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マアナとロジンの年の差シリーズ

赤ちゃんに一目惚れ

作者: belgdol

「マアナ。貴女の婚約者が決まりましたよ!」


 私、マアナ・ド・リキュールは元・貧乏子爵家の末娘。

元、というのは子爵家、という部分ではなくて、貧乏の部分に掛かるのだけど。

貧乏人の子沢山とはいいますけれど、我が家の両親もお金はないのに愛情はあったのかお母様が15のころから双子を生んだり年子を生んだりで、なんと脅威の6人兄弟。


 普通そこまで生むと養育の為にお金が必要なのだから貧乏子爵家は首が回らなくなるのでは?と思いますでしょう。

でもそこでお父様とお母様は大当たりを引き続けたのです。


 まず長男であらせられる当年20歳のアルヴィンお兄様。

文武両道で、商業ギルドに数々の特許も持つ我が家の稼ぎ頭。

将来はすろーらいふ?が良いんだと言いつつ、数々の非合法組織の陰謀を阻止したり、国家間紛争を根気強く解決に向けて動かしている時の人。

私が生まれた13年前にはもうそんな感じだったので(なんとこの兄7歳のころにはそんなことをしていたのだ!)、実は私はリキュール家が貧乏だったと言われてもピンとこないのです。


 そして19歳の次男・三男(お互いに相手が三男といって譲らない)であるベアお兄さまとダイお兄様。

双子です。

そして二人とも一つ上のアルヴィンお兄様の真似事をしているうちに……とはいってもできることを、ですけれど……皇国の矛と盾と呼ばれる武勇を身に着けて、騎士におなり遊ばしたわ。

アルヴィンお兄様の傍で戦う事も多く、やはり時の人。

しかもアルヴィンお兄様は功績が華々しすぎて皇族から姫様を頂くのではという恐れ多い噂があって、狙おうとする女性もなかなか現れないのですけれど。

ベアお兄様とダイお兄様は華々しいし上位貴族からも注目されているけれど、家が子爵家であることを考えれば順当な縁組の相手になるという塩梅の活躍ぶりなので私より少し上のお姉さま方に大人気。

アルヴィンお兄様より現実的な結婚相手として競争率が高まっている方々という事ね。


 それはさておき次に17歳の長女キャナルお姉さま。

女性なのですから、文武両道ということはないのですけれど、肌への負担が少ない化粧品の特許や服飾系の特許を取得していて、戦場働きでの褒章を除けばアルヴィンお兄様より稼いでいるかもしれないお方。

ただ、少し問題もあるお方でして……あまりにも稼ぎすぎてそれ目当ての男性が寄ってきたせいで少しヤサグレてしまっているのです。


 一時期は修道院に入られることも考えたそうですけれど、世俗の富は修道僧になるにあたっては捨てなければならないといわれて、それで捨てるくらいなら俗世にいるまま助けられる人を自分で助けてやるわと、修道院入りはおやめになられたらしいです。

今は特許からの収入を活かして平民用の教育機関の設置と、そこからの就労支援を通した人材の派遣を通して各界にじわじわと影響力を増しているらしいです。

なんだか凄すぎてアルヴィンお兄様と一緒で、同じリキュールの家名を名乗っていてもどこか遠い世界の方のようです。


次に四男アルベールお兄様、16歳。

アルベールお兄様は武の方はあまりぱっとなさらないけれど、なんでも魔導の学問をお一人で100年は進めた大天才なのだとか。

我が家のお父様はアルベールお兄様への弟子入り志願の声を捌くのにも四苦八苦なさっているとか……。


 そんなアルベールお兄様は女性には不人気、といいますか、結婚相手として見られていません。

というのもアルベールお兄様が15の時に同じ魔導学園の研究室に通っているうちに親しくなったメンドリール伯爵家のご令嬢と婚約なさっていて、アルヴィンお兄様がお嫁さんを頂けばすぐにでも入籍するのではと言われるほど仲睦まじいから。

俗にいう、人の恋路を邪魔する奴は……という奴ですね。


 そんなすごい家族に囲まれているのが私、次女のマアナでございます。

当年とって14歳ですが、他のお兄様お姉さまのようにパッとしたところもない、普通の子爵家令嬢という感じです。

普通の子爵家令嬢が悪い、というのではありませんが、やはり周囲の輝きが強すぎてどうしてもくすんでしまいますね。

お茶会で心無いことを言われることもあります。


 そんな私にも婚約者が決まったとお母様が仰る。

……なんで?

