表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

身体の中にじゃがいも

作者: 村崎羯諦

「平本さんの身体をレントゲンで撮ったところ……左胸にじゃがいもが映っていました」


 病院の診察室。健康診断で訪れた平本に対し、医者が身深刻そうな表情でそう告げた。何を言っているのかさっぱりわからない平本に対し、医者は先ほど撮ったばかりのレントゲン写真をパソコンの画面に映し出す。平本の左胸には何か楕円形の影が写っており、拡大してじっくりみると、確かに形はじゃがいもそっくりだった。


「これはこういう形の腫瘍ではないんでしょうか?」

「私も初めはそう考えたのですが、これは間違いなくじゃがいもです。だから、安心してくださいと言うと変かもしれないですが、平本さんが何かご病気にかかっているというわけではないんです」


 どうしてじゃがいもが身体の中にあるんですかという平本の質問に対し、医学的には説明が不可能ですと首を振りながら答える。


「身体の中からじゃがいもが生えてきたと考えるよりかは、外から埋め込まれたと考えた方がいいですね。どうでしょう? 何か心当たりはありませんか?」

「そういえば……。数日前、道を歩いていたら、夜にもかかわらず急に当たりが明るくなったんです。そしてすぐに気を失ってしまって、気がついたら地面にうつ伏せに倒れていたんです。そういえば、その日から胸の辺りが重たくなったような気がします」


 医者は平本の説明を聞き、納得したように頷いた。


「なるほど……。もしかすると、宇宙人の仕業かもしれません」

「宇宙人ですか?」

「ええ、平本さんも聞いたことがあるでしょう。道を歩いていたら突然UFOに攫われて、体にチップを埋め込まれてしまうといったお話を」

「聞いたことはありますが、それは作り話でしょう? それにもし宇宙人が私の身体に何か細工をしたというのが本当だとしても……」


 平本は言葉を続ける。


「どうして、じゃがいもなんですか?」


 すぐに何か問題が発生するとわけではないので、結局その日平本は帰宅し、改めて精密検査と摘出手術を行うことになった。そして、健康診断から一週間後。再び病院を訪れた平本は、最先端のレントゲン撮影を全身に対して行った。写真の出来あがりと同時に診察室に呼ばれ、平本が中に入る。医者は前回よりもさらに深刻そうな表情でパソコンの画面を見つめていた。


「摘出手術を行う前に、平本さんには最先端のレントゲン撮影を行いました。従来のレントゲンとは違い、このレントゲンでは色付きで身体の内部を撮影し、3D化することができるんです。そして、その技術で平本さんの身体の内部を調べてみたんですが……」


 医者は画面を動かしながら、平本に説明する。


「じゃがいもだけではなく、にんじんと玉ねぎ、そして牛肉が身体の中に埋め込まれているのがわかりました」


 平本は医者が見せてくれた画面に顔を近づける。画面には確かに自分の臓器や骨の隙間にぴったり収まるように、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、そして牛肉の姿を見ることができた。しかし、平本は特に驚いた様子はなく、やはりそうでしたかと意味深に呟くだけだった。


「そうでしたか、というと?」

「実は……数日前にまた同じように道の真ん中で気を失ってしまったんです。前回と全く同じシチュエーションだったんで、ひょっとしたらまた宇宙人に誘拐され、自分の身体に別のものが埋め込まれたんじゃないかと思っていたんです。でも、一体どうして、にんじんと玉ねぎ、牛肉なんでしょう?」


 二人は腕を組み、考え始める。そして、じっと身体の中に埋め込まれていた異物を見つめていた医者がポツリと呟いた。


「ひょっとして宇宙人は、カレーを作ろうとしているのではないでしょうか?」


 平本と医者はお互いに見つめ合い、その可能性の高さをお互いに認め合う。身体に異物を埋め込まれた被害者である平本は、やつらは人間の体をなんだと思っているんだと叫ぶ。しかし、それと同時に平本は身体の中に埋め込まれた具材を見て、「待ってください!」と言った。


「このジャガイモは古くなって、あちこちに芽が出ています。それに玉ねぎは普通の玉ねぎじゃなくて、新玉ねぎじゃないですか。これじゃあ、美味しいカレーなんて作れませんよ!」

「確かに平本さんのおっしゃる通りですね。宇宙人もカレー作りにはまだ慣れていないんでしょう」

「実は私、料理人なんです。料理人としてこんなことは許せません。先生、この後ちょうどこの野菜やお肉の摘出手術をしてくださるんですよね?」

「ええ、そうですが?」

「今から私がきちんとした材料を選んで買ってくるので、埋め込まれているやつと取り替えてくれませんか!?」


 それから平本は急いで近所のスーパーへ行き、料理人としての経験と知識を活かしてよりすぐりの食材を選んで買ってきた。医者は食材を受け取ると平本をすぐに手術室へ移動させ、そのまま埋め込まれた野菜とお肉の取り替え作業を行うのだった。


「手術は無事に成功しました。平本さんの身体には今、ちゃんとしたじゃがいも、玉ねぎ、にんじん、牛肉が埋め込まれていますよ。経過を見る必要があるので、三日後にまた来院してください」


 三日後。再び平本は病院を訪れた。何か変わりがありますか?と聞かれた平本は医者に対して、再び宇宙人による連れ去りが発生したことを告げる。医者はすぐに平本のレントゲン写真を撮影し、撮った写真を画面に映し出す。こに写ったものを見て、医者と平本は驚きの声をあげた。


「見てください、平本さん。埋め込まれた具材が全部カットされてます。あとは煮込むだけですね!」


 しかし、平本はじっと画面を見つめるだけで反応しない。どうしたんですかと医者が尋ねると、平本は険しそうな表情でつぶやいた。


「全然ダメです。具材の大きさがバラバラだし、牛肉には下味をつけていない。あと使っているジャガイモは男爵なんですが、面取りをして煮崩れしないようにした方が絶対に美味しいです」

「ですが、自分で作るカレーはそこまでこだわらなくても……」

「いえ、そんなの私が許せません。先生、今日も摘出手術をしてくれませんか? 私がきちんと下処理をして、それをもう一度体内に埋め込んでもらいたいです」


 手術は体に負担がかかるし、術後すぐに摘出した具材をカットするなんて無茶だ。医者は平本をそう説得したが、平本は頑なに手術を依頼した。すると、医者も平本のプロ意識の高さに押され、手術を決行することを決めた。


 手術室。医者が手際よく平本の身体から具材を取り出し、平本の身体を一時的に縫い付ける。平本は麻酔で意識を朦朧とさせながらも、なんとか自分を奮い立たせ、手術台の端っこに用意してもらった机の上で具材のした処理を進めていく。そして、十分もかからないうちに下処理を終わらせた具材を渡し、医者はそれをもう一度平本の体に埋め込んでいくのだった。


「手術は成功です。本当にお疲れ様でした。あとは宇宙人が平本さんを誘拐するのを待つだけですね」


 翌日。術後の回復もまだ十分ではない状態で、再び平本は病院を訪れた。しかし、今回はいつもと違い、平本は明らかに体調が悪く、脇腹のあたりをしきりにさすっていた。つい先ほど平本は宇宙人にさらわれたのだが、いつもと違い、今回は脇腹あたりに強い腹痛と熱を感じているとのことだった。


「ひょっとしたら出来立てのカレーが脇腹に埋め込まれているのかもしれません」


 平本の息絶え絶えの説明に医者はこのままだと危険だと判断し、そのまま緊急手術を行うことになった。平本はいつもの手術室へ運ばれ、医者によって執刀が行われる。医者は平本が症状を訴えていた脇腹あたりを切り開く。そして、平本の身体に埋め込まれていたものを目にした医者は思わずつぶやいてしまう。


「なんてことだ……」


 手術はなんとか無事に成功し、平本は病院のベッドへと運ばれる。手術終わりの医者が部屋に入ってくると、平本は医者に対して、中のカレーはどうなっていましたか? と開口一番に尋ねた。医者は平本の質問に対し、表情を曇らせる。そして、落ち着いて聞いてくださいと前置きをつけた上で話し始める。


「宇宙人たちは平本さんの体内でカレーを作っている。私たちはずっとそう思っていました。ですが、平本さん、それは間違いだったんです」


 どういうことですか? 平本が不安そうな表情を浮かべる。それから、医者は先ほどの手術で取り出したものを取り出した。平本は目の前に差し出されたものを見て、驚きの声を上げる。そして、医者は真剣な表情で頷きながら、平本にいうのだった。


「宇宙人たちが作っていたのはカレーではなく……肉じゃがだったんです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