第二話 崩壊、或いは始まり
諸事情で遅れました。楽しんでいただけると幸いです。
それから、体感にして、数日がたった。
固まってしまったままのスライムSは微動だにせず 、自分の体にもなにも変化は起こっていない。
暇である。
これは至極当然とでも言うべきだろうか。当たり前の事である。
もしこの場にいた人間が俺以外だったとしても、大方に共通する感情だろう。
例えば、夏休みを前にして友達との約束がなにもなく、彼女もいない。そんな絶望感や無力感にも似たようなものであろうか。
なにもすることがない。故に暇である。故に無気力にもなる。
なにもないこの真っ白な世界でも、時間は平等に流れているのだろうか。はたして俺の退屈を凌ぐものはこの世界にはないのだろうか。
時間だけが有り余るこの世界では、その時間という存在でさえ正確に観測することはできない。
スライムSの出現により、この世界に一筋の希望が溢れたのは事実であろう。しかしそのスライムSは硬直し動くことはない。是非ともそのからだの中で生命活動が営まれていることを願いたい。
そんな一抹な願いに思いを込めて俺はこの世界で初めての自分とは違うモノとの対話を試みた。
「おーい、聞こえてんだろ、なんか返事しろよー」
己の声を上げるのは、この世界で目を覚ましてから二度目だった。前回の発声から何日たっていたかはわからないが、かなりかすれた声であっただろう。
もちろん返事はない……はずだった。
「聞こえていますよ!ご主人様!」
幻聴か......?
やれやれ、遂に俺の頭はおかしくなってしまったようだ。
いやいや、そんなわけない!!この白いサナギのような塊が、俺の怠慢と性欲の結晶から生まれたこいつが、喋るわけないだろ!!
「ご主人様?どうかされましたか?」
......やはり話しているよな、確実に声は届いている。俺は真相を確かめるために両の手で自分の耳を塞いだ。
「ご主人様......?」
聞こえている。 これでこのスライムSが脳内に直接語りかけてくるタイプか、この会話自体がすべて俺の妄想であるかのどちらかであると言えるようになった。
できれば後者でないことを期待したい。
そんなくだらないことを考えているその時......
なんの前触れもなく突如、世界が崩壊した。
真っ白に覆われていた世界はその世界自体が剥がれ落ちるかのように、天井から順に崩れ落ちていった。
それは流れ行く波のように清らかで力強く、
そして綺麗だった。
剥がれ落ちた世界の奥からは対照に黒がどこまでも続く空間が現れた。その空間は妙に禍々しく、負のオーラを感じた。
それは白い世界を飲み込むように侵食していく。
俺は世界が崩れ落ちていっても俺はさほど動揺しなかった。恐怖感はなく、むしろこの世界から解放されるかもしれないという期待感に胸が高鳴っていた。
徐々に崩落していくこの世界を尻目に、この世界であったことを振り返るも、ほとんど思い出と呼べるものがないことに気づき思考を放棄する。
もうなにも考えたくはない。体も心も疲れてしまった。満身創痍だ。
世界のほとんどが崩壊した。残っているのは自分の半径3メートルほどの床の部分だけだ。体は疲れきっているはずなのに座り込むことはできず、呆然と立ち尽くしていた。
世界が完全に消滅する。
その瞬間まで、
俺はただただその場に立ち尽くしていた。
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チュンチュン
鳥のさえずりで目が覚める。
「悠弥ーー!!おきなさーーい!!学校遅刻するわよ?」
聞きなれているいつもの声のはずなのに、どこか懐かしさすら感じてしまう。
「うーい、いまいくー」
思い瞼をあけ目をこする。
変わらない部屋。変わらない外の景色。ベットの横にスマホ。部屋にかけてある高校の制服。整理整頓されている机。
いったい何がそんなに悲しいのかはわからないが、涙が滴り落ちてきた。
.......何でだろう?おかしいな?
なんだか長い夢でもみていたような、そんな気がする。