第7話 ベンデス・石像・ヌーベル。
お読み頂き有り難う御座います。
第7話です。
ルーメンを出発して4日、馬車はアルテの村で停まった。
馭者が兵士達と何やら話した後で、シント達に強張った顔で話し掛けた。
馭者:『お客さん達、悪いが当分の間は発車出来なくなっちまった。』
シント:『何かあったんですか?』
馭者:『実はベンデスが何者かに襲われて壊滅したって話なんだよ。』
シント:『なんだって!?』
レスティア:『悪い予感が当たったわね。』
エルシア:『兵士達に話を聞いてみましょう。』
兵士達の話では、襲った者達の正体が解らないそうだ。
駐在していた兵士達や冒険者達も全滅し、町は既に廃墟と化しているらしい。
冒険者ギルドからの調査依頼の話をすると、兵士局の馬車で同行させて貰える事になった。
ベンデスまでの道中で、ベンデスの方角から歩いて来た者が居たので話を聞いてみる事にした。
男:『あんたらまさか、ベンデスへ行く気か?ベンデスはもう終わりだ。行ったところで何もありゃしねぇよ。』
シント:『ベンデスで何があったのか聞かせて欲しいんだ。』
男:『魔術師の格好をした一団が、突然町を燃やし始めたんだ。その数は軽く10人以上だったよ。兵士や冒険者が戦ったが、全く歯が立たなかった。その時に魔術師が突然異質な魔法を使ったんだが、その瞬間に正体を現したんだ。魔術師達は本当は魔族だったんだよ。』
レスティア:『なんですって!?魔族が魔術師に化けていたっていうの!?』
男:『そうさ。奴等は信じられない早さで町を燃やしまくった。逃げる人達もな。まさしく地獄だったよ。』
エルシア:『・・・行きましょう。何か手掛かりがあるかも知れません。』
エルシアは自分の村を襲ったのも魔族ではないかと考えていた。
今回の事件が村での出来事と重なる事が多かったのだ。
ベンデスの町が見える所まで来ると、その悲惨さが痛感させられた。
さっきの男の話では、町から逃げ出せた物も何人かは居るらしい。
ベンデスに到着すると、ルーメンの兵士達によって遺体の処理や捜索が行われていた。
兵士:『お前達、確かルーメンの者達だな?』
シント:『はい、冒険者ギルドからの依頼で調査に来ました。』
兵士:『状況は見ての通りだ。どうやら魔族による襲撃らしい。』
レスティア:『来る途中で会った者に聞いたわ。その痕跡だけでも解ればと思って来たのよ。』
兵士:『こっちも探ってはいるんだが、何分荒れ方が酷くてな。』
エルシア:『こちらも何か手掛かりを探ってみます。』
瓦礫を掻き分ける様にして痕跡を探していると、リーナ何かに気付いた様にシントを呼んだ。
リーナ:『シント様、この辺りに変な魔力を感じます。』
シントが瓦礫を退けると、そこには魔封じの石像があった。
シント:『魔封じの石像かぁ、皮肉なもんだな。』
リーナ:『シント様、これ魔封じじゃありませんよ。』
レスティア:『どうしたの?』
エルシア:『え!?この石像って・・・。』
リーナ:『これは!?シント様、この石像、魔寄せの魔法が掛かっています。』
シント:『魔寄せ!?』
エルシア:『魔封じの石像に魔寄せの魔法が!?』
シント:『エルシア、もしかして同じ石像が村にも?』
エルシア:『はい、村が襲われる少し前に、旅の神官から村長に手渡されたものと同じです。』
レスティア:『何か少し見えて来たって感じね・・・。』
シント:『でもリーナ、よく魔寄せの魔法だって解ったな?』
リーナ:『私達エルフは魔法の種類だけなら直ぐに見分けられますからね。それにこんな強力な魔法、恐らくかなりの術師によるものです。』
レスティア:『問題は誰がこんな物を持ち込んだかね。同じ人物の可能性も無くはないけど。』
