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たけどら演劇脚本シリーズ

またあの町で夢を語ろう

「またあの町で夢を語ろう」

作 六六


BGM…『化物語 音楽全集Songs&Soundtracks』より


青下…男

伊藤…男

植田…女

江戸川…両性可

工藤…男

工藤の娘…女

サンタクロース…女


木村/警察1

加藤/警察2…女

ファミレス店員/警察3

よくないもの/電車アナウンス/警察4


音響、照明


(役者11人、裏方2人、計13人)




1 逃げる者、追う者たち


最初は暗転している。ジングルベルが流れる。パトカーのサイレンFI。赤い光が点滅して幕が上がり、サンタが舞台を下から上に横切る。それを追いかけている、懐中電灯を持った4人の警察官。


警察1「待て、待て――!」

サンタ「ふんだ、捕まえられるもんなら捕まえてみなさい! お縄になるにはまだ早いんだから!」


サンタと警察官は上から舞台の中央へ。サンタは行き止まりに当たってしまい、下へ進めない。警察4はトランシーバーで応援を呼んでいる。


サンタ「……結構しつこいね。その脚力は褒めてあげる。マラソンでもしてたの?」

警察1「ようやく、ようやくだ……ようやく追い詰めたぞ! その特徴的な赤い服装! 純白の袋! 貴様がサンタクロースだな!」

サンタ「確認するなら追いかける前にしてよ……」

警察2「あなたに住居侵入罪及び……殺人罪の容疑がかかっている。大人しく捕まりなさい!」

サンタ「ご同行しません拒否ります。私、まだ捕まれないの」

警察3「言い分は取調室で聞いてやる!」

警察4「これで青下さんにいい顔ができるぞ……!」


手錠を持って警察4はサンタに詰め寄るが、サンタはため息をついてそれを足で止め、手を一回叩く。すると警察4はその場に崩れ落ち、めっちゃ寝息を立てて爆睡。


警察1「なっ!? 貴様何をした!」

サンタ「んー、まぁ何というか、サンタパワー?」

警察2「かかれぇ――!」


サンタがまた手を叩くと、警察は全員めっちゃ寝息を立てて爆睡。


サンタ「しばらくはぐっすりしときなさいったら。……うるさい!」


サンタがまた手を叩くとサイレンがぶちっと途切れ、赤い点滅も消える。サンタは懐中電灯を一つ奪って「はぁ、全く。サイレンはサイレンでもサイレントがいいなぁ」と言いながら上にはけ、暗転。ラジオが聞こえてくる。



2 気持ちと電車の揺れ心地


電車内。青下はヘッドホンでラジオを聞きながら座って寝ている。ある程度経ったら伊藤と植田が下から入ってくる。


木村『ハロハローウ! お元気ですか高田町の皆さん! 『タカラジオ』ラジオパーソナリティーの木村です! いやー、今年もやって参りましたねクリスマスイブ! 本日の高田町のお天気は曇り後雨。ちょっぴり残念ですが、皆さんはプレゼント、サンタクロースさんに何をお願いしましたかねー? 私はストーブ! そうストーブです! ちょっとお高いものを頼んでしまいましたー。皆さんもこの幸運をしっかり享受しましょうー!』


伊藤「青下さん。青下さん……青下さん。……青下さん!!」

青下「う、わっ……あぁ、伊藤ですか」


伊藤にヘッドホンを外され、ジングルベルストップ。電車の走行音。伊藤と植田は車内販売の缶コーヒーを買いに行っていた。青下はヘッドホンを鞄に仕舞い、缶コーヒーを受け取りながら欠伸。


伊藤「仕事中です。少し離れればすぐこれですね。居眠りは失敗の元になりますので、気を張らないといけません」

青下「……またカフェテリーのブラックですか。伊藤はいつもこのコーヒーと同じくらい表情も苦い。仕事には適度な甘味が必要なのですよ?」

伊藤「しかし青下さん、やはり先日の一件は明らかに気が緩みすぎです。せっかく目撃したサンタクロースを『角を曲がった所で見失った』なんて……植田の部下は何のために高田町に滞在しているんだ。監督がなってないんじゃないのか」

植田「何回言うのさ。はいはい申し訳ない限りです……」

青下「……ん、江戸川はどうしました? 姿が見えませんね」

植田「あぁ、あいつなら先頭車両で景色を見ると言って聞かなくて」

伊藤「仕事中だぞ江戸川ァ!」


伊藤は江戸川を連れ帰るため上へはける。植田は缶コーヒーを開け、一口飲む。


植田「……うん、何回飲んでも苦いなぁ」


電車アナウンス『まもなく~、棚塚を通過致します。その次は~、高田に停まります』


植田「青下さん」

青下「なんでしょう?」

植田「オカルト嫌いで知られる青下さんが、よくサンタクロース捕獲なんて仕事を受けましたよね。この件であなたの下に、あの二人とついた時から不思議で不思議で……。青下さんのことは、色々な人から聞いていたもので」

青下「自分でも不思議なくらいですよ。……ただ、多分僕は、最後の夢を追いかけているだけなんでしょう」

植田「最後の夢? とは?」

青下「……それに、ほら。高田町は有名ではないですか? 『本当にサンタクロースがいる』と。10年前から毎年、高田町全ての住民にプレゼントが届くんでしょう? ……そして僕がこの件を任せられた理由は、かのサンタクロースが殺人を犯した疑いがあるからです。それを追跡しなくては」

植田「それも一般人には隠して、ですね。うん、確かにそれはそうか。まぁそうじゃないと『追跡の鬼』こと青下木月に頼るまでもありませんよね」

青下「……相変わらず、僕に似合わない名ですね」

江戸川「すみませんでした! 先頭車両の景色は最高に綺麗でした!」


江戸川が上から登場、コーヒーを持っている。この辺りでに棚塚を通過するイメージ。


青下「真っ先に非を認めて謝罪できるのは美点ですね。戻りましたか、江戸川」

江戸川「ありがとうございます! はい! 江戸川、戻りましたよ!」

植田「あれ、伊藤はどうしたの?」

江戸川「先頭車両からの景色が最高に綺麗だったもので! 窓に噛りついて興奮しているかと!」

青下「なるほど。後で仕事中だと叱っておいてください」

江戸川「心得ました!」


電車アナウンス『まもなく高田~。高田です。お荷物がある方はご準備下さい』


青下「そろそろですか。長い道のりでした」

植田「高田町はこの路線の電車に乗らなければほぼ交通手段がないことで有名ですからね。故にサンタクロースがいるだとか、未知なる列車が出現するだとか、そういう噂が流れやすい」

