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一度限りの人生だから。  作者: KEMURINEKO
5/7

第5話 デザート・レスティア・監視解除。

お読み頂き有り難う御座います。


第5話です。

その日シント達は、魔術師街と呼ばれるマジックショップが建ち並ぶ路地に来ていた。


魔術師街には魔法使いや魔導師など、魔術に長けた者達向けの商品を扱う店だけで無く、占い師や御守りを扱う店もある。


シント:『結構賑わってるものなんだね?』


エルシア:『ここは便利な物も揃うんですけど、変わった雑貨品とかも売ってるので若い人達に人気があるんですよ。』


レスティア:『私もよく来るんだよ。この先にある、魔法使いが経営しているお菓子屋さんが冒険者に人気なんだ。』


シント:『魔法使いがお菓子屋さんを?』


エルシア:『あぁ、プレオの店ですね。私もよく行きますよ。私の友人がやってる店なんです。』


レスティア:『あそこのパウンドケーキが美味しいのよ。フルーツ入りのが特に。』


シント:『へぇ、こっちの世界にもパウンドケーキってあるんだ?』


エルシア:『シントさんが居た世界にもあるんですね。良かったらこちらの世界のパウンドケーキ食べてみますか?』


シント:『良いねぇ、食べようか。』


レスティア:『賛成!丁度買おうと思っていたのよ。』



という訳でプレオの店に来た。



店主:『いらっしゃい!』


エルシア:『こんにちは。』


店主:『なんだ、エルじゃない。久しぶりだね。今日は1人じゃ無いんだ?』


エルシア:『今日は仲間を連れて来たのよ。パウンドケーキある?』


店主:『あるよ、食べて行く?』


エルシア:『うん、お茶もお願い。』


店の窓際にあるテーブル席に座ると、店主が紅茶とパウンドケーキを持って来た。


店主:『オレンジとシェリーがあるけどどっちが良い?』


シント:『シェリーってシェリー酒?』


店主:『そうよ?お酒は苦手?』


シント:『いや、俺が住んでた所じゃ、俺はまだ酒を飲める年齢じゃ無かったんだ。』


店主:『は?どんな所に住んでたのよ?まぁ良いわ、じゃあオレンジね。』


レスティア:『私はシェリーにして。』


エルシア:『私はオレンジ。』


店主はパウンドケーキを取り分けると空いている席に座った。


エルシア:『紹介しますね。彼女はこの店の主人で私の友人のプレオ。こちらの二人は私のパーティーメンバーでシントさんとレスティアさんよ。』


プレオ:『プレオよ。こんな魔導師街でケーキ屋やってる変わり者だけどよろしくね。』


レスティア:『レスティアよ。私はここのパウンドケーキのファンなのよ。』


プレオ:『それは有り難う。』


シント:『シントです。エルシアに召喚された召喚者なんです。』


プレオ:『召喚者ですって!?じゃああんた異世界人って事!?』


シント:『そういう事です。』


プレオ:『エルシア!あんたいつの間に召喚魔法覚えたのよ?まぁそれはそうと、シントさん、貴方の居た世界のケーキを色々教えて貰えない?』


エルシア:『ちょっとプレオ!いきなり失礼でしょ!』


シント:『別に構わないよ。例えばどんなケーキが良いの?』


プレオ:『そうねぇ・・・。例えば複数のフルーツを使ったケーキなんかが華やかで良いわね。』


シント:『ならいっそ普通のスポンジケーキベースのケーキより、少し変わったものが良いですかね?』


プレオ:『スポンジケーキを使わないケーキ?それって生菓子って事?』


シント:『まぁ生菓子かな。冷して食べるデザートですどね。』


プレオ:『詳しく教えて貰える?』


シントは食材が向こうとほぼ同じな事が分かったので、厨房で焼きプリンの作り方を教えた。生クリームとフルーツのシロップ漬けをトッピングする事でプリンアラモードが出来る。


