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威圧感ゼロのギャル女神がクズ大学生を転生させる

 オレは今日、童貞を捨てる。


 どこにでもいる普通の大学生、田上(たがみ)怜雄(れお)は女の子と共にラブホテルにいた。高校生からの悪友、鈴木によると女の子はサークルメンバーの友達らしく、酒を一杯でも飲むと盛大に酔う子と聞いていのだ。


 この情報により事前に目をつけて、飲酒を促したのだった。おかげで居酒屋を出た後にラブホに誘ったら、二つ返事で了承してくれた。ありがとう、心の友。


 女の子は風呂から出た後も満更ではないようだったが、最低限のエチケットということでオレも風呂に入るよう促されていた。このままでも良いのに。


 オレは脱衣所に入り、滑らかに服を脱ぎ捨てた。洗面台の上に置いていたスマホを持って、すぐさま鈴木に自慢しようと上機嫌でトークアプリを開く。鈴木との個人トークルームには簡潔な会話や下ネタばかり書かれていて、客観的に見れば哀れなのだがそれも今日で終わり。先に行くわ鈴木。


 オレは軽快なステップを踏みながら、人生最速のタイピング速度で画面を叩き始めた。


『おい鈴木!遂におれ女の子とエッ』ポン


 突如として身体のバランスが崩れ始め、オレの片足の摩擦力が消えた。風呂場の芳醇な香りは死の香りへと変貌し、宙に石鹸とスマホが舞う。そこで気付いた。ながら見してたせいで、床に置いてあった石鹸に察知できなかったのだ。


 これやばくね──。


 そう思った時には既に遅く、頭への鋭い痛みがオレを襲う。寒中のスマホのバッテリー切れのようにオレの意識は消えて目を閉じたのだった。


 ーーーーーーーーー


 …。


 気がつけばそこは何もない部屋だった。目を開けてるのかすらもわからない黒い部屋に一人座っていた。せいぜいわかることと言えば、オレが今全裸だということだけだ。


 人の気配も不穏な雰囲気すらも無いこの世界に疑問を感じ、少しの間辺りを見回していた。すると、身体が向いている方からまばゆい光が差し始めた。


 それは空を覆った一面の雲の中から、一条の光芒が差しているようだった。光が地面を突き刺した後、光の中から淡い人影のようなものが見え始めた。人影を認知した時には、部屋に声が響き渡っていた。


「あなたは不慮の事故もとい、自身の不注意であっさり逝きました」


 言葉の終わりと共に部屋全体に光が漏れ始める。黒い部屋はいつしか白く照り始め、人影はいつの間にか現れたとんでもなく大きい玉座に座り始めた。


 オレの目の前に現れたのは、いわばギャルだった。

 ウェーブのかかった金髪のショートヘアーがよく似合う白い肌。イヤリングが光芒を乱反射していて神々しい。服装も現代のファッションのようで、クリーム色のへそ出しチューブトップの上に黒いジャケットを羽織っている。膝上までの青いデニムは、彼女の白くて細い脚を強調していた。特に、低身長で貧乳なのがいい。


「あんた、生きてるうちにロクな死に方しないって自覚しなかったん?」


 先ほどの威厳のある話し方とは打って変わって、友達感覚のように喋り始めた。そっちがその気ならオレもカジュアルに応えよう。


「全然気にせんかったわ。てかLITE交換する?」

「おい距離詰めすぎな。あたし、女神ぞ。あのヨロちゃん様ぞ」


 自称女神に一蹴されてしまった。ヨロ…という名前は知らんが女神はゴミを見るような目を見せた後、誇らしげに両手を腰に置いていた。どうやらオレは身振り手振りの激しい女神様と謁見しているらしい。


「ま、今回はあたしにも責任があるし、これくらいは不問にするわね」

「責任?」


 責任と全く縁がないオレは、なぜか責任を感じている女神に問い掛けた。


「それがさー、この前あたし100年ぶりに休暇取って下界に降りたワケよ。そしたら前よりめっちゃファッションが進化しててさ。休暇期間ぜんぶショッピングに使っちゃったのよねー」

「はあ」


 飲み会とかでよく聞く女の長ったらしい愚痴が始まりそうな予感がしたので、オレは脚を広げて楽な姿勢に切り替えた。


「帰還時間ギリギリまで買い物してたらレジ混んでてさー。まあ権能使えばすぐ会計済ませられるけどナンセンスじゃん?ないわーって思ったワケ。そしたら帰還時間ちょっと過ぎた後にあんたがマッパで思いっきり頭ぶつけちゃってさ!ちょーウケる!」