江戸川「それに加えてサンタクロースが殺人! だなんて凄いよなぁ。今までの住居侵入罪の黙認も、これで消えたみたいだし……正に半信半疑」

青下「僕にお呼びがかかるくらいですし、本当に五分五分と言ったところでお手上げなんでしょう。……本当に、いるんでしょうかね。サンタクロースは」


伊藤が戻ってくる。やってしまった、といった感じのバツが悪い表情。それに他の三人はあえて触れない。


電車アナウンス『高田、高田です。左側の扉が開きます、ご注意下さい』


青下「よし、降りましょう。伊藤、電車の景色を楽しみたいのなら、もう少し乗っていてもいいんですよ?」

伊藤「仕事中ですので!!」

江戸川「電車で延々とコーヒー飲んでてもいいぞ!」

伊藤「結構!!」

植田「そしたら堅さもちょっとはほぐれるかもね」

伊藤「余計なお世話だ!!」


停車SEと共に暗転。BGM『散歩』。



3 捜索中 in 高田町


明転。声は録音、舞台ではサイレントで一人ずつが高田町を捜査する演技。聞き込み、写真撮影など。


青下『――さて、高田町に着きましたね。では抜き打ちテスト、高田町の三大シンボルを答えてください』

伊藤『サンタクロース』

植田『千本桜』

江戸川『高田草原』

青下『よろしい。ちゃんとそれぞれの道順と立ち寄る場所の名称は覚えていますか?』

植田『昨日徹夜で仕込みました……』

伊藤『俺は一週間前には』

江戸川『さっき初めて見ました!』

青下『……まぁ覚えてるならいいでしょう』

植田『青下さん、私としては『追跡の鬼』であるあなたに同行させて頂いて、追跡術の勉強をしたいと思っていたんですけど……』

伊藤『青下さんに付いていっても、これが何も解りはしない。実体験がある』

青下『あの時伊藤に尾行されてるのは知ってましたから、あえて滅茶苦茶な道を歩きました』

伊藤『え!?』

江戸川『おー、流石です!』

青下『事前に最低限の追跡スキルは皆さんに教えました。それ以上は企業秘密です』

植田『えぇ、そんなぁ』

青下『まぁ頑張ってください。後は……皆さん、くれぐれもサンタクロースに殺人容疑があることを口外しないように』

伊藤『はい』

植田『はい』

江戸川『はい!』

青下『……最後に確認です。今回の件で、殺害されたのは?』

伊藤『殺害されたのは加藤詩乃さん、25歳。女性。高田町在住の一般人です。死因は……刃物で刺されたようで、失血死かと思われます』

江戸川『血だらけで倒れているところを発見され『サンタクロースが』と残し、救急搬送されましたが、病院で死亡が確認されました』

植田『傷の深さや付き方、更に辺りに危険な状況も見られなかったため殺人と断定。ダイイングメッセージ、合わせてその時間帯での高田町各地の目撃証言から、サンタクロースを犯人と仮定、調査中です』

青下『パーフェクト! では、ここからは別れて行動しましょう。吉報を期待していますよ』


伊藤植田江戸川はそれぞれの返事。最後、青下は一人で高田草原にたどり着く。BGM、FO。



4 夢との邂逅


揺れる草のBGM。遠くでジングルベルが聞こえる。下だけ明るい。


青下「行程は八割ほど消化……しかし未だ有力な情報はなし。皆さんからの連絡もなし、ですか。……原っぱ以外何もありませんね、高田草原」


青下が中央まで歩いていくと、上が明転。サンタクロースが両手を伸ばしてうつ伏せで倒れている。


青下「……え?」

サンタ「(顔だけがばっと上げて)はっ!? 警察!?」

青下「あ、いや、あの……」

サンタ「逃げなきゃ……捕まるわけには……いかないのよぉ……」


サンタは芋虫のように体をくねらせて上へ逃げようとするが、遅すぎるためあっさり青下に止められる。青下は両手でサンタの頭を押さえながら話す。


青下「服が汚れますよ。あなたは……?」

サンタ「……サンタクロース。えぇ、そうよ! 殺人を犯し高田町を逃げ回る幸福のシンボル! 私こそがサンタクロースよ! ちなみに本名!」

青下「……え? サンタ、クロース?」

サンタ「そう!」


サンタが、手を叩くと青下は操り人形になり、変なポーズをさせられる。サンタはゆっくり、しんどそうに立ち上がる。


青下「な、な、な……!? これは!?」

サンタ「んー、まぁ何というか、サンタパワーかな」

青下「や、止めてください!」

サンタ「はいどーぞ」


青下は解放される。


青下「……サンタクロースさん?」

サンタ「そうだって言ってるでしょ」

青下「サンタクロースというのは、太ってて白髭の老紳士のはずでは」

サンタ「考え方が古いわね。女の子のサンタさんは駄目なの?」

青下「いや駄目というわけじゃあ……」

サンタ「サンタパワーは見せてあげたから、信じてくれたよね。……じゃ! 私捕まりたくないので、逃げます!」

青下「あ、ちょっと、待ってください!?」


サンタはダッシュの構え。しかしその直後うつ伏せになり、芋虫式移動を行う。


青下「……警察を舐めてるんですか?」

サンタ「……舐めてないから逃げようとしてるんじゃないの」


呆れた青下は警察手帳をサンタに見せる。


青下「とりあえずストップ。僕は青下木月……一端の警察官です。まぁ職務上訊きますが……あなたが例のサンタクロースで、加藤詩乃さんを殺害した犯人、でよろしいですか?」

サンタ「…………そうよ」

青下「……そうですか。動機は?」

サンタ「……普通に? ムカついたってところかしらね」

青下「なるほど、わかりました。……これで、降って沸いた僕の夢は実って、また消えてしまうのか。はは、案外……あっけなかったな……」

サンタ「……夢?」

青下「サンタクロース。あなたを住居侵入罪及び殺人罪の容疑で逮捕します」


青下は寂しそうに手錠を取り出し、サンタにかけようとする。しかしサンタは両手を上げて降参のポーズ。


サンタ「あ、ちょっと待った――っ! 抵抗! 抵抗しないから! まだ私を捕まえるには早い!」

青下「待ちません。殺人犯の口車に乗る警察ほど愚かな存在はありませんからね」

サンタ「え、じゃあ今私を捕まえたら、私、消えちゃうけど良いの?」

青下「……え?」

サンタ「サンタクロースってのは『その身の自由』を奪われると真っ白な雪になって消えちゃうの。つまり今の私に手錠をかけたら? 殺人を犯した大罪人……私は高田町から、ましてやこの世界から永久に失われてしまうというわけ」

青下「――」

サンタ「サンタパワー尽きかけの無抵抗な私に、そんな無情なこと――ニッポンのお巡りさんならしないよね?」


暗転。BGMストップ。



5 サンタクロース協力体制→完成


明転するとファミレス内。青下は部下3人と合流し、席で人を待っている。サンタはサングラスをかけて変装している。


植田「――つまりです! 私は将来素敵な男性と出会うために! この警察という職を選んだわけですよ! 素敵な男性と結婚して、幸せな日々を送るんです! いいでしょう!?」

