好敵手《ライバル》たちはすぐそこに
純は、部屋に入って来るや否や、烏貝先生に向けて不機嫌をそのままぶつけた。
「烏貝先生……。朝早くに呼んだと思えば。こんな成り立ての天恵者を俺の相棒にするつもりですか?」
「純、成り立てだからと言って弱者だ、と上から目線なのは良くないことだよ♪この少年には素晴らしい天恵があって、それを使いこなす才能があるんだから。そう、ちょうど君のようにね……」
一瞬、烏貝先生の目が鋭く光ったような気がした。純はそれを眉間にしわを寄せた様子で聞いていた。
「……ふん。それでも俺はこいつを認めたくありません。稲荷様直々の推薦とは言え、いきなり【CAP】に入るなんて……。そんなの【CAP】に入れなかった生徒達や死ぬ気で入った俺たちへの冒涜なんじゃないでしょうか?」
(……【CAP】?)
聞き慣れない単語に俺は首を捻って、烏貝先生に疑問を投げ掛けた。
「先生、その【CAP】っていうのは?」
「あぁ、そう言えば本人には直接言ってなかったね。【CAP】と言うのは他の学校で言う所の特進クラスのような物だと思ってくれていいよ。他のクラスと何が違うかの詳細は、実際に生活してもらったほうが早いと思うから省くけど。ちなみに、【CAP】と言うのは、能力を意味するcapabilityの最初の三文字を取って命名されてるんだ。ギフテッドスクール豆知識~」
「え!先生!!俺転校したてなのに、そんな凄い所にいるんですか!?」
俺がそう言うと、純は呆れたようにため息をついて、烏貝先生に毒を吐く。
「はぁ……。先生、そんな大事なことも伝えてなかったんですか?つくづく無能ですね。どうりで、こいつが状況を理解してないわけだ」
「純、あまり強い言葉を使うなよ……俺が傷つくだろ」
駄目だ、先生が完全にダウンしてる……。
すると、純の方が俺の目先まで近付いて、ずいと俺の顔を覗き込んだ。思わず身を引く。
「単刀直入に言う。俺はお前が嫌いだ。これは俺だけでなく、このギフテッドスクールにいる他の天恵者ほとんども同様だろうな」
「……それは、どういうことだよ?」
純は無表情のまま、俺を見下ろし、得意そうに講釈を垂れた。
「そのままの意味さ。俺たちはこの学校に入るために、もちろん様々な試験を受ける。そんな試験もなしに、最高権力者からの推薦だからって簡単に入って良い、って言うのは酷い話だろ?」
「純、それは違うよ。簡単な形式とは言え、この僕が試験はしたんだから」
烏貝先生は冷静に反論する。純は先生に聞こえないように小さく舌打ちした。
「先生の試験では少し承知しかねますね。なんならこの俺が、こいつが稲荷様に推薦されるべき天恵者か、確かめてあげましょうか?」
言いながら、純は右掌を下段に構え、臨戦態勢を取った。まさか、ここでやる気か?
俺と純との不穏の空気に、さすがに烏貝先生は純を引き離した。
「はいはい、やめやめ。純、さっき言った通り、颯君は素晴らしい天恵者だよ。僕が保証する」
「…………」
純は引き離されて黙ったが、目は相変わらずずっと俺のほうに睨みをきかせていた。
烏貝先生は俺に振り向くと、さっきの出来事を払拭するように、わざとらしい明るい声で喋りかけてきた。
「さあ、颯君、そろそろ教室に行こうじゃないか。皆も待ってることだし。皆良い子だから楽しみにしててね?」
「さっきの話を聞くと全く楽しみになれないんですが……」
俺は襲ってきた頭痛に眉を潜めた。そんな俺と、隣で黙りこくっている純を見て、烏貝先生は苦笑した。
「ちょいちょい、二人とも?もうちょい楽しそうに行こうよ!これからまた一人クラスメイトが増えるんだよ!?レッツスマイル!レッツゴー!」
烏貝先生だけが、この場の邪気を祓うような笑顔を浮かべながら、凸凹な三人でその教室に向かった。
―◇◇◇◇◇◇◇◇―
どうやら俺が連れて来られた多目的室は一階だったようだ。そこから一年生の教室が並ぶ4階に上がり、コの字の左端へ進むと、俺達【CAP】の教室である、A組とB組の二つの教室が続いていた。俺はA組なので手前側だ。
純は先生から、奥の入り口から戻るよう言われ、俺は先生と共に教壇側の入り口から入った。
