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ゲニウスの天恵~Genius' blessing~  作者: shiki.tea
第一章 新星《ニュービー》~天恵祭編~
3/5

勇気と無謀

 小鳥たちの優しいさえずりが、朝を告げるかのように一畳半いちじょうはんの部屋に響いた。ほのかにあたる、日の光をさえぎるカーテンが、吹き抜ける風に小さく揺れる。その静寂せいじゃくを切り裂くように、俺のスマホに設定した、お気に入りの曲が、アラームを奏でた。

 お気に入りの曲に設定したアラームでも、平日の朝はどうにも起きにくいものだ。

 案の定、起きなきゃという義務感に迫られる気持ちと、今日の学校を休んででも寝ていたいと言う怠惰たいだな感情がせめぎあい、なんとも言えないうめき声が喉をすり抜けた。

「んんぐうぅぅぅぅぅぅー!」

 すると、毎日朝食と弁当を律儀に作ってくれる母、日ノひのみや澄美すみが、上の階の俺の部屋までドタドタと上がってくる。不味まずい、何か策を考えねば。

 待て、さっき頭痛があったよな?今はないが片頭痛へんずつうなどと言って休むのどうだ?いや、今日は雲一つない、絵に描いたような快晴だ。クソ!こんな時にお天道様てんとうさまが気まぐれ発動していやがる!

 では、誇張して風邪を引いたというのはどうだ?これならば、少し過保護な母なら、確実に休ませてくれるだろう。だが、問題は病院に絶対連れてかれるということだ。風邪は一時の偽造でなんとかなるが、あれこれ検査されるのはさすがに嫌だ。何より罪悪感が半端ない。どうすれば……。

 ここまでの思考時間約1秒、結構早い方だと思うが、どうやら時間切れのようだ。母が俺の部屋に到達し、勢い良くドアを開ける。

「起きて!こら、りくー!もう朝よ!朝ごはんも美味しいのできてるわよー!」

「う、うい……」

 笑顔で言いながら、母がバシバシ背中を叩く。ほんとにこの人は人が良すぎる。俺があんな親不孝な事を考えていたと言うのに、眩しいほどの笑顔を見せつけてくるのだ。母には心が見えるから、俺の思惑おもわくはバレているはずなのに。少し申し訳ない感情が俺の心の中を満たした。ごめんよ、母さん……。

 制服への着替えを、超特急で終わらせ、食卓に着く。朝食は普通の食卓で出されるような和食だが、味にただならぬ愛を、痛いほど感じる。

「美味い……」

 思わずそう呟くと母はほがらかに微笑ほほえんだ。

「良かったわ!それじゃあ、お父さんに挨拶して早く学校行ってきなさい」

「うん」

 言いながら俺は仏壇ぶつだんに向かう。

 そこには人を幸せにしそうな笑顔で写っている父、日ノひのみやとおる遺影いえいがある。俺は仏壇の前の畳に近づき、おでこを額縁に当てないようにそっと近づける。

「父さん、学校、行ってきます……」

 目を閉じ、しばらくそうする。母は、それを優しい笑みで見守る。俺は振り返り、母のほうに笑いかけた。

「じゃあ、母さん、行ってきます」

「はい!行ってらっしゃい!真っ直ぐ帰ってくるのよ!」

 その言葉に苦笑しながら、

「もう子供じゃないって!じゃあ!」

 そう言って家のドアを閉めた。


 この世界、イリオスには2035年現在、約60億人の人類が住んでいる。その中に「創造性」の守護神ゲニアスより、人類が授かった『天恵ギフト』と呼ばれる特殊能力を持った人間が存在する。実際俺の母は心を読む能力『心中透過エスパー』を持っている。俺の父も、あらゆる物を解析し、仕組みを理解する『解明イルスデイト』という能力を持っていたが、俺が小学4年生の頃に反逆者トゥリーズン(能力を持ちながら犯罪に手を染めた者達の総称だ)に重症を負わされ、母と俺が見守る中、天国へってしまった。俺、日ノひのみやりくは公立八尾島学園に今年入学した、ピチピチの高校1年生である。能力は両親が持っていても遺伝でそのまま伝わる訳ではないらしい。俺は全くの無能力者だ。まあ、父の研究では、能力者は4割程度であると記載されているから、ただ単純に運が悪かったのだろう。