江戸川「いいねー!」

サンタ「素敵ー!」

江戸川「江戸川はとにかくお金持ちになりたいっす! そしたら高級外車に乗って東京の街に繰り出す! クラクションなんか陽気に鳴らしちゃったりして? ははは!」

植田「マーベラス!」

サンタ「イカしてるー!」


店員が席にやって来る。


店員「はーい、ご注文をお伺いします」

青下「アイスティーとミルクを」

伊藤「ブラックコーヒー」

植田「オレンジジュースください」

江戸川「コーラで!」

サンタ「シャンパンお願いしまーす!」

店員「申し訳ありません。当店にシャンパンはございません」

サンタ「……じゃあオススメで!」

店員「本日のオススメはブラックコーヒーです」

サンタ「あじゃあオレンジジュースで」

店員「かしこまりましたー」


店員はける。


植田「……コーヒー苦手なの?」

サンタ「基本的に私は超絶甘党よ。ブラックは天地がひっくり返るくらい嫌いなの。あ、ほら、ホワイトクリスマスとも言うし!」

江戸川「お、上手いっ! よっ、サンタクロースジョーク!」


江戸川は一人で寂しく拍手。そして沈黙。


伊藤「……それで、これは一体どういう状況なんですか。今の話がどうして始まったのかすらわからない」

江戸川「確かサンタが始めたよな」


サンタはそうだっけ?的にとぼけた仕草。


青下「……殺人犯の口車に乗ってしまいました。僕は警察官失格です」

サンタ&江戸川「ダイジョブダイジョブ良いことあるって!」

植田「何でそこ息ピッタリ!?」

伊藤「……説明してください、青下さん」

サンタ「あ、説明は私からする。……まず、私は人殺しなの!」

伊藤「さっき聞いたよ。何でも、俺たち警察から逃れるために『力』とやらを使いすぎて倒れてたところを発見されたそうじゃないか」

サンタ「そう! でも、私は不思議で奇跡的な存在だから『その身の自由』を奪われると、要するに手錠をかけられると真っ白な雪になって消滅しちゃうの!」

伊藤「それも聞いた!」

江戸川「聞きたいのはその先!」

サンタ「えーっと、だから! ちょっとだけ、執行猶予を頂戴って話なの」

植田「……え、まだ裁判してないから刑罰も確定してないけど」

サンタ「物の例えよ! わかんない人ね……まぁ、それで。今日が終わるまで、つまり12月24日……高田町のクリスマスイブが終わるまで、私を逮捕するのを待ってほしいの。……やるべき事が済んだら、ちゃんと捕まるから」

伊藤「……やるべき事って?」

サンタ「プレゼントを、配らないと駄目なの」

伊藤「……そんな理由で情状酌量を求めようとでも?」

青下「待ってください伊藤。そうしなければならない理由があるのです」


伊藤は青下とサンタを交互に繰り返し見た後、姿勢を戻す。


サンタ「……あなたたちはこの町、高田町で10年前に起きた『イブの悲劇』って事件を知ってる?」

植田「あぁ、知ってるよ……10年前の、丁度今日。無差別に老若男女関わらず、突然多数の死亡が確認された事件。確か犯人もわからずに迷宮入りして……町の三分の一の方が亡くなって……残された人たちも一気に士気を失ったはずで……あれ? そう言えば」

サンタ「そう。私が高田町に降臨して、プレゼントを配り始めたのも10年前よ。つまり『イブの悲劇』の翌日からね。……私の役割は『イブの悲劇』で傷付いた町の人たちの心を癒すこと。あの日自我を持って以来、その目的は何故か記憶に焼き付いて離れなかったの。私という存在がサンタクロースだってこともわかってた」

江戸川「それで、プレゼントを配って……」

青下「高田町のサンタクロース伝説が始まるわけです。伝説というか、もう事実に近いですけどね。この人のお陰で町は復興したと言ってもいいでしょう」

サンタ「町の人たちの心の傷が完全に癒えるまで、私は毎年プレゼントを配らないといけない。……けど、人殺しなんかしちゃったらもうそんな資格はないよね。うん、でも、資格はないけど、私は腐ってもサンタクロースだから」

伊藤「と、いうことはつまり……」

サンタ「最後にもう一度だけ、プレゼントを配りたいの。人殺しが夢を届けるなんて、おこがましいかもしれない……けど、それでもこの町のみんなは傷ついてるから。イブが終わるまでには絶対終わらせて、捕まる。だから、お願い」

植田「あー……これは青下さんが頷いちゃうのもわかるかも」

青下「『イブの悲劇』はこの国が匙を投げた事件の一つです。その事件の傷をただ一人孤独に、この人は治そうとしてくれていた。それに僕たちが付いていることで、もし何か妙な真似をされても対処できるでしょう。……協力してくれますか。伊藤、植田、江戸川」

