表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

08 美しい娘のひとり語りも読み飛ばし推奨




 ここからは、美しい娘のひとり語りですぅ~。

 えっ?

 ウンディーネちゃんじゃないのかって?


 だってウンディーネちゃん、もうフルちんとシーサーちゃんと皆で仲良く、ゲロ王国だったかカウボーイ王国だったかに帰っちゃったしぃ~。

 あっ。そういえばキューレボルン様も一緒だったかぁ~。あの人、ここに残されそうになって、慌ててシーサーちゃんの(たてがみ)に縋り付いてたもんねぇ~。


 だからこのアタシ、辺留田(べるた) 流梛(るだ)が語っちゃうよぉ~。

 って言ってもねぇ~。なんかこう、めんどくさい仕事押し付けられたなぁ~って。

 前世? やり直し前? でもそうだったけど、とっ散らかって皆が好き放題やったあと、誰がその後始末したかって、それ、アタシだからぁ~~~~!


 ハイハイ。

 そりゃアタシ、フルちんとウンディーネちゃんが結婚してるって知ってたのに、二人の間に割って入ったよぉ~? だって仕方ないよねぇ~? フルちん行方不明になる前は、アタシのが先にフルちんと、ちょっといい感じだったんだしぃ~。心配して心配して、やっとこ帰ってきたかと思えば、ウンディーネちゃん連れて戻ってくるしぃ~。

 この裏切り者! そんでもって泥棒猫! って思っても仕方ないっていうかぁ~。


 でもねぇ~。ウンディーネちゃんを好きになっちゃったのぉ~。アタシもウンディーネちゃんも、お互いがお互いを好きになっちゃったのぉ~。


 だからねぇ~。

 キューレボルン様さえ、邪魔をしてフルちんやアタシ、人間を驚かして脅かしたりしなければ、アタシ達は三人、とっても仲良くやっていけたのぉ~。


 とはいえ、アタシがフルちんを試したり誘惑したりぃ。ウンディーネちゃんに酷い言葉を投げつけたりぃ、人の子同士フルちんと結託して、水の精のウンディーネちゃんを(ないがし)ろにしたのは事実よぉ~。

 キューレボルン様の嫌がらせはウンディーネちゃん自身とは違うのにねぇ~。アタシもフルちんもアホだったのぉ~。まるでウンディーネちゃんが恐ろし気な怪物のように思えてしまったのぉ~。


 退治すべき異物で、アタシとフルちんの恋の邪魔者だって。


 でもそれでもフルちんは、浮気心を起こしても、本当はずっとウンディーネちゃんを愛してた。

 だってフルちんが浮気心を起こしてしまったのは、キューレボルン様の絶え間ない嫌がらせに、すっかり神経を擦り減らして参ってしまった。ただそれだけなのだから。


 そりゃあ確かに、妻だけでなく他の女に目移りする、ありがちな男の性だって、もちろんあったろう。

 ウンディーネという水の精、その物珍しさに好奇心を惹かれたものの、結局はベルタルダという人間、その故郷に帰結したくなる、どうしようもない身勝手さも。


 だけれど、それをあんなに酷いやり方で試され続けて、気を確かに持て、だなんて。

 いったい誰が耐えられる?


 騎士フルトブラントは、愛と猜疑心とを夢でも現実でも、水の精キューレボルンによって試され続けていた。

 気狂いになっても仕方がない。


 しかしキューレボルンは魂を持たぬがゆえに、それがわからなかったのだ。


 同族が人間によって理不尽に軽んじられ虐げられてはいないか、夫となった男の誠実さに虚偽はないか。

 そうして幾度も男を揺さぶり試し、ウンディーネの様子を伺おうとも、心を解することのできぬキューレボルンは、愛の嘆きと哀の嘆きの違いも、それがまたよく似通い結びつくということもわからなかった。

 ただそれだけだった。


 そうして水の精の掟によって、水辺でフルトブラントに罵られたウンディーネは去った。

 ウンディーネの喪失に悲しみ、嘆いたベルタルダとフルブラントは、互いの傷ついた心を慰め合うために、結ばれようとして。

 ウンディーネは泣く泣く、再び水の精の掟に従うはめになった。


 ――アタシがウンディーネちゃんに、フルちんを殺させてしまったの。


 水の精たるウンディーネには、どうすることもできなかった。

 夫は二人の妻を娶ってはならない。

 彼らの世界の神様がお決めになられたこと。

 それを破った、救われぬ魂の夫を持ったのならば。妻たるウンディーネは彼を裁き、命を取るしかなかったのだ。




 う〜ん。

 真面目な話するのに、最初のあの話し方――語尾を伸ばすやつ、疲れちゃったぁ〜。

 ここからは普通に話そぉ〜。まぁ、途中からすでに口調変わってたけどぉ〜。

 そこは許してちょ~!


 いつまでも道化してたって、アタシも疲れるし、読んでるアナタも疲れる。そうでしょ~?

 どうせここからは、種明かしというただの説明文の羅列。

 なぜ? どうして?

