第3話 討伐・料理・神の意思。
お読み頂き有り難う御座います。
第3話です。
たった一度の人生だからこそ、少しでも楽しく生きて行きたい。
せっかく男に生まれたのだから、男らしく生きて行きたい。
愛する女性が居て、素晴らしい仲間と笑顔で生きて行きたい。
たった一度の人生だから・・・。
多分男なら誰もが思った事のある理想だと思う。
でも現実は・・・。
学校・バイト先・家の往復を繰り返す毎日。
ストレス解消の為に始めたギャルゲーにハマり、SNSで情報交換をするのを繰り返し、ラノベと深夜アニメで寝る時間を削るという貧乏オタクの無限ループ。
本当に楽しいのかどうかも分からず、男らしくも無い人生を送っている。
俺は幼い頃に両親を亡くし、従姉妹の家に暮らしていた。
高校入学を機に両親と暮らしていた家に帰って来たのだが、日々の生活費も掛かるのであまり親戚に頼る事も出来ない為にバイトを始め、一応何とか生活が出来ている。
そんな生活を送っていた俺だったが・・・。
エルシア:『シントさん、シントさん!起きて下さい!』
シント:『おはようエルシア、何かあったの?』
エルシア:『政府の騎士が来ているんです!リビングで待たせてますから降りて来て下さいね!』
シント:『騎士!?』
急いで身仕度をしてリビングに行くと、三人の騎士が待っていた。
騎士団長『君が召喚者のシント君かな?』
シント:『はい、お待たせしました。それでどんなご用ですか?』
騎士団長:『実は冒険者ギルドからの報告で、君が非常に高い能力を持っていると聞いたんだよ。もちろんレベルとスキルランクも聞いているのだが、どうしても君に直接話を聞きたくてね。』
シント:『分かりました。どの様な内容の話を?』
騎士団長:『君が魔法の存在しない世界から来た事は聞いているのだが、どの様な生活をしていたのかは聞いていないのでね。』
シント:『俺は普通の学生だったんです。と言っても向こうの世界の学生がどの様なものかは分からないでしょうけど。』
騎士団長:『つまり教育機関で学んでいたという事かな?』
シント:『まぁそんな所です。両親が幼い頃に亡くなったので、バイト・・・働いてお金を稼ぎながら学校に通っていました。』
騎士団長:『なるほど、それで君はこちらの世界で何をしたいと思っているのかな?』
シント:『特には何も考えていません。別に特別裕福な暮らしをしたい訳でもありませんし、自分が何を出来るのかも分かりません。ですが俺を召喚したエルシアにはかなり辛い過去があるんです。なので出来る事なら彼女の助けになってあげたいと考えています。』
騎士団長:『それが君の本心だと祈るばかりだ。正直君の能力は国家にとって脅威でもある。君の力は一つの国の体制そのものを破壊出来る可能性があるからね。』
シント:『別に権力や財産には興味はありません。悪事を働いても自分に得があるとも思えませんしね。』
騎士団長:『それを聞いて少し安心したよ。王宮にもそう伝えておこう。』
騎士が帰り、リビングに戻るとエルシアとレスティアが安心した様に入って来た。
レスティア:『騎士が来るなんて思わなかったわ、でもシント君と話して騎士団長さんも納得したみたいね。』
シント:『だと良いんだけどね。別に嘘を言ったつもりも無いし。』
エルシア:『あの、シントさん、お話聞かせて頂きました。有り難う御座います。とても・・・嬉しいです・・・。』
シント:『エルシア、俺は本心を話したつもりだよ。それに俺に今出来る事って君に協力する事ぐらいしか無いのも事実だからね。』
レスティア:『それじゃあ二人共、まずは近所の森で少しお金を稼ぎましょうか?シント君だって装備品を買うお金とか必要でしょ?』
三人は町から程近い西の森で討伐を行った。
レスティアは本当はシントの腕前を見るつもりでいたのだが、シントもエルシアはいとも容易く魔物を倒してしまう。
複数の魔物が相手でも臆する事無く倒してしまうのだ。
エルシアが疲れを見せる頃には、かなりの数を討伐していた。
レスティア:『正直驚いたわぁ、レベル300って凄いのねぇ。戦闘経験がほとんど無い人には見えなかったわよ。』