今婚約者が決まってもアルヴィンお兄様が嫁取りか婿入りをしない限り私が結婚をするのは筋が通らないのでは。

それこそアルヴィンお兄様が三十路に近くなっても特定のお相手と籍を入れないなどのよほどの放蕩をしないかぎり、そうであるべきです。


 その旨をお母様に伝えると、予想外の答えが返ってきました。


「それがね、お相手はまだ生まれたばかりなのよ」


 一瞬、え?となってしまった私はおかしくないでしょう?

だって貴族の婚約で生まれてすぐとか生まれる前から決まっている婚約というのは、なくはないにしても、そういうのは大抵がお互いに年端も行かない内から、というのが前提にある。


 そりゃあ、金に飽かせた中年貴族が若い娘を……なんていうのも、ない話ではない。

でもそういうのって周囲には眉をしかめられるのが普通なのだ。

その中年貴族ポジションに、年頃の娘を据えるってどういうことですかお母様!!!



「……というわけなのよ」

「ええと、つまり……」


 纏めるとこうだ、貧乏子爵時代から何くれと援助をしてくれていたプロヴァール公爵様の血縁の、本家筋の方に久方ぶりの男児が生まれた。(本家筋というのは本家の血の流れをくむものの、本家そのものではないのがミソらしい)

四人のお兄様方とキャナルお姉様はあまり貴族らしくないといいますか、お父様とお母様が「お金がない子爵家ならせめてその辺りは自由にしてやりたい」と、結婚に関してかなり自分の求めるところを優先しても許すような教育をなさったので、血縁地縁といったものを重視しないスタイルになってしまったのですね。


 それが、アルヴィンお兄様やキャナルお姉さまが大々的に稼ぎ始めたことで状況が変わってしまった。

だから慌てて私には貴族らしい教育を施したとのことですが。

それはひとまず上手くいっているようなのでプロヴァール公爵様の血縁の男の子の将来の相手として、日の出の勢いのリキュール家と縁を繋げるため私が選ばれたと。


 そういわれると深いため息が出ますが、たしかにキャナルお姉様には持っていけない話だと思いました。

年齢的にもそうですが、新進気鋭の実業家という面を持つキャナルお姉様ですが、結婚には強い夢をお持ちのようで結婚相手は自分で決める、なんて貴族の子女としてはありえないことを言って気炎を吐いているお方。

それに欲得ずくでの恋愛もあまりお気に召さない様子ですので、今回の縁談を持ち込んだら家を飛び出してしまうかもしれません。


 となるとやはり私になるんですよね……。

プロヴァール公爵様の血縁の男児のお相手は。

お兄様達とお姉様ほどの地力があれば拒むこともできるのでしょうけれど、自分自身には特に取り柄のない、血縁しか見るところのない女だっていうのはわかっているんです。

通っている学園でも血縁だけはいい女って男性の方々に言われているのを知っています。

いえ、男性だけじゃありません。

周囲からの耳目を集める男性が私に声を掛けると令嬢方も、血縁しか取り柄のない癖にと聞こえよがしに言って牽制してきます。


 だから。


「解りました。その話お受けします」


 そういって、この夏季休暇の間にプロヴァール公爵様のお屋敷まで出向くことを決めたのです。




 2週間ほど馬車に揺られて領地を持つ方々の土地を2、3つ移動すると(そうそう、我が家は法衣貴族でございます)、のどかな田園風景を背に日に何度も荷馬車とすれ違うのを見ながら、徐々に田園から街へと姿を変えていく光景を目にしました。

