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一度限りの人生だから。  作者: KEMURINEKO
4/7

第4話 ボーガン・食堂・エルフ族。

お読み頂き有り難う御座います。


第4話です。

その日シント達は、町の郊外にある加治屋に来ていた。


店主:『なるほどねぇ。こりゃかなり複雑な作りだなぁ。こいつはちょいと時間が掛かるけど良いかい?』


店主に見せた設計図は、ボーガンというスプリングで矢を放つ武器の物だ。


魔法を使える割に、威力を最小限にしても強過ぎる為、物理的な飛び道具が欲しかったのだ。


この世界にはまだ拳銃が存在しないので、トリガー式の連装型ボーガンを設計した。


もっと単純な作りのボーガンはこの世界にもあるらしいのだが、それでは討伐に使うには少し勝手が良く無いのである。


シント:『急ぎじゃ無いのでキッチリ作って下さい。とりあえず2週後にまた来ますんで。』


店を出ると、レスティアが不思議そうに聞いて来た。


レスティア:『あのボーガンて、要は金属製の弓なのよね?』


シント:『そう、でも引いた状態で固定できるから、狙いを外しにくいメリットがあるんですよ。』


エルシア:『普通の弓とはかなり違うみたいでしたよね?』


シント:『フレームが金属製で、板バネで張力を稼ぐからね。引く時は板バネに繋いだワイヤーをハンドルで巻くから、それほど力も要らないんだ。』


そう、普通のボーガンをもっと楽に使える様に改良したのだ。


レスティア:『シント君の居た世界にはあった物なのよね?』


シント:『あったけど、弓を引くのはレバー式だったから、それなりに力が必要だったんですよ。て言ってもまぁ持ってた訳じゃ無いですけどね。』


エルシア:『他にはどんな武器があったんですか?』


シント:『正直言って口で説明するのは難しい物ばかりだよ。向こうの武器はナイフや剣なんかの古典的な物もあるけど、拳銃やライフルなんかの精巧な機械仕掛けの武器も多かったんだ。』


レスティア:『でもシント君の居た国って武器の所持は禁じられていたのよね?』


シント:『武器に関する知識は様々な情報デバイスがありましたからね。こっちの世界より娯楽が多かったので、その中にも武器がよく出て来るんですよ。』


と言っても映画やゲームなんて単語使ったら分からないだろうけど。



家に戻る途中で辺りを見渡す仕草をしている獣人族の女の子が居た。


シント:『あの子どうしたのかな?』


エルシア:『迷子・・・ですかね?』


レスティア:『ちょっと声を掛けてみようか?』



シント:『ねぇ君、どうしたの?もしかして道に迷った?』


女の子:『あ、その、連れとはぐれちゃって・・・。』


レスティア:『あれ?貴女、もしかして王都から来たんじゃない?』


女の子:『はい、実は兄がルーメンで飲食店を営業するので、この町に越してきたばかりなんです。商人ギルドに用事があって来たんですが、途中で買い物をしている間にはぐれちゃって・・・。』


エルシア:『その連れの方はギルドに行かれたんですかね?』


レスティア:『ならギルドに連れて行った方が良いかな?』


シント:『そうだね。ねぇ、もし良かったら俺達が商人ギルドまで案内しようか?』


女の子:『良いんですか!?有り難う御座います!私、ルーシーと言います。』



商人ギルドに着くと、ギルド前で身なりがキチンとした獣人族の男性が立っていた。


ルーシー:『お兄ちゃん!』


男性:『ルーシー!お前何処に居たんだ!』


ルーシー:『お兄ちゃんこそ私をお店に置いたまま行っちゃうなんて酷いよ!』


シント:『お連れさんが見つかって良かったね。』


男性:『此方の方々は?』


ルーシー:『私をギルドまで案内してくれた人達よ。手前からシントさん・エルシアさん・レスティアさん。』


男性:『これは妹が大変お世話になりました。私はルーシーの兄で、商人をやっているレスターと申します。』


シント:『気にしないで下さい。たまたま俺達が通り掛かって此方まで案内しただけなんですから。』


レスター:『有り難う御座います。そうだ、皆さんさえ宜しければ、これから私の店で食事でも如何ですか?まだ営業はして無いんですが、丁度うちの料理長がメニューの試作を作っていますので。』