 9月中旬、そろそろ学校のほうにも多少慣れ、友達もぼちぼち出来始めた。能力者の多くは所謂いわゆる勝ち組なので大抵は専用の育成機関である世界に六校しかないギフテッドスクールに通う。だが俺は無能力者。負け組は大人しく普通の学校に通うのが筋だ。仕方のないことなのだが、どうせなら母や、父のような能力者になって、一度でいいからギフテッドスクールに通ってみたかった。だが、別に今の高校生活に特段不満はない。普通に就職して、普通の人生を終えるのも平穏そうで、それはそれで良いかもしれない。

 と、学校に着いたようだ。俺は正門前に立っている、短髪でスポーティーな見た目の、同じ女子高生に挨拶する。

「生徒会長、おはようございます」

「あ!日ノ宮君!おはよう!今日も変わらず元気そうで何よりだよ!」

 うちの学校で生徒会長をやっている、3年生の早瀬はやせ美波みなみ先輩。いつも皆のために動いてくれる頼れる先輩だ。

「おかげさまで」

「それは良かった!……その、実はね?」

 言いながら生徒会長はばつの悪そうな顔を浮かべ、俺の耳に顔を近づける。

「えっと……毎度、毎度申し訳ないんだけど、またバスケ部のほうでエースが怪我しちゃって出れないみたいで。その、練習のほうから……日ノ宮君、今回も頼めるかな?」

 俺は高校生の中でも一際運動神経が良い……らしい。中学の頃から他の教科の評定平均が3と普通なのに対し、体育だけ一貫して5と最高評価であり、この記録は未だ下がったことはない。俺は特にやりたいスポーツなどないため帰宅部なのだが、それを運動部が黙っている訳もなく、こうして定期的に助っ人を頼まれる。俺も人のお願いを断れるような性格ではないので毎回それに応じているのだが。

「大丈夫ですよ、会長。元より断るつもりはありませんし」

 まあ、会長の顔がいつもずるいのも理由なのだが。

 あんた分かっててやってるだろ、絶対。

「任しといてください。とりあえず今日の練習から入ればいいんですね?」

「うん!日ノ宮君、ありがとう!頼んだよ?」

 快活に笑った後に、生徒会長は悪戯いたずらっぽく目を細め、微笑む。そして、そのまま校内に入っていった。

 俺は気付いている、俺の後ろに、にやけながら近づいて来る親友の存在を。

「日ノ宮ぁ~?」

「……なんだよ、花崎かざき

 こいつは花崎かざきはる。女みたいな名前だが、ちゃんとした男だ。なんだったら俺よりでかい。

「お前、今可愛いと思ったよな?生徒会長のこと」

「思ってない」

「嘘だぁ。絶対可愛いと思ったって!」

「うるせぇ!思ってねぇってんだ!」

 くそ、茶化ちゃかしやがって。俺は負けてなんかない。可愛いなんて思ってない。思ってねぇんだ。

「わりぃ、わりぃ、冗談だよ。さ、早く教室入らねぇと遅刻すんぞ」

「あ、そうじゃん、早く行かねぇと」

 今日も昨日と変わらない日常が来ると、そして、これからもずっと繰り返すのだと、そう思っていた。

 あの時までは……


 バスケ部との練習を終え、俺は学校から帰ろうとしていた。練習と言っても試合前なのでだいぶ短く、試合でやらなければいけない動きの確認と、あとは自主練だった。俺としては試合前にもっと動いて体を慣らしたかったのだが、走るくらいなら家の周りでできる。早く帰れただけ良しとしよう。それに!今日は新作のゲームを街中央に位置する大きなショッピングモールで買いたかったのだ。丁度良い。

