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高校入学初日にいきなり女子に泣かれた  作者: バネ屋
第6章 それぞれの想い
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#55 ミイナ先輩との真剣勝負



 二人の言い争いを止める事には成功したけど、水中で久我山さんにしがみ付かれて、僕まで溺れそうになってしまった。


 プールの深さは120cmで一番深いところでも130cm。

 僕は勿論、久我山さんでも底に足付けても充分に水面から首を出せる深さだ。


 けど、久我山さんは立とうとはせずに両手両足を使ってコアラの様に僕にガッチリとしがみ付いて、拘束された僕も体の自由を奪われ久我山さんと一緒に沈んでしまった。


 ミイナ先輩と佐倉さんが直ぐに助けてくれたから事なきを得たけど、一瞬、死の淵に片足突っ込みかけて流石に怖かった。



 プールサイドに上がって、ゼェハァゼェハァと肺に酸素を取り込んでいると、ミイナ先輩が両手を腰に当てて仁王立ちして怒り出した。


「アンタや佐倉ちゃんがアラタを困らせるからこんなことになるんでしょーが!いい加減にしろっつーの!アラタもアラタでイヤならイヤって言わないから!何かあってからじゃ遅いの!折角の合宿中にもし誰か怪我でもしたらどーすんの!邦画研究部潰すつもりなん!?」


 普段から気が強いミイナ先輩だけど、可愛らしい水着にお団子頭のミイナ先輩が怒ると、なぜかいつもよりも怖かった。


「ごめんなさい・・・」

「ごめんなさい・・・」

「ごめんなさい・・・」


 それにミイナ先輩が言ってることはご尤もなことで、僕と佐倉さんの後輩コンビだけなく流石の久我山さんもシュンとして謝っていた。


 その後しばらくミイナ先輩のお説教が続いてミイナ先輩の怒りはなかなか収まらなかったけど、久我山さんが「私が全部悪かったから、その辺で機嫌直して頂戴。折角の合宿に水を差して悪かったわ」と改めて頭を下げて宥めてくれて、渋々ながらもようやくミイナ先輩も怒りを収めてくれた。



 プールサイドの鉄柱の上に掲げられた針時計は5時10分を過ぎたところだ。

 日は随分低くなってたけどまだ空は明るく、日の入りまでまだ時間はあるので、もう少し泳げそうだ。


 久我山さんが言う様に、折角の邦画研究部初めての合宿に水を差した形になってしまったので、この空気のままは良くないと思い、今からでも楽しく遊べることは無いかと考えた。

 しかし、水着姿の女子と遊ぶのは以前久我山さんと行った海水浴で一度やらかしている僕には名案が浮かばなかったので、相談することにした。



「佐倉さん、まだ時間あるし、ここで遊ぶのに何が良いと思う?」


「アラタくんに浮き輪の代わりになって貰って、ぷかぷか浮かびながらイチャイチャのんびりと」

「却下」


 佐倉さんに相談した僕がバカだった。


「久我山さん、プールで遊ぶならどんなことしてみたいですか?」


「アラタくんとプールサイドに寝転がって、黄昏時の夕暮れを眺めながらロマンチックにイチャイチャのんびりと」

「却下」


 この人もダメだ。


「ミイナ先輩、プールで遊ぶならどんなことしてみたいですか?」


「うーん・・・アラタと泳ぎで勝負!負けた方が今日の夕飯奢るの!」


「ほう、豊浜小のマットビヨンディと呼ばれた僕に、勝負を挑むと?」


「え?だれ?」

「アラタくん、そんなアダ名で呼ばれてましたっけ?」

「アラタくんの本気の泳ぎ、私も見てみたいわ」


 お?

 さっきまでの微妙な空気から、少しだけどみんな元のテンションが戻って来た様だ。


「じゃあ、私とアラタで勝負で、佐倉ちゃんと腹黒女の二人はどっち応援するか決めて貰って、2:2のペアで夕飯賭けよう!」


「私!アラタくんを応援します!命賭けて推してますので!」

「勿論私はアラタくんを応援ね」


「いや、だから、2:2のペアだって」


「だそうよ佐倉さん。ここは私に譲りなさい」


「嫌デス!いくら先輩でも譲れまセン!」


 結局、また始まってしまった。


「どっちとペアになるか、アラタが決めて」


「ええ!?そんな無茶な・・・」


 ミイナ先輩が無茶ぶりしてきやがった。

 どっちを選んでも血の雨が降る未来しか見えない!