植田「なるほど。……そうですね。そういうことなら、私は……」

江戸川「江戸川も賛成です!」

青下「……伊藤はどうですか?」

伊藤「……青下さんがいいなら、いいでしょう。協力します」

サンタ「ぃやったぁぁぁぁっ!!」

警察組「うるさい」

サンタ「すみませんでした(土下座)」

青下「ありがとうございます。ではこの事は本部には秘密で、お願いしますね」

伊藤「ファミレスで土下座するようなサンタクロースと本部に隠すべき秘密を共有、ですか……」

サンタ「(立ち上がる)改めて自己紹介すると、私はサンタクロース! 本名よ。よろしくね、アオッチ! イトッチ! ウエッチ! エドッチ!」

警察組「待て待て待て待て待て」


警察4人は変なあだ名に対して不満を言う。


サンタ「何よ、別にいいでしょ。あだ名の方が愛着沸くし」

江戸川「警察に愛着を求める殺人犯っているのか!?」

伊藤「前例がねぇよ」

サンタ「大丈夫よ、約束は守る! 日付が変わった瞬間に消滅してあげるから!」

植田「何かとんでもないこと言ってる……」


そこへ、工藤がその娘とやってくる。


工藤「――いや、お待たせしました! すみません、道が混んでおりまして……」

青下「おや、来られましたね」

サンタ「(小声で)……この人」

伊藤「(それに気付いて)工藤さん……被害者の死に際を発見した重要参考人。お前も知ってるんじゃないのか?」



6 工藤×2の証言+主張=x


青下「植田、江戸川。僕が工藤さんと話している間、外で五人分の夜食と飲み物を買ってきてください」

江戸川「おおっ! 希望はあります?」

青下「僕はメロンパンとミルクティー。あ、午後ティーにしてください」

伊藤「俺は何でもいい」

サンタ「ショートケーキ! イチゴおっきめで!」

江戸川「心得ましたー!」

植田「あ、おい! 店内で走るな! す、すみません……」


植田は工藤に申し訳なさそうに笑って江戸川を追い、店を出ていく。


工藤「ずいぶんと、仲がよろしいようで」

青下「そう見えますか? これでも初めて顔を合わせてから二週間……と一時間ですよ」

工藤「ははは、ええ、相性バッチリだ。……ほら、言った通りに挨拶しなさい。前に言っていた青下さんだよ」

娘「……こんにちは。工藤惠子です。今年で15になりました」

青下「惠子ちゃん。可愛らしい娘さんですね」

娘「どうも」

工藤「すみませんね、娘がこの店のオムライスが食べたいと言って聞かなかったもので」

青下「構いませんよ。……それでは、改めて12月6日のお話を聞かせてください」


娘は座ってゲームで遊びだす。


工藤「はい。前回は記憶が曖昧で、あまりお話しできませんでしたが、今になってようやく鮮明に思い出せたこともあります。あの憎むべきサンタクロースが捕まるのなら、それも話しましょう」

サンタ「……」

青下「伊藤、メモを」

伊藤「わかってます」

工藤「12月6日……あの日の夜、私はこの町の串屋戸通りを歩いていました。ええと、まぁ繰り返しになりますが。その時、路地裏から悲鳴が聞こえてきました。女性のもので……加藤詩乃さん、と言いましたね」

青下「はい」

工藤「加藤さんの声は酷く痛ましいもので……私の体はいつの間にか動いていました。そこで見つけたのが、血だらけの、加藤さん……刺殺だったそうで」

青下「……その時の気持ちはお察し致します」


店員が席にやって来て飲み物を置く動作。


店員「お待たせしましたお飲物ですー」

娘「――ドリア!!」


娘はそう叫んで、またゲームをし始める。しばらく沈黙の後、店員は普通に返事をして帰っていき、工藤たちも何事もなかったかのように話を戻す。


工藤「必死に呼び掛けましたが、最後に『サンタクロースが』と残され、意識を失ってしまいました。最後に加藤さんの視線が向けられていた方を見ると、サンタクロースのような人影が、一瞬。目があったと思ったら、瞬きの後には消えていたのです」

青下「ふむ。ここまでは前回と同じ流れですね」

工藤「思い出したのはサンタクロースの姿形です。聞いて驚いてください、サンタクロースは小柄な女です」


青下、伊藤、サンタは気まずそう。


工藤「どうされました?」

青下「あぁいえ。何でもありません。なるほど、確かに良い情報だ。ありがとうございます」

工藤「いえ。……青下さん。私はこの町を愛しています。ですから、私としてはこの事件、到底見過ごせるものではありません」

青下「……わかっています。その気持ちは我々警察も同じですよ。ですからこうしてお話を伺わせて頂いてるんです」

工藤「プレゼントを配ってくれるサンタクロースは好きでした。『イブの悲劇』で傷付いた娘の……笑った顔が見られたのもサンタクロースのお陰、だった。……しかし! 人を殺す、サンタクロースなんて……! この町に居て良い存在ではない! 私は、この町と! 娘がいとおしい! だから私はサンタクロースを憎むんですよ! わかりますか!」

青下「……ええ。わかります。なるべく早く……そうですね。今日か明日には捕まえてみせましょう」

工藤「それは、本当ですか!?」

青下「約束します」


伊藤も合わせて頷く。店員がドリアを持ってやってくる。


工藤「そうか! それは頼もしい……!」

店員「お待たせしました、ドリアでございます」


店員はドリアをテーブルに置いてはける。視線が集まり、娘はゲームを止める。


工藤「……そう言えば惠子、お前、食べたいのはオムライスだって」

娘「気が変わったの。今食べたいのがドリアだっただけ」

工藤「そ、そうか」

娘「……私は」


沈黙。


娘「サンタさんは殺人なんてやってないと思う」

工藤「惠子、そんなわけないだろう。屁理屈を言って場をややこしくするんじゃない」

娘「……うん、屁理屈だよ。でも、私は10年前、サンタさんに助けられたから。友達も、大谷のおばさんも、お母さんも死んじゃって……それでも笑えたのは、サンタさんのお陰、なの。だから私は信じたい」

工藤「こらっ。すみませんね、青下さん」

青下「惠子ちゃん……」

娘「私はサンタさんに夢を貰ったの。例えばこのゲーム。例えばこの帽子。……例えば、笑顔。みんなサンタさんから貰ったんだよ」

青下「……夢」

娘「警察の人って、夢はあるの?」

青下「…………」

伊藤「……あるよ。俺は犯罪者を捕まえまくって出世して、悠々自適に暮らして、大学の奴らを見返してやりたい。それが俺の夢だ」

娘「それなら夢って、叶ってほしいよね。……私も、似たような気持ち。お父さんは信じてないみたいだけど……夢をくれたサンタさんが、人を殺したなんて思いたくない。今日は、欲しいゲームソフトが届くのをちゃんと待ってる。私はまだ、サンタさんを信じてる」

青下「……夢は、願うものですからね。夢は……そうです、持っておいた方がいいでしょう。結果がどうあろうとも、未来を見ない人間に明日は来ませんから。惠子ちゃんの言うことも一理あります」

娘「……ありがと」


娘は荷物をまとめ、席を立つ。


工藤「惠子?」

娘「帰る。言いたいことは言えたから」

工藤「帰るって、一人で? 危ないだろう。もう少し待って」

娘「私」


娘はため息をつく。


娘「……もう、そんなに子供じゃないから」


娘は店を出ていく。すると入れ違うように植田と江戸川がコンビニ袋を持って戻ってくる。


江戸川「ただいま帰還しました! ごめん、ケーキは売り切れてた!」

植田「声量! 声量!」

江戸川「あ、ごめん」

工藤「……私も、娘が心配だ。この辺りで失礼させて頂きます」

青下「あぁ、わかりました。貴重な証言、重ねて感謝致します」

工藤「ええ。では」


工藤は店を出ていく。


植田「……それで、どうでした?」

青下「……僕の意志は、変わりません。プレゼントを配り終えたら、高田町を脅かす殺人犯を捕まえる。それだけです」


それを聞いてサンタは四人に背を向ける。


サンタ「でも、私を必要としてくれる人は、やっぱりいるのよね」

伊藤「……そうみたいだな。少なくとも、一人は」

サンタ「うん、それだけでモチベ上がりまくりってもんよ」


『蛍の光』が店の外からぼんやりと聞こえる。四人はサンタを見つめていると、ふと江戸川がテーブルに置かれているものに気付く。


江戸川「……あ、ドリアだ。うまそ」


暗転。


木村『――五時です、五時です。良い子のみんなは、家に帰りましょう。五時です、五時です。良い子のみんなは、家に帰りましょう』


『蛍の光』ストップ。



7 夢の運び屋


明転。もうすっかり夜になっている。伊藤、植田、江戸川は疲れてその場に座り込む。それを見る青下と変装を解いたサンタ。


植田「ああああああ疲れたぁぁぁ……」

伊藤「あんだけ走り回るとか……聞いてねぇ」

江戸川「ドリアなんか食べなきゃ良かった……」

サンタ「みんな、特にアオッチはありがとね! サンタパワーの助けもあったとはいえ、アオッチもはや人間じゃないよね」

青下「皆さん、このくらいでへばるようでは免許皆伝は程遠いですね」

サンタ「ホント、私に着いてこれるとかどんな脚力してんのよ」

青下「……まぁ、一応『追跡の鬼』と呼ばれているもので。サンタさんが足を向ける方角と思考を照らし合わせて先回りしただけです。プレゼントを配るために町を回るのにも、効率という考え方があるでしょうからね」

