でる手が止まる。
ミルは時々こうしてネガティブになることがある。
前の… 家族が失踪したと思ってた僕を見ているようで悲しくなる。
今でこそ僕はミルの助けと吸血鬼という存在を知ったことで家族が亡くなった犯人が吸血鬼にあると分かっているから前より落ち着いているけど…。
何でミルがそこまで考え込んでしまうのか、それはミルにしか分からないことだ。
だからこそ今一番近くにいることが出きる僕が助けにならなくては…。
「いいえ、一緒です。出た後も一緒に暮らすんです。じゃなくちゃ僕が寂しいんです」
「ん…!?」
僕はただ気持ちに任せて後ろから優しく抱き締めた。
恋愛ドラマとかで見るが… やってみて分かる… とても恥ずかしい…。
たぶんめっちゃ顔赤いし頭の血管が弾けそうだ。沸騰したヤカンみたいに顔が熱い。
「マ、マサト… これは…!」
「こ、これは… その… 勝手にミルが居なくならないための予防線でも… と…」
我ながら意味不明な事を言っている…。
「…。ならば… もっときつく腕を締めならければ逃げてしまうぞ私は…」
「…!」
熱い。
ミルの体温も上がっているからかお互いに熱い。
けど同時に心は心地良い…。
僕は腕をより強く抱き締めた。
抱き締めていたが5分もすれば精神的に限界になり腕を解くまで続いた。
その間お互いに一言すら喋らずただお互いの体温を交換するように肌と肌を合わせ続けていた。
腕を解いた後すぐミルは何も言わず部屋に戻る。僕はミルがリビングから出たのを確認すると一呼吸いれる。
今まで呼吸はしていたがまるで陸に上がった魚みたいに必至に呼吸をする。
今までしていたいたことを悔いるよう、けど同時に自分自身でした行動を冷静さを欠いた頭で何度も映像をリプレイするようにもんもんと思い出す。
あんなことをするのか僕は…。
いや、出来たのか…。
案外弱っている人に漬け込むようなふしだらなヤツだったのかと自身を落とす。
改めて自身がミルという主をどう見ていたのか、吸血鬼の原初でその眷属となった自身の立場とか今さら無い。
だけど、家族として接していた関係が壊れるのが怖くなる。
壊すよう動いたのは僕だが、あの場合僕が考えられる行動はあれくらいしかなかった。
不安な時に僕がされて嬉しい事をついしてしまった。
嫌われてないと思うが、そんな不用意な行動をした自分がどうしても最低だと思ってしまう。
だけど今頭の中に何度も写されるあの時の感情や自身が起こした行動全てが気持ち悪いと思ってしまう。
「はぁ、あー! クソ…」
誰にも聞こえないよう小さく呟く。
聞かれてはマズイ…。
どうしてかそう思えた。
うん、今はそれで良いんだ…。納得しなくても良い。
明日からある予定に比べたらこんなのはなんの不安でも無いと自分を納得させる。
「よし、洗濯するか…」
そう思いいつも通り洗濯機のある部屋に向かう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
新章開始です。海外旅行未経験の私が書きますが、どうか最後まで見てくれたらと思います。
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