 どう考えても今の僕にはどちらかを選ぶかなんて、無理な話だ。


「アラタくん!私を選んでくれますよネ!」

「アラタくん?分かってるよね?」うふふ


 僕の右手を両手で掴んで必死に訴える佐倉さんと、僕の左腕に腕を絡ませ微笑みを浮かべる久我山さん。二人からの圧がハンパ無い。

 お洒落でセクシーな水着姿の美少女二人に迫られてるのに、全く嬉しくないッ!


 恨みがましい視線をミイナ先輩に向けると、ニヤニヤと楽しそうだ。

 面白がってわざと僕に選ばせようとしてるのだろう。機嫌が直ったのは良いけど、気楽な立場だからと言って流石にこれはあんまりだ。 

 さっさと勝負を始めて、ミイナ先輩にも砂を噛む思いを味あわせてやる。


「ジャンケンで決めて下さい。勝った方は僕を、負けた方はミイナ先輩を応援して下さい」


「むむむ」

「仕方ないわね」


「はいっ!ジャンケンして!」


「さいしょはグー!」

「さいしょはグー!」


「じゃんけん、ポン!」

「じゃんけん、ポン!」


「そ、そんなぁ・・・」ガックリ

「まぁ、最初からこうなることは決まってたけどね」うふふ


 

 ジャンケンでの結果、久我山さんが僕の応援で、佐倉さんがミイナ先輩の応援と決まった。

 まぁ、久我山さんとミイナ先輩のペアになったらまた火種になってただろうから、これで後腐れはないだろう。



 勝負の内容は、25メートル1本勝負。

 泳法は何でもOKだけど性別の体力差を考慮したハンデで、ミイナ先輩は飛び込みでのスタートで僕はキックでのスタート。

 そして、スターターは佐倉さんでゴールの判定は久我山さんだ。



 僕だけプールに入りスタート位置に立つと、隣のレーンの飛び込み台に立つミイナ先輩を見上げた。

 これから勝負に挑むとは思えないほど可愛らしい水着でニコニコしている。今更だけど、男子の僕に勝負を挑むくらいだからスイミングスクールとかの経験者なのかな?



「位置について~!」

「アラタく~ん!がんばれ~!」


 ゴールの対岸を真っ直ぐに向いてからミイナ先輩が気になってチラリと視線を向けると、片足を半歩下げた前屈姿勢でガチの飛び込みフォームだ。

 流石に前屈みになると、少しだけど胸に谷間が出来るんだね。


「よ~い!ドン!」


 佐倉さんの合図が聞こえた瞬間、ミイナ先輩が全身をバネの様に伸ばして僕の頭上を綺麗に飛んで、ほとんど飛沫を上げずに水面に突っ込んでいった。


 しまった!?

 慌てて壁を思い切りキックしたけど、ミイナ先輩の貴重な胸の谷間と綺麗な飛び込みフォームに気を取られてスタートが一瞬遅れてしまった。


 バサロスタートで必死に追いすがり何とかミイナ先輩の影に追いつくが、まだミイナ先輩が先行している。

 水面に上がり1度だけ呼吸すると、そこからはノンブレスで素早いストロークを繰り返しゴールを目指す。


 どんどん酸素が足りなくなって、苦しい。

 けど、少しでも差を縮める為にブレスを捨てて必死に耐える。

 こんなに必死に泳ぐのは、いつ以来だろうか。

 中学では出しゃばらない様に気を付けていたから、水泳の授業では手加減していた。

 小学校の転校する前までは、水泳の授業はいつも張り切ってたな。

 僕は今なんでこんなに必死になってるんだろう。

 ゴールが遠い。

 酸素が足りなくて苦しい。


 でも、負けたくない。

 ミイナ先輩に一泡吹かせたい。

 久我山さんに褒められたい。

 佐倉さんの笑顔を見たい。


 僕は恰好付けたいんだ。

 勝負に勝って、みんなに「流石アラタ」と褒められたいんだ。


 うぉぉぉぉぉ!

 胸の中で雄叫びを挙げながら、バタ足のギアを上げる。


 そして、遂にゴールにタッチ。


 すかさず隣のレーンへ視線を向けると、ミイナ先輩もゴールに手を付いていた。


 どっちだ!?と上を見上げて久我山さんを見ると、悔しそうな表情を浮かべて「峰岸さんの、勝利!」と声を張った。


「くっそ!負けたかっ!」ゼェハァゼェハァ

「よっしゃ!勝ち~!」ゼェハァゼェハァ



 結果は残念だけど、こんなに悔しくなるほど友達と本気で勝負したのは小学生以来で、終わってみれば楽しかった。




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