ここはプロヴァール公爵領の領都パンズ。


 王都にあるリキュール家の屋敷から足を運んだ私は長旅でかなり疲れていました。

そのことをプロヴァール公爵様は汲んでくださったのか、歓迎の宴などは後日に廻して、まずは1日完全な休養日にしてくださいました。

そしてすっかり旅の埃も落とし、疲れも取れた私をプロヴァール公爵様は慎ましくも暖かい夕食会で迎えてくれたのでした。


「ようこそマアナ嬢。よくぞ我が血族であり、養子であるロジンの為に遠路はるばるやってきてくれた」

「プロヴァール公爵様、私こそロジン様と引き合わせていただける上にこのような歓迎の席を設けていただけて幸栄でございます」


 広大と言っていいプロヴァール公爵様のお屋敷の食堂で歓待を受ける。

どうにも内々の話もあるとかで、奥様は同席していらっしゃらない。

プロヴァール公爵様本人と、嫡子のご子息。

後は給仕をする使用人と私だけが食堂にいる。


「ははは、マアナ嬢。ロジンの事は様付けなどして仰々しく扱ってくれるなよ。貴女の方が年上なのだ。我がプロヴァールの血族とはいえ当主ではないのだから、貴女が主導権を取っていく心づもりでいてほしい」

「いえ、当主ではない連枝の方とはいえ公爵家の方と子爵家の私ですので……弁えませんと」

「君はそういうがな。ロジンとマアナ嬢では親子に近しい年の差があるのだ。その相手が年下の自分にへつらうような言動をすればロジンに良くない影響があるだろう。どうか我が血族を助けると思って厳しくしてやってくれんか」

「そういうことであれば承りますが……」

「不安なら後で書面に仕立てよう。当家のロジンの育成に当たってマアナ嬢とその血族がどのような言動を取ろうと不敬は問わんと」

「あの」

「なんだね」


 先ほどからなぜ?と心の中で渦巻いていた疑問を、つい口に出してしまう。

貴族としてはそれは拙いといっていい行為なのだけれど、プロヴァール公爵様は嫌な顔一つせずに答えてくださった。


「なぜそこまで私のような小娘にお気を使われるのでしょうか?」

「解らんかね」

「恥ずかしながら……」

「それは君の家に力があるからだ」

「力、ですか?」

「確かに貴族の家というものは血統と歴史に裏付けられた代々蓄えられた財、権、軍の力を重視する」

「はい」

「だがそれだけでは追いつけない突然変異の力というものも、時に時代の流れの中に現れる」

「突然変異、ですか?」

「そうだろう。数いる法衣貴族の中から貧しい部類の君の家から、アルヴィン殿という突然変異が生まれた」

「そう、ですね」

「しかも彼だけならともかくそれに続くベア殿、ダイ殿、キャナル殿、アルベール殿もいる。この力を重視せず、血を取り込もうとしないのは無責任を通り越して貴族としての罪悪だよ」

「なるほど。納得できるお話です」


 確かに、冷静になってみればキャナルお姉様は単純に商業の成功者というだけだけれど、アルヴィンお兄様とアルベールお兄様の才能は脅威。

子爵家のくくりを超えている。


「故に、ロジンにはプロヴァールの家のものであるという自覚は持ってもらうが、嫁入りする君を蔑ろにするだとかいった思い上がりを持つことを許すわけにはいかんのだ。……なぜこんな話を私が君にするのかわかるかね」

「正直に言えば、よくわかりません。貴族としては少し、その、あけすけすぎではないかと思うくらいで」

「それはな、君に我がプロヴァールの家当主とその後継は味方だと知ってもらうためだ。それほどまでに君の兄君や姉君の影響は大きい」

「……理解しました。全ては私の家と、プロヴァール公爵様の家を繋ぐ糸をコントロールするため。そういう事でございますね」

「うむ。その通りだ。君からは……こう言っては何だが、私と同じ凡人の感がある。覇気がある訳でなく、凡百に埋もれる。そんな相だ。だから「なぜ兄上、姉上ではなく自分が」と思う事もあるだろう。今回の婚約の事もそうだ。様々な意味で「なぜ自分が」と思うことだろう。だから先手を取って説明して……君に理解を求めた」

