謁見 『我、汝二力ヲ授ケル者ナリ』
青年は夢の中を揺蕩っていた。泳ぐ暗黒の雲の中で、遠い、昔の風景が、鮮やかに、或いは朧気に目に映った。
『では、行ってくるよ。颯、良い子で待っているんだぞ』
『おとーさん!おとーさん!もう行っちゃうの?仕事?』
『あぁ、颯が大好きな、ウィンドの手伝いだよ』
『わぁ……。やっぱりおとーさん、すげぇや!あんな強い天恵者と一緒に仕事してるなんて、本当に信じらんないよ!!』
なんの記憶だろう?
青年はそう、ふと思う。いつの記憶かと遡る間に、夢は知らず泳ぎ続ける。
『貴方、本当にやるの?』
『颯の幸せの為だ。やるしかない』
『でも貴方、颯は貴方に憧れているのよ?その可能性を潰すのは残酷なんじゃ……』
『何度も言わせないでくれ、澄美。これはそれ以前の問題なんだ。絶対に、颯には不幸になってほしくない』
世界が突然輝き、白む。再び闇に戻った時、青年は病院にいた。
『おとーさん!おとーさん!!なんで、なんで……』
『どうしてこんなことに……』
『ごめんな、颯、澄美……。父さん、駄目そう、だ』
『居なくならないでよ!嫌だよ……!おとーさんが居ない世界なんて、そんなの嫌だよ!』
『颯。聞き、なさい。弱い、人を守るんだよ。父さんや母さんのように、能力者になれなく、ても、助けてを求めている、人を助け、るんだ。カッコいい人間になるんだよ……』
『おとーさん!おとーさんっ!!』
あぁ、これは幼い頃の記憶だ。ずっと昔の。
青年はふと、そう思った。懐かしさと悲しさ。色々な感情が溢れ、目を閉じる。もう少し、夢に浸っていたいと思えた。
そして、まだ浮かんでいる頭に、声が唐突に響く。
『起キテ。モウ目覚メル時間ノ筈ダヨ』
五月蝿い、まだ俺は寝ていたい。
青年は顔をしかめて、身を捩った。この暗い空間には「奴」と青年しかいない。どんな抵抗をしても、逃げることはできない。
『僕ハ君二力ヲ授ケタノニ、君ハ何モクレナイノ?』
「奴」はまた、青年に話しかけてきた。だが、口を開こうとしても、一向に口は開かない。
そんな青年の様子に、返事が出来ないと思ったのか、「奴」は構わず続ける。
『私、知ッテル。如何ナル物ニモ、手二入レタナラ、何カ払ワナキャ、ダメ。代価ガ、必要』
そんなの、どうやって払えばいいか、分からないよ。
青年はやっとの思いで口を開く。対して「奴」は残念そうに、見えない顔を俯かせた。
『ソウカ、分カラナイナラ、仕方ナイ。俺ハ君ガ分カルマデ待トウ。ダガ……』
『デモ、コレダケハ覚エテオイテ』
『我、汝二力ヲ授ケル者ナリ』
『我ガ名ハ◇◇、汝ヲ助ケル者ナリ』
『イズレ、マタ会ウダロウ』
『ソノ時マデ……少シノ間、サヨナラダ』
記憶が薄れる。覚えていなきゃいけないと思った。だんだん明るくなる。見えなくなる。青年は、どうしようもなくて、声が、――声を……!
「待って!まだ俺は君を……!」
消える、消えた。
そこで青年の「キオク」が、完全に途切れた。
朝が来る。
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