第07話くん
いつだってありのままを受け入れるってのは難しいことだよね。
それが自分の価値観をめちゃくちゃにするものなら、なおさらのこと。
「ゼペット、おまえ話せるのか?」
ぼくはかすれた声でそれだけ言うのがやっとだった。
思い出すと自分のことながら、ふきだしそうになるほどおびえた声を出したもんだよ。まったく。
「いいから質問に答えろよ、ヒーローになりたいのかなりたくないのか、どっちだ」
目の前でゼペットのもじゃもじゃの口元がもふもふ動く。子供向けの人形劇に出てくるぬいぐるみみたいに見えたよ。
実際はもっとたちが悪いのだけどね。なにせ息が臭いしさ。
「わかんないよ」
とりあえず足が痛いし息苦しいし、まともな思考なんてできやしない。
でもぼくは、こんなことになりながらもリチギに質問に答えたんだ。これってちょっとおもしろいよね。
「じゃあ質問を変える。困った人を助けたいか?」
長い毛の奥で、ゼペットの目がきらりと光った気がした。
そんなのは考えるまでもない。ずるい質問だよ。
「ああ、できることならね。でもその前に自分を救出したい。できることならでいいけど」
その言葉を聞いて、ゼペットはようやくのそのそとどいてくれた。
ふう、やっと呼吸ができる。
ぜえはあ。
でも、こんなのはキョーカツって言うんじゃないかと思ったよ。
これでは裁判じゃショーコにはならないぞ。トキシゲ被告は自白を強制されたのだ。フトーな尋問だ。
ぼくに罪は無い。無罪だ、無罪をシュチョーするぞ。
なんてことをやいのやいの考えながら、ぼくはもぞもぞカーテンのまゆから這い出した。
混乱した脳みそってのは、ろくでもないことを考えだすね。
やれやれ。
まったくもって、まともじゃない。不思議の国のアリスみたいだ。
次はあのドアから懐中時計を持ったウサギでも、ぱたぱた走って出てくるんじゃないかと思ったよ。
ぼくがひいひい自己救助をしているあいだ、ゼペットはこぼれたビールをぺろぺろ舐めていた。
のんきなもんだ。
ああ、思ったとおりスネがぼっこり腫れてる。こりゃ時間が経ったらもっと腫れて真っ青になるなあ。
いてて。
「やっぱり、トキシゲが一番『それっぽい』よな」
げふっ。
「おれの目に狂いはねえなあ」
げふっ。
ゼペット、顔が近いよ。わずか5センチの距離だ。いつの間に近づいたのさ。
ドッグフード臭にビール臭が混ざって、鼻が曲がりそうだよ。
「さあ、『アイコン』をタップしろ」