 家に帰り、私服に着替え、足早にシッピングモールに向かう。三階にあるゲームコーナーまでを階段で一気に上り、早速、その新作のゲームを探す。

「ええっと、どこだ、どこだぁ……」

 様々なゲームが並ぶ棚を見逃さないように丁寧に探す。

「お!あった!これこれ」

 ゲームの題名はアーマード·ウォー10。最近流行ってるシリーズ物のTPSだ。自分専用の機体を作り、敵と戦うようなゲームシステムで、武器の組み合わせや機体のパーツによる細かな仕様を考えて機体を作らなければ勝てないよう、難易度が設定されており、奥深さがあってとても面白い。俺はこのゲームの5シリーズ目の頃からやっているが、毎回新しい敵や武器、マップなどが追加されているのでやっていて飽きない。

 棚に置いてある一つを買い、俺はほくほく顔で店を出た。

「さーて、目的の物も買えたし!今日は帰ってゲーム三昧だな!あ、そうだ、折角だし母さんになんか買って帰るか」

 ご機嫌な俺は近くのスーパーで何か母のために買ってあげようと思い、出口がある広場に向かおうとする。

(何買ってあげようかな~。母さん、バームクーヘン好きだし、3つ入りのやつ買ったら喜ぶかな?)

 想像をふくらませながらエレベーターを降りて足を二歩、三歩と進める。


 瞬間、爆音がとどろき、爆風が俺の体に激しくぶつかる。

「う、うわぁぁぁ!!」

 俺は爆風に耐えかねて後ろに吹き飛ばされてしまう。頭を打ちつけたのか、脳震盪のうしんとうが俺を襲った。ぐわぁんぐわぁんとやかましく響く耳鳴りの中、人々の悲鳴と逃げろという声だけがかろうじて耳に伝わる。

(くっ、一体なんだってんだ!何が起きたんだよ!?)

 土埃つちぼこりが少し晴れ、爆音の正体が徐々にその姿を見せる。

 全身真っ黒のうろこまとった体。犬歯は鋭くとがり、不気味なことに、目は3ついで合計6つもある。俺はその見た目に見覚えがあった。

「ぷ、捕食者プレデター!?」

 捕食者プレデター。能力者の犯罪者集団、反逆者トゥリーズンたちが、現存する生物たちを改造し作った生物兵器だ。なんでも、人間の能力者程ではないが、個々の生物兵器に能力が備わっており、操れるらしい。テレビや海外の新聞に載っている写真などでしか見たことがなく、こんなの居るのか?と他の国々に比べて、比較的治安の良い扶桑ふよう育ちの俺は、存在自体を疑っていた程だった。

 そしてその凶悪な生物兵器が今、自分の目の前に居る。いざ、合間見あいまえると恐怖が体全体を満たし、今すぐにでも逃げたくなる。俺は恐怖のあまり、その場に尻もちをついてしまった。そんな俺を嘲笑あざわらうように甲高かんだかい女の狂笑きょうしょうが響いた。

「ふふふふふ、ははははは!!不幸なお買い物中の皆様?ご機嫌(うるわ)しゅう。私は女郎蜘蛛じょろうぐもというものでございます。残念だけれど、皆様には人質になってほしいのです。あぁ、逃げるのはおめになって。私の横にいる、この可愛い『トカゲちゃん』が皆様を食べてしまいますから」

 捕食者プレデターがいるということは、操っている反逆者トゥリーズンたちも、当然、側にいるということだ。トカゲ型の捕食者プレデターの横に控えていた、サイズの合っていない、ブカブカの着物を着た少女が、捕食者プレデターのことをいとおしそうにでた。

 そしてキーン、と不愉快ふゆかいなモスキート音が鳴り響き、俺と周囲の人達の体が忽然こつぜんと動かなくなる。

(くそ、められた!)