エルシア:『ほとんどどころか、シントさんは戦闘経験はありませんよ?私と練習した時は何も無い所に魔法を打っていましたし。』
シント:『でも威力を抑えるのって意外と難しいんだね?思ってたよりコントロールが大変だったよ。』
エルシア:『魔力はその流れを感じながら放出する量を操るんです。シントさんの場合は全体の流れの量が多いので尚更大変なのかも知れませんね。』
レスティア:『普通はそこまで難しくは無いんだ。シント君の場合は魔力の量もそうだけど、魔力の質も高いみたいだから逆に難しいのかも知れないわね。』
シント:『魔力にも質なんてあるんだね?やっぱり質が高いと威力も上がったりするの?』
エルシア:『もちろんです。回復魔法や生成魔法なんかだと、魔力の質が高いほど効力も上がりますしね。』
レスティア:『その分注意も必要だけどね。例えば土系の魔法や風系の魔法だと、無意識に使うと味方まで怪我をさせる危険があるんだ。』
シント:『コントロールするコツとかあるのかな?』
レスティア:『自分自身で魔力の流れを感じ取る事が重要だな。一定のレベルを超えると自分が思っている以上に魔力が強く出ている事が多いのよ。』
シント:『魔力の流れかぁ、確かに体から出る魔力の流れみたいのは感じるけど、それをコントロールするのは結構大変そうだなぁ。』
エルシア:『シントさんの魔力は質が高いので、他の人に比べて発動の時の魔力の流れが早いんだと思います。』
シント:『て事は魔力を区切る感じにすれば良いのかな?』
その後町に戻りギルドで換金してから防具屋と武器屋に行った。
レスティア:『結構様になってるじゃない。』
エルシア:『やっぱり武器と防具があるとそれっぽく見えますね。』
シント:『でも剣の使い方まだ分からないんだよねぇ。』
レスティア:『明日教えてあげるわよ。まぁ直ぐに覚えちゃうんだろうけどね。』
その後食材を買ってから家に戻って、二人に向こうの世界の料理を振る舞う事にした。
レスティア:『ねぇ、これ何て料理?』
シント:『ハンバーグとライスと蒸した温野菜だよ。本当は肉をもっと細かく刻んで作るんだけどね。』
エルシア:『とっても美味しいですね。この上にかかってるソースがよく合います。』
レスティア:『本当ね。これお肉の他に何が入ってるの?』
シント:『オニオンと茹でた豆と玉子だよ。肉だけだと粘り気が足りないから形が崩れるんだ。本当は小麦粉があると良かったんだけど、売り切れてたから茹でた豆を潰して代用してみたんだ。』
エルシア:『凄いですねぇ、向こうでも料理してたんですか?』
シント:『1人暮らしだったからね。自炊しないと結構お金掛かるしさ。』
レスティア:『ライスには味を付けないのね?こんな食べ方初めてだわ。』
シント:『向こうでは主食がライスだったんだ。もちろんライスに味付けした料理もあったんだけど、こっちのライスは向こうのと殆んど同じだったから、普通に炊いてみたけど結構美味しいね。』
エルシア:『料理の味が濃い目だからライスが進みますね。』
こちらの世界の食材は向こうの世界と何ら変わらない。
調理の仕方や食材の使い方が違うだけの様だ。
レスティア:『ところでシント君、こっちの世界に来て何か不便な事とか無いの?シント君が住んでた世界って結構便利な世界だったんでしょ?』
シント:『そりゃまぁ向こうなら夜中に買い物も出来たし、色々便利な物もありましたけどね。でもこっちの世界もそんなに悪く無いと思いますよ?』
エルシア:『夜中に買い物出来るんですか!?』
シント:『うん、コンビニエンスストアってのがあって、一日中営業してるから買い物には困らなかったよ?』
レスティア:『でもシント君ぐらいの男の子だと彼女さんとか居たんじゃないの?』
シント:『俺はモテ無いからそんなのとは縁が無かったですよ。うちに来る若い女の子なんて一つ年下の幼馴染ぐらいでしたからね。』
エルシア:『その方かなり心配されているでしょうね・・・。突然シントさんが居なくなってしまいましたから。』
レスティア:『魔法の概念が無いなら召喚されたなんて思わないだろうしねぇ。』
シント:『多分心配してると思うし、警察に捜索願も出されているんじゃないかな?でも戻れないからどうしようも無いけどね。でもエルシア達が気にする事は無いよ。エルシアはこっちの世界の常識で召喚したんだから。』