エルシア:『シントさん、この町から逃げ出せた人達の足取りを追いましょう。』
シント:『・・・そうだな。恐らくこれ以上の手掛かりは掴めそうにも無いし。』
シント達は一度アルテの村に戻り、ベンデスから逃れて来た者を探した。
町から一番近い集落がアルテだったからだ。
教会にベンデスから逃れて来た神官が居るとの事なので会ってみる事にした。
神官:『そうですか、ベンデスに行かれたんですね。』
シント:『それで聞きたい事があるんですが、瓦礫の中から魔除けの石像が見付かったんですけど、これはいつ頃持ち込まれた物か分かりますか?』
神官:『それはつい先日、デラス神殿から来られた神官から頂いた物です。』
シント:『デラス神殿・・・。その神官はどちらに行くとか言っていませんでしたか?』
神官:『確か南西にあるヌーベルに行くとか。』
シント:『そうですか、実はこの石像に魔寄せの魔法が掛けられていたのです。となれば、今回の襲撃はこの石像を持ち込んだ神官。いや、神官に化けた者ではないかと思いますが、その者による策略かと思います。』
神官:『なんと恐ろしい事を・・・。では貴殿方はヌーベルへ?』
シント:『えぇ、事の真相も調べる必要がありますし。』
神官:『ではこれをお持ち下さい。』
神官はロザリオをシントに手渡した。
神官:『私はこのロザリオを握り締めて祈った後に襲撃から逃れる事が叶いました。貴殿方にもきっと幸運をもたらすでしょう。』
シント:『有り難う御座います。せっかくの心遣い、有り難く頂戴致します。』
その後村で2頭立ての幌馬車を買い、ヌーベルへ向かう事にした。
ヌーベルへは定期馬車だとアルテから15日ほど掛かる。
この辺りの定期馬車は当面動かないそうなので、値は張ったが出来るだけ時間を節約しようと考えたのだ。
アルテにギルドは無いので、ルーメンのギルドへはヌーベルから連絡する事になる。
シント:『買っちゃったな。』
レスティア:『買っちゃったわね。』
エルシア:『でも長い目で見ればお得かも知れませんよ?』
馬車を眺めていたリーナが何かを思い着いた様に話し始めた。
リーナ:『シント様、これ屋根つけましょうか?』
シント:『ん?でも幌が付いてるだろ?』
リーナ:『ですから長旅でも使いやすい様に、屋根付きの家みたいにするんです。』
レスティア:『家かぁ、それ良いわね!』
エルシア:『それなら天気が悪い時でも雨が吹き込まないですね。』
シント:『要はキャンピングカーか・・・。悪く無いな。』
リーナ:『ちょっと考えがあるんで、今日1日だけ私に時間を下さい!』
リーナは馬車の荷台部分を大幅に増設と改良を行い、内部に2台の折り畳み式の二段ベッドや水タンクを備え、普段はテーブルと固定式の椅子で楽に過ごせる様にした。
力仕事はシントが行い設計はリーナと二人で案を出し合った。
シントの提案で、元々付いていた幌を馬用の雨避けに転用した。
これで休憩中も馬達が雨に濡れる事が無い。
リーナの頑張りのおかげで、その日の内に改装が完了した。
エルシア:『凄いですね。本当に家みたい・・・。』
レスティア:『このキッチン凄いわね、普通に料理が出来るわ!』
リーナはその様子を見て満足気だ。
シント:『有り難うリーナ、君のおかげで楽しい旅が出来そうだよ。』
リーナ:『えっへんです!シント様が喜んで下さって私も嬉しいです!』
その日の夜は馬車で夕食を食べた。
まるでルーメンの家で過ごして居るかの様に和やかな一時だった。
翌朝シント達はヌーベルに向けて出発した。
アルテからは南に向かい、その後小さな村を何ヵ所も経由しながら西へ行く事になる。
ヌーベルには街道が通っていないので、土地勘に疎い俺達は村を目印に進むしか無いのだ。
