第一話 出会い:僕は普通の社会人だった
僕は物語の主人公なんだ… じゃないとおかしいくらいに僕の現実は不確かなモノで溢れてしまう。
書物や電子。誰かが書いた創作の世界の中で僕は生きているならその全てに説明が付く。
じゃなきゃ… おかしいんだ…。
僕の名前は田中正人、何処にでもいる社会人だ。
趣味は映画鑑賞と夜の散歩ということにしている当たり障りの無い回答は僕みたいな人間には必要であり… どこが良いか何を観るのか聞かれても答えやすい。
まぁ、散歩と言っても自宅近くにあるコンビニにちょっとよるくらいの浅いものだけで… 映画も年に数本テレビの番組で観るくらいだ。
自分で言うのもなんだが会社では少し浮いていると感じる。周りと違いやる気もない、高校の就職活動を頑張った事で得た旅行会社の席も… 同じに入社した新人の同僚と比べて僕はやる気と言うのは上部だけで聞いた話をメモを取り書くだけ。言った言葉は全て聞いてはいない。ただそれをしないと働いていると思われずサボっていると思われるから書いている。
何を言っているのか理解してはない。
毎朝8時までに入社し定時に帰る。夕方5時には退社し土日の休みを生きがいに帰宅する日々を過ごす、いたって普通のつい最近まで高校に通っていた若僧だが。息継ぎを覚え社会の海を泳ぐふりだけがうまくなる。正直辛いこともありますが今日も研修を終えて帰宅するのもまた僕の日常だ。
まあ帰っても誰もいない一軒家だが…。
帰ったら「ただいま」と挨拶を済ませ洗面台に向かい手を洗い着ていたスーツをハンガーに通し自室に掛け終えたら台所で簡単な物を作って食べる。
以前は家族四人で団らんと賑やかな食事が少し苦手であったが今ではそれが恋しくなる。
あの日から…全てに対するやる気を失った一つの事に執着しやる気もそこに集まっていた。
それは僕にとって胸に杭を打ち付けられた様に痛く重い日々を過ごすばかりでどうすれば良いか分からないことだらけだった。
「いただきます…」
正人は手を合わせ、顔色を変えず以前まで家族四人で食べていたテーブルに四席の椅子の一つに座り黙々と箸でご飯を食べる。
一人で暮らすには広い家に帰り、玄関やリビングなど各部屋には以前いた他の住人の私物を残し掃除もしてはいるが手をつけられない部屋もなん部屋かあり… 二階の両親と妹の部屋だけはあの日のままだった。
毎日… 帰っても誰もいない家で僕は忘れることが出来ない、それをすれば楽になる。治療すれば治る傷と違い言葉で説明できないものが記憶に落とされていた。
僕以外だった。警察もお手上げの原因不明の行方不明で両親と妹だけが消え僕だけが消えなかった。
…原因不明の行方不明、それが僕の日常を理解不明な非日常とした事は間違いない。家族が消え帰ってこなくなった日から僕は心から安心できない日々が始まった。
家族と会えない日々が続く非日常が始まった日は忘れることは出来ない。今もこれからずっと思いだし続けるほどあの日の事は記憶に焼き付けられ喪失感を身に纏った日でもある。
現実はいつでも日常を忘れさせてはくれない。非日常が僕の日常となるのも現実が起こした事なのだろう。起きてこない両親を起こしに部屋のドアを開けた日が僕の日常を崩した事は現実だが... なぜかくらい説明をしてほしい。少しは僕にも理解させてほしい。
後から思い出しては目の前の光景を強く恨んだ。
あの日、起きた時点で僕の日常は崩れたのかもしれない。ドアを開けた僕の手は途端に困惑から震えていた。両親の寝るベットの上に二つ人形の形で灰が置かれ、開けられた窓から風に飛んでいくのが見えたからだ。驚いた僕は直ぐに妹も起こしたくなった、普段は自力で起きてもらう事にしている喧嘩も多い妹で、部屋に入るなと絶賛喧嘩期間だが妹の部屋のドアを開けた。
