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第56話くん

結論から言えば、ぼくの勘違いだったんだ。

リーダーの男は、イーマのロープを切っただけだった。


あれ?

テンチョーも縛られてたよね?

なんでピンキーボールを投げれたの?

そう思うよね。

実はオカマにとっちゃ、あのくらいの束縛はなんともないらしい。鼻を膨らませて、目いっぱい自慢されたよ。

縄抜けもできるなんて、たちが悪いよ。大きな声ではいえないけど、ちょっと気持ち悪い。

考えてもみてよ。

ぐるぐるに縛っても、くねくねっと地べたをはいずり回って縄抜けしてくるオカマだよ?

勘弁してほしいね。


ぼくは頭がひざにくっつくほど体を折り曲げて謝った。


すいませんでしたっ。


男の人はきさくに笑いながら、あんたらすごいヤツラだなって驚いてた。

返す言葉もないです。ほんとすいません。テントも直しますので。はい。


男の名は、ノマド。

誇り高き騎馬民族のリーダーなんだって。

笑うと、よく日焼けした肌に真っ白い歯がまぶしく光る。

思ってたより、悪い人じゃなさそうだったよ。いくぶん負い目を感じてたせいかもしれないけど、そう思った。

縛り上げ、無理に連行して悪かったって謝ってくれたし。みんなの手前、仕方なかったんだって。

それに、大暴れしたぼくを、ノマドは正式な客として迎え入れてくれたんだ。


どもども、キョーシュクです。


一番大きなテントの中、ぼくたちは火を囲むように座る。

彼はヒツジの乳から作ったというお酒を振舞ってくれた。

白くにごったその飲み物は少しすっぱくて、のどを通ると甘みを感じた。そして独特の乳臭さがあったよ。

なかなか悪くない。飲み過ぎないようにしなくちゃ。

テンチョーはちょっと口をつけただけで、二度と杯に手を伸ばさなかった。

露骨にしかめっ面をしてる。

ロコツすぎる。これこれ、シツレイだよ。


「まずいか?」


眉間にしわを寄せ、オカマの顔を覗き込む。

ほら、気を悪くした。そらみろ。


「まずいわよぉおう。飲めたもんじゃないわぁあ」


「実はおれもあんまり好きじゃないんだ、ははは」


ノマドはゆかいそうに笑う。テンチョーも調子に乗ってそうよぉうと、彼の肩をバシバシ叩く。

イーマからもくすくす笑顔がこぼれた。目が少しとろんとしてる。

もう酔ったの?

ぼくは少しだけ、仲間はずれになった気がして、やけ酒をあおった。


ぐびっ。


やいのやいのとやってるうち、じゅうじゅうとよく焼けたお肉が運びこまれたよ。

部屋の中が香ばしい香りでいっぱいになる。

ぼくは知っている。

こういう暮らしをしている人々にとって、家畜の肉がどんなに貴重で、どんなにゴチソウかってことを。

ノマドが目を閉じ、祈りの言葉をつぶやく。

イーマも必死になにかにお祈りしてた。

ぼくも感謝をささげた。

ありがとう。


「さあ、食おうぜ」


そういうノマドの手にはもう、骨付き肉が握られていた。

なんかずいぶん、最初の印象と違う人みたいだなあ。


宴は続き、五回目の乾杯。

イーマはもう飲まないほうがいい。そう思って止めようとしたとき。


「なんで、女なんか追っかけてたのよぉう」


手をアブラでべとべとにして、オカマがたずねた。


「それはなあ・・・」


彼が話してくれたのは、この地方の歴史の一部だった。



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また来てねー。


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