レスティア:『リーナとシントが馬車を改装してくれて良かったよ。考えてみればこの先ろくに宿にも泊まれないんだものね。』
リーナ:『私はシント様達がのんびり出来る場所が必要だと思っただけです。』
エルシア:『確かに定期馬車では窮屈でしたもんね。シントさん!そろそろ休憩されてはどうですか?』
シント:『ありがとう!この先の広い所で停めるよ!』
購入した馬車での移動は快適だ。
しかし長距離の移動だと馬にも人にも負担が大きい。
いずれは何らかの改善策が必要かも知れないな・・・。
自前の馬車を使っている事で、ヌーベルまでの所要時間は定期馬車の半分の7日で行けるが、その分だけ走る時間を長く取るので何処かで長い休憩も取らなければならない。
休憩時間を利用してスケジュールの確認をする事にした。
レスティア:『う~ん、これは結構な過密スケジュールよねぇ。』
リーナ:『ここまででも馬達は少し疲労が溜まってるみたいです。』
シント:『となると1日の走行時間は多くても10時間が限界かぁ。餌を食べさせる時間も必要だもんな。』
エルシア:『そうなると、エスペンスの村とアルデールの村、あとリグリスという町とルステン村。当面の目標野営地はこんなものですかね。』
シント:『馬達の疲労度合いによってはもう少し刻んだ方が良いかもね。時々回復魔法も掛けるけど、馬の体は繊細だから。』
レスティア:『今日はもう予定分以上走ってる計算なのよね?』
シント:『うん、だからこの先の村で水を調達して野営するつもりだよ。』
エルシア:『とりあえず食料は十分にありますけど、リグリスで少し調達した方が良さそうですね。』
宿屋に泊まる必要が無くなった分だけ走る距離が増えたので、逆にスケジュールを考えるのが難しくなったと言える。
水タンクは150リットル位入るが、馬への負担を考えるとそこまで積めないのが難点だ。
だが一番の問題は馬車のメンテナンスだ。
作りとしてはリーフスプリングにボールベアリング付きのリジットアクスルという、黎明期のクラシックカーによくある構造だが、ウッドホイールなのでガタが出やすい。
幼い頃に預けられた親戚の叔父さんが、クラシックカーのマニアだったので構造や設計にはやたら詳しくなってしまったが、もし車輪が故障でもしようものなら、一人だと修理に最低でも4日は掛かってしまう。
もちろん材料や工具が揃っていればの話だけど。
リグリスまで行けたら一度点検してもらおう。
しかし時速25㎞程度の速度だと1日頑張っても平均150㎞弱位。
それで何日も掛かるとか、町と町の間隔がやたら広い。
非効率的な国作りだなとは思うが、仕方が無いと諦めた。
村に到着して井戸で水を調達していると、村の農夫が肉と野菜を分けてくれた。
お礼に翌朝隣村に徒歩で向かうという奥さんを乗せて行く事になった。
翌朝農夫の奥さんを乗せて出発すると、2時間ほどで隣村に到着した。
どうやら教会がこちらの村にしか無かったらしい。
小さな村は何処の世界も大変だなと感じた。
その後半日ほど走ると、古い神殿があった。
シント:『う~ん・・・。ちょっと覗いて行くか。』
エルシア:『気になりますか?』
シント:『うん、だって怪しい連中ってこういう所に潜伏してたりするでしょ?』
エルシア:『・・・確かに。』
レスティア:『なになに?急に停まってどうしたの?』
シント:『ん?あぁ、あれ。』
レスティア:『あぁ、そゆことね。』
シントが神殿を指差すと内容を察した様だ。
神殿の入り口から中を覗くと、暗がりから声が聞こえた。
男1:『そろそろ行くか。』
男2:『そうだな。』
シント:(やっぱり人が居たか・・・。)
女:『二人とも動くな!』
シント:(ん?)