夢なら良かった。そしてドアなんて開かなければ良かったと後から後悔する。
死体が置かれている方が理解できた。死んだなら犯人を探せば良いから家族が死んだそれは理解できるから。けどもっと不気味な朝が妹の部屋を行き僕は気づいてしまった。僕の日常はこの日から消えたと。理解の外に僕は置いてかれた事に気づいてしまった。名探偵でもない僕では眼鏡をかけたとして何の解決になら無いこれが僕の日常になったと再確認できた。
そして新しい非日常に変わった。
両親と妹が消えた事の他は何もない。暴れた痕跡も無く静かな家で両親達と妹の部屋は綺麗なままだった。
何も盗られず荒らされずだった。
警察に連絡した、連絡から遅れて警察の人が来て起こった事を話し部屋を見せた。
その日の内に行方不明者届を書きに警察署に行き書いた。これで見けてくれると思ったから。
けれど警察の捜索が中止となったと連絡が来た。やっと見つけてもらえると思った。また家族とまた会えるんだとそう思ったのに… 理由を教えてすらもらえなかった。
「すみません!」と電話越しに、警察の人が直接家に来たりして謝罪して帰っていった。
けれど…僕は諦めきれない無かった。もしかしたら家の回りで見つかるかも、帰ってくるかもしれないと期待を持ちながら寝る前の9時から10時までの一時間あの日から毎夜歩く事にした。
帰りにコンビニに寄って妹が好きだったお菓子やアイスを買って帰るのも日課になるほど探し続けた。勿論見つからなければ最後は僕が食べるけど… 独り占めがこんな寂しいものだと知りたくはなかった。
「ごちそうさまでした。お風呂入ったらまた今夜も…」
正人は手を合わせ終えると食器を洗い場に運ぶ。洗い物を終わらせ、二階の自室に戻り、着替えなどお風呂の支度をして脱衣場で服を脱ぎ浴室に向かい、正人は蛇口を開けシャワーからお湯を出す。
お風呂に入れば嫌なことを思い出す。気分が憂鬱になる。髪を体を洗い、疲れた体を湯船に浸からせふと考えてしまう。
「(こんなことしても何も返っては来ない)
(いい加減諦めれば良い…)
(僕は何もするな)
(おまえはもう休んで寝ろ)」と考えてしまう。淀んだ心の灰汁が汗と共に心からも滲み出してくる。
正人は全身洗い終えて湯船に浸かる。
頭は重く湯船に浸からせると誰かが言っていた事を思い出した。
「余計なことを考えるのは余裕があるから」だと。
本当はもっと長い事を言っていたが、何故かこの言葉がまた頭の中で囁く。
余裕があるから僕はこんな寂しい思いなのだろうか。それか夜だから湯船に浸かりながら考えてしまうのだろうか。
こんな寂しい思いは知りたくは無かった。
何時からだろう泣けなくなったのは、何時からだろう... 僕は僕を嫌うようになったのは。
僕が生きてて良くないと思うようになったのは… あの日から何日たった頃だろう。
「駄目だ… 死んじゃ駄目だ…」
家族が帰る場所を護らなくちゃ駄目だ。そう言い聞かせて生きてるのが辛くなった。
のぼせる前にお風呂を終え髪を含めた全身をタオルで水気を拭き取り準備していた服に着替え髪をドライヤーで乾かす。
正人は鏡に写る自身に心の中で唾を吐き玄関に向かい靴を履く。
準備は済んだ。また今夜も家の電気を消し夜に闇に飛び出す。
明るい道を好む虫のように街灯のある道をひたすらいつもの道を歩く。
期待は日に日に削られていく心と同じように小さくなるがそれでも諦めることはできなかった。
