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高校入学初日にいきなり女子に泣かれた  作者: バネ屋
第6章 それぞれの想い
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#56 久我山さんの価値観



 ミイナ先輩との勝負の後はすっかりみんなのテンションは元に戻り、日が沈むまで4人ともプールで過ごした。



 プールサイドに上がって休憩していると、僕とミイナ先輩の真剣勝負に触発されたのか、久我山さんが「アラタくん、私に泳ぎ方教えて!」と言い出したので、マンツーマンでの指導を始めることにした。


 僕達がプールに入って特訓を始めると、佐倉さんがスマホでアニソンを流してプールサイドで謎のダンスを踊り出し、ミイナ先輩も一緒になって謎のダンスを踊り始めた。

 どうやら何かのアニメのエンディングで流れてるダンスらしくて、二人が楽しそうに踊ってるから気になるんだけど、水着姿で踊る姿は目のやり場に困るのでそちらは気にしない様に、久我山さんの特訓に集中することにした。


 久我山さんは緑浜高校を代表する優等生だけあって、いざ特訓を始めると表情も真剣で、僕のアドバイスを聞いて真面目に取り組んでいた。

 ただし、水面に顔を浸けて水に慣れるところから始めているので、やってることと真剣な表情とのギャップがちょっぴり間抜けだった。


 それでも20秒くらいなら水に浸けていられる様になるとバタ足の練習を始めて、日か沈んで暗くなる頃にはビート板を使えば一人で泳げるくらいまでにはなっていた。

 久我山さんのカナヅチぶりをよく知ってただけに、ほんの1時間程度でここまで泳げるようになったことには驚いた。



 暗くなったしみんなお腹も空いてたので、プールタイムは終了して、夕飯を食べることになった。


 更衣室でジャージに着替えて入口の施錠を終えると、先ほどの勝負で負けた僕と久我山さんは買い出しに行くために学校近くのコンビニへ向かい、ミイナ先輩と佐倉さんは一足先に部室に戻ることになったので、僕達の荷物は預かってもらった。

 因みに、佐倉さんも買い出しについて来るかと思ったけど、夢中になってダンスを踊り過ぎてヘトヘトになってるらしく、大人しく部室に帰って行った。



 玄関に回って靴に履き替えて外に出ると、空はすっかり真っ暗になって星も見え始め、校内は生徒の姿も随分と減って、グランドにはもう誰も居なかったし駐輪場はガランとしていた。

 総務委員会に本日宿泊申請が出ているのは邦画研究部以外にも数件あったので、僕達以外にも校内に生徒が居ることは分っていたけど、それでも昼間に比べればかなり静かだ。


 校門から出て坂道を歩いていると、久我山さんが当たり前の様に僕の腕に手を絡ませて来た。


「久我山さん、他の生徒さんに見られるから不味いですよ」


「もう周りには誰も居ないよ?それに二人きりの時はリョウコちゃんでしょ?」


 久我山さんのまだ湿った髪から女の子らしい、甘い匂いがしてくる。

 最近はこうして密着してくることが当たり前になってきちゃってるけど、未だに僕は慣れない。

 どうしても、久我山さんの女としての空気には抵抗感が湧いて来る。



「それにしても、邦画研究部は良いね」


「3人しか居ないし、みんな自由過ぎて適当なことばかりしてますけどね」


「それが良いのよ。高校の3年間なんてあっと言う間だもの。縛られずに好きな事出来る場所や時間は大切にするべきだよ。私にはそういう場所は無かったからね」


「なるほど。でも、その割には僕に対しては自由過ぎる気がしますけど・・・」チラッ


「言われてみればそうだね。アラタくんと居る時間が私にとっては何にも縛られずに自由で居られる時間なんだね」うふふ


「僕なんかでもお役に立ててるのなら、良かったです」


「アラタくんは、本当に不思議な男の子ね」


「僕がですか?堅苦しくて面白味の無い男だと思いますけど」


「男性は真面目な人が一番だよ。それにアラタくんの場合は、堅苦しいのとは違うと思う。真面目でしっかりしてて頼りがいのある時もあれば、子供の様に無邪気に目をキラキラ輝かせてる時もあって、構いたくさせるのよ」


