2011/04/01 手にした物は何の為に
ゴブリンを殺し、誰かを信じると言う気すら失せて、俺にとってどうでもよくなったモノから背を向ける。全くもって度し難い、俺も、アレも、何もかも…勝手に期待して勝手に拒絶して…本当にバカみたいだ。
「グググッ…!」
「んあ?」
見れば全身の急所と思しき場所総計21箇所の刺し傷に加え脳天まで深々とガラスが刺さっているにも関わらず。緑色の小人はこちらを睨みつけ、あまつさえ立ち上がろうと這いずっている。
…凄まじい生命力、最早コレは生物とはいえないんじゃ無いか?
全身の力を振り絞り、しかし、それでも尚傷つけた俺から逃げるでもなく。女子に向かって這いずっているのを見るとそんな思いが湧いてくる。
そのあまりの気持ち悪さに、そして決めた事はやり遂げなければならないと言う俺の信念の下、ゴブリンに完璧に引導を渡すことにした。
体を這いずる苛立ちを拳に乗せて叩き出す。要はただブン殴ると言うだけだが、何か妙な感じがした。むず痒いような、何かが本当に這いずっているかのような…そんな気配があった。
そしてそれは実際に起こった異常現象によって証明された。
「ッフ!」
突き出された拳は俺の予想を遥かに超えて加速し正確にゴブリンの顔に突き刺さる。しかし突き刺さったそれは止まることを知らず。妙な感触と共に加速し続け、ゴブリンの頭はまるで漫画のようにクルクルと回転して捻れ飛んだ。
恐怖の視線が強くなるが、俺も呆然とした。
するとさらにおかしな事にゴブリンが発光し謎の粒となって消えていく。粒の一部がスッと俺に染み込むと頭に機械音声のようなものが響き、半透明のガラス板めいた物が目の前に浮かぶ。
[now loading………『魔境』内でのモンスター討伐を確認、素質測定…肉体・精神共に異常なし、『システム』オールグリーン、個体識別名『コウタリジンキチ』『トキサキカナエ』魔境探索者としての貴方達を歓迎します。]
『コウタリジンキチ lv1
肉体性能 100
精神性能 100
特殊性能 150
総計350
防護値50/50
精神値45/50
経験値0/10
自我兵装
変則変形斧鉈『X −cution』
-変形鉈
-変形斧
等価値変換術『X −change』
-等価変換 消費 0〜X
-性能変換 消費 経験値or性能値
-圧縮変換 消費 10
』
「コレは…」
まるでゲームだ。そして確信する。どうやら世界はどうにかなってしまったらしい、実は中学校に入ると自分の能力が可視化できるようになるとかそう言う便利機能が解放される…とか、そんなふざけた世界で生きてきた覚えはないのであの地震か、それともその前の暗闇か、どちらにしても今日の今を持って地球には『魔境』とモンスター、そして『ステータス』が追加された。
…そう、そう考えて、納得するくらいしか今はできない、つい数ヶ月前まで小学生だった俺には世の中のことはよくわからない、ある物はあるって事でいいじゃ無いか、無いよりはよっぽどいい筈だ。
まぁ、つい先程社会とか常識とか世の中とかそう言う物全てひっくるめてどうでもいいとまで思ってしまったのでこの状況を理解する事なく受け入れる事を選び、頭に直接叩き込まれるようにして入ってきた『使い方』も呑み込めた。
この精神値と言うのが減っているのは俺がたいそうショックを受けたから…ではなく。おそらくさっきの漫画パンチのせいだろう。ドラゴン○で言う気、狩人×狩人の念、RPGでいう魔力、そう言った謎のモノという認識でとりあえずはいい筈だ。そうなってくるとこの変換術は…魔法?みたいな物だろうか、少し使ってみたいとも思ったが視線を感じる。
「あ、あの…」
…声をかけられる前に行こう。もう一度だけは終了したのだ。魔法と武器にはドキドキワクワクだが人間相手はもう懲り懲りだ。お父さんの読んでいた雑誌に『若くしてスローライフへ憧れる人が増えている』とか書いてあったのを見て枯れてるなぁみんなと思った俺はもういない、俺も人に会わないスローライフ(完全隔離)を志す枯れた人種の仲間入りだ。