散歩(捜索)の道半分くらいの公園に着くが、いつもと同じで誰一人見つけられることは出来なかった。
またこの日もそうだった。いつもの事だと諦める考えがいつからか現れ心にある良心を削る。
心を削る痛みは発作のように現れては胸がズキと痛み苦しくなるが、それもいつの日からかすぐ溜め息一つで消える。
「いやだ…、もう消えてしまいたい…」
正人は人や車こそ無かったが道の真ん中で踞り目をつむる。目の内側には会えない家族の姿を思い描いていた。
「ハァ… 帰ろう… 帰らなくちゃ… 僕の帰る場所だから」
もう止めたい…。
家の回りを回るように後に半分の道を多少の期待を持ちながら歩く帰り道…。帰り道は街灯の明かり一つ無い道。
奥にある街灯は微かにチカチカと光っているが消えてしまいそう。
帰り道の中見えるコンビニの光。何時ものお菓子とアイスを買う。
「ありがとうございました~」とコンビニ店員の声。
後は帰るだけ、家に帰って手を洗って寝るだけで僕の今日が終わる。
何処かから聞こえる犬の遠吠えと夜だがら昼間よりも鮮明に聞こえるセミの声。
昼間に聞いたら鬱陶しいセミの声も夜だけ何処か澄んで聞こえる。
帰り道。
夜の闇の月明かりが道を薄暗く照らす。
実際は月が光っているのではなくて太陽の光が月に反射してるだけとテレビで見たけど、それでも月はいつ見ても綺麗だ。
家が見えてくる。月明かりではなく街灯照らす道の横に見える。
後は鍵を開けて家に帰るだけと思ったが、ふと家の前を見ると何処の国の服かは分からないがドレス姿の少女が倒れていた。
金髪にも白髪にも見えるきれいな髪色をした少女が僕の家の前で倒れているのを僕は心配になり駆け寄る。
「あの大丈夫? どこか怪我でも――」
当然、倒れているので声をかける。近くに親らしき人はいない、そう思っていたが遠くに見える人影に気づく。
「ん? あっ! この子のお父さんですか? 駄目ですよ、娘さんから目を離した… ら!」
「逃げなくちゃ…! 危ない!」
突如倒れていた少女が起き上がり僕の腕を引っ張る。さっきまで小さな影だった人影は僕の真横に立っていた。
「ぐっ!」
僕は少女に引っ張られてか尻もちをついていた。引っ張られなかった逆の腕には深い引っ掻き傷がつき、そこから赤黒い血が流れる。
「イッテェ… 血が…!」
「あなたは逃げなさい!」
少女は正人の腕の傷を見て逃がすため、少女を追ってきた男から逃げず正人の前に立つ。
少女が尻もちをついている僕の前に立っているがいったい何が起こっている。
「姫…。その人間を守るとはあなたは吸血鬼としての生き方を忘れてしまいましたか?」
黒い執事服を着た老人が少女に話しかける。
「姫? 私はあなた達とは違う生き方を選んだ一人の吸血鬼。血でしか偉ぶれないあなた達とは違う!」
少女は自身よりも背の高い老人相手に堂々とした態度で目の前にいる見た目紳士的な姿の白髪ジョントルと言う名前そうな男と話す。
「いつまでいる人間さん、あなたは早く何処かに逃げなさいと先程から言っているんだけど…」
少女の額に流れた汗が少女の内心を知らせていた。
「でも君を置いて逃げるわけにはいかない!」
僕は腰を起こす。
震える手を誤魔化しながら少女の前に立つ。
「死にたいのか人間さん!」
「逃げるように言われたけど、ここ… 僕の家の前なんだよね。だからここで逃げるわけにはいかない…」
血が滲み痛む腕を抑えながらも立ちはしたが、恐怖から震える足を必死に力付くで抑え前に立つ。
「はぁもう殺しても良いかね少年? 腹も今は空いていない...無益な殺しは私のルールに反すること。立ち塞がる騎士道とでも言う覚悟に免じて君だけ見逃すことも辞さない」
