一条さん.2
「うーん……」
「起きたのね、目覚めは……悪そうね」
私の膝の上で目覚めた一条さんは、困惑しているようだった
「えっと、祷花さん……だよね?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ夢じゃなかったんだ……あはは、案外平気なんやね……めちゃくちゃ死体見たのに結構私元気……」
じゃないでしょ、まだ体が震えてるじゃないの
「無理しなくていいわ、もう少しこのままでいいわよ」
「氷に囲まれてるのに、温かい」
「私の心が温かいから、かな?」
「関係あるの?それ?」
少しでも笑ってくれた、まだ大丈夫そうね
「お腹すいた」
「お腹……ちょっと待ちなさい」
えーっと、確か装備してたポーチに……あった!
「ほら、味は保証しないけどカロリーとビタミンは保証するわよ」
「こんなの食べたら太る……野菜スティックとか無い?」
あるわけ無いでしょ、思ってたよりかなり元気そうね
「いらないなら私が食べるけど」
「あー!だめ食べるから!ワガママ言ってごめんなさい下さい!」
「最初っからそう言いなさいよね!ほら」
「いっただきま~す!」
私があげたクッキーの封を開けて、食べ始めた
なんか……ハムスターみたいだわ
「って!座って食べなさいよ!膝にこんなにボロボロこぼして……あー!もー!ほら起きなさい!」
「いーやー!私は辛いの!つーらーいーのー!」
腰に手を回されてめちゃくちゃ抵抗されたので
諦めてそのまま食事させる事にした
「おいしい!バタークッキーかな?どこで買ったの?」
「……弟が作ったのよ」
組織から支給されている物だから買える物じゃないわ、諦めなさい
……なんて言えないわ
「へぇ!弟さんがいるんだ!今は何処にいるの?一緒じゃないの?」
「一緒だったんだけどね……はぐれちゃったのよ」
「そっか、探すの手伝おっか?もぐもぐ」
話すか食べるかどっちかにしなさいよ
「大丈夫よ、それ食べ終わったら外まで案内するわね」
「ありがとうございます!」
こんな人間が近くに居たのでは、戦いづらいったらありゃしない。
「一人で大丈夫なの?」
「わ、私?私なら大丈夫よ!」
「ふーん……もぐもく」
気がついた時には、全て食べ終わっていた
「ごちほそーさま」
「じゃあもどるわよ!」
一条さんを起こして、来た道をまっ直ぐと移動して、入口の方まで戻った。
途中目口無し達が居たけれど、何かおかしい
「ん?どうしたの?」
「……いえ、大丈夫よ」
私が目口無しに近づいても何も無い
だけど一条さんが目口無しに近づくと、目口無し達は苦しみ出して、倒れて行く。
偶然では無さそうね
「ねぇ一条さん、昔から……いえ、うーん……」
「んー?んー??」
質問の仕方が難しい
昔からそんな力が使えたのか?って聞きたいんだけど、民間人に人力の説明をしても意味なさそうだし、信じてくれなさそう。
「私が無事だったのは貴女のおかげだね!」
……何処見て言ってんのよ
「そんな事ないよ!怖かったってば!もー!プンプンだよ!?」
独り言……?
「そう言えば私は初めて見たんだよ!氷を作り出したり温度を下げたり……そんなん普通できやんやん?」
独り言にしてはおかしい、長すぎる
「いーじゃん何でも!私を助けてくれたんだよ!?そんな風に悪く言うのはやめて!」
「……さっきから何と話してるの?」
「ここにいるんだけど……見えない……かな?」
これはアレ?そう言う不思議ちゃんなの?それとも厨ニって奴?そんなヤバイ娘には見えなかったけど
「見えないわ」
「全然私以外にも見えるって言うけど嘘じゃんか!全然見える人いないよ!」
……これは……触れないでおきましょう。
3つの道に別れた場所まで戻ってきた
「このまままっすぐ行けば……」
「まっすぐ?」
道が……無くなっている。
3つの道に別れる前の、工場の出入り口に繋がっていたはずの大きな道が……途中でぽっかり消えている。
破壊されたとか、崩れているとかじゃない
本当に、この作に何も無い。吸い込まれてしまいそうな漆黒、何も音はせず、見ているだけで頭がフラフラしてくる
「ねぇ祷花ちゃん……ここをまっすぐいくのは……ヤバイって言ってるよ」
「私が来た時は、ここに出口があったのよ」