ざわめいていた教室は、一瞬で静かになり、見慣れない俺の姿を凝視する。ざっとクラスメイトは俺含め十八人。数自体は少ないが、やはり大勢に見られると多少の緊張くらい誰だってする。俺は思わず生唾を飲み込んだ。
ポンポンと二度肩を叩かれる。
振り向くと、先生が長い前髪の下で笑っていた。
「さて、皆知っての通り、転入生が来てくれることになりました!うちのクラスもやっと偶数!二の倍数!これで相棒が全員組めるね!紹介しよう!我がクラスの新しい生徒、日ノ宮颯君だ!颯君、自己紹介!」
「は、初めまして!公立八尾島学園から来ました!日ノ宮颯です!!」
俺が先生に振られて自己紹介をすると、乾いた拍手が響いた。なんだったら純を始め、何人かは拍手すらしてくれなかった。
すると、拍手をしてくれなかった人の中から、一人が机にガンッ!と乗りだし、周りをびくらせる。
「……な、なに顎斗君いきなり……。何か変な物でも食べ……」
「……足りねぇ」
気弱そうな茶髪の少年が話しかけたのを無視して、その一人―目付きが悪くて、背が低めの少年である―が一言そう言った。
そして、ビッ!と今度は指を突きつけたと思ったら、唐突に罵倒し始めた。
「足りねぇ!強者の面がッ!弱々しいわ!!」
「顎斗君!失礼っ!とりあえず、座ってっ!」
「そうだぞ!顎斗君!初対面なのに失礼すぎるぞ!」
さっきの少年としっかりしてそうな眼鏡君が顎斗を止める。
「うるせぇ!この脳まで石頭ども!!おい転入生!テメェ、何の能力だ!?」
「酷くない!!脳まで石頭って!?一応相棒なんだけど!?ねぇ!」
どうやら少年の方は相棒どうしだったらしい。涙目でそう叫んでいた。だが、肝心のお相手は相棒を無視して、一点に俺だけを見つめていた。
「お、俺の天恵は……」
聞かれて思ったが、俺はまだ自分の天恵の名前を知らない。だが、一言で表現できる言葉を思いついた。
風とは違い、思いをエネルギーに変える力。ルーツは違うかもしれないが、これが一番分かりやすい。
「『波動』……」
「『波動』か、良い名前を付けたね、颯君」
先生にそう言われ、俺は嬉しさにはにかんだ。
「『波動』だぁ……?」
対して、顎斗なる生徒はと言うと、怪訝な表情をしていた。見かねた後ろの大人らしい女子が手を挙げる。
「はいはーい。私もちょっと分かんないから、具体的にどんな能力なのか教えて?分かる範囲でいいからさ」
「簡単に言うと、衝撃波を出す能力……かな?」
「……かなって、もしかしてよく分かってないの?」
俺は居づらさに頭を掻く。
「それが……、その、天恵はちょうど一週間前に目覚めたから、能力の詳細が分かってなくて……」
「「「はい???」」」
「……バカが」
純の席からそんな声が聞こえた気がした。皆の顔はみるみる曇っていった。
睨む者、軽蔑の眼差しを向ける者、表に出さなくても表情を消す者、そして無関心になる者。
見慣れた光景だった。もとより運動神経が良く、頭も多少切れた俺は、両親ができる人だったのも相まって、他人からあまり良い印象を持たれなかった。その時もこんな表情の人たちが、俺のことを蹴落とそうとしてきた。
でも、それでも……
(やっぱどこにでも嫉妬なんてあるんだなぁ)
そう思わずにはいられなかった。でも、世界なんてそんなものだ。そんなものなのだ。
「……か文句あるか」
「あ?」
一番最初に罵倒してきた少年、今もまだ喧嘩腰で俺に向き合う顎斗に俺は言う。
「なんだと?もういっぺん言ってみろ」
嗤う、獣のように嗤って俺は一言ぶつけてやった。
「なんか文句あんのかって聞いたんだよ。こんな歴も浅いやつに負けてさぞかし悔しいだろうな?あぁ!?」
空気が変わる。いっそう険しくなる。顎斗はもう乗り出せないくらい、前に傾いていた。だが、烏貝先生は相変わらず貼り付けたような笑顔をしていた。
そして委員長が席を立つ。何かと見てみれば真剣な顔をして、先生のほうを見ていた。
「先生、皆ご立腹のようで、どうやら颯君を快く思ってないみたいです。一度触れ合って、気を和らげるのはどうでしょう?」
……ん?