僕を見ず後ろにいる少女を見て男は言う。
「…。それは無理な…ハァハァ… 相談だ!」
腕から流れ続ける血のせいか体の力が抜けていく。呼吸も若干荒くなってきている…。
「お前みたいな怪しい大人に子供を預けるほど日本人の考えは平和ではないんでね…」
「ならば死ね…!」
男は冷たく背筋も凍るような目をして襲いかかってくる。
男の姿が二重に見えた瞬間体の感覚は消え全身に寒気が走る。
これは走馬灯だろうか一瞬ながら無限に感じるほどの記憶が頭に流れ僕は死ぬ…。
「…! ハァハァ…! あれ… 生きてる?」
腹に激痛があるが目の前に男の手を掴み押し返そうとする少女の姿があった。
どうやら僕は少女に蹴られて後ろに下がらされたらしい。
「姫様、なぜ人間を!」
少女は男を押し返そうとしてはいるが苦しげな様子だった。
けど大人相手にあの細い体のどこにそんな力が…。
「ぐっ! うるさい!」
少女は男を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた先の家の前の壁は粉々になっていた。見た目に似合わずパワフルだと感心しながらも僕は痛む腹を抑えながら少女の手を引き走り出す。
「え?」
とっさの行動ながら少女は驚いていた。
「ちょ…人間さん! 何処に行こうと言うんだ! おまえだけでも逃げろと言ったはずだ!」
「ゴホ… ハァハァ! あんな男の前に君だけ置いて逃げられるわけ無いでしょ! 日本人をなめるなよ!」
自身を高ぶらせる正義感に任せ、街灯の中を走る。
もうそろそろ公園が見えてくるこの先には交番があるからそこを目指して走る。
公園が見えてくる。曲がる先は交番!。
「…遅かったですね姫? では… あなた様のお家に帰りましょうか…」
「なっ! ハァハァ…! どうして僕らの前に…」
公園のベンチに座り待っていたとばかりの発言に戸惑う。先ほどまで後ろにいたはずの男はなぜか目の前にいるからだ。
「吸血鬼から逃げられるわけ無いだろう少年。もう君は殺すと決めている。逃げていれば長生きできてたろうに…」
疲労からか膝を着く。痛む腕と腹のせいかもう歩けそうにも無い。
「ぐっ! 君は…逃げ…て。そこ曲がったら交番だから」
「おまえ… 自分勝手すぎるぞ? 私はおまえに何回も逃げるように言ったと言うのに…」
「逃げて!」
少女の手を離し男に向かって走る。
「うあわぁぁ!」
「止めろ! おまえでは死ぬぞ!」
「無駄な事を…」
スルリと服を掴み時間を稼ごうとする、男は掴もうとする僕の腕を躱す。
「死ね…!」
男の手は僕の胸を貫く。痛みは失く一瞬の事で何も思い出せなかった。
「ぐ… は…。に… げ… ろ」
血が体から抜けていく。
体の感覚はこの時だけより深く感じられた。血の流れる音と温もり。
どんどん抜けていく全身の力。
今はもう立ち上がるほどの力も無い。
脳に酸素が足りないからか思考も...だんだん…単純に...。
あぁ、僕は今日死ぬんだ。
もう悲しくなくなる。
「ごめんね…」
頭の中で最後に見た家族を思い出し目を閉じる、この日僕は初めて死んだ。
あぁ、やっとこの世界から出られる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
初連載ですのでお手柔らかに…。
一話かくだけで大変(汗)
感想なども書いてくれると励みになります。
評価やブックマークも面白いとまた読みたいと思ったらで良いのでお願いします。
まだまだ書き出したばかりで読みづらさや分からない事もあると思いますが読んでくれてありがとうございます。