こちらの世界にも寒天の様な物があるのでゼラチンの代用にする事にした。


こちらの世界でのケーキと言えばスポンジケーキをベースとしたロールケーキか、スポンジにシロップを染み込ませてクリームを挟んだ程度の物しか無いらしい。


いわゆるクリームデコレーションケーキは無く、外側にスポンジが出た状態のケーキだけな様だ。


パウンドケーキなどのオーブンを使ったケーキも多く、いわゆる生菓子は貴族ぐらいしか食べる機会が無いらしい。


だからせっかくなのでプリンアラモードを作る事にしたのだ。


こちらの世界での甘味料は糖分の多いサトウキビに似た植物を煮出して作るブラウンシュガー的な物なのだが、普通の上白糖と同等の甘さの甘味料が作れる。


玉子や牛乳は普通にあるし、その甘味料でカラメルシロップと同じ物も作れる。


冷やすのには魔法で氷を作って木箱を密封して冷やす事にした。


ここまで手の込んだデザートは作った事が無いそうで、プレオは熱心に作り方をメモしていた。


シント:『そろそろ良いかな?』


シントが木箱からプリンを取り出すと、作っておいた生クリームと一度加熱したシロップに漬けておいたカットフルーツをトッピングした。


シロップに酒を加えた物を加熱してカットフルーツを漬けたのは、短時間でフルーツにシロップを浸透させる為だが、本来はフルーツを一晩以上漬け込む必要がある。


シント:『やっぱりこんな短時間じゃあまり浸透して無いか・・・。』


プレオ:『でもシントさんてこんなに複雑なデザートの作り方よく知ってるわね?』


シント:『幼馴染とよく作ってましたからね。こういうの結構好きなんですよ。』


器にプリンと、クリーム・フルーツを盛り付けて完成だ。


試しに全員で食べてみる事にした。


プレオ:『何これ!?凄く美味しい!』


エルシア:『凄いです!これ美味しいです!』


レスティア:『わぁ、何この口当たり。滑らかで甘くて。こんなの病みつきになるよ。』


シント:『これでフルーツにシロップがもっと染みてたらもっと美味しいんだけどね。』


プレオ:『ねぇシントさん、これうちのメニューに加えても良いかな?』


シント:『良いんじゃないですか?でも日保ちしないので、早目に食べないと駄目ですけどね。』


プレオ『ならこれはお店で食べて貰う専用のメニューにするわ。有り難うね。』


レスティア:『にしても、シント君って本当に料理上手よねぇ。昨夜作ってくれた魚料理も美味しかったし。』


エルシア:『確かシントさんって一人暮らしされてたんですよね?』


シント:『まぁ俺は元々調理師になろうかと思ってたからね。』


プレオ:『それって料理人って事?』


シント:『そう。飲食業のスキルがあれば大抵は食べて行けるからね。』


プレオ:『それじゃさ、いっそうちで働かない?』


エルシア:『プレオ!シントさんは私が召喚したのよ!それに私の大事なパーティーメンバーなんだから!』


プレオ:『冗談よぉ。でも私も召喚魔法覚えようかな?』


レスティア:『召喚魔法ってそんな簡単に習得出来るものなの?』


エルシア:『簡単では無いですけど、プレオは元々魔法使いですから素質はあると思います。でも召喚した者が料理に長けた人が来る保証は無いですけどね。』


レスティア:『ハハッそれはそうよねぇ。』


シント:『プレオさん、さすがにここで働くのは無理だけど、俺が居た世界のスイーツなら少しは教えられると思うよ?』


プレオ:『有り難う!じゃあ時々教えに来てね!』



プレオの店を出ると、通りの奥にあるマジックショップに入った。


エルシア:『すいません、魔石付きのロッドが欲しいんですが。』


店主:『魔石の属性は何にします?』


エルシア:『炎属性でお願いします。』


店主はトップにルビー、柄にガーネットが埋め込まれたロッドを出した。


シント:『ねぇエルシア、属性付きのロッドって、その属性の魔法しか使えないの?』


エルシア:『使えなくは無いんですが、対極の属性の魔法は威力が半減しちゃうんですよ。でも私は水属性が苦手なので逆に使い勝手が良いんです。』