男1:『誰だお前は!』
女:『悪人に名乗る名は持たん!』
男2:『やっちまえ!』
レスティア:『ねぇシント君、どうする?』
シント:『どうしようね?あの女の子に加勢する?』
レスティア:『そうね、あの男達悪人みたいだし。』
女:『くっ!!結構手強い・・・。』
男1:『オラオラ!さっきの威勢はどうし・・・!!』
シントが男の攻撃を遮る様に走り込み、男を剣で弾き飛ばした。
男2:『てめぇ、誰だ!』
レスティア:『はいはい、こっちにも居るよ!』
レスティアは男の肩に一撃を叩き込む。
二人の男はそのまま動けなくなった。
女:『・・・あなた達は?』
レスティア:『通りすがりの冒険者よ。ちょっと訳ありの旅をしている途中で、この神殿が気になってね。』
シント:『ねぇ、縛り上げたけど、どうする?』
女:『あ、有り難う御座います!私はグレース。ヌーベルで駐在している王国の騎士です。』
シント:『騎士の方だったんですね。俺はシント、ルーメンの冒険者です。そちらはレスティア』
レスティア:『レスティアです宜しく。ところでこの者達はいったい・・・。』
グレース:『この者達は、先日この先にあるプルド村で村長の家から金品を奪った強盗です。村の兵士から依頼があって捜索中だったのです。』
シント:『強盗ねぇ・・・。またリスクの高い事をしたな。』
レスティア:『それでこの者達をプルド村まで届けるんですよね?』
グレース:『そうなんですが、実は徒歩で来てしまったので少し困ってたんですよ。』
シント:『なら乗って行きます?馬車で来てますんで。この連中は馬の背中にでも乗せれば良いでしょ。』
グレース:『有り難う御座います。』
リーナ:『シント様!ご無事ですか!』
エルシア:『シントさん、レスティアさん、大丈夫ですか?』
シント:『大丈夫。ちょっと二人とも手伝って貰って良い?』
シント達はグレースと犯人達を連れてプルド村に行った。
犯人達を兵士に引き渡した後、グレースと話をした。
グレース:『え?あなた達もヌーベルに行くの?』
シント:『俺達はルーメンの冒険者ギルドからの依頼でベンデスの調査をしたんですよ。』
グレース:『ベンデスなら逆方向でしょ?何でヌーベルに?』
シント:『ベンデスが魔族による襲撃で壊滅したんです。その原因が偽神官による陰謀の可能性が高いので足取りを追っているんですが、その神官がヌーベルに向かったとの情報がありましてね。』
グレース:『なんですって!?その神官はどうやって魔族を?』
レスティア:『魔除けの石像に魔寄せの魔法を掛けて、町の教会や神殿に贈っているみたいなのよ。』
グレース:『何て事を・・・。直ぐに向かいましょう!すいませんが、また乗せて頂けませんか?』
シント:『もちろんです。騎士の方が一緒なら何かと安心ですしね。』
シント達はグレースに最短ルートを教えて貰いながら旅を進めた。
やはり当初予定していたルートよりも格段に早く着きそうだ。
これならもしかすると町が襲われる前にはヌーベルに着けるかも知れない。
旅の間にグレースから気になる話を聞いた。
はるか東にある小さな島国で、国が魔族によって滅ぼされたというのだ。
今回の事件との関係性までは解らないが、何かしらの接点がありそうな気がする。
数日が経ち、ヌーベルの町が見えて来た。
グレース:『どうやら無事な様ね。』
ヌーベルは元々魔法都市として栄えた町で、南北戦争ではかなりの魔法兵士を出兵したそうだ。
国内随一と言われる魔法学校がある町でもある。
だがかつての栄光は失われ、今では魔法学校だけがその権威を守っているそうだ。
シント達は町に入ると直ぐに神殿へ向かった。
神官長に事情を話すと、やはり心当たりがあるらしく直ぐに石像の魔法を解く事にした。
神官長:『危ないところでした。まさかあの神官が偽物だとは・・・。』
エルシア:『神官長様が見抜けないというのが不思議ですね。』
シント:『どの様な人物だったか覚えていませんか?』
神官長:『僧衣も確かにデラス神殿の物でしたし、受け答えも不審な所はありませんでした。気になった所と言えば、手袋をはめていた事ぐらいでしょうか。』
レスティア:『手袋?』
神官長:『神職の者は、1日三回は必ず身を浄めます。ですから手袋など普通ならしないのですが、あの者は四六時中手袋をはめていたのです。』
グレース:『手袋・・・。まさかとは思うけど・・・。』
シント:『何か知っているんですか?』