烏貝先生はこれ以上ない笑顔で賛成した。まるで予測してたみたいに。
「いいね!一回颯君と自己紹介がてら交流戦と行こうか。皆拳で語り合った方が性に合っているだろうし、ちょうど次は実戦演習だしね♪皆も異論ないかい?」
満場一致で頷いた。え、ちょっと待って。
「じゃあ颯君、頑張ってね♪」
そう言いながら烏貝先生は俺に向かってウインクを決めた。
……とてつもなく、嫌な予感がした。
―◇◇◇◇◇◇◇◇―
場所は移動して体育館。来たときに言った通り、体育館の大きさは一般の学校のそれではなく、幅50m、奥行き75mのギガントサイズである。そして中身も一般の体育館とは異なり、よく見かけるバスケットコートはなく、基準線でいくつかの色に分かれてひいてあるだけの簡素なデザインだった。だが、床は凄まじく頑丈で、普通の体育館よりも固く、それでいて衝撃を包み込むように抑えるような加工が施されていた。恐らく、並の攻撃や能力をぶつけた程度ではびくともしないだろう。
烏貝先生と俺たち一行は体育館に着き、各々の準備体操をしているところだった。袴からいつの間にジャージに着替えた烏貝先生(ただしトレードマークなのか、仮面はつけたままだ)が、全員を集合させ、話をする場を整える。
「それじゃ、颯君との交流戦、ルール説明と行こうか!その前にゲストがいるぞ!」
そう言って、烏貝先生は手を叩き、そのゲストを呼んだ。
「洲崎先生ー!」
「私も暇じゃないんだけどね……。そんで相変わらず騒々しいよ。そんな大声で言わなくてもいるって」
洲崎先生なる人は一言悪態をついてから俺たちの前に立つ。白衣とボサボサの長い茶髪が印象的な先生だった。よく見ると、あまり寝れてないのか薄く隈が浮いている。その先生は、一度俺を凝視した後、皆を見回し、腰に手を当てて堂々と名乗った。
「あんたら久しぶりだね。そして颯は初めまして。忘れたとは誰にも言わせんが、一応颯のためにも自己紹介をしておこう。私は養護教諭……、いわゆる保健室の先生、洲崎蘭だ。何故か私が診た生徒は意地でも怪我しなくなるんだが……、今日怪我したやつは誠意もって治すから覚悟しろよ」
何故か全員かがひきつった顔で洲崎先生の自己紹介を聞いていた。そのうちの何人かが吐きそうな顔で蹲っている。
そんな生徒たちを薄い笑顔で見つめながら、烏貝先生は指を立てて交流戦の説明をし始めた。
「それじゃ!役者も揃ったことだし、ルール説明と行こう。フィールドは縦25m×横7mのコーンで囲ってあるところだ」
烏貝先生が指差したところには洲崎先生が呼ばれる前に置いていたのであろう、コーンで囲われたフィールドがあった。
説明は続く。
「皆にはここで制限時間一分の鬼ごっこをして貰う。あ、その前に相棒は鬼ごっこの前には相棒二人で颯君に自己紹介すること。教室ではすっ飛ばしちゃったからね。颯君にはハチマキを頭に巻いて貰い、これを相棒二人で破損させれるか奪う、もしくは場外に出せば勝ち。逆に、颯君は一分間逃げきるか、同じように場外に出せば勝ちだよ♪もちろん、それじゃ人数不利だし、颯君もまだ天恵に慣れていない。そこで!この二つが今回の実戦演習のカギになる」
そう言って、烏貝先生は赤いカプセルと青いカプセルを取り出した。
「赤いカプセルが天恵促進剤、青いカプセルが天恵抑制剤だ。颯君には促進剤を、皆には抑制剤を飲んでもらう。あ、もちろん副作用はほとんど出ない物を選んでいるよ」
俺を気遣ってか、先生が最後にそう付け加える。
なるほど、その条件ならば俺でも少しは戦えるかもしれない。なすすべなくボコボコにされるかもだけど。
「皆、ルールは理解したね?何か質問はあるかい?」
「はいはーい!」
「はい!水仙ちゃん!」
緑髪の少女、水仙が手を上げた。一瞬、俺を心配そうに見てから質問を投げ掛ける。
「天恵はどれくらいの強度で放つべきでしょうか?妨害目的とかで颯君が傷付かない程度ですか?」
「一部の天恵はそうするべきだね。洲崎先生がいるとしても、特に碧君や顎斗君、蓮華ちゃんなどの天恵は人を傷付ける可能性がある。そのための抑制剤だけど、TPOは弁えてね。他にはないかな?」
みんなに質問が無いのを確認してから、烏貝先生が開戦を告げる。
「みんな質問がないみたいだから、準備体操の後、鬼ごっこ開始と行こうか!」
かなり更新が遅くなりました。久々のゲニ天です。一つ解説のほどを。
二クラスある、一年生【CAP】のクラスが一つ、A組は颯合わせ20人で構成されています。前には颯のポジションに一人いたのですが、学校の進度と純に追いつけずに中退しています。そこに今回颯が入ったわけですね。あと一人、実はあまり学校に来れない生徒がおり、その相棒である宮野ヤマトというキャラクターが普段は純と一緒に仮の相棒として授業を受けていたのですが、その謎の不登校生徒は後々判明するでしょう。もし気に入ってくださったらブックマークや評価、レビューなどをしてくれると嬉しいです。




