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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

憎悪に塗れた愛する番

憎悪に塗れた愛する番

作者: てと


※設定ゆるゆるです。

サラッとお読みくださいませ



今でも鮮明に思い出せる。見たことがない程美しい白銀のドラゴンが、この国の兵士達や唯一の家族である父親を蹂躙した事を。



母は私を産んで直ぐに亡くなり、父は不器用ながらも一人で私を育ててくれていた。貧しい生活ながらも私は幸せだった。だが、私が六歳の時それは起きた。私達が住むラティーヌ国は、獣人の国、ナガイルに戦争を仕掛ける暴挙に出たせいで父は徴兵され、私は独り国に残る事になった。でも、私は寂しさから兵士達の荷物馬車に隠れて父を追った。唯一の家族である父の側にいたいという、たったそれだけの理由で。幼いながらに、父が帰らない様な気がして不安でしょうがなかった。



私は知らなかった。獣人がいかに人よりも強い種族である事を。



荷物馬車に隠れて目にした戦場は悲惨だった。白銀の美しいドラゴンがまるで玩具を壊すかの様に淡々と兵士達を殺し、返り血で赤く染まっていくのを震えながら私は見ていた、見ていることしか出来なかった。


白銀のドラゴンが殆どの兵士を蹂躙した後、感情が無い様な青い瞳で周りを見渡し飛び去った。私は震える足で血塗れの戦場だった場所に向かう。父は何処かと。父は生きてるはずだと信じて何日も血溜まりと兵士の屍の山を必死に探した。そして土砂降りで血が広がってゆく日に、やっと私は父を見つけた。胴体から切り離され、虚ろな光を宿さない首だけの父を。私は父の首を抱きしめ、土砂降りの中、ただただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あぁぁぁぁぁあ!!!!」



あの白銀のドラゴンが殺したのだ。父を。たった一人の家族を奪ったのだ。それからの私は憎しみと復讐だけを糧に、生きてきた。親を亡くした戦争孤児は大勢いて孤児院は溢れかえり、私はスラムで必死に生き残った。


泥水を啜り、木の根や雑草を食べて飢えを凌ぎ、冬は寒さで死にそうになりながらも憎しみで生き残り、人から物や金を盗み、騙し、あの日から十年間あの白銀のドラゴンを殺す事を考え生きてきた。それしか私には残っていなかった。例えそれが無謀な事だとしても。


私は十六歳になり、あの白銀のドラゴンを殺す為にナガイルへと向かおうとしたある日、空が闇に包まれた。上を見上げると、十年前と変わらず美しい白銀の鱗に包まれたあのドラゴンが下を見ていた。いや、私を見ていた。


十年前に見た無機質な青い瞳ではなく、感情の籠もった、まるで愛しい者を見る様な目で私を見ていた。白銀のドラゴンはゆっくりと形を変え、白銀の長髪に青い瞳をした恐ろしいほどの美貌をした男性になり、私の前に跪いた。涙を浮かべながゆっくりと口を開く。


「我の愛しい番。やっと、やっと見つけた」


「……番?」


溢れ出しそうな憎悪を押し殺し、目の前に跪く父の仇に問う。獣人には『運命の番』がいるという。獣人はその番だけを愛し、命をかけて守り、尽くすという事は知っていた。この男はなんと言った?私が番だと?


「ずっと、ずっと探していた。途方もない長い年月、ずっと、ずっと……貴女だけを求めて」


「黙れ、化け物!!!!!」


私が発した言葉に、美しい顔が酷く傷付いた様子で歪む。此奴は父を殺した化け物だ。ずっと、ずっとこの化け物を憎み生きてきた。それが番だと?ふざけるな!!


ああ、でも獣人は番を失うと狂うと聞いた事がある。絶好のチャンスではないか。今がまさにそれだ。力では絶対に勝てない……ならば。


私は持っていたナイフを化け物のに向け、それを翻して自分に向けて思いっきり胸を突き刺した。


「ガハッ……!!」


「何をッ!!何故ッ!?」


「……くるし……んで、しね……化け、物」


「まて、喋るな!今直ぐに傷を治す!!我を嫌うのは構わない!!だが死ぬな!!」


「ち、ち、をかえ、せ……」


「番!!番!!」


ゴポッと口から血が溢れ出す。化け物は私の胸を押さえ、泣きながら癒しの魔法を使っている様だ。やめろ、私はお前を殺す為に死ぬんだ。まさか化け物を殺す事がこんなに楽だなんて、思わず笑みが浮かぶ。目の前が真っ暗になってゆく中、あの化け物の悲鳴にも似た声がずっと聞こえていた。


ただ、冷たくなる自分の体とは反対に、この化け物の体温の温かさに、涙がでたのは何故だろうか。私には分からない、分からないままでいい。







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― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃ無理でしょう わかります まるっと理の違う種族なのですからわかりあえませんよね 特に彼女のように孤児になったあと悲惨極まりなく、復讐だけが生きる希望だったのなら
[良い点] 神や悪魔や精霊に龍などに「一方的に」見初められて 人間の元カレでは得られないかい… もとい、幸せを手に入れましたみたいな 作品が多い中で、すごい挑戦的な内容ですね… でも、大好きです(自…
[良い点] 日和らないヒロインが好きです。
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