 そんな疑問に応じるだけの。


 フーケーは美しい悲恋として、彼らの恋物語を後世に書き記した。

 そりゃ、悲恋のおとぎ話、アンデルセンの『人魚姫』ほどには日本で有名にはならなかったかも。

 どうしてかな。


 ドイツ本国でフーケー自身の脚色とE.T.A.ホフマンの作曲とでオペラになったのもあるし、フランスではジロドゥがフーケーの『ウンディーネ』をベースに戯曲『オンディーヌ』を書き下ろした。

 バレエもミュージカルも、様々な媒体のモチーフとなっているのに、ウンディーネちゃんとフルちんについて、『人魚姫』ほど誰かと悲しみを分かち合うことはなかった。


 だけどそれでもアタシは、二人の悲しい恋の結末に、胸が痛かった。


 悪役令嬢モノの、ヒーローが庶民出のヒロインを選んだ挙げ句、やっぱり様々な習慣やらの違いで破綻して、ヒーローは悪役令嬢に戻ったけど、ヒロインにヒーローは殺されちゃいました、みたいな。

 胸が痛い。

 バッドエンドもいいところ。


 アタシがベルタルダの生まれ変わりなのか。

 それとも辺留田(べるた) 流梛(るだ)なんていう、ふざけきった名前が偶然一致してしまっただけなのか。


 それはわからない。

 わからないけれど、この悲恋に涙を流して、その雫からキューレボルン様が現れたとき。

 一も二もなく、これはチャンスだと思った。

 あの結ばれるべき二人の恋人を、正しく運命に戻すための。




 もとを辿れば、フルちんの義妹、アーニャちゃんが女王になるため、神々の恩恵を賜りに旅に出る。そういう運命の子が、あちらの世界で生を受けると定まったことがきっかけ。


 アーニャちゃんの国、カウボーイ王国――じゃなかった。ガルボーイ王国では、代々王様が雷神ペルーン様の名を継ぎ、その祝福を賜る。

 だけど雷神ペルーン様は男神だから、その名は王位に就いた男子しか授かることができない。


 神の祝福、その加護を受けない王は、国と民を脅かす。


 それが事実かどうかより、そのように皆が思ってるってことが重要なのだ。

 だからアーニャちゃんは王位を継ぐのに、ペルーンの名を継げないことに代わって、様々な神々や精霊の祝福が必要だった。

 そこで最後に祝福を与える段取りになっている火の神スヴァローグ様に、運命の女神ロジェニツァ様がお声がけなさった。

 だってロジェニツァ様はずっとウンディーネちゃんの嘆きをご存知でいらしたから。


 そしてフルちんの骸を抱え続けるウンディーネちゃんを、キューレボルン様もまた、魂を持たずとも哀れに思われた。

 いや、もしかしたらウンディーネちゃんの父親、キューレボルン様の弟の水界の王様からせっつかれただけなのかも。


 そうして巡り巡って、ウンディーネちゃんは日本にやって来たのだ。フルちんとただ二人で。


 二人を邪魔した水の精の掟。

 この呪縛が二人の愛によって完全に打ち消されたかは、誰にもわからない。ウンディーネちゃんが人間になった今でも。

 神様方はご存知なのかも。でもアタシはただの人間だし、キューレボルン様も、たくさんいる水の精のうちの一体に過ぎない。


 だけど、二人にはシーサーちゃんがついている。

 フルちんがウンディーネちゃんを水辺で罵っても、ウンディーネちゃんが水晶宮に引き戻されそうになっても。沖縄生まれ、沖縄育ちの海蛇(シーサーペント)、シーサーちゃんがウンディーネちゃんをグワッと大きなお口でくわえて、その都度きっと引き戻してくれる。


 っていうか、フルちんがウンディーネちゃんに酷いことを言わなきゃいいって、それだけなんだけど。

 でもまぁ、ケンカもしない夫婦なんてありえないでしょ?

 え? ある?

 そうなんだぁ~……。

 いいねぇ~。いや、どうかな? アタシはケンカ、そんなに嫌いじゃないからなぁ~。

 人それぞれだよね!


 そんなことより、ウンディーネちゃんはもう、魂を得ただけの水の精じゃない。

 ウンディーネちゃんは人間になった。

 出産の女神ロジェニツァ様が、転移と同時に、ウンディーネちゃんを新たな人間の子として、ここ日本に産み落とした。

 それは二人が互いに、一目で恋に落ち、運命だと悟ったから叶った奇跡。

 やり直す前と同じように、みずみずしく純粋で、やり直す前より、深く芳醇な。

 あはっ! ワインの解説みたいぃ~!


 だから二人は似たり寄ったりな時間の流れで、これからは生きていく。

 おじいちゃんになるのも、おばあちゃんになるのも、同じようなペースで。

 そういう仕組み。


 アタシがウンディーネちゃんを殴ろうとした理由?

 どうかな。

 自分でも答えは一つじゃない。

 だけど、今度こそ、二人がうまくいけばいいって、そう願ってることは嘘じゃない。

 美しい娘の失恋が、ここで決定的になったことと同じように。


 アタシは辺留田(べるた) 流梛(るだ)。ベルタルダじゃない。




 美しい娘のひとり語り、これにてオッシマイぃ~。

 ちょっと冗長だったねぇ~。

 最後まで付き合ってくれて、ありがとう~。


 こっからはねぇ、ホラ、ただのハッピーエンドぉ~!

 それだけっ!


 ばいば~い♡













 あっ。

 そういえば、冒頭でウンディーネちゃんが『そちらはご覧になられずとも、今作には一切支障はございません』って関連作について言及してたヤツぅ~。


 そうでもなかったっぽい?

 ごめんねぇ~?

 読まずにわかったかなぁ~。そうだといいなぁ~。

 でも気が向いたら、読んでくれたらいいなぁ〜。





おしまい♡

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あらー、ここまで読めば、原作のご説明があったのね!! うんうん。何故か神話は悲劇が多い。 神とかと人間は、相容れないから!? オペラもバレエも、神話モチーフは何故かバッドエンド多数。切…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