シント:『やっぱりそうなんだ。エルシアが水属性の魔法使ったのって、あんまり見た事無かったもんね。』


エルシア:『日常魔法程度なら普通に使えるんですけどね。』


レスティア:『そう言えば、シント君は全属性使えるんだよね?どれが苦手とかあるの?』


シント:『ん~気にした事は無いかな?どれも同じ感じだと思うよ?』


エルシア:『シントさんは私みたいに補正や増幅アイテムを使う必要が無いほどのレベルですからね。』


店主:『それでどうします?買います?』


エルシア:『あっ、か、買います!』



買い物を済ませて家に戻ると、レスティアがさっきの話の続きを始めた。


レスティア:『シント君の様に全属性を使える人は、この世界に多分一人しか存在しない。しかもレベルは規格外。もしそれをシント君が自在に扱えるなら、恐らくシント君はこの世界最強の魔法使いという事になる。そこでシント君とエルシアに聞いておきたい事があるのよ。』


エルシア:『何ですか?』


シント:『答えられる事なら。』


レスティア:『ねぇエルシア、あなたは何故シント君を召喚したの?』


エルシア:『それは・・・。』


レスティア:『答えられない様な内容なの?』


エルシア:『私は・・・村を滅ぼした魔術師に仇討ちをする為に召喚をしたんです。もちろん召喚者がこれほどの力を持っているとは思いませんでしたけど。』


レスティア:『仇討ちか・・・。本来仇討ちはその相手を兵士局に届け出て、領主の許可を取る事が必要なのはエルシアも知っているよね?』


エルシア:『はい。もちろん旅に出る前に許可は取るつもりでした。』


レスティア:『それでシント君はその事情を聞いて了承した訳?』


シント:『はい。俺は彼女の経験した辛い過去の話を聞いて、彼女に協力すると決めました。この世界で仇討ちが正しい行為かどうかは知りませんが、それでエルシアが前を向いて生きてくれるならと。』


レスティア:『そうか・・・。分かった。でもこれだけは言わせてもらう。シント君の力があれば確かに仇討ちは出来ると思う。でもその後シント君は出来るだけその力を使わないで欲しいのよ。シント君の力はこの世界ではあまりに強過ぎる。冒険者として使う程度の力だけなら構わないけど、むやみに大きな力を使わない事ね。』


シント:『それは監視役としての意見ですか?』


レスティア:『違うわ、これはこちらの世界に生きる者としての忠告よ。大きな権力を持つ者が貴方の力を利用しようとするかも知れないし、世界を我が物にしようとする者に目を付けられる可能性もある。シント君がこちらの世界で生きるには立場上とても危険が伴うの。もちろんパーティーを組んでいるエルシアにもね。』


シント:『ん~もし俺がそんな連中に目を付けられても、俺の能力を知ってるなら襲い掛かって来る様な馬鹿は居ないでしょ。万が一俺を利用しようとする者が権力者なら、何とかその真意を暴く方法を見つけますよ。手段なんてのはその時に考えれば良い事ですしね。』


エルシア:『私は召喚師としてシントさんを保護する責任があります。契約を結んで無いとは言え、その事に変わりはありません。それにたとえどの様な権力者であっても、召喚師の意に反して召喚者を利用する事は出来ない筈ですからね。』


レスティア:『つまりエルシアには今後仇討ちを済ませてもシント君と行動を共にする覚悟があるって事なのね?』


エルシア:『もちろんです。』


レスティア:『そっか。なら私から言う事は何も無い・・・と言いたいところなんだけど、正直私もシント君に色々興味があってね。出来れば監視役が終わった後もパーティーメンバーを続けさせて欲しいんだけどどうかな?』


エルシア:『・・・本当にそれだけですか?』


レスティア:『それどうゆう意味よ?』


エルシア:『本当はギルドから監視を継続して、色々と分かった事を随時報告して欲しいと頼まれているんじゃないですか?』


レスティア:『確かにギルドからは似た様な事を言われたけど断ったわよ?だって私はギルドに所属してはいるけど職員な訳じゃ無いし、そんなスパイみたいな事をして嫌われたく無いもの。』


エルシア:『だと良いんですけどね。』


シント:『あのさ、ちょっと良いかな?

