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「あーあ、ようやく学校が終わったな」
現在高校からの帰り道。
今日の授業日程が無事終了し、安堵の息を吐いてしまう。
「そうだな、マジで疲れたっしょ。ああ、そうだ廊弥。帰りに本屋寄ってもいいか? そろそろ新刊が入荷される頃合いだと思うし」
隣を歩く親友のカケルがそう提案してくる。
こいつは小学生の頃からの腐れ縁で、運良く中学高校と同じだったので、なんやかんやでつるんでいる奴だ。頭が悪く学校の成績も最悪なのだが、何故か人生幸せそうで少し羨ましいと思っている。
「うん、いいよ。俺もついでになんか買おうかな」
「買ったら? どうせ暇なんでしょ」
「うーん、そうりゃそうだけど」
「じゃあ行こうぜ! 俺が一番乗りいかせてもらうわ!」
そう言って何がしたいのか全く分からないが、カケルが走り出した。
カケルはこういうミステリアスなところがある。
しかし俺はそこが気に入っていた。
普通やテンプレじゃ面白くない。やはり刺激あっての人生だとそう思っているからだ。
そうしてなんやかんやで本屋に到着。
なんとなく選んだ一冊を購入した俺は、一足先に建物から出てカケルを待つことにした。
ふぅ、なんか少し冷えてきたなぁ。
もう季節も秋……すぐに冬か。一年って経つのあっという間だなぁ。
「俺の人生もこうしてすぐに終わっちゃうのかなぁ」
「あぶなあーい!!」
そんなひとりごとを呟いているときだった。
声が聞こえたかと思えば、横から黒いバイクが俺めがけ突っ込んできた。
「ぐあぁ!」
俺は敷かれ、吹き飛んだ。
「う、うぅ……」
痛い。凄い痛いよぉ……ああ、結局こういう終わりなんだな。俺の人生って、なんだったんだろう……。
「…………あれ?」
気づいたときには俺は雲の上にいた。
非現実的な光景だが、トリックなどというわけでもなさそうで、本当に白く大きなフワフワの雲の上に乗っているとしか思えない。
周囲一体に広がる雲の切れ間からは、それはそれは雄大な空の景色が見て取れる。
まるで夢でも見ているようだと思った。
「目覚めたかの」
何者かに声を掛けられた。
振り返って見てみると、そこにはひとりの枯れ枝のようなお爺さんがいた。
本当にすぐに寿命を迎えそうなほどに弱っているように見えた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「ほっほ、自分のことよりまず儂のことを心配するとはのう。お主も大分変わり者のようじゃな」
お爺さんは震える手で杖を掴みながら、なんとか起立していた。
声からして笑っているっぽいが、顔がシワだらけで表情がいまいち見て取れない。
「いや、目の前に死にそうな人がいたら心配する気持ちにもなりますよ」
「そうか。いやはや、お主を選んで正解だったかもしれんな」
「……?」
「申し遅れたな。儂は神じゃ。第二百五十七宇宙の運営を担当しておる。お主のおる地球もこの宇宙に含まれておるというわけぞよ」
「神様……ですか?」
流石に眉唾すぎて、思わず眉を潜めてしまった。
「まぁ信じられんくとも無理はないわな。じゃが別に信じて貰わんでも大丈夫じゃ。儂が神であるかどうかなどお主の人生には関係ないことじゃからの」
「どういうことなんですか?」
「ま、順を追って話をするわい。まずお主は地球にて死亡した。これは覚えておるかの?」
そんなわけない。
そう言おうとしたが、ぱっとあのときの光景が脳内に流れ、思い出す。
迫りくるバイク。
その後襲ってきた痛烈な痛み。
ああ、そうだった。俺あのとき事故で……
「僕は……死んじゃったんですね」
「そうじゃ。まぁ悲しきことじゃがよくあることでもある。寧ろ十七の歳まで生きられたことは、全世界水準で考えればそう悪くはない命運じゃと思うが」
励ましてくれているのだろうか。
俺の心にちっともしみてこない。
死んで悲しいのか?
考えたことなかった。
死んでしまうことがどういうことなのか。
この味わったことのない感覚……なんだろう。後悔、いや勿体ない、と言ったほうがいいのかな。整理がつかないや……
「まぁそう悲しい顔をするな。本来であればお主は地球で死亡したままのはずじゃった。それ以降思考することもなければ、二度と目覚めることもない。永遠の眠りというやつじゃな」
「だったら今こうして考え、喋れているのはなぜなんですか?」
「儂が呼び出したのじゃ。儂ももうすぐ神としての現役を終えるからの……。最後くらい誰かの記憶に残っていて貰いたい……そう思って最後の力を振り絞ったのじゃ」
なんだか凄くしんみりとした空気が伝わってきた。
「お爺さん、やっぱり死んじゃうの?」
「そう、じゃな。正確には海に還るという方が正しいのかの。深く、底のない海へと還り、そこで何もかもを失い海の一部となる。そうして気が向いたときにまた一部を救いあげられ、新たな神として再構築されてゆく……まぁ、あまり伝えていい情報ではないのじゃがな。今のは忘れてくれ」
そういうお爺さんに悔恨の念は見られなかった。
むしろ俺に話を聞いて欲しい。そんなやるせない雰囲気を感じた。
「その、どうして僕を選んだんでしょうか」
「それはじゃな……」