サンタ「すご! 詳しく教えてよ、来年のプレゼント配りの参考にする!」

青下「企業秘密です。……それに、あなたに来年なんかありません」

サンタ「…………あー、そっか。ちぇっ」

植田「うん、でも凄い頑張った! もう全部配り終えたんじゃない? ……まだ10時。時計の針が真上で重なるには早いかなー」

青下「サンタさんの『煙突がある家は必ずそこから入る』という謎ポリシーがなければもっと早くに済んだでしょうね」

サンタ「謎じゃないし! ……あと、まだ終わってないよ。次がラスト一軒」

江戸川「え、まだあるのか!?」

サンタ「むしろここからがアオッチたちに手伝ってもらってる事の本命よね。――あの人の、気を引いてほしいの」


ブル転して、シルエットだけ見えるようにする。中央に伊藤、植田、江戸川。伊藤がインターホンを鳴らすと、上から工藤が出てきて、ドアを開ける。


工藤「はーい。おや、あなた方は確か青下さんの……」

伊藤「夜分に失礼。臨時の部下を務めている伊藤です」

植田「同じく植田です」

江戸川「同じく江戸川です」

工藤「これはこれは、お疲れ様です。それで、こんな時間にどのようなご用件で?」

伊藤「それが、調査についてわかったことが幾つかありまして。それを是非、直接お伝えさせて頂ければと。今からよろしいですか?」

工藤「あぁ、なるほど。そういうことなら。……惠子、少し出かける! ……では、行きましょうか」

伊藤「ええ」


四人は下へはける。ブル転解除すると、工藤の家の中、娘の部屋。クリスマスツリーが飾ってある。上から青下とサンタがこそこそと出てくる。サンタは懐中電灯を持っている。


青下「……その懐中電灯ってここらの警察専用の物では」

サンタ「細かいことはいいの。それに、なるべく喋らない方が良いわ。工藤さんはいいけど、惠子ちゃんにいつ気付かれるかわからないし」

青下「まぁ、工藤さんに見つかれば終わりですからね。このために僕たちを延々こきつかっていたのかと思うと、なかなか自分が不憫に思えてきます」

サンタ「だから、細かいことはいいの。さーて、惠子ちゃんの夢を壊さないよう頑張りましょっかー」

青下「殺人サンタなんて、そもそも夢壊しまくりですけどね」

サンタ「もー、さっきからなんなのよ。そう言うアオッチは夢の一つも持ってないの?」

青下「……さぁ、どうでしょう」

サンタ「ふーん」


青下とサンタが下のギリギリまで来るが、そこで娘と鉢合わせる。


青下&サンタ「あっ!!」

娘「……え」


青下とサンタは慌てて上の方に下がる。青下はさっきサンタを変装させるのに使っていたサングラスを咄嗟に付ける。


サンタ「な、なんでアオッチが付けてんのよ!」

青下「し、しまった……!」

娘「……えっと。もしかして……サンタ、さん?」

青下「……え、っと」

サンタ「……ええ。私がサンタクロース。本名よ」

青下「え!?」

娘「……サンタさんっ!!」


娘は絶叫し、驚く青下とサンタ。BGM『「ただいまっ、帰りましたっ」』。


娘「……あの時は、ありがとうございました!」

サンタ「……いいの。それが私の役割だったしね」

娘「あの時、プレゼントを貰えてなかったら……今の私は、きっとなかった。この世界に居なかったかもしれない」

サンタ「……そう。それは良かったわね」

娘「……ねぇ! サンタさんは……! 殺人なんか、絶対の絶対に、してないよね!?」

サンタ「……」

娘「お願い、答えて」

サンタ「……さぁ、どうだろ。してないんじゃないの? わかんないけどさ」

娘「……私は信じるからね。誰が何て言っても、何歳になっても、絶対。サンタさんを信じる」

青下「……『見つかったら即時撤退』。あなたのポリシーですよ」

サンタ「わかってる。けど、本末転倒は嫌だよ」


サンタは持っていたプレゼント箱二つを娘に差し出す。


娘「これ……」

サンタ「惠子ちゃんにゲームソフトと……お父さんに、マフラーね」

娘「……毎年思ってたけど、何で欲しい物がわかるの?」

サンタ「ふふ、高田町のみんなが欲しい物くらい、サンタさんはちゃんと調べてるんだから!」

娘「……そうなんだ」

サンタ「あと、最後に。……私、来年からはフィンランドにある実家に帰っちゃうからさ。しばらくお別れね」

娘「……え」

サンタ「それじゃーね、惠子ちゃん。メリークリスマス」


サンタは来たところを引き返すため、上へはけようとし、それに青下も続く。しかし娘に呼び止められる。


娘「サンタさん! と、警察の人!」

青下「……バレてましたか」

娘「――届けてくれて、ありがと! メリークリスマス!」

サンタ「……うん。メリークリスマス」


サンタと青下は上へはける。暗転。BGM、FO。



8 サンタクロースと警察官


明転。工藤の家から逃走した青下らと合流し、一行は電車で高田駅に向かっていた。電車走行音。


電車アナウンス『次は~、高田。高田です』


サンタ「みんな、本当にお疲れそしてありがとう! お陰で高田町プレゼント配りツアーは大成功よ!」

