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一度限りの人生だから。  作者: KEMURINEKO
2/7

第2話 冒険者・ノワール・監視役。

お読み頂き有り難う御座います。


第2話です。

翌日二人は隣町のルーメンに向かった。


森の小路を抜けて街道に出ると、沢山の行商人や旅人が往来している。


人種も様々で、ヒューマンよりも亜人種が多い。


シント:『結構人が多いんだね。』


エルシア:『この街道は王都まで繋がっていますからね。これから行くルーメンはこの辺りで一番大きな町なので、結構人が集まるんですよ。』


昨日の事があって少し心配していたが大丈夫そうだ。


エルシア:『町の東門が見えて来ましたよ。』


町の東門が見えて来ると、この町が城壁の様な巨大な壁で覆われている事が分かる。


シント:『本当に大きな町だねぇ。あの城壁は何なの?』


エルシア:『かつての内乱の名残らしいです。この大陸は元々四つの国があって、国境付近の町では小競り合いを繰り返していたそうですから。』


この国はレデスティナ王国という中央大陸全土を国土とする大国らしい。


その北西部に位置するこの町は、エストネル伯爵が納める領地だそうだ。


かつて四つの国を一つの国家に束ねた初代レデスティナ国王は、それぞれの王家に新たな爵位を与えて、元の国の領土を領地としてそのまま任せたのだそうだ。


シント:『へぇ、これも歴史って奴なんだなぁ。』


東門では兵士による検閲が行われていた。


町の規模が大きく悪人が潜伏易い事から、出入りする者達の素性を確認しているらしい。


兵士:『よし、次の者!』


エルシア:『旧ラノック村の遺跡に住むエルシアです。召喚者とギルドに登録しに来ました。滞在は10日を予定しています。』


兵士:『そうか、10日を超える場合は兵士局に申し出なさい。入町税は二人で40ジリング、滞在税は二人で200ジリングだ。』


エルシアが代金を支払い、二人は門を抜けた。


門を抜けるとそのまま町の目抜通りになっている。


通りの両側には商店や飲食店が列び、とても活気がある印象を受ける。


建物の造りはビクトリアン様式風で、素朴さと華やかさを合わせた美しい町だ。


ブロック毎に路地があり、通りの奥はアパートの様な集合住宅が建ち並んでいる。


シント:『へぇ、良い町だねぇ。』


エルシア:『私には少し賑やか過ぎますけどね。でも種族間のトラブルとかも少ないので住みやすい町だと思いますよ?』


確かに多種属間の交流は盛んな印象だ。


通りの至る所で様々な種族の者同士が立ち話をしている。


よく見ると、冒険者のパーティーも多種属で構成されている事が多いらしい。



通りをしばらく歩くと、少し大きな間口の建物があった。


エルシア:『シントさん、ここが冒険者ギルドです。先に手続きをしてしまいましょう。』


シント:『大きい建物だねぇ。』



表には盾に剣と槍がクロスに組まれた紋章があった。


恐らく冒険者ギルドのシンボルマークなのだろう。


ギルドに入ると直ぐに受付の窓口があった。



シャイナ:『おや、誰かと思えばエルシアじゃない?今日も買い取りかい?』


エルシア:『久しぶりシャイナ、今日は私とこちらの召喚者の冒険者登録に来たの。』


シャイナ:『召喚者だって!?アンタ召喚魔法使ったの!?』


エルシア:『うん、こちらは召喚者のシントさん。』


シント:『よ、よろしく。』


シャイナ:『ふぅ~ん?結構良い男じゃない。そんで登録だったわよね?それじゃあここに二人の名前と年齢を書いてね。』



冒険者ギルドは登録をしなくても討伐部位や鉱物等を買い取って貰えるそうだ。


エルシアは今まで登録はせずに買い取りだけをして貰っていたらしい。


シャイナはこの町で生まれ育ったそうで、エルシアとは結構古くからの知り合いの様だ。



エルシアが必要事項を記入すると、シャイナはプレート状の物をカウンターに出した。


シャイナ:『エルシア、このプレートに右手を乗せて。これでレベルとスキルランクを計測するから。』