レスティア:『ん?ちょっと待って?エルシア、シント君とは契約は結んだの?』
エルシア:『契約って何ですか?』
レスティア:『やっぱり知らなかったのね?召喚師はこちら側の世界に異世界の召喚者を存在させる為に契約を結ぶ必要があるのよ。契約を結ばない限りは、召喚者はいつでも元の世界に戻れる筈なのよ。』
シント:『えぇ!?そうなんですか!?』
エルシア:『本当ですか!?私知りませんでしたよ!?』
レスティア:『ねぇシント君、今日道具屋で買った記憶の指輪は身に付けてる?』
シント:『これですよね?』
レスティア:『ちょっとステータスを見てくれる?そこに契約者の項目があるんだけど。』
シント:『ありますね。空欄になってますけど。』
レスティア:『じゃあ魔法の項目に異界転移か送還っていうのはある?』
シント:『ん~ありませんね?普通に転移っていう項目はありますけど。』
レスティア:『おかしいわね・・・。普通なら召喚者の場合、召喚師との契約をしていないなら、必ず自分の世界に戻る為の異界転移か送還の魔法がある筈なんだけど・・・。まさかシント君、通常とは違う手順で召喚されたのかな?』
エルシア:『通常とは違う手順て何ですか?』
レスティア:『希にあるらしいんだけど、召喚対象の人を神の意思で、元の世界では死んだ事にされる場合があるらしいのよ。それは神によってその召喚者がこちらの世界で何かの役割を与えられた者って事みたいだわ。』
シント:『役割?』
レスティア:『私も神官様に聞いた話だからよく分からないんだけど、勇者や使徒なんかはそうらしいわね。でもシント君の異常に高いレベルやスキルランクを考えると、あり得ない話では無いわね。』
エルシア:『なぜ死んだ事にされる必要があるんですか?』
レスティア:『人っていうのは、神の意思によって一つの世界にしか存在出来ないルールがあるの。神がこちらの世界で召喚者に何かしらの役割を与えて召喚させた場合、最悪ほとんどの人生をこちらの世界で過ごす事になるわ。だからこちらの世界の住人として生きる為に、向こうの世界との繋がりを切る必要があるの。』
エルシア:『だから死んだ事にする訳なんですね。』
レスティア:『本来召喚魔法ってうのは、さっき言った神が決めたルールを曲げて行う行為なのよ。だから召喚契約という特別な手順が必要になる訳。契約を行っていないシント君に異界転移や送還の魔法が無いって事は、シント君と元居た世界との繋がりが無い事を意味するのよ。』
シント:『つまりもう俺は戻れないって事なんですよね?まぁ今更戻ったところで色んな所から怒られるだけですけどね。』
正直学校もバイトも一週間以上もサボってた事になるのだ。
幼馴染のアイツには申し訳無いと思っているが、戻ったとしても説明のしようも無い。
エルシア:『シントさんは神様にどんな使命を課せられたのでしょう?』
シント:『どうだろうね?俺にそんな資質があるとは思えないんだけどなぁ。』
レスティア:『でもシント君に何らかの資質が無ければ、選ばれる筈は無いと思うけどね。それで必要無いとは思うけど、エルシアはシント君と契約を結ぶの?』
エルシア:『必要が無いのならシントさんに委ねます。契約する事でシントさんの生活に何かしらの制約があると困るので。』
レスティア:『契約をするとシント君にはパーティーとしてエルシアと常に行動する義務が発生するわ。基本的に召喚契約は召喚師と召喚者が行動を共にする事が前提条件なのよ。』
シント:『だとしたら俺と契約する事でエルシア自身も自由が無くなる訳?』
レスティア:『召喚した者の義務として召喚者を保護する役割だからね。』
シント:『なら契約はしないよ。彼女の人生を俺の為に不自由にしたく無いからね。彼女の人生は彼女のものだからね。』
レスティア:『なら二人は対等の関係としてパーティーを組む事になるわね。』
こうしてシントは改めてこちらの世界の住人として生きて行く事になった。
その時シントは、神がどんな役割をシントに課したのかを知る術も無かった。
お読み頂き有り難う御座いました。