伊藤「もっと感謝しろサンタ。俺たちが工藤さんに怪しまれないためにどれだけ真偽織り混ぜて話をしたか」

植田「口裏合わせとかしてる暇なかったしマジで疲れたよ……」

江戸川「体感的には走り回ってた時より疲れた」

サンタ「ごめんごめん。私には出来ない仕事だったし、この中で一番有能そうなのがアオッチだったからね。……そんな活躍してなかったけど」

青下「うるさいですね……僕も万能ではないんですよ」

サンタ「とにかく! これでプレゼント配りは終了!」

警察組「おおおおおおおお!」

サンタ「……と! いきたいところなんだけど!」

警察組「ああああああああ……」

植田「嘘でしょ、まだ走らせるの……!?」

江戸川「ぶーぶー!」

サンタ「いーえ。最後のプレゼントは四つ。……まぁ、あなたたちの分よね」

植田「え!?」

青下「……これは意外です」

伊藤「どういう風の吹き回しだ?」

サンタ「どうもこうも、純粋に労ってあげようって私の感謝が透けて見えないの? ホントわからず屋ね」


サンタはぶつぶつ言いながら袋から箱を取り出す。


サンタ「これはウエッチ。将来家事するときに必要でしょ」

植田「え、これ結構良いとこのフライパンじゃん! 凄いなぁ、やっぱ10年サンタやってるだけセンス良いね。ありがとう」

サンタ「こっちはエドッチかな。クリスマス宝くじ一万円分。当たるかは知らないからね」

江戸川「マジで!? うわ、めっちゃありがとう! ひゃー、当たるかなー!」

サンタ「これがイトッチ。仕事とかきっちりしたいなら使ってよ」

伊藤「……腕時計じゃねぇか。まぁ、ありがとう(満更でもなさそう)」


伊藤、植田、江戸川はそれぞれプレゼントを眺めて喜んでいる。


サンタ「最後にアオッチか」

青下「……一体何が飛び出すんでしょう」

サンタ「――えい!」


サンタは手を叩く。すると、伊藤植田江戸川はストップモーション。走行音もストップ。そして周りが暗くなる。


青下「こ、れは」

サンタ「んー、まぁ何というか。サンタパワーってやつ」

青下「それは分かります。……どういうつもりでしょう。プレゼント配りの時も、倒れていたとは思えないほど力を使われていましたが」

サンタ「プレゼント配りに必要なサンタパワーくらい温存してたに決まってるじゃない。でもまぁ、とっくに尽きてるはずなのはご名答。今、結構ギリギリなんだからね?」

青下「では、どうしてわざわざ」

サンタ「アオッチに何をあげればいいのか、本気でわからなかったの」

青下「……」

サンタ「アオッチが協力してくれることになってから、私が何回か探りを入れてたのは気づいてたよね?」

青下「夢がどうとか、将来がどうとか」

サンタ「それよ」

青下「余りにも不自然な話題だったので覚えていますよ」

サンタ「そうよね。……これは経験の勘みたいなものなんだけど。人間ってのはね。夢と欲しい物がよく重なってるの。サッカー選手になりたい子供はボール、ストレスから逃れたい女性はブランド物って具合にね」

青下「それと僕に、何か関係でも?」

サンタ「私は決して夢を直接叶えてあげるようなことはしないの。夢を叶える手助けをするだけ。サッカー選手にはしてあげないし、ストレスと戦ってもあげない」

青下「……御託はよして下さい」

サンタ「……アオッチってさ。――夢、無いよね?」

青下「…………」

サンタ「『夢がない人にプレゼントは配らない』。その人が未来を見てないなら、あげたプレゼントが無駄になっちゃうわ。これは私のポリシーよ」

青下「……そうですね。どうせ、今の僕に夢は、ありませんよ」

サンタ「今じゃなくて、昔のことなら話せるんじゃない?」

青下「……殺人犯に、話す、ことなんて」

サンタ「話してみたら? アオッチに夢を届けたいの。……だって私、サンタクロースだもん」


BGM『父親』。


青下「……僕は、サンタクロースが嫌いでした」

サンタ「うえ、いきなり傷つくなぁ」

青下「あなたそのものの事ではありません。全てのオカルトが嫌いだったんです。……きっかけはサンタクロースでしたが」

サンタ「きっかけ?」

青下「僕が幼い頃。……忘れもしない。クリスマスイブ、サンタさんが大好きだった僕はその姿を一目見ようと、こっそりと起きていたんです。……けど、その夜を境に、僕は夢を見つけられなくなってしまった」

サンタ「――サンタクロースの正体を、見てしまった」

青下「……父親がプレゼントを置いている姿を目の当たりにして、僕は全てが信じられなくなりました。当時大好きだったものが偽物だったと知り、相当なショックを受けた。『どうせあれもこれも偽物だろう。偽りの夢なんだろう』。そう思って、テレビの中のヒーローも、UFOも、タイムトラベルも、宇宙人も信じなかった。僕を騙そうとしていると思えてならなかった」

サンタ「……私は、本物よ?」

青下「あなたを捕まえてくれと、その話を上から受けた時、僕は『本当にサンタクロースがいるかもしれない』と、久しぶりに夢を取り戻したような気がしたんです。それで、実際あなたと出会って……確かに本物だった。喜びました、報われたような気持ちになりました。……まぁ」

