第53話くん
ぱからっぱからっ。
土煙とともに、一頭の馬が駆けてきた。
ぼくらが来た方から、ぼくらが進む方へと。
空を飛ぶように走る栗色の馬は、あっという間にささやかなピクニックを追い抜かしていった。
「なんでしょうね、今の」
イーマがいぶかしがるのも、無理は無いよ。
見間違いじゃなけりゃ、少女が必死に手綱を握ってたんだ。
通り過ぎる瞬間、ちらりと目があったからたぶん、そうだと思う。
うーん。
なんだろね。
「トキシゲちゃああん、出番っぽいわよぉお」
遠くを見るテンチョーの視線の先には、さっきよりも大きい土煙があった。どどどっどどどっ。
えーと、1、2、3。
5頭くらいかな。
黒い馬に乗った集団が、ムチを入れ、全速力でやってきてるんだ。
のどかを絵に描いたようなぼく達を見つけたのか、馬群は手綱を緩め、速度を落とした。
とっとっと。どうどう。
ひひん、ぶるるっ。
「そこのものっ。女を見なかったかっ?」
先頭の男が馬上からぼくに質問を浴びせた。
なんだい。えーらそうに。
あとに続いた馬の上にも、けわしい目つきの男たちが乗っていた。
みんな細身なのは、馬に乗るからなんだろね。
それぞれが腰に布を巻き、曲がった刀を下げている。
「見てませんっ!」
ぼくが答える前に、イーマ・ジェムが声を発した。
立ち上がり、キゼンとした表情で威圧的な視線をはねかえしている。
わわ。
いつになく強気だね。
「そうよぉ。馬に乗った女なんて見てないわよぉ」
オカマがミスを犯しちまった。
やってくれるよ。
「なぜ馬に乗っているのを知っているのだっ!」
うん、やっぱりそうなるさ。
男たちの目には、ただでさえ怪しいオカマが、いっそう謎の生物として映ったことだろうね。
「し、知らないわよぉおう」
いまさら取り繕っても、ダメみたいだよ。
鮮やかな手つきで馬を操り、あっという間にぼくらは取り囲まれちまった。
リーダー格のやつが腰に手をやり、ぼくを見下ろす。
「なにを見た。答えろ」
ぼくの答えは決まってる。
「なにも見てません」
緊迫の空気。沈黙。
「捕らえろ」
指令は短く、的確だった。
武装した男たちの手によって、ぼくらはぐるぐる巻きにされちまった。
ちょっとぉ、どこさわってんのよぉ。
わふっ。わふっ。
ぼくはまだ、救うべきものを見つけられずにいた。
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