エルシアがプレートに手を乗せると、プレートが淡く光り出した。


シントの記入が終わる頃には計測は終わっていた。


シャイナ:『え~っと、エルシアのレベルは42かぁ、結構高いんだね?スキルランクはギリギリシルバーだね。』


エルシア:『一応一人で討伐していたからかも。』


シャイナ:『次はシントさんね。』


シント:『ここに右手を乗せるだけで良いのかな?』


シャイナ:『そう、ただ置くだけで良いわよ。』


シントがプレートに手を置くと、突然プレートが強く光り出した。


シント:『えっ!?』


シャイナ:『ちょ、ちょっとタンマ!その手を離して!』


シントが慌てて手を離すと、プレートの光りが消えた。


シャイナ:『どういう事!?こんな事今まで無かったのに・・・。』


シント:『えっと、俺、まさか壊しちゃいました!?』


シャイナ:『いや、それは無いわ、多分アンタの能力が高過ぎるから計測能力の限界値を超えたのねぇ・・・。ちょっと待っててね。』


そう言うと、シャイナは奥にある個室から誰かを呼んで来た。


シャイナ:『お待たせ!こちらはうちのギルマスやってるロゼリアよ。』


ロゼリア:『はじめまして、ギルドマスターのロゼリアです。えっと、シントさんでしたか?どうやら貴方の能力はプレートの計測許容を超えてしまっている様なので、あちらの執務室へお越し下さい。』


シントとエルシアが執務室へ入ると、ロゼリアは箱形の機械の様なものをテーブルに乗せた。


ロゼリア:『実は先程のプレートではレベルを80までしか計測出来ないんです。元々召喚者の方向けの物ではありませんからね。こちらなら100を超える方でも計測出来ますので。』


シント:『あのぉ、召喚者ってそんなにレベルが高いもんなんですか?』


ロゼリア:『一概には言えませんが、召喚者の方はこちらの世界の者に比べて総体的にレベルが高い傾向がありますね。元々の資質なのか召喚の際にそうなるのかは分かりませんが・・・。』


エルシア:『確かにクリスタルで能力を見た時も信じられない程高い能力でしたけど・・・。』


ロゼリア:『うちのギルドでも召喚者を何度か計測した事はあるんですが、希に予想を上回る能力を持つ方がいらっしゃるんです。そんな時の為にこの計測器があるんですけどね。』


シント:『なるほど・・・あ、これも手を乗せるだけで良いんですか?』


ロゼリア:『はい、その魔方陣が描かれている所に乗せて下さい。』


シントが手を乗せると、先程エルシアが計測した時と同じ位の光りが計測器から放たれた。


その後ロゼリアの前に置かれた別の機械に一覧表の様なものが映し出された。


ロゼリア:『シントさん、もう結構ですよ。・・・なるほど。』


ロゼリアはしばらく一覧表を眺めると、少し考え込んでから口を開いた。


ロゼリア:『シントさん、レベルとスキルランクをお教えする前に、幾つか質問をさせて頂きます。』


シント:『何でしょう?』


ロゼリア:『答えたく無い質問には答えなくて結構です。まず貴方が居た世界での教育システムを教えて頂けますか?』


シント:『えっと、義務教育という全国民が受ける教育が6才から9年間あります。その後入学試験によって合格すると高等学校に3年間通い、希望する者は更に受験して4年制大学か短期大学に通います。俺は高等学校の2年生ですが、召喚されて現在に至るって感じです。』


ロゼリア:『なるほど、かなり進んだ教育システムがあったのですね?それでは向こうの世界での戦闘や討伐の経験は?』


シント:『向こうの世界には魔物が存在しませんし、俺が生まれ育った国では民間人が戦闘を行う事はほとんどありません。向こうには魔法もありませんし、基本的に武器の所持も禁止されていたので。』


ロゼリア:『魔法が無い世界ですか・・・。』


シント:『生活に関するほとんどの物は、科学的に産み出された物ばかりですね。』


ロゼリア:『つまり魔法では無く、全てが科学で成立した世界という訳ですね。解りました、有り難う御座います。それではシントさんのレベルとスキルランクをお教えします。レベルは300でスキルランクはノワールです。』