 ショピングモールの出口は駐車場を除けば、一つだけ。駐車場もシャッターやこいつらの仲間が塞いでいるだろう。非常出口はあるだろうが、それで逃げられるようなら、こんな大規模なテロやらない。完全に退路を塞がれた。

(何か……!何か糸口はないのか……!?)

「ママぁ?ママどこぉ……?」

 すると、親と離れた様子の、今にも泣きそうな小さな女の子が、脇の通路から出てきた。

 突然の部外者を、反逆者たちが許す訳もなく、ボスらしき少女が、目に見えて顔をしかめる。

「う~ん?小さなお嬢様?私はさっき動かないでおっしゃりませんでした?約束を破ってもらうと困るのですけ……」

「あ、あの、お母さん知りませんか?」

 女郎蜘蛛の言葉を無視し、女の子が半泣きで聞く。すると女郎蜘蛛の額に、目に見えるほど青筋が立ち、体がプルプル震える。

「……人の話は最後まで聞いて欲しいですね。私だってこんな状況に陥らなければこんなことをしたくないのですよ?それとも今すぐにでも……われたいのでして?」

 一連の様子をヒヤヒヤして見ていた俺はさすがに不味いと思い、体を無理矢理動かそうとする。

(畜生ちくしょう!動かねぇ!何を本気でキレてんだあいつは!相手はまだ子供だぞ!?)

「死にたいのであれば、その願いを叶えてあげますわ……」

 女郎蜘蛛は青筋の立った顔のまま怪しげにわらい、捕食者プレデターを見上げる。

「私の可愛い捕食者プレデター!この哀れな幼子おさなごを喰らっても良いですよ!」

(なっ!?やりやがったあいつ!)

 ―今俺が動かなきゃ誰が動くんだ!俺はその一心でもう一度体を動かそうとする。

「動……けェェ!」

『            』

 一瞬声が聞こえた気がした。すると、突然体が軽くなり、金縛りが解除される。何が起きたか分からないが取り敢えずは“コレ”に身を任せるしかない!

「?!あの殿方とのがた、どうやって金縛りを解いて……」

 少女の理解が追い付かないうちに俺は滑り込み、女の子を抱き抱える。

「大丈夫か!?」

「う、うん……」

「俺の後ろに隠れて!できれば逃げな!」

「でもママが……」

「大丈夫!ママは後で来る!親はいつだって子を助けに来てくれるからな!」

 俺はニカッ!と笑って女の子を安心させ、体の後ろに隠す。

「どういうつもりですの?第一、金縛りをどうやって解いたのでしょう」

「俺もよくわかんねぇけど、なんか動いた!」

「は?」

 女郎蜘蛛は一瞬、なにを言っているのか分からないという顔をしたが、理解を諦めてため息をついた。

「はあぁ……。まあいいですわ。そろそろあの厄介者が来る頃合いでしょう。それまでに鎮圧ちんあつすれば良いこと。簡単な仕事ですわ」

 どうやらこの反逆者の集団は、何かに追われているようだった。一刻も早くここの客たちを人質に取りたいようだ。

捕食者プレデター!ターゲット変更ですわ!あの殿方を喰らってしまわれて!」

 もう一度少女が捕食者に指示を出し、俺のほうに向かってくる。

『ガァァァァァァァァ!』

 俺は軽々と横に飛び退き、捕食者の攻撃を避ける。

「ふふん。そんな簡単に避けさせる訳がないでしょう?〔止まりなさい!〕」

 怒号が体を貫く。どうやらこの金縛りの奇術は、音ならなんでもよいのだろう。再度俺の体が金縛りに掛かったかのように動かなくなり空中で固まる。そして、捕食者が俺のほうに向き直り、大口を開けて突っ込んでくる……!

(やっ……べぇ!)