ルーシー:『それは良いわね!どうせ私達じゃ食べきれないんだし。』


シント:『みんなどうする?』


エルシア:『御言葉に甘えちゃいましょうか。』


レスティア:『そうね、せっかくだし頂きましょうか。』


レスターの店は冒険者ギルドの斜め向かいにあり、来週にオープンするらしい。


立地的にも町の一等地なので、かなりの集客が見込めそうだ。


レスターの話では、冒険者が討伐帰りに立ち寄って貰える店にしたいとの事で、酒場兼食堂として営業するそうだ。



レスター:『ここが私の店です。』


シント:『結構広い店なんですねぇ。』


エルシア:『インテリアも落ち着きがあって良いですね。』


レスティア:『本当に冒険者ギルドの目の前なのね!これは常連客増えそう!』


ルーシー:『王都でお父さんがお店をやっていて、お兄ちゃんはずっとその手伝いをしていたんです。やっとの事で一人立ちさせて貰える事になって、この町に来る事に決めたんですよ。』


レスター:『実は両親からルーメンは治安が良いと聞いていたんで、王都の店で働いていた頃から目を付けていたんですよ。』


シント:『やっぱりこの町って治安が良いんですねぇ。』


エルシア:『この町は北西部で一番治安が良いらしいですからね。でも何故北西部へ?』


レスター:『理由は色々あるんですが、一番の理由は、両親がこの町の出身だという事ですね。俺達兄弟も両親が育った町で商売をしてみたいと思ったんですよ。』


ルーシー:『兄がルーメンに来る時に両親に無理言って私も付いて来たんです。』


レスティア:『じゃあルーシーはお兄さんのお手伝いをしに来たのね?』


ルーシー:『王都でもフロアーの仕事はしてましたからね。』


料理長:『オーナー!料理が出来ましたよ!』


レスター:『それじゃあ皆さん食べましょうか。』



出された料理はバラエティー豊富で、肉料理・野菜料理はもちろん、デザートにいたるまでとても美味しくまとめられていた。


オープン後にはお酒の提供も行うとの事なので、冒険者からは喜ばれると思う。


この町にはこの様な料理屋が何軒もあるが、それでも十分に張り合えるほどの味の良さだと思う。


料金も比較的手頃なのは有り難い。


シント達とは違い、宿屋に泊まっている冒険者達は、この様な料理屋を利用する者も多いので、長期滞在をする冒険者には選択肢が増えるのは嬉しいだろう。


シント:『ご馳走様でした。』


エルシア:『とても美味しかったです。』


レスティア:『オープンしたらちょくちょくお邪魔するわ。』


レスター:『是非ご贔屓に。』


ルーシー:『また食べに来て下さいね。』



3人は料理屋を出ると、その足で騎士局へ向かった。


シントが監視対象となる間はこの町に定住する事になる。


ルーメンでの当初の滞在期間を超えるので、前もって滞在税を支払いに行くのだ。


騎士局では先日家に来た騎士団長が出迎えた。


騎士団長:『そろそろ来る頃だと思っていたよ。』


シント:『勘が良いんですね。エルシアと俺の滞在税を払おうと思って。』


騎士団長:『実は君達二人は当面、この町の住人として扱う事になったんだよ。だから君達は滞在税では無く領民税を払って貰えれば、滞在日数を気にする事無くこの町に居て貰って構わないよ。』


エルシア:『あのぅ、住人という事は、この町に拠点を構えなければならないという事なんですよね?』


騎士団長:『そういう事だね。君達がこの町を拠点に行動すれば私達の目も届きやすいだけで無く、君達の安全も確保しやすい。特にシント君の持つ能力が良からぬ者共に知られれば、必ず利用しようとする者も出て来るからね。』