ギルドって実際どんな組織なんですか?』


レスティア:『ギルドっていうのは、各職業の種類ごとに設立された独立運営の組織で、大きく分けて6つのギルドに分けられるの。冒険者・商人・漁師・航海士・鍛治士・建築士ね。その他に神職は神殿と教会、魔法士は魔術師協会に属している事もあるのよ。』


エルシア:『他にも独自運営のギルドや義勇軍なんかもありますね。基本的に独自運営以外のギルドは、かつての魔王との戦いの直後に作られた独立組織で、国家や国家連合などの権力に左右されない組織として世界中で展開されています。』


シント:『でもさ、召喚者のレベルによっては政府に報告の義務がある訳なんでしょ?それって国家から干渉されてるって事じゃ無いんですか?』


レスティア:『それは協定で決められた事なのよ。各ギルドは各国の政府から不干渉で運営出来るけど、その国で運営する為に、国家にとって脅威となる重要案件などを共有する協定を結んでいるの。例えばシント君みたいに異常に高い能力を持つ者が、国家の転覆を企んでいたりしたら危険でしょ?だから召喚者に関する情報は各ギルドと政府で共有する決まりになっているのよ。』


シント:『だとしたら俺に関する情報って、どの程度政府に知られてるんです?』


レスティア:『基本的な情報と、登録してからの生活態度や会話から読み取れる人格ってとこかしらね。』


シント:『なるほど、ほぼ全て筒抜けって事か。まぁ知られて困る様な事なんて無いですけどね。あまり良い気はしないけど。』


レスティア:『だって私はシント君の監視役なのよ?仕事はやらなきゃ。』


シント:『別に責めてる訳じゃ無いですよ。正直に言って貰えて良かったです。それでレスティアさんが職務に忠実なのは分かりましたけど、もし俺達とパーティーを組むなら、今後はギルドや政府よりも俺達と情報を共有して欲しいですね。』


エルシア:『私もシントさんと同意見です。少なくとも私はまだ貴女を完全に信用した訳ではありませんけどね。』


レスティア:『随分手厳しいわね。良いわ、この監視役が終わったら、信じて貰える様に努力するわ。って言うかシント君、ずっと気になってたんだけど、いつまで敬語使ってるのよ!私年下なのよ?』


シント:『いや、何て言うかほら、先輩冒険者だし監視役だし?』


レスティア:『いやいや、ランクもレベルも私より数段上じゃない!それに男の子から敬語使われると、なんかこっちまで畏まっちゃいそうだし・・・。』


シント:『もう分かったよ。で、レスティアは監視役終わった後も一緒に住むの?』


レスティア:『そうねぇ、その方が良いかな?シント君達もこの家借り続けるんでしょ?』


エルシア:『そうですね。家賃もそんなに高く無いみたいですし。』


シント:『色々探すのも面倒いから良いんじゃない?』


レスティア:『じゃあ決まりね。明日にでも商人ギルドに行こうか。』


そんなこんなで、レスティアが正式にパーティーメンバーになった。


翌日、商人ギルドで借家の再契約と翌月分の家賃を払い、改めて拠点を確保した。


レスティアは契約していたアパートを解約して、部屋にあった荷物をみんなで家に運んだ。


味方は多いに越した事は無い。


いくら自分の能力が高いとは言え、今後様々な情報収集や複数の敵とやり合うなら尚更だ。


数日後、ギルドから監視期間が満了した事を告げられた。

お読み頂き有り難う御座いました。

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