「ウケないが」

「ホントならすぐ運命のほころびを直さないといけないんだけど、まあ店にいたから無理だったんよ。そのせいでさっき全能神に雷貰っちゃったわーあはは!」


 雷を受けた割にメイクとかはしっかりしてるのな。人が死んでんやぞ。


 笑い終えたヨロは細い脚を組み始め、玉座の腕置きにあった本を取った。


「てなわけでマニュアル通り、あたしたちが趣味で作った異世界に転生させるわねー。あ、趣味で作ったと言っても原初の生命を置いてっただけでヤバイ文化とか見てもあたしたちを変な目で見ないでね。あとそのミミズしまえよ」

「はあ?」


 突飛な状況にオレは理解が追いつかなかった。異世界?転生?たまに鈴木が口走っていたことがオレの身に起きたということなのか。


 脳内の情報を使って理解を進めようとすると、ヨロは思い出したような素振りを見せた。


「そうそう!お約束なんだけどね、転生する時に好きなスキルを現世の徳の数だけ選ばせ……」


 そこまで言って空から7枚の羊皮紙が降りてきた。羊皮紙はオレの手に届く範囲で周囲を回っている。当のヨロは細かに身体を震わせていた。


「……プッ!あっはっはっは!あんた、クズ過ぎて1個しか手に入らない上に最低ランクのGランクでその中でも7枚からしか選べないようねッ!前科がないヤツでこんなの初めて!クスクス…」

「うるせーな、ほっとけ」


 オレはそっぽを向き、その視線の先にある羊皮紙7枚を確認する。


「えーと、パッシブスキルが…装備品性能小アップ。身体性能小アップ。仲間入りの確率アップ…。なんこれ、ゴミじゃん」

「だからGランクっていってんじゃん。選り好みしないでよ」


 ヨロは機嫌を損ねたのか頬を膨らませた。


 残りの4枚はアクティブスキルで、体力小リジェネ付きの火水土風の弱小攻撃魔法だった。何もかも弱過ぎて言葉も出ない。装備品や身体の性能アップは別に筋トレしてりゃいいし戦うワケじゃないから不要だ。攻撃魔法は魅力的だが、付属効果があるということは転生先の世界で魔法なんか幾らでも身につきそうだから撤回だ。


「ねー、まだー?言語翻訳とか精神の置き換え手続きメンドイから早くしてよね」


 顔に頬杖ついてだらける女神をよそに、オレは着々と選択肢を狭めていく。残ったスキルはというと…。


「仲間入りの確率アップ…」


 このスキルにすれば、自分を援護できる仲間を増やせるし、ハーレムも夢じゃない。少なくとも、他スキルよりは将来性がある。


「はいはーい、それにするのね」


 6枚の羊皮紙が一瞬で燃え尽き、残った1枚が頭上に移る。その1枚も緑色の炎と共に燃え尽きた。その様子を見たヨロは姿勢を正した。先ほどまでのフレンドリーな雰囲気が一変し、女神らしい威厳のある態度へと変わった。


「あなたはレオ・エストレーリャとして転生いたします。それでは田上さ…田上。いってらっしゃいませ」

「敬称略すな」


 ヨロの言葉と共に、空から光が降り注ぐ。光量が増え続け、ヨロの姿も部屋も白い光に包まれていく。その光の中で、何か聞き捨てならない言葉が耳に入った。


「あ、キャラメイク忘れてた」


 ヨロちゃん、お前──。


 ーーーーーーーーー


 視線の白い光はいつしか狭い闇に包まれて、すぐさま見覚えのない景色が目に映る。聞き覚えのない言語はいつか、日本語に変貌し始める。あのギャル女神が何とかしてくれたのだろう。


 意識を取り戻し始めると、青味がかった髪色の…色々とめっちゃデカイ綺麗な女性がオレを抱いていた。しかし、どこか不安そうな顔だった。


 そうか、周囲の不安そうな表情を見るに、赤ちゃんなら泣かないといけないのだ。眼前のおっぱいから意識を遠ざけて、飲み会で仲良くなった女の子が家まで来たのに結局ヤらせてくれなかったので泣きながら懇願した時のことを思い出す。あの時はガン酔いしていた為か、男ながらギャン泣きしていた。確か…あの子もおっぱい大きかったな。


 そうして、オレは本能的に、欲望のままに口に出してしまった。赤子から放たれることがないあり得ざる言葉。時と場所を考えれば、世界を瞬く間に凍り付かせる、魔法とも言える呪文。それは──。


「おっぱい」

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