 どうにかしようと俺は辛うじて動く左手を突き出す。

 そして、その突き出した左手から、衝撃が打ち出された。今にも喰いかかりそうだった捕食者の顔がひしゃげ、壁に激突する。

「?!がっ!いってぇ……」

 俺は何だか分からないまま、受け身も取れず床にぶつかり、痛みに腰をさすった。

「な、なんですの?今のは……。まさか天恵ギフト持ちですの?」

 女郎蜘蛛は困惑していたようだが、すぐに冷静になる。

「ふ、ふん。なれば私の最終手段を使えばいいこと。時間がないのです。切り札のつもりでしたが、どうやら出すしかないようですね」

「で、ですが女郎蜘蛛じょろうぐも様。ここで使えば後の戦闘が……」

「構いません。後に向けて温存するよりも、不確定要素である、この殿方を早々に片付けて、人質を取るのが先決ですわ。でないと無事では帰れませんわ……」

 言いながら少女は懐から毒々しい見た目の液体が入ったカプセルを取り出し、それを床に打ち付けて割る。

顕現けんげん!コブラ!!全て蹴散らして仕舞われて!!」

 床にぶち撒かれたドロドロの液体が女郎蜘蛛の足元で膨張ぼうちょうし、巨大なコブラのような姿の捕食者を顕現させる。いつの間にかそのコブラの頭に乗っていた女郎蜘蛛が真上から俺を見下ろす。

「ごめんなさい、時間がないのですわ。お遊びはここらで終いとしましょう」

(ちょっと不味いかもな……!)

 俺はさっきの捕食者と比べ物にならない覇気はきを漂わせるコブラを見て、さすがに死の危険を感じていた。さっき突発的に出てきたあの力がもう一度出るかも分からない。そして、それが使えたとしても勝てる見込みがないこの勝負で、生き残れるのか微妙なところだった。

 だが、この絶望的な状況は突如として崩れる。

 金棒が降ってきたのだ。俺と女郎蜘蛛の間に勢い良く降ってきて床に亀裂を作る。

「オイオイ、私らが来る前に既にお楽しみのようじゃねえか。なあ?反逆者さんよぉ?」

 金棒が降ってきたところに、制服姿の野生味漂う強気な女子高生が降りてくる。その姿を見て女郎蜘蛛が舌打ちする。どうやらこの女子高生が反逆者たちを追ってきていた人達の一人らしい。

「チッ、来てしまわれましたか」

 制服を見て俺は驚愕きょうがくした。なぜならその制服を着れるのは……

「ギフテッドスクールの天恵者ギフター……!!」

 ギフテッドスクールからの援軍である女子高生は、後ろを振り向いて仲間がいるであろう場所に声をかける。

鬼道きどう!私が大将落とすからあんたは周りの取り巻きを抑えな!あつし!このバカを安全な場所に避難させな!」

「了解だ、赤荻あかぎあねさん」

「了解」

 鬼道、純と呼ばれた二人はそれぞれ言われた通りに動く。不意に、赤荻と言う女子高生が俺のほうに振り向き、一言こう言った。

「勇気と無謀は違う。飛び出したあんたは端から見りゃあ無謀だったかもしれねえが、小さな女の子を助け、このフロアの人達を私らが来るまで守り切ったあんたの勇気は称賛するよ」

「……!!ありがとうございます」

「こっちだ。歩けるな?ここに居ては巻き添えを食らう。すみに行くぞ」

「お、おう……」

 純が颯を連れていくのを見て、赤荻は安心したように隣の鬼道に話しかける。

「2分だ、鬼道、2分でここの奴ら全員黙らせるよ」

「だいぶきつい条件だな姐さん……。まあ期待に応えられるよう頑張るよ」

「何言ってんだ、お前も充分強いだろうに」

「……雑談は終わりですの?天恵者ギフター様」

 どうやら女郎蜘蛛は赤荻たちの様子をうかがって待っていたようだ。コブラの上で、髪をいじって待っていた。

「おう!じゃあ始めるか!まあ、一方的な戦闘になると思うけどな……」

 赤荻は獰猛どうもうな微笑みを浮かべ、瓢箪ひょうたんをどこからか取り出す。

「何を寝言をほざいていらっしゃって?勝つのはもちろん私です。貴方あなた様などひねり潰してくれます……!」

 女郎蜘蛛は獲物を狩る時の毒蜘蛛どくぐものように、目を細め、狙いを定める。そのまま重い沈黙が続く。

 沈黙を破ったのは赤荻だった。瓢箪の中の酒を少しばかり飲み、金棒を顕現させる。

 そして、消えた。

(?!どこへ消えましたの?)