シント:『監視期間が終わったらは旅に出る予定があるんですけど、その場合はどうしたら良いんですかね?』


騎士団長:『その場合は大まかな期間をこちらに知らせて貰えれば問題無いよ。行き先に関しては決まっている場合には教えてくれ。』


シント:『それで領民税は幾らです?』


騎士団長:『君は初年度だから300ジリングだ。』


シント:『あ、そうか、エルシアは領民税を払ってるのか。』


エルシア:『はい、村も同じ領地ですからね。』


騎士団長:『でもこれからはルーメンに住む訳だから、二人共住民登録はしてくれよ?それと今後もあの家に住むつもりなら、月末前に商人ギルドにも行かなきゃな。』


レスティア:『そっか、今月分は冒険者ギルドが支払ってるのよね・・・。』


シントは領民税を支払い、二人の住人登録も行った。



家に戻った3人は、翌日の予定について話し合った。


レスティア:『ねぇ、明日は南東の森に行ってみない?』


エルシア:『南東の森って大型の魔物が出る所ですよね?』


レスティア:『まぁ大型ばかりが出る訳でも無いけどね。前回討伐した所とは違って、シント君の魔法を活かせそうなサイズの魔物が居る。だからシント君に無理に力をセーブさせなくても討伐出来そうだなって思ったんだ。』


シント:『でも魔力をセーブする癖をつけないと、後々困りそうですよね?』


レスティア:『確かにそうなんだけど、セーブばかりしてたらストレス溜まるでしょ?まぁ全力って訳には行かないけどさ、初級魔法の低い威力の物なら普通に使えるかな?ってね。』


