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第10話くん

・・・ぼくの耳元でうるさくアラームが鳴っている。


びゅうびゅうびゅうう。


母さんがまた、ろくでもない目覚ましを買ってきたんだな。

まったく母親の選ぶものって、どうしてこう厄介なのばかりなんだろ。

不思議なバックプリントのTシャツやら、どこで買ってきたんだかわからない置物やら。

しかも本人はわけがわからない理由でそれを気に入ってたりするから、余計に始末が悪いよ。

捨てちゃおうと思うと、「あれ、どこやったの?」なんて聞いてくるんだ。ぶつぶつ。


ええと、とにかくコーヒー飲もうっと。


重いまぶたを無理やり開けると、雲ひとつ無いきれいな青空が見えた。それと白い毛のかたまり。

びゅうびゅううるさいのは風を切る音だったんだ。

ああ、なんてこった。

ぼくは昨日からのとんでもない状況をいっぺんに思い出したよ。


うん。


やあやあ、ゼペット。今日も元気に飛んでるね。


ぼくは一応、手を伸ばして毛の茂みの中にコーヒーが無いか探してみたけど、やっぱり無かったよ。

空飛ぶ犬なら背中に飲み物くらい隠してても不思議じゃないのにね。

やあ、残念。


「トキシゲ、起きたのか?」


「うん、おはようゼペット」


ゼペットはわふと小さく返事をした。

よかった。すっかりへんてこになっちまったけど、ぼくの愛犬に間違いなさそうだ。


「ええと、目覚めのコーヒーなんて無いよね?1杯だけでいいんだけどさ」


いつも寝起きにがぶがぶ飲むのが習慣なぼくにしたら、一晩中空を飛んでたゼペットにかなり気を使った発言だったんだよ。これでもさ。

空を飛ぶのがどのくらい疲れるのかは、よく知らないけど。


「迎えが来たぞ、そろそろだな」


やれやれ、ぼくの話はまるで聞いちゃくれないんだね。

マイペースというか、なんというか。

ほんとにぼくの愛犬に間違いなさそうだよ。


今日はじめての諦めを感じてゼペットの視線を追うと、遠くにぽつんと小さな点が見えたよ。

そうかそうか、雲ひとつ無い青空と思ったのは雲の上を飛んでるからだ。ふむふむ。いやあ、なるほど。

ぼくは窓越しじゃないそのキレイな景色に、しばらく見とれてしまった。

雲海の少し上を滑るようにして飛ぶゼペットに、その点は少しづつ近づいてきた。


最初に色。

なんだか赤っぽいみたい。

それから段々と輪郭がはっきりしてきた。

翼を力強く羽ばたいてる。

でも、鳥じゃない。大きすぎる。

あれは・・・。


『ドラゴン』だ。



《ロール『ヒーロー』とロール『ラスボス』の接触・・・確認》

《ワールド『イマジニア』干渉開始・・・中断》

《ロール『ラスボス』に深刻なエラーが発生しました》



見る見るうちに近づいてきたその『竜』はくるりとその巨体をひるがえし、ゼペットと並んで飛行した。


鈍く金属質に光る赤いうろこ。

薄い皮膜のように見える翼。

丸太のように太い脚の先には鋭いカギ爪。

ぎらぎらした黄色い目。

この体躯を目にした人すべてを納得させうるほど、パーフェクトに竜だったんだ。


なるほど。


目の前のこの物体は、完璧にどうしようもなく、『ドラゴン』だ。


その存在感に圧倒されて、ぼくはしばらく息をするのも忘れていた。

たぶんその間はぽかんと口を開けたままだったよ。

なんだかしょっちゅう間抜けな顔をしているみたいだ。

でも、まあ、仕方がないよね。


「よく来た。次世代の『ヒーロー』よ」


そう赤い竜が言ったとき、ぼくはその大きな口にずらりと牙が生えているのを見逃さなかった。

うわお。こりゃ噛み付かれたら大変なことになる。

あわわ、タイヘンダ、タイヘンダ。ナンマンダブナンマンダブ。ぶつぶつ。


ぼくは他愛も無い夢の続きが、こんなにも恋しくなるなんて思わなかったよ。


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