 赤荻がコブラの真横に現れる。そのまま金棒を振り抜き、コブラの頭を床に叩きつける。コブラの頭に乗っていた女郎蜘蛛は飛び退き、ピクリとも動かなくなった相方の側に着地した。

(そんな!私が所有している捕食者の中でトップの強さを誇る個体なのに!?気配にも気付けずに一瞬で倒されるなんて、あり得ない!)

「あぁ、そういやぁ、さっき戦った時は言ってなかったな」

「!!」

 口を開けて驚愕した様子の女郎蜘蛛に、赤荻は金棒を叩き割りながら話しかける。

「私はこの扶桑のギフテッドスクールの生徒の中で、一番強いんだよ。それこそ、六聖帝の一人でらせられる妖狐の稲荷様と、10分は遊べるくらいな」

 もう一度酒をグビッと一気飲みし、最早恐怖で震えるだけになった女郎蜘蛛につかつかと歩み寄る。

「私の天恵は【鬼 タイプ:酒呑鬼さけのみおに】。数ある天恵者ギフターの学生たちの中でもトップに君臨する生徒だ」

「そ、そんな天恵者がなぜこんなところに居るんですの!?こんなの聞いておりません!!」

「ん?まあ成り行きだな。丁度パトロール中だったし」

 言い終わらないうちに赤荻はもう女郎蜘蛛の間合いに入り、目の前に立っている。

「や、やめ……!わ、私は反逆者トゥリーズンの一大組織『アポフィス』の幹部直属の部下です!私を捕まえたらぬえ様が黙っていません!いいんですか!!?」

 その言葉に赤荻は頭を一つ、ボリボリと乱暴にいて、ニヤァ、と性根しょうねの悪い笑みを浮かべた。

「心底どうでもいいね、そんなん」

 赤荻は裏拳で女郎蜘蛛のこめかみ付近を殴り、一瞬にして意識を奪う。赤荻は女郎蜘蛛を縄で縛った後、その可憐かれんで美しい体を傷付けたくなかったのか、縄を解いて、そのまま抱え、思い出したように鬼道に向かって声を張る。

「おい鬼道!そっちも終わっただろうな!?」

「ああ姐さん!こっちも全員縛ったぞ!」

 見ると鬼道の目の前で反逆者トゥリーズンが縛られ、山のように積み上げられていた。その様子に赤荻は快活に笑った。

 こうして、アポフィス所属の反逆者トゥリーズンが起こした無差別テロはたった二人の天恵者ギフターの学生によって鎮圧されたのだった。

「皆さーん!もうここは安全ですよー!後は警察と私たちギフテッドスクールの者が片付けますので速やかにお帰りくださーい!」

 鬼道が固まっていた人達にそう告げ、人々は、口々に感謝を、赤荻たちギフテッドスクールの学生に言いながら帰っていく。

「助けてくれてありがとうございました!この恩は絶対忘れません!じゃあ、俺もすぐに帰りますね」

 俺も赤荻たちにそう言って帰るつもりだった。この話を後で母に話そうと思いながら。しかし、赤荻に肩を掴まれ、歩みを止められる。

「あぁ、待った。悪いけど君はまだここに居てくれ。稲荷様がお前に会いたいと言っていてな……。少し時間をくれないか?」

「……へ?」

 ここから俺の激動の毎日が始まるとは、この時の俺は微塵みじんも思っていなかっただろう。

 これは無能力者だった俺、日ノ宮颯とその相棒バディが躍動する物語。その一頁ページに過ぎない。

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