背を向け歩き出そうとする俺に焦ったのか、それとも何かを期待しているのか、言葉が続く。
「さ、さっきはごめんなさい、気が動転しちゃって、えと、その…」
もうやめてくれ、もう勘弁してくれ、お前がどう思ってどうしてそうなったのかなんて俺もわかっている。しかし俺も人間だ。怖がられたら気分が悪くなるし、叩かれたら痛い、そして今日は何よりどうすることも出来ないくらいに機嫌が悪いし、気分も悪いし、なんなら今までの全てを否定されて最悪極まっている。つまり、もうどうしようもないのだ。
俺はイライラしたまま走り出し、一直線に外へ通じるはずの扉を開けた。
「まっ!」
「待たねぇよ、じゃあな。」
扉が閉まると音はなくなり、俺とアレは無関係に舞い戻った。
大きく息を吸うと、何か生臭い、というかここは外じゃ無い、教室?だな、中学校の教室は少し大きくなっただけの教室だった。だがその広い教室に椅子や机はなく。有るのは赤く染まった人だった塊と其れを食い散らかすゴブリンだけ、無感動に死体を見つめ注意深くゴブリンを観察する。
どうやらもうこちらに気がついている。そりゃあそうだ。入ってきて早々に声出してるし、そもそも今の俺は丸腰だし、いつでも片付けられるエサくらいの認識なのだろう。
なので俺はズカズカと中へ踏み込み息を吐く。
「『これより
戦闘
を実行する。』」
3節に分けて吐き出された俺の声に合わせて俺の手に妙なくらい馴染む機械仕掛けの鉈が現れ、イメージしたままに腕を振るうと腕やら足やらを齧ってご満悦な馬鹿面を吹っ飛ばした。
「ホームランだなぁ!」
「ぐぎゃぎ!?」
反応した二匹目の顔面に鉈の背がめり込む様に入るが顔がへこむ事はない、しかしそれは俺が殴った力を全て『変換』したからだ。そのままフルスイングすると野球ボールめいた勢いでゴブリンの身体が吹き飛び女の死体に群がって呆然としていた残りの奴らを巻き込んで壁に叩きつけられる。
「『変形』!」
ギャリギャリと大きな音を立てて鉈の刃がスライドし持ち手が伸びる。斧というよりはハンマーの様にも見えるシルエットだが、両側に刃を持った鈍器なのできっと斧なんだろう。
動けなくなったゴブリン4体に向かって突進し大きく回転する様に斧を振るえば壁ごと上下にカットされた緑色の小人はさっき見た時と同じ様に光の粒になっていった。
『ゴブリン5体を倒した。経験値を10点付与、教科書(数学)を取得した。lv up、全性能に10点の加算』
そんな音声と共に戦いと呼べない蹂躙は終了した。
…案外、というより何も感じない、達成感やレベルアップの興奮はあるが罪悪感やら何やらは非常に小さい、ついでに言うなら人間のしたいを見たと言うのに推理小説や漫画の様な忌避感すら感じない、これもステータスとやらの所為なのか、それとも俺自身がそう言うことを気にしない性質だったのか…いや、まぁいいや、俺には関係ないし、ゴブリンは放置してたらどうせ襲ってくるし、とりあえずこれ以上喰われない様に弔っておけば万事OK、人道的に何の問題もないな!
『コウタリジンキチ lv2
肉体性能 100+10
精神性能 100+10
特殊性能 150+10
総計380
防護値55/55
精神値35/55
経験値0/20
自我兵装
変則変形斧鉈『X −cution』
-変形鉈
-変形斧
等価値変換術『X −change』
-等価変換 消費 0〜X
-性能変換 消費 経験値or性能値
-圧縮変換 消費 10
拾得物
教科書(数学)×1
-説明
一般的な知識の収められた学術書、算術から派生した上位学問数学について記述されており、読んで適切な方法で学習すれば数学的な知識を得られる。
-特殊効果
無し
』




