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第13話くん

塔の中はほんのりと明るく、内壁に沿って螺旋階段がぐるぐる続いていた。


点々とある明り取りの窓からすっと光が射していて、串刺しマジックの箱の中身みたいだったよ。

太陽は一つなはずなのに、いろんな角度から光が届いてる。なんでだろ?


じいっと下を見つめてたら、底までの距離感がよくわからなくてめまいがした。

ずいぶん高いところにいるみたいだなあ。


石ころを落としてみたくなったけど、もしかして下に人が居たりしたらかなりまずいことになりそうだから、よしとくことにした。

「ついついうっかり」で大変な目にあうのはこりごりだよ。これはぼくの人生観に深く根付いているんだ。


えっへん。


ぼくが物珍しげにきょろきょろしてるうちに、ゼペットくんはちゃかちゃか階段を下りちまってた。

わお。待ってよ。



ちゃちゃちゃ、ぺたんぺたん。



犬の足音と人の足音がやけに反響する。お風呂場みたいだ。


階段をぐるりと1周するたびに、よどんだカビの臭いが強くなっていた。

もうけっこう下りてきた気がする。ゼペットもだらしなく舌をぶらさげて、はあはあ荒い息をしている。

いつ狭い足場からこの老犬がつっ転んで落っこちないか、こっちがひやひやしちゃったよ。

ああ、でも、ゼペットは飛べるんだっけ。なんてことを考えながら機械的に足を交互に出していた。

段々とぼくは集中力や注意力を持続できなくなっていたんだ。


最初は階段がそっくり抜け落ちてやしないか、なにかがひょっこり出てきやしないかと気になって、おっかなびっくり進んでいたのだけど、拍子抜けするほど延々と階段が続くばかりでなんだか面倒になったんだよ。

ただ右手を壁に這わせて足を交互に出す。たまに窓から外を見て高さを測ってみるけど、霞がかかったようでなんだかよくわからない。

さっきから、ずうっと、それだけ。

ああ、そうだ。


「なあゼペット、飛べるんだったらさ、この吹き抜けを飛び降りちゃえばいいんじゃない?ぴゅーんとさ」


返事は無い。


「じゃあさ。パラシュートみたいなの持ってきてたりしないよね?」


ううううと低いうなり声が聞こえてきたから、ぼくはそれ以上提案を押し通すことはできなかったよ。プレゼン失敗だ。


ううむ。ひどいや。


そりゃあいろんな事情がありそうだけど、ぼくだってTシャツにスウェットってラフなスタイルでこんなとこ連れてこられて、おまけに裸足だ。

目覚めのコーヒーだって飲んでないし、いつからか覚えてないけどろくにご飯も食べてない。ぶつぶつ。

ぶつけた足の痛みより、石畳を素足で踏みしめる痛みの方が耐えられなくなってきた。


はあ。


ぼくはめったにつかないため息を漏らしてしまった。それは思ってた以上に大きいため息だった。

うわんうわんと音が反響して、ため息の山彦がぼくを責めたてた。こりゃいかん。よけい気が滅入ってしまったよ。


やれやれ。

とほほ。


からからから。

がらんぐぅわらん。

不吉な音が聞こえる。


・・・!!!


っわああああ!


ぼくのすぐ横をゼペットほどもある大きな石が落ちていった。

それを合図にしたかのように、後から後からとめどなく大小様々な石が降ってくる。

見上げると、階段が次々に崩落しているんだよ。がらがらぼかーんってな具合にね。

その崩落の連鎖はどんどんぼく達の居る足場に近づいている!

ぼくとゼペットは顔を見合わせた。


こりゃ逃げろ!

すたこらさっさ!


3段飛ばしで駆け下りるぼく達に迫る勢いで、螺旋階段は崩れ落ちていく。

大量の落下物をかわしながら転がるようにして出口を目指す。

後ろなんか見てられなかったよ。

荒い呼吸と上下に激しく揺れる視界。

ぜえぜえ。

のどが焼けるように熱い。

はあはあ。


でも、結果を言えばぼく達は間に合わなかったんだ。


音を立てて崩れる足場。

支えを失った体が、重力に捕まり、落ちていく。


うああぁぁぁー。


《テンプレ『塔は崩れる』・・・達成》

《シンクロ率・・・微増》


たった数時間でレール無しフリーフォールを2回も体験した人なんて、ぼくは聞いたことないよ。

ねえ、きみはどうだい?

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