「構いたくなるんですか?そんなこと言われたの初めてですよ。中学の時なんて、イジメの標的にすらされないほど存在感が無かったですからね」


「中学時代のことはよく分らないけど、多分、存在感が無いんじゃなくて、周りの人はアラタくんをどう扱って良いのか分からなかったんじゃないのかな?」


「確かに、異質の存在だと見られてた自覚はあります。だから目立たない様に気を付けてました」


「でも、高校に入ってからは積極的に活動するようになったんだよね?それでアラタくんの魅力が周りに知られる様になったんじゃないかな?私だけじゃなくて峰岸さんも佐倉さんもその魅力に吸い寄せられて、一緒に居るんだと思うよ?」


「魅力に吸い寄せられるって、元生徒会副会長で総務委員長で美人で人気者のリョウコちゃんならまだしも、僕はそんな大した人間じゃないですよ」


「その人の魅力は本人が決めるものじゃないよ。私がアラタくんを評価してるのだから、それが私にとってのアラタくんの魅力だよ?」


「なるほど。本人の口ぶりや周りの噂などでは無く、その人のことをどう感じるかが自分にとってのその人の評価で、その人の魅力も欠点も他人に委ねずに自分で決めるべきと?」


「そういうことね。流石アラタくんは理解力が高くて話が早いね」


 久我山さんの話は如何にも久我山さんらしい考え方と価値観で、納得できる部分も大いにあるけど、僕はそれが全てだとは思わなかった。



 いつに無く深い話題でお喋りをしているとコンビニに着いたので、入口で僕がカゴを持つと、久我山さんは店内でも僕の腕を離そうとはしなかった。


 ミイナ先輩のリクエストはデラックス焼肉弁当で佐倉さんは麻婆丼だったので、まずはその2つをカゴに入れて、久我山さんはカルボナーラのパスタを選び、僕は炒飯と焼きそばがセットになった弁当を選んだ。

 他にも朝食用のサンドウィッチやおにぎりとサラダも選び、ペットボトルの麦茶も選んで、レジで支払いを済ませた。


 本当は僕が勝負で負けたせいで久我山さんにも支払わせてしまうのは申し訳なかったので僕が全額払おうとしたけど、そこは久我山さんも譲らず、寧ろ久我山さんも全額払おうとしたので、結局割り勘で落ち着いた。


 弁当を全部温めて貰い、買った物はレジ袋2つ分になったので全部僕が持つと、「腕組めなくなるから1つは私が持つよ」と言って強引に取られて、結局来た時と同じように腕を組んで、のんびりお喋りをしながら学校へ向かって歩いた。



「さっきの魅力の話ですけど、思い込みとか願望とかもありますよね?」


「例えばどういうこと?」


「例えば、本当は善人じゃないのに本人の意思に関係なく結果的に人助けをしたことで勘違いで善人だと思い込まれたり、好きな芸能人や有名人に対して物静かでクールな人であって欲しいっていう願望を抱いてたけど、実はお喋りで冗談ばかり言う人だとか」


「勘違いはあくまで勘違いで、それはいつかはバレてしまう本当の魅力じゃないでしょ?それに芸能人とかの話はイメージの話で、キャラ作りとか外面そとづらとか、建前とかもそうだよね」


「確かにそうですね。『ふわふわと優しくて包容力のあるお姉様』と言うのが外面で、『実は強かで合理的で打算的』と言うのが立場上の建前で、『本当は甘えん坊で我儘な女の子』というのがリョウコちゃんの魅力と言う事ですね?」


「アラタくん、私のことそんな風に見てたの???結構酷いんだね」


「人の上に立つ人にとってメンツが重要なことは理解してますから、酷い言い様に聞こえたかもしれませんけど、決して馬鹿にしてるつもりはありませんよ」


「私のこと、そんなことまで理解してくれてるんだね」うふふ


「でも、こんなこと言っても怒らずに話を聞いてくれて、こんな風に腹割って色々話せる年上の友達っていうのが、僕にとって最大の魅力ですよ」


「そこは友達じゃなくて、早く恋人にして欲しいんだけどな」


 久我山さんはそう言って、抱き着いてる僕の腕に豊満な胸をギュっと押し当てて来た。



「・・・もうしばらく、お時間下さい」


 年上の綺麗なお姉様にこんな風にあざとく迫られて、華麗に受け流せる15歳の男子高校生など居ないだろう。胃がキリキリする。





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