グレース:『100年位前に邪教を崇拝する者達が増えた事があるらしいのです。その者達は左手の甲に魔方陣のタトゥーを刻んでいるという噂なのです。』
神官長:『その話は私も知っております。確か神信仰を全面的に否定する者達で、シンボルマークは魔方陣を蛇が囲んだ物でした。まさかあの邪教が復活したと?』
グレース:『いや、単に手袋をはめていたというだけで決め付けるのは危険です。』
レスティア:『その神官は何処に行くとか言っていませんでしたか?』
神官長:『南部に向かう様な話はしていましたが、どの方面から南部に向かうのかまでは分かりませんね。』
シント:『グレースさん、とにかく騎士局を通じて国中の町に危険を知らせて頂けませんか?』
グレース:『そうですね。直ちに知らせる事にします。』
シント達も神殿を後にし、冒険者ギルドへ事態の説明をしに行った。
シュナン:『ギルマスのシュナンです。今のお話は本当なんですか?』
レスティア:『本当よ。ベンデスはもう廃墟になっているわ。そしてその首謀者と思われる者はデラス神殿の僧衣を身に付けて手袋をはめた者。一応騎士局から国中に連絡して貰ってるけど、今後も警戒して欲しいの。 』
シント:『それでルーメンのギルドに連絡を取って頂きたいのですが。』
シュナン:『解りました。では早速連絡しますのでお待ち下さい。』
ルーメンギルドでは今回の惨劇に関して、世界中のギルドに通達する決定をしたそうだ。
また今回の調査に関してギルドだけで無く、兵士局からも報酬が出る事になった。
報告を終えて報酬を受け取ったシント達は今後について話し合った。
シント:『問題は当初の予定通りに王都に向かうか、このまま神官の足取りを追うかだね。』
エルシア:『足取りを追うにしても、一度王都で情報を集めた方が良いと思います。王都なら何かしらの情報が得られると思いますし。』
レスティア:『私もエルシアに賛成ね。やみくもに聴き込みをしても得られる情報は少ないわ。逆に王都ならその手の情報に長けた連中が確実に居るだろうし。』
リーナ:『私はシント様に従うだけです。何処へでもお供します。』
シント:『じゃあ王都で決まりだな。今日はこの町の宿屋に泊まってゆっくりしよう。』
馬車を広場の停車場近くにある馬車屋に預けて点検をお願いすると宿屋を手配した。
その後せっかくなのでヌーベルの町を見て回った。
エルシア:『魔法学校があるだけにマジックショップが多いですね。』
リーナ:『亜人種向けの店も結構ありますね?エルフ用の店もあるかなぁ?』
シント:『探してみよう。リーナの防具や、ちょっとした武器も新調した方が良いしな。』
レスティア:『ねぇ、あそこに居るのってエルフじゃない?聞いてみよ?』
話を聞いた相手は、大陸東部から移住して来たエルフの妖精族だった。
他の地域の妖精族同士が会う機会は滅多に無いらしい。
リーナは森で暮らしていた為に文明社会には疎かったが、他の地域の妖精族は結構社交的みたいだ。
シント:『店を教えて貰えて良かったな。』
リーナ:『良い方々でした。でもこんな大きな町にエルフがたくさん住んでいるのは意外です。』
エルシア:『エルフと言っても住んでいる地域によって様々なんですね。』
レスティア:『そりゃそうよ。人間だって住んでいる地域によって文化や習慣も違うんだもの。あ!そこの店じゃない?』
そこはエルフが経営している専門店だった。
店の主に聞いたのだが、一口にエルフと言ってもかなり種族が分かれているらしい。
リーナの様な妖精族やダークエルフと呼ばれる種族は希少種と言われるそうで、独自の文化を大事にする為に人里にはあまり出て来ないという話だ。
人里に暮らす事の多いのはノアエルフと呼ばれる妖精族よりも肉体的に力の強い種族らしい。
他にもハーフエルフという人族により近い混血種が人里で暮らしているが、人族や他のエルフとの習慣の違いや文化水準の低さから、人族や純血種からは迫害を受ける事が多いそうだ。
リーナの服や装備品一式を揃えて店を出ると、ギルドで勧められた食堂へ行った。
食事をしながら色々と考えていた。
召喚されてから今まで起こった事、一緒に暮らすみんなの事、そしてこれからの事。
向こう世界に居た頃には体験する事が無かったであろう様々な出来事。
楽しそうに食事をしている三人を見ると、これが現実なんだなと実感する。
一度限りの人生だから、俺はせめて彼女達のこんな笑顔を守る為に生きて行こう。
改めてそう思った。
お読み頂き有り難う御座いました。