シント:『まぁ魔法だけじゃ無く剣も使えますけどね。』


エルシア:『後衛は私が居ますしね。戦術的にもシントさんが前衛をやった方が効率が良さそうですし。』


レスティア:『分かった。ならシント君は前衛でやり易い様に動いて。』



という訳で翌日は森で討伐する事になった。



南東の森はとても広大で、町外れから山の麓まで続いている。


その一角にはエルフ族の暮らす集客があるらしいのだが、詳細を知る者はほとんど居ないそうだ。


森の一部には道があり、途中まではその道を通って森に入る。


魔物以外の動物も多く暮らすこの森は、領主の命令で伐採が禁止されているそうだ。


シント:『良い森だね。キチンと手入れされている。』


エルシア:『手入れですか?』


レスティア:『この森は手付かずな筈だぞ?』


シント:『でもちゃんと枝や密集して生えてる所は間伐されてるし、木漏れ日が届いてるでしょ?』


エルシア:『言われてみれば・・・。』


レスティア:『確かにそうね。でも伐採は禁じられている筈なんだけど・・・。』


エルシア:『でもシントさん、よく気付きましたね?』


シント:『俺が向こうで幼い頃に暮らしていた所が山間の町だったんだよ。親戚の叔父さんが林業をやっていたから、よく仕事に連れて行って貰ってたんだ。』


レスティア:『だから詳しいのね。でも誰が・・・。』


シント:『多分エルフ族じゃないかな?木の手入れをしないと森が駄目になるからね。エルフって自然の恵みを得て暮らしてるんでしょ?』


エルシア:『そうらしいんですけど、エルフってあまり町には出て来ないのもあって、私達との交流が無いんですよ。』


レスティア:『町に来るのはドワーフや獣人族くらいだものね。後はハーフエルフくらい?』


シント:『そうなんだぁ・・・。ん?あれ?あそこに居るのってエルフじゃない?』


少し離れた所で木の実を採取しているエルフが居た。


エルシア:『本当ですねぇ。あれはエルフ族です。』


レスティア:『ねぇ、ちょっと話を聞いてみない?』


シント:『ですね、行って見ましょう。』


シント達が近付くと、エルフ族の女の子は驚いた様に振り向いた。


シント:『やぁ、君はこの森の人かい?』


女の子:『あ、貴方達は何者ですか!』


シント:『俺達はこの先のルーメンから来た冒険者だよ。魔物の討伐に来たんだけど、たまたま見掛けたからさ。』


女の子:『人族の貴殿方に話す事なんて何もありません!直ぐにこの森から出て行って下さい!』


レスティア:『待ってよ!別に貴女達に危害を加えるつもりなんて無いわ!この森の事で少し話を聞きたいだけなのよ。』


女の子:『この森の事?』


シント:『実はこの森がよく手入れされているから気になったんだ。もしかして君達エルフ族がこの森の手入れをしているのかな?ってね。』


女の子:『当たり前じゃないですか。森の手入れをしなければ狂暴な魔物が増えるし、自然の恵みを得るには必要な事なんですから。』


エルシア:『役人に頼んだりしないのですか?』


女の子:『この森は太古の昔から私達エルフが管理して来たんです。人族の助けなんて要りません!』


レスティア:『そう喧嘩腰にならなくても良いじゃない。私達はただ貴女達の事を知りたいだけなのよ?』


女の子:『知ってどうしようというのですか?私達は私達、貴殿方は貴殿方で良いじゃないですか!』


シント:『別にどうこうしようとしている訳じゃ無いよ。出来れば君達エルフ族と少しでも仲良くなれればと思っているだけなんだから。』


女の子:『貴殿方人族がかつてこの森に何をしたかを知らない訳では無いでしょう!?私達がこの森を再生させる為に、どれだけ苦労をしたかも知らないくせに!』


シント:『ちょっと待って!まさか人族がこの森を破壊した事があるのかい!?』


女の子:『・・・まさか本当に知らないのですか?』


シント:『俺は召喚者なんだ。最近こっちの世界に来たばかりなんだよ。』


女の子:『そうですか・・・。ならお教えしましょう。』


およそ900年前、人族は国家間による戦争を繰り返していた。


こと中央大陸の南北戦争は激しく、このルーメンのあるエストネル領と北東部のアイネス領の両国家は北部連合を組んで、南部連合との統合戦争をしていたのだ。


当時のエストネル国王は南部連合の進軍を阻止するべく、この森を焼き払い大規模な要塞を築いたらしい。


時のエルフの族長は集客を山間に移し、戦争から一族を守る為に奔走したそうだ。


統合戦争終結後、大国となったレデスティナ王国に対して、族長はこの森の自治権を主張し、政府による不干渉を条件にこの森を再生させたそうだ。


エルフ族の間ではこれを期に、人族との交流を一切絶ったとの事だった。


エルシア:『そんな事があったなんて・・・。』


レスティア:『大まかな話は聞いた事あるけど、詳しい事は知らなかったわ。』


女の子:『私達一族は人族が行った事を許していません。そんな私達が何故貴殿方人族と仲良く出来ると思うのですか?』


シント:『でも俺としては、同じ土地に暮らす者としては、君達と何とか和解の道を模索したいんだ。この森だって、町の冒険者が討伐に来る事もある。だから互いに踏み込まない領域を決める必要だってあるだろう?せっかく戦争が終わって平和な世の中になったのに、いつまでも過去の事を理由にして和解出来ないのは互いにとっても何の利益も生まないんじゃないかな?』


女の子:『貴方は他の世界から来たからそんな事が言えるのです!過去の戦争でどれほどの罪も無い同胞が犠牲になったか!この森がどの様な有り様になったか!ここまで再生するのに何年掛かったと思ってるんですか!』


シント:『確かに俺はこの世界で生まれ育った訳じゃ無い。でも俺の居た世界にだって過去に戦争はあったし、生態系を破壊されたりもしたよ。でも過去や今よりも未来の事を考える事が一番大事だと思うんだ。自分達の子供や孫達が笑顔で暮らせる未来を、今生きている俺達が作ってやらなくちゃいけないと思うんだ。』


女の子:『・・・変わった人族ですね。貴方、名前は?』


シント:『シント、シント・ヒジリだ。』


女の子:『私はリーナ、リーナ・ウッディーフォレストよ。族長に貴方の事を話してみるわ。もしかしたら貴方となら話をしてくれるかも知れない。』


レスティアは今のシントの話を聞いて確信した。


シントは神によって選ばれた人物である事を。


そしてこの世界での彼の役割を。

お読み頂き有り難う御座いました。

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