サンタ「その代わり、殺人犯って事も本当だったわけね」

青下「……ガッカリでした」

サンタ「ごめんね、夢壊すようなことしちゃって。サンタクロース失格案件ね、まったく」

青下「僕の夢は、今日までずっと閉ざされたままです。何もないんです、空洞なんですよ、僕は……」

サンタ「……アオッチは、何のために警察になったの?」

青下「……え?」

サンタ「ウエッチは素敵な異性と出会うため。エドッチはお金持ちになるため。イトッチは人を見返すため。……あなたは?」

青下「……それは」

サンタ「青下木月さん。あなたはなんで警察官になったの?」

青下「…………人を、助けたかった、ような気がする」

サンタ「うん」

青下「夢を否定するような、悪い奴らなんか居なくなればいいのにって、思ってたんです」

サンタ「そうなんだ」

青下「僕の、小さい頃からの夢は……警察官だった……!」

サンタ「へー、凄いじゃん」


青下は涙が溢れないように上を見ている。


青下「忘れてた。何で僕は警察官になったのか……!」

サンタ「悪い人をやっつけるためだよね」

青下「うん。そうなんだ。そうだった。忘れてたんだよ……!」

サンタ「よしよし。……今まで、頑張ってたんだねー」


青下は下を向く。


サンタ「今までやってこれたなら、これからも頑張りなよ。……じゃ、次の目標決めちゃおう。悪い奴100人確保ー! とか?」

青下「……1000人の間違いでしょう。僕は『追跡の鬼』ですよ」

サンタ「だったね。頑張って」

青下「……はい」


不意に、周囲が明るくなる。すると、二人の話に耳を傾けて泣いている部下三人組。電車走行音。


青下「……え」

サンタ「あ……ごめん、サンタパワー尽きちゃった」

江戸川「青下さん……! うわあああそんな辛い過去を持ってたなんてええええ……!」

植田「これは涙無しには語れないね……!」

伊藤「一生付いていきます(真顔)」

青下「あ、いや、あの、あー……あ――」


青下は立ち上がって服を整え、全員に背を向ける。


青下「……聞かなかったことに、出来ませんか?」

部下組「無理っ!!」

サンタ「てへ」


暗転。BGMストップ、停車SE。この時点で11時くらいのイメージ。


電車アナウンス『高田~、高田です』



9 ――全てを、騙していた言葉


ブル転。舞台には誰も出ていない。マイクで会話。


サンタ『……みんな。私がいなくなっても、きっとまた高田町に来てよ。そして、この町で夢を語って。そしたら私も空からサンタパワーで祝福してあげる!』

青下「……ええ。きっとまた、来ます。結構、好きな町になりましたから」

サンタ『……うん、約束よ。……ねぇ』

青下『どうしました?』

サンタ『よく聞いてね。……えっと、私、実は――殺人なんてやってないんだ』

青下『――は?』


舞台下から後退り、逃げようとする加藤が出てくる。それを包丁を持って、路地裏に追い詰めた『何者か』。それは顔を隠している。


加藤「あなたは、誰!? なんなの!?」

??「……」


サンタ『『イブの悲劇』は10年前に起こった。けど、それ以降も……毎年この時期に、再発していたの。『よくないもの』によってね。私が阻止してたんだ』

青下『話が、理解できません! どうして、そんなこと、今まで!』

サンタ『『よくないもの』は世界のバランスが崩れて起こるエラー、みたいなもの。『イブの悲劇』もそれが原因だったみたいで、私が毎年止めてたんだけど……今年は、しくじっちゃった』


加藤「止めて……止めてよ! 近づかないで!」

よくないもの「――!」

加藤「きゃあああああああああ!!」


加藤は包丁で全身をしつこく刺される。


サンタ「どけぇええええ――っ!!」


サンタは下から走ってきて、よくないものを加藤から引き離す。


サンタ「よくも! よくも! よくも!! この町の人を!!」


サンタとよくないものは下の方へなだれ込み、サンタはよくないものを蹴ってはけさせる。工藤が下から走ってやってくる。工藤は加藤に駆け寄り、呼び掛ける。


工藤「――どうした! 何があったんだ!!」

加藤「あ、あ……」

工藤「しっかりしろ! 酷い傷……すぐ救急車を!」

加藤「さ…………が」

工藤「どうした!?」

加藤「さんた、くろーす、が…………」


加藤(録音)『――守ってくれた』


加藤は意識を失う。


工藤「おい、おい! おい!! しっかりしろ!!」


工藤は錯乱して辺りを見渡すと、こちらを苦い顔で見つめるサンタを発見する。


工藤「サンタ、クロース……!」


サンタは逃げるように下へはける。雨が降り始める。ブル転。



10 缶コーヒーの誓い


ブル転解除、ホリは青。雨は降り続いている。折り畳み傘を持って高田駅の前に佇む伊藤、植田、江戸川。ふと三人は同じタイミングで缶コーヒーを二本ずつ取り出し、他の二人に渡しにいく。


部下組「……あ」


少し気まずい空気。


植田「いや、まぁ、こういう時はカフェテリーのブラックコーヒーかなーってさ」

江戸川「そうそう、いつもは伊藤が皆の分買ってきてくれるから、今日くらいは自分がって、な」

伊藤「……お前ら、嫌々言っときながらこのコーヒー気に入ってたのかよ。全員カフェテリーで、しかもブラック」

植田「いやあ、たまたまでしょ」

江戸川「そうだな」


少し沈黙。


伊藤「……どうする。青下さんが……見つからねぇ」

植田「サンタさんが、あのファミレスの前で待ってるって言ったきりだから……そこには居ないんじゃないかな」

江戸川「……なぁ」


江戸川の声に、他の二人が反応。


江戸川「青下さんがさ、何も知らない内に……捕まえよう。サンタさんを」

伊藤「……俺もそれが良いと思う」

植田「私も」

江戸川「だってさ、あんな気持ち聞かされたら……捕まえないわけにはいかないでしょ。江戸川は……エドッチとして。青下さんの信用を失う覚悟だよ」

伊藤「ああ。……お前ら。そのコーヒーは自分で飲んどけ。どうせ誰が誰に渡しても本数は変わらねぇしな」


植田と江戸川は頷き、缶コーヒーを開けて一口飲む。


植田「……やっぱり、結構、苦いね」


暗転。



11 逃げる者たち、追う者たち


明転。下側にサンタクロース、上側に伊藤、植田、江戸川。伊藤は手錠を持っている。


伊藤「……少し早いが、青下さんに知られない内にあなたを――俺たちの独断で逮捕する。いいな」

サンタ「……うん。その方がいいかもね。アオッチ、意外とデリケートだから」


伊藤は頷き、サンタに近寄る。しかし、突然上から青下が現れる。


青下「待てぇえええええ――っ!」


サンタと伊藤を乱暴に引き離し、伊藤を突き放す。


植田「青下さん!?」

江戸川「どうして……!」

青下「はぁ……はぁ……逃げますよ!」

サンタ「え、ちょっ、と……!」


青下はサンタの手を取って下へ走り、はける。部下たちは青下を呼ぶが、当然返事はない。伊藤が「行くぞ!」と言い、部下たち追いかけてはける。

青下は下からサンタの手を引いて走って、上へはける。サンタは少しだけ抵抗している。

そして上からまた二人が現れると、そこは高田草原。揺れる草のBGM。遠くでジングルベル。



12 午前0時と、ちょっと前


青下はようやく手を離し、走るのを止める。


青下「……僕の脚力は、人間じゃない。でしたっけ。多分彼らはすぐには追い付けません」

サンタ「……アオッチ」

青下「逃げてください。殺人なんかしていない……あなたはただの善良なサンタクロースだ。消えて良いような人じゃない。夢を届ける存在で、有り続けてほしいんです」

サンタ「あはは、気持ちは嬉しいんだけど、私は――」

青下「――居なくならないで下さい!!」


青下が声を張り上げ、驚くサンタ。BGM『星空』。


青下「……あなたが消えたら、僕は。どうしようもなく悲しくなってしまって……1000人に届く前に、希望を見失ってしまいそうで」

サンタ「……アオッチって、優しいようでいて、結構自分勝手な人なのね」

青下「……そんなことは」

サンタ「殺人犯じゃない事、黙っててごめんね。そのまま捕まえてもらおうと思ってたんだけど……アオッチたち、優しかったし、思ったより仲良くなっちゃったし。……うん、受け入れてくれるかなーって、魔が差しちゃった」

青下「サンタさん……」

サンタ「私だって、好き好んでこの世界から、高田町から居なくなりたいわけじゃないの。でも……私は多くの人の幸せよりを求めるよりも、一人の不幸をなくしたいから」

青下「……どういうことですか」

サンタ「イトッチたちには先に言っちゃったんだけどね。……工藤さんに見られてる。あの人、殺人犯が私だと思って疑ってない。――工藤さんが落ち着いて、安心した日々が送れるなら、私は消えてもいいよ」

