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4.契約妹、始動!

「リリー、こちらもおあがりなさいな」


「ありがとうございます、お義母様!」


「リリー、パンのお代わりはいかがですか?」


「わぁい、いただきますお兄様!」


 ――明るい食卓、爽やかな朝。


 にこにこ上機嫌なお義母様とダレル様とともに、今朝もとびっきり美味しい朝食に舌鼓をうつ。給仕してくれるメイドさん達も、微笑ましそうに私達を見守ってくれていた。


「あのう……」


「うぅん、このパンふわっふわのもっちもちです! いつも食べてた黒パンとは大違い〜!」


「ふふ、それは良かった。可愛い妹が喜んでくれて、兄として嬉しい限りですよ」


「あのう……」


「こらリリー、お皿にトマトが残っていますわよ」


「えへ、ごめんなさいお義母様。ちゃんと最後に食べますから」


「あのうっ!!」


 泣き出しそうな大声に、私はきょとんと声の主に目をやった。ダレル様とお義母様……のみならずメイドさん達までも、凍えそうな視線を彼に向ける。


「……どうかされましたか? アレックス様」


 パンを飲み込み、私は小首を傾げた。先程から遠慮がちな声が聞こえてはいたものの、ついつい美味しい朝食に夢中になってしまっていたのだ。


 やっと注目されて、アレックス様はぱっと顔を輝かせた。が、一転して悲しげに眉を下げる。


「可愛いリリーや。わたしのことは、『パパ』もしくは『お父様』と呼」


「リリー。今日はわたくしのお友達からお茶会に招待されていますの。内輪の気楽な会ですから、あなたもぜひおいでなさいな。マナーの実践にちょうど良いと思いますわ」


 お義母様がせかせかと口を挟んだ。

 私は音を立てないようスープを口にして、考え込む。


(貴族様のお茶会……ってことはもしや、甘いお菓子がよりどりみどり? 好きなだけ食べ放題?)


「行きます!」


「却下です」


 すかさずダレル様が待ったをかけた。

 むっとするお義母様に、ダレル様は重々しくかぶりを振る。


「母上はリリーを独占しすぎです。やれ買い物だ観劇だと、連日彼女を連れ回して……。今日はわたしが魔導研究所にリリーを連れて行くのです。職場の皆に大事な妹を紹介したいのでね」


(ああ……)


 なるほど。

 ダレル様は同僚さん達に溺愛演技を見せつけるつもりなわけね。これは契約妹として大事なお仕事だ。


「お義母様、そういうことなら私はお兄様と行きます。お茶会はまた誘ってください」


 笑顔を向ければ、お義母様は不承不承といった様子で頷いた。


「仕方ありませんわね……。でもねリリー、覚えておおきなさい。どこでご縁が繋がるかわからないのだから、社交界には積極的に顔を出すべきなのですよ。あなたの夫となる殿方は、このわたくしが直々に見定めてあげますからね」


『…………』


 ダレル様と私が絶句する。

 二人ぎくしゃくと顔を見合わせていると、アレックス様が椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「――お、夫だと!? 駄目だ駄目だ、うちの娘は絶対に嫁になどやるものか!!」


「はあ!? リリーの幸せを願えばこそでしょう!! ご安心なされませ、旦那様のような多重浮気サイテードクズ野郎だけは選びませんとも!!」


「ぐはぁッ!?」


 まるでぶん殴られたみたいに胸を押さえる。わぁお、いい気味〜。


 ぱちぱちと拍手する私の腕を、ダレル様が無言で引いた。

 まだ激しく言い争っているお義母様とアレックス様を残し、そっと食堂から退出する。


「……まったく、母上は何を勘違いしているのか!」


 馬車に乗って二人きりになってから、ダレル様は忌々しそうに吐き捨てた。


「まさか母上が、こんなにもあなたに入れ込むとは予想外でした。嫁になどやったら、契約妹の任が果たせなくなってしまうというのに」


「そうですねー。私もまだ特に結婚願望はないですし、伯爵家もすっごく居心地いいですし。うん、お義母様の気持ちはありがたいですけど、しばらくはこのまま契約妹を続けていきたいです」


 苦笑する私に、ダレル様はほっとしたようだった。

 やわらいだ表情に変わり、長い脚をゆうゆうと組む。


「魔導研究所に着いたら、早速皆に我々の仲の良さを見せつけましょう。その後わたしは仕事に入りますから、あなたはわたしの研究室で自由に過ごしてください」


「了解です! じゃあお義母様から渡された、マナーの教本でも読んでよっかな」


「リリー、あなたって意外と努力家ですよね……」


 ちょっと感心したみたいにつぶやくダレル様であった。

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