一条さん.3
「ねぇ、さっきから話してるのって」
「ん?あーごめんね!言わなくても伝わるらしんだけど、言葉を思い浮かべるって難しくて。ほら普段そんな事しやんやん?」
違うのよ、誰と話してるのかが聞きたいの
「えっとね、この子は…………って言うらしいんだけどさ……聞き取れる?」
聞き取れるけど、言葉が分からない。
音としては聞こえるけれど、その意味や知識がまったく浮かんで来ない。
「それって……えっと……いや、聞き取れるのよ?聞き取れるんだけど……」
「あはは、いいよいいよ!みんなそんな感じだし!」
一条さんにしか見えてない、本人は他の人でも見える場合があるらしいけど、とにかく普通じゃないソレは……
「大丈夫なの?」
深淵、漆黒ともとれるような元出入り口を後にして、ジャックさんとパープルさんが向かった
加工前の人間と書かれた方へ行く事にした。
民間人を一人連れている以上、私一人で守る事は難しいし、蒼蓮の事もある。
一回合流して、固まった方がいいと思った
「面白い話いっぱいしてくれるんだよ?それに私を守ってくれるんだよね!」
守ってくれる……ね、ソレが私の氷を破壊したのかもしれないわね。
「私が守ってあげる必要は無いかしら?」
「いーやーだー!祷花ちゃんに守って貰うんだー!」
「ちょっと抱きつかないでっ!ここは何があるか分からない場所なのよ!?」
意外と力強い!常識の範囲ではあるけれど
「でも本当に何かあったらこの子が守ってくれるらしいから、無理はしないでね!みゆきおねーちゃんに任せなさい!」
守って欲しいのか守ってくれるのか、どっちなのよ
「どうでもいいけど、私は一条さんより年上よ」
「え……こんな見た目で?」
「ぶっとばすわよ」
「ちなみに……何歳?」
「19よ」
「ひえ!若作り!」
「次言ったら本当に殴るから」
しばらく歩いていると、大きな歯車が見えてきた。
「なにこれ」
パイプ?のような物が歯車のある部屋の入口に刺さっている、明らかに後から刺された物だろうし……もしかしたらパープルさん達が刺した可能性もある
「祷花ちゃ……さん」
「呼び方は何でもいいわ、どうしたの」
一条さんが、少ししかめたような顔をしている
「あのね、この子が近づくなって言ってるの」
大きな歯車の部屋にはツルハシやハンマー、さっきも見たような不可思議が幾つも幾つも並べられていた
「その子は……ここにある物を何て言ってるの?」
「えっと……えっと……この子が、えっ……うーんとその」
急にそわそわし始めたけど、どうしたんだろう
「詳しくは話すつもりないけど、私を近づかせるなって……」
つまり、一条さんに見えているソレは不可思議を知っていて、あのハンマーやツルハシに触れる事無く不可思議だと判断できる物体だと分かる
「それが正解よ、私もあまり触りたくないし近づきたく無いもの」
「だよねだよね!あの子があんなに止めてたんだもん!私もそう思うよ」
一条さんは多分、何も知らない
一条さんに憑いているソレは……いや、まさかね
「祷花さん!どうしてここに?」
奥からジャックさんとパープルさんが戻ってきた
「ちょうど良かっ」「蒼くんは!?蒼くんいないじゃない!」
パープルさんが私の肩を掴んで迫ってきた
「落ち着いて!ちゃんと話すから!」
ジャックさんがパープルさんを引き剥がしてくれて助かった。
「祷花さん、そちらの女性は」
「私は一条です!一条みゆきって言います!祷花ちゃんに助けてもらいました!」
「民間人がそっちにも居たのですね」
にも?
「……そう、それは困ったわね」
ジャックさんから、彼女達が見た物について説明を受けた。
そんなにも民間人が囚われていたなんて……
「ですからもっと人を呼ぶべきだと思います」
「それがそうも行かないのよ……」
私は出入り口が消滅していた事を話した
「それは……」
ジャックさんは困っているようだった
いや、そりゃ困るわよね
「とりあえず今は先に進むしか無いわ」
「しかし、もうこの先は見ました、何処に行けと……」
それもそうだ……だけど
「おかしくない?外から見た時この工場めちゃくちゃ大きかったのに……こんな3つの道だけなんて」
「確かにそう思います」
隠し通路のような物があるハズ、そしてそれがありそうなのは
あの、歯車の部屋だ。
歯車と不可思議がおいてある部屋には、怪しい物しかない。
不可思議ってだけで怪しいのに……
「一条ちゃん、ここ?」
「はい!だよね?……ありがと!そこです!」
パープルさんが歯車近くのツルハシを地面に振るった。
「あ、やばいかも」
だれかがそう言った時には床にひびが入り、崩れていった。
「そういうのは先に言いなさいよ!!バカー!!」
私達は下へ落ちていった。