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高校入学初日にいきなり女子に泣かれた  作者: バネ屋
第3章 走りだした邦画研究部
31/68

#29 目標が現実性を帯びると意識も変わる



 3人でのミーティングをしてからの1週間。

 教室や学校帰りに佐倉さんと二人でお喋りしてる時に、文化祭で何をやろうかと度々相談していた。


 僕の「自主製作の映画を作りたい」という意見には、佐倉さんも賛同はしてくれていた。

 機材の問題も、「スマホで何とかなるかな?」という僕の考えを聞いて、佐倉さんが「ウチのお兄ちゃんが、デジタルビデオカメラと編集できるパソコンを持ってます」と言ってくれて、「もし本当に自主製作映画を作るなら、編集作業とか勉強してやってみたいです」とも話してくれた。


 佐倉さんのお兄さん(大学生)は、趣味でバイクのツーリングの様子を動画サイトで配信してるそうで、色々機材を持ってて編集も全部自分でやってるそうだ。



 機材や編集がなんとかなりそうだと分かると、次に問題なのは『どんな映画を作るか?』という題材・テーマをどうするか。


「自分たちでも出来ること」というのが大前提になるので、例えば大がかりなセットやCGや特殊メイクなどは無理だ。 他にも、オリジナルの物語となれば脚本を書く必要もあり、僕たち3人の中でまともに脚本書ける人が居るかと考えると、厳しいと思う。


 こうやって消去法で考えて行くと、ドキュメンタリーに絞られた。


 そこで佐倉さんが「ドキュメンタリーでしたらアラタくんの密着ドキュメンタリーにしましょう!私がアラタくんに24時間密着しますんで!お風呂も寝る時もずっと密着取材ですよ!」とふざけたことを言い出したけど、これがヒントになった。



 自分たちのドキュメンタリー。

 僕たち3人の部活の様子を3人のそれぞれの視点で撮影して、1本の映像作品にする。 所謂、グランドホテル形式と呼ばれる物だ。


 イメージとしては、例えば

 家を出る所から撮影が始まり、登校して部室まで行き、部員が集まったら部活を開始して、終わったら片付けて解散して家に帰る。

 この様子を3人それそれで撮影して、1つの時間の流れに編集して、同時進行しながら次々に視点が変わり、3人3様の様子をただ見るだけのドキュメンタリー映画だ。


 そんなの面白いの?と言われそうだけど、素人の自主製作映画だからね。作品として芸術性や主張などが形になってれば、面白いかは二の次で良いだろう。それにミイナ先輩&佐倉さんの美少女二人が出演となれば、それだけでも見てくれる人は多そうだし。


 僕の案を佐倉さんに話すと、「ウェアラブルカメラとか使って3人同時に撮影したら面白そう」と佐倉さんもアイデアを出してくれて僕もその方法に興味が湧いた。 しかし、ウェアラブルカメラって高そうだし、持ってる人捜して借りるにしても、そう簡単に貸してくれる人は少なそうだ。



 それと、ここまで佐倉さんと相談しておきながら念の為に、「ドキュメンタリーなら出演はOK?」と佐倉さんに訊ねると、「演技とかする必要が無いなら大丈夫」と言ってくれて、現段階で僕達二人は出演OKとなった。あとは、ミイナ先輩だ。



 僕は、佐倉さんと自主製作映画のことで相談する中で、あることを考えていた。

 ミイナ先輩や佐倉さん二人の飾らない普段の様子を撮影して、視聴した人が、普段の二人が如何に周りが持つイメージと違うかを知ってもらい、二人を取り巻く周囲からの風当たりや環境が少しでも良くなればという思いがあった。


 ミイナ先輩は、普段は猫被ってあざとい言動が多くて、同性から距離を置かれているらしいけど、本当はもっと素直でフレンドリーで、遠慮ない毒舌が面白くて、後輩思いの良い先輩だ。

 佐倉さんだって、真面目で大人しくて高嶺の花の様に思われてるけど、本当は内気なだけで、本性はガチのオタクで、興奮すると本音ダダ漏れのお喋りが大好きな女の子だ。


 今の二人にとって、邦画研究部以外ではどうしても本人の望まない扱いを受けてしまいがちで、そういうのを見たり聞いたりする度に、僕は遣る瀬無さを感じていた。



 ◇



 そして、邦画研究部で2回目のミーティング。


 僕と佐倉さんは二人での共同案として『邦画研究部の1日(仮)』というドキュメント映画の製作を提案した。

 ミイナ先輩からは、前回話があった『オススメ映画の上映と邦画研究部による実況解説』が提案された。


 それぞれのアピールポイントを説明しつつ、お互い意見を出し合った結果、僕と佐倉さんの提案したドキュメンタリー映画の自主製作に決定した。


 そして、そのまま役割分担も決めていった。


 監督は、僕。

 出演者は、3人とも。

 カメラマンは、保留(ウェアラブルカメラが使えれば、カメラマンは無しに出来るから、保留)

 機材係は、ミイナ先輩と佐倉さんの二人。

 編集は、僕と佐倉さん。 多分、僕が指示だして佐倉さんが作業する感じになるだろう。

 他には、撮影場所は自宅と通学路と学校なので、許可は不要だろう。

 衣装は普段の制服で、脚本は無し。

 タイトルやポスターなどのデザイン&宣伝はミイナ先輩が担当。


 あと他には、撮影を夏休み中にすることや、編集作業は佐倉さんの家ですることなども話には上がっていたけど、決定には至っていない。

 それでも、ここまで決まれば、後は走り出すだけだし、3人のモチベーションも上がって来た。


 因みに、ウェアラブルカメラに関しては、佐倉さんのお兄さんが1台持ってて「あと2台あれば良いのだけど」と話していたら、ミイナ先輩が「放送部が持ってるかもしれない」と言い出した。

 放送部と聞くと、校内放送をしてる部と言うイメージを抱くけど、緑浜高校の放送部は校内放送では無くて、動画サイトでの生配信が主な活動で、定期的に自作の動画番組を配信しているらしい。


 それで、番組内でウェアラブルカメラを使って撮影した動画をミイナ先輩が見たことがあるとのことで、この日早速ミイナ先輩と佐倉さんの機材係二人で放送部の部室に話を聞きに行った。


 ミイナ先輩はうっかりスクール水着姿のまま部室から出て行こうとしたので、「ジャージくらい着て行って下さい!」と無理矢理ジャージ着せてから行って貰った。

 因みに佐倉さんは、流石に言われなくてもちゃんとジャージを着ていた。


 僕は留守番なので部室の掃除をしながら待っていると、10分ほどで二人は戻って来た。


 ミイナ先輩が言ってた通り放送部はウェアラブルカメラを持ってたらしく、その場で交渉したそうなのだけど、「佐倉ちゃんに上目遣いで『お願いします☆』って言わせたら、イチコロだったよ」だそうだ。

 どんな風にやったのか少し興味が湧いたけど、佐倉さんは顔を真っ赤にしてモジモジしてたので、少し可哀想に思い詳しくは聞かないでおいた。



 こうして少しづつだけど具体的なことが決まり始めると、『自分たちで映画を作る』という目標も現実性を帯びてきて、最近ダラダラとしてた分、3人の意識が変わってくるのを実感出来た。






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