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高校入学初日にいきなり女子に泣かれた  作者: バネ屋
第2章 涙の理由(わけ)
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#11 旧友との再会




 入学式から2週間が経過したが、佐倉さんとの過去の因縁については、分からないままだった。


 教室では相変わらず避けられている様子で、僕からは挨拶すらしないようになっていた。

 無視したい訳じゃないけど、僕が話しかけたことであからさまにテンションを下げられると、僕だけじゃなく周りの人たちにも気を使わせてしまうので、僕からは近づかないように気を付けていた。

 こういうのを、”触らぬ神に祟りなし”と言うのだろう。

 瀬田さんや古賀くんにも相談してみたけど、二人とも「うーん、今はまだ仕方ないのかなぁ」と一応は同意してくれたので、僕が悪意を持って無視している訳じゃないことは、理解してくれていると思う。


 まぁ、現状は『あくまでクラスメイトの一人というだけで、気にはなっているけど、それ以上でもそれ以下でも無い』というのが本音だし、勉強や委員会活動、それと部活の立ち上げ準備と毎日が忙しいので、そのことに囚われ頭を悩ます様な余裕が無くなりつつあるというのが実際のところだろう。



 そんな風に認識が変わりつつある中、思いがけない人との再会から佐倉さんのことを知ることになった。




 その日は総務委員会での日誌の作成を手短に終えて、用事(スーパーで食料の買い物)があったので一人で早めに帰宅するつもりだった。


 HRを終えると荷物を持って総務委員会室に向かい、まだ誰も来ていなかったけど、自分の席に座り一人で日誌の作成を始めた。

 すると、作業を始めて5分もしない内に、トントンと扉をノックする音が聞こえた。


 執行部メンバーは、みんなノックせずに入って来るので、総務委員会に用事のある一般の生徒さんだと思い、「どうぞ」と応答をすると、一人の女子生徒さんが扉を開けて「失礼します」と入って来た。


 僕は席を立ち、「どんなご用件でした?」と訊ねると、その女子生徒さんは「アラタくん久しぶり!私のこと覚えてる?」と言い出した。


 んん?と少し驚きつつ、彼女の顔をマジマジと観察すると、直ぐに誰だか思い出した。



 須賀すがルミ

 小学校の1年から5年まで同じクラスだった同級生だ。


「須賀さん!? びっくりした!久しぶりだね!」


「おー!覚えてくれてたかぁ~!」


「もちろん! 懐かしいね。同じ緑浜高校だったとは全然知らなかった」


「うふふ、私は何度か3組の教室に行ってたし、アラタくんが居ること知ってたんだけどね。 ちょっと色々あって、話しかけられずにいたんだ」


「むむ?何か訳アリなのかな? 詳しく聞きたいところだけど、見ての通り今は委員会の仕事中なので」


「うん、急に押しかけてごめんね。 でも、どうしてもこのタイミングしか無くて」


「5分ほど待ってて貰えるかな? 今日の仕事は日誌を書くだけなんで、直ぐ終わらせるね」


「うん、わかった。待ってるね」



 当時、須賀さんとはよくお喋りする仲で、同級生の女子の中でも一番交流があった子だ。

 何か困ったことが有った時に、僕の方から彼女に相談して助けて貰う場面も何度かあったと記憶している。


 当時のことを思い返しながら日誌を書き終えて、須賀さんには「場所を変えようか」と声を掛けて、移動することにした。



 委員会室を出ようとした所で執行部メンバーの何人かがやってきたので、「今日はお先に失礼します」と挨拶してから部屋を出た。



 小学生当時の須賀さんのイメージは、背が小さいけど運動が得意で元気一杯な女の子。 リーダーシップがあって面倒見も良くて、同じ歳なのに頼れるお姉さんみたいに感じてたと思う。

 今の彼女は、容姿は高校生らしく大人っぽくなっているけど、身長は小さいままで、ニコニコと愛嬌のある表情も変わって無かった。



 お互いの近況を話しながら、自販機コーナーまでやって来た。

 僕がフルーツ牛乳を買うと須賀さんもフルーツ牛乳を買い、すぐ近くの植え込みと校舎の間のスペースに移動した。


 先ほどの須賀さんの話と様子から、あまり人には聞かれたり見られたりしたくないだろうと思い、近くで人目に付かない所は、と考えてそこを選んだ。


 校舎の壁を背もたれにして並んで座ると、須賀さんが話し始めた。



「さっきも話したけど、ホントはもっと早くアラタくんに声掛けたかったの。でも事情があって出来なかったんだよね」


「良ければ、その事情を教えて貰っても?」


「うん。 アラタくん、ナナちゃんと同じクラスになったでしょ?」


「ナナちゃんって、佐倉ナナコさん?」


「うん。 ナナちゃん、アラタくんの前で泣いちゃったんだってね」


「うん・・・理由が分からないのだけど、入学式の日にいきなり泣かれた。 未だにその理由が分からないんだけど、それだけじゃなくて、次の日からは避けられてる様で、正直言って困ってたんだ」


「実はそのことなんだけど・・・ナナちゃん、別に避けてる訳じゃないの」


「そうなの?でも、僕が話しかけた時だけ、凄くテンション下がってるよ? 他のクラスメイトとは明らかに態度が違うよ?」


「ナナちゃんの気持ちを私が勝手に言う訳にはいかないから詳しいことは話せないけど、ナナちゃんはテンション下がってるんじゃなくて、舞い上がって緊張してるんだよ。 アラタくんの前でだけ、そんな風になっちゃってるの」


「え?なんで?」


「だから、それは言えないの」


 言えないと言ってるけど、ここまで聞いたら想像は出来る。

 つまり、佐倉さんは僕に好意を持っている?

 しかも高校入学以前から。

 そして、入学式の日に僕と会って泣いてしまってからは、僕本人を前にすると緊張して普通の態度が出来なくなっている?


 一応辻褄は合うように思えるけど、こういうのって本人に向かって「佐倉さんって僕のこと好きなの?」なんて絶対に聞けないし、もし違ってたら物凄く恥ずかしい思いをするパターンだ。



「因みに、以前の佐倉さんのことを全く覚えてないんだけど、同じ豊浜小なんだよね?」


「やっぱり、覚えて無かったんだ・・・ナナちゃんも豊浜小の同級生だよ。5年生の時に同じクラスで、席もアラタくんの隣だったんだよ?」


「え!?そうなの!? 隣の席・・・」


 小5で隣の席と言えば、何かあった様な気がする・・・


「アラタくん、隣の席だったナナちゃんの事を助けてあげたことがあって、ナナちゃんはそれ以来アラタくんのことが忘れられないの」


「佐倉さんの気持ちは勝手に話せないと言いながら、そんな話をしてもいいの?」


「あ・・・今の話、忘れて・・・」



 でも、お陰で思い出せた。

 小5の時に隣の席だった女の子のこと。

 あの子が佐倉さんだったのか。



「このフルーツ牛乳、不味くない? アラタくんが買ってたから真似してみたけど、失敗だよぉ」




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