「私が受け入れないとはお考えになられなかったのですか?」


 内心、やはりここでも私はお兄様やお姉様との縁繋ぎの道具なのか……と納得すると思に、わずかな反骨心が首をもたげる。

でもそんな振り回し慣れていない気持ちを抱えていても、本気ではないと即座に見透かしたのかプロヴァール公爵様は優しい声色で私をたしなめるにとどめた。


「そんな反骨心があるならこんな話が出る前になにかやらかしてそもそも話自体が無かっただろうね」

「そう、お考えになりますか」

「うむ。まあ堅苦しい話はこれくらいにして、だ。赤子はいいぞ。無垢で可愛いだけの存在だとはとても言えん面倒な生き物だが、慕うなら純粋に慕ってくれる。マアナ嬢にもその魅力が伝わればいいのだが」

「お気遣い、ありがとうございます。楽しみにしておきますわ」


 そして、最後にそう締めくくって会話を終えられたのだった。

赤子……赤ちゃん……懐いてくれるだろうか……。

私みたいな何のとりえもない、平凡な女に。


 そんな不安を抱いて、あまり寝付けない夜を過ごした次の日。

とうとうベッドの上のロジン様と顔合わせという事になり、その子の部屋に通される。


「ロジン様、お客様ですよ。将来ロジン様の奥様になられるお方ですよー」

「うー?だー。うーう」


 部屋の中の柵付きのベッド(ベビーベッドというらしい)の中で無邪気に手足をもぞもぞさせて、指をしゃぶっていたのがロジン様。

まだぽわぽわの茶色い髪の毛。

開き切らないコバルトブルーの瞳はまだどこを見ているか一見わからなくて。


「あー、うーゆー、あー」

「よしよし、ロジン様。マアナ様にご挨拶しましょうねー」


 メイドの胸に抱かれて寄り添って私の前に連れてこられたロジン様はとっても小さくて。


「マアナ様。ロジン様に指を出してあげてください。仲良しの握手ですわ」

「え……あ。はい。ロジン様。マアナと申します。よろしくお願いいたします」

「あー!あー!いー!」


 私が指を差し出すと、ひときわ大きく声を上げて私の指先を柔らかい極上のクリームのような感触の指でつかむロジン様。


「まー!まー!」


 そして、ちう、ちうとしゃぶりつく。

その瞬間、どうしようもなく私は私自身をロジン様に求められている気持ちになって。

それでどうしようもなく愛おしくなって。


「あ、あの。抱っこさせていただいても?」

「はい。首が座っていないのでしっかり支えて差し上げてくださいね……どうぞ」

「あ、ああああ」

「うー。にゅー!ま!」

「ああああああ」


 どうしようもなく涙があふれて。


「ま、マアナ様!?」

「ちが、なんでもない……なんでもないの……大丈夫だから……もう少しこのままで……」


 首も座らない内から母元から離されて公爵家に養子に取られたロジン様。

それは決して虐げられているというわけではないけれど。

護りたいと思った。

支えたいと思った。

私は特に優れたところのない、つまらない女。

でも、それくらいは先に生まれたものとしてできるだろう、と。

同じ貴族としてせめて幸せな家庭を築く手助けをする勉学に励むくらいはできるだろうと、自分に問いかける。


 この愛おしくも弱く、でも力強い婚約者を。

私が立派な連れ合いにして見せる。

そう、心に誓った日。


 それが私と彼の出会いの日であり。

私が恥ずかしくも赤子との恋に落ちた日であった。

今更ですがちょっと続いてしまった短編の作品ページURLを載せておきます。

https://ncode.syosetu.com/n9665ic/

6年後のマアナとロジンの話です。

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