エルシア:『えぇ!?』


シント:『レベル300!?てかスキルランクのノワールって何ですか!?』


ロゼリア:『ノワールはスキルランクの上限無しという事です。正直言ってレベル300なだけでも規格外です。それとシントさん、貴方の情報は国の機関にも報告しなければなりません。』


シント:『そういう決まり事があるんですか?』


ロゼリア:『実はレベルが150以上の場合は事前に国の機関に報告する義務があります。万が一貴方が悪事を働いた時に国の兵士や騎士が拘束する事になる訳ですが、正直レベルが高過ぎると抑え切れません。そこで貴方は我々ギルドの監視対象となるのです。』


エルシア:『それではシントさんは自由に行動出来ないという事ですか!?』


ロゼリア:『シントさんの場合はレベルとスキルが異常なまでに高過ぎるので、国家としても放置出来ないと思います。ギルドとしては政府に対して報告を行い、シントさんを一定期間観察する事で国家への危険が無い事を保証する必要があるのです。』


シント:『俺は構いませんよ。要は悪い事をしなければ良い訳ですよね?それでその観察期間ってのはどのくらいなんですか?』


ロゼリア:『一月です。その間は当ギルドのゴールドランクの一人、レスティアが貴方達と共に行動します。』


エルシア:『あの、まだ宿屋を決めて無いんですが、その方も共に生活するのですか?』


ロゼリア:『そうなります。宿屋はこちらで手配しますので少しお待ち下さい。』


そう言うとロゼリアは部屋から出て行った。


エルシア:『どうしましょう・・・。まさかシントさんが監視対象になるなんて。』


シント:『そんなに気にする事無いよ。特に悪い事をしなければ良い話なんだから。』


エルシア:『でも一月はこの町を出られないんですよね?』


シント:『いや、そんな事は無いと思うよ?監視役が一緒なら町を出ても問題無いだろ?』


エルシア:『あ、その手がありましたね。』


シント:『それにその監視役の人にも討伐の手伝いをして貰えれば楽に稼げるしね。』


そう言うとエルシアは少し呆れた顔で笑った。



ロゼリアがレスティアを連れて部屋に戻って来た。


ロゼリア:『お待たせしました。こちらが当ギルドのゴールドランカー、レスティアです。』


レスティア:『はじめましてお二人さん、私がレスティアだ。』


レスティアは猫人属の冒険者で、いかにも運動神経の良さそうなスレンダーな体型をしていた。


ロゼリア:『シントさんの監視役ではありますが、当面は御二人のパーティーメンバーとして同行する事になります。』


シント:『はじめましてレスティアさん、よろしくお願いします。』


エルシア:『エルシアです、よろしくお願いします。』


レスティア:『監視役と言っても構えなくて良いよ。私はシント君の能力に興味があるから引き受けただけだしね。』


ロゼリア:『滞在の宿ですが、宿屋だと何かと不便でしょうから、商人ギルドに借家を手配しておきました。この後商人ギルドに寄って下さい。それとこちらが御二人のギルドカードになります。』


ロゼリアが手渡したギルドカードはランク毎に色が違った。


エルシアのはシルバー、シントのは黒だ。


それぞれに名前とレベルが明記してある。


三人は冒険者ギルドを出ると商人ギルドへ向かった。


商人ギルドは町のほぼ中央に位置しており、兵士局・銀行と同じ建物になっている。


シント:『へぇ、銀行なんてあるんだ?』


レスティア:『出来たのは10年ほど前だよ。国内の大きな町には必ずあるから、大金を持って旅をする必要が無いんだ。』


エルシア:『盗賊に襲われ易い行商人などは、銀行に預ける事で財産を守れるんです。ギルドカードで利用出来るので、他人は絶対に使えませんからね。』


シント:『それは便利だね。』


商人ギルドに入ると、待っていたかの様に担当者が出迎えた。


ブレア:『冒険者ギルドから連絡は頂いております。担当のブレアと申します。これから直ぐに借家に向かいますが、少し説明をさせて頂きます。』


エルシア:『よろしくお願いします。』