青下「そんな……たった一人のために」

サンタ「たった一人のために命張るのは、警察も同じじゃないの?」

青下「……」

サンタ「『イブの悲劇』はこの世界のバランスが崩れたから起こったって、言ったよね。分かりやすく言えば、その特効薬として処方されたのが私。けど、私みたいな存在がいても、世界のバランスが崩れるのは同じよね。――サンタクロースって、普通は、いないものだからさ」

青下「……ここに、いるじゃないですか」

サンタ「それが幻じゃない、とは限らないでしょ? 単にアオッチが夢を見てるだけとか」

青下「……そんな事言わないでください」

サンタ「私ってイレギュラーな存在がいるから、世界もそれと釣り合いを保とうとして『よくないもの』をこの町に引き寄せる。……私が悲劇を勝手に毎年引き寄せて、勝手に退治してた。広い意味で言っちゃえば、確かに私は人殺しだったって事。10年もよくプレゼント配らせてくれたよね、ホントに」

青下「……」

サンタ「――私が消えれば、町の人たちがこれ以上襲われる事もないの。だから、お願い。――私を捕まえて。お巡りさん」


青下はしばらく黙っているが、遂に覚悟を決め、手錠を取り出す。


青下「……正直、僕はあなたを捕まえたくない。別れるのが、辛い」

サンタ「クリスマスって一年に一回じゃない? サンタさんとトナカイが毎日会ってるってのもおかしな話よね。……一回別れてもさ、多分また会えるんじゃないの?」

青下「……だと、良いですね」

サンタ「あ、そうそう」


サンタはおもむろに袋からプレゼントを取り出す。


サンタ「――はい。メリークリスマス、アオッチ」

青下「――!」


青下は涙が込み上げてくる。


サンタ「中身は開けてみてのお楽しみ……って、えー、これで泣く?」

青下「……泣くに、決まってるでしょ」


青下は涙を強引に拭うと、ふと思い付いたように鞄を漁る。缶コーヒーを見つけ、それをサンタに差し出す。


サンタ「それ……」

青下「少し冷えてますが……僕からのクリスマスプレゼントです。……ブラックですけどね。未開栓なので、受け取ってください」

サンタ「……ブラックは嫌いだって、言ってたでしょ」


サンタは笑顔、しかし少し目に涙を溜めながら、それを受け取る。


サンタ「風邪とか引かないでよ、アオッチ。――それじゃーね」

青下「……また、来年にでも。――サンタクロース。あなたを住居侵入罪の現行犯で、逮捕します」


青下は手錠を片方かける。雨が止む。するとサンタはすすり泣き始める。それを見て少し揺らぐ青下。しかしそのままの勢いで手錠をかけると、下サス暗転。青下はそのままの位置でストップモーション。サンタは青下から離れ、下の方へ歩いていき、サスで止まる。手錠を見て「捕まっちゃった」と呟く。


サンタ「……ありがとね。あと、999人だよ」


サンタが下へはけると、下サス暗転解除。空の缶が落ちる音。残された青下は涙を堪えながら、腕時計を確認する。


青下「12月25日……午前0時、丁度。――確保」


青下の目の前には一つの手錠と、空になった缶コーヒーが落ちている。ホリは青と白にゆっくり点滅。崩れ落ち、誰にも聞こえないよう「ありがとう」と言いながら泣く青下。そこへ、部下たちが追い付く。


植田「……雨が、雪に」

江戸川「真っ白だ……」


BGM『お人よし』(前半)。


伊藤「……青下さんは、夢と別れた。でも、それが消えたわけじゃない。いつか、どこかで――例えばこの町で。もう一度会えるはずなんだ。きっと……またこの町で、夢を語ろう」


暗転。



13 夢語り


明転。下から工藤と娘が歩いてくる。娘は髪型と服装をがらっと変え、大人っぽくなっている。


工藤「――いや、本当にサンタクロースが捕まって良かったな、惠子!」

娘「……サンタさんは、だから、フィンランドの実家に帰ったんだって。そう何回も言ってるでしょ」

工藤「おいおい、惠子も16だろ。そろそろ大人になって、夢から覚めなさい」


娘は立ち止まる。それを止まって振り返る工藤。


娘「もう大人だし、覚めないよ。――信じる限りは、絶対に覚めたりしないんだから」

工藤「はぁ……相変わらずよく分からんな」


娘が工藤を追い越して上へはけると、工藤は追いかける。青下と伊藤が下から入ってきて座ると、そこは電車内。青下はヘッドホンを付けてラジオを聞いている。


木村『ハロハローウ! お元気ですか高田町の皆さん――サンタクロースが殺人罪で捕まってから、今日で丁度一年が経ちました。今年からはプレゼントは貰えないのでしょうか……私は残念に思いつつ、去年届いたストーブで確かに寒さを凌ぐ毎日です。皆さんはそんな本日を如何お過ごしでしょうか』


電車アナウンス『高田~、高田です』


伊藤にヘッドホンを外されつつコーヒーを渡され、アナウンスに気づく青下。それらを仕舞い、二人は上へはける。

高田草原。揺れる草のBGM。上から青下と伊藤が、下から植田と江戸川がやってくる。


青下「久しぶりですね。植田、江戸川」

江戸川「あ、青下さん! お久しぶりです! 伊藤も元気してたか!?」

伊藤「相変わらず暑苦しいやつだな……」

植田「お久しぶりです青下さん! 聞きましたよ、伊藤が正式な部下になったって」

青下「本人が強く希望したらしいですね」

伊藤「一生付いていくと言いましたからね」

植田「いいじゃん。『追跡の鬼バージョン2』、期待してるよ」

伊藤「だっさ」


BGM『お人よし』(後半)。伊藤が植田と江戸川にコーヒーを渡すと、四人は中央に腰を下ろす。すると下から赤い服を纏い、白い袋を持った人影が歩いてくる。人影は四人の後ろに来て、横を向いたまま立ち止まる。


青下「……改めて、今日は集まってくれてありがとうございます。――それでは早速、我々の夢を交換しましょうか」


四人は缶コーヒーを乾杯して、全員美味しそうに飲む。会話の途中から幕が降り始める。人影は頷いて、満足げに上へはけていく。


青下「僕は1000人の内の156人を捕まえましたよ! なかなかでしょう?」

植田「おお、流石『追跡の鬼』! 私は未だこの町で絶賛婚活中で……」

伊藤「この前大学の奴らに会ってきたんだ。立場、トントンくらいになったぞ」

江戸川「聞いてくれよ、去年に貰った宝くじが三万円分当たってさー」


四人はとても楽しく語り合っている。幕が降りきり、余韻の後に終了アナウンス。


END

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