表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

6.我ら仲良し兄妹也

 ――屋敷と魔導研究所以外で、ダレル様の妹溺愛っぷりを見せつける。


 このミッションをクリアするため、私とダレル様は次の休日に王都へと繰り出すことにした。そう、兄妹デートである!


 ……なんて、勢い込んで出掛けたはいいものの。

 隣を歩くダレル様は明らかに浮かない顔だ。先程からため息ばかりを繰り返している。


「ああ、何という時間の浪費なのでしょう。研究所にこもりたい、魔導具に触れたい開発したい……」


「お仕事中毒にも程がありますよね。適度な休息って大事だと思いますよ? ほら、せっかくなんだから楽しみましょ!」


 今日の私達は貴族然とした格好ではなく、ちょっと裕福な平民ぐらいを目指してみた。

 ダレル様は紺のジャケットをさらりと着こなして、私は清楚な真っ白のワンピース。こちらは昨日、お義母様と二人で「あれはどうですか?」「こちらも素敵ですわ!」ときゃあきゃあ盛り上がりながら購入したものだ。


 あ、そうそう。


「買い物ついでに、ちょこっとですけど観光もしてきたんですよ。時計台に登って景色を楽しんで、幸運の黄金オッサン像と握手して、恋愛成就のおっきな噴水に銅貨を投げ入れました〜。お義母様もすっごく喜んで」


「なぜわたしとの外出を前にして、王都の有名スポットを網羅しているのです!」


「ありゃ? ごめんなさい」


 憤慨するダレル様に、わざとらしく舌を出して謝った。

 でも孤児だった私は王都観光なんて初めてで、ついつい夢中になってしまったのだ。お義母様もノリノリだったし。


 ダレル様がまた悩ましげにため息をつく。


「ああ……。ならば今日、我らは一体どこへ行けば……?」


「大通りに行きましょ! エドワードさんから教えてもらったんですけど、大道芸人さんがよく出てるらしいんですよ。食べ物の屋台もたくさんあるって」


「どこの誰が作ったかもわからない料理など、絶対に口にしたくありません。それに、有象無象のやかましい人間にまみれた場所はごめんです。もっと静かで人気(ひとけ)のないところを選びなさい」


 この野郎。


 私は笑顔のまま目を吊り上げた。

 ガッと彼の腕を捕獲して、問答無用で歩き出す。


「ああッ!? リリー、わたしをどこへ攫う気です!?」


「大通りだっつってんでしょ。人のいないところで演技して何になるってんですか」


 ダレル様は顔を赤くして逃げようとしたが、インテリお坊ちゃまの抵抗なんて軽い軽い。食堂って案外力仕事だったからね!


 こうして無事に目的地へと到着する。

 人通りが増えていくにしたがって、ダレル様はぴたりと不平不満を口にするのを止めた。しゃんと背筋を伸ばし、さわやかに私に微笑みかける。


「ご覧なさい、可愛い妹よ。あちらで芸人が綱渡りを披露していますよ」


「ワア、スゴイネー。オニイタマー」


「……すみません。わたしが悪かったので、もう少し真剣にお願いできますか」


 あっさり降参した。ちょろいな。


 それからは興味津々で大道芸を見物する。

 軽やかな曲芸にマジックに、私は演技も忘れて見入ってしまった。息を切らして笑って興奮して、隣のダレル様の腕を引く。


「ねっ、お兄様! 今のすっごく――……え?」


 気づけば、ダレル様の顔が蒼白になっていた。気分が悪そうにハンカチで口元を押さえている。


「お兄様っ、大丈夫ですか!? ちょ、ちょっとあっちで休みましょう!」


 私は慌てて彼の手を引き、熱気あふれる人混みから脱出する。恋愛成就の噴水にあるベンチに腰掛けて、彼の背中を何度も撫でた。


「ああ、すみません……。普段こんなに俗世にまみれることがないもので……うっ」


「無理しないで、横になってください。膝枕しますから」


「はあ!? けけけ、結構です!」


 遠慮するダレル様を無理やり押さえつけ、力技で横にならせた。「外で寝るなどと、ううっ」とやかましい。休め。


 日よけにハンカチを目元にかぶせ、さらさらした髪を撫でる。それでやっとダレル様も大人しくなって、私も安堵して力を抜いた。


「……リリー、重くありませんか?」


「具合いの悪い人がそんなこと気にしなくていいんです。気分はどうですか?」


「……大分、良くなりました。風が、心地いい……」


 消え入るように告げたかと思うと、穏やかな呼吸が聞こえ始める。そっとハンカチをめくってみれば、ダレル様は子供みたいにあどけない顔をして寝入っていた。


(もしかして、寝不足だったのかな……)


 日頃から研究一直線で無茶をしているみたいだし。契約妹として、もっと兄の体調を気に掛けるべきだったと反省する。


(たまにはお仕事のことは忘れて、ゆっくり休んでくださいね)


 心の中で語りかけ、手のかかる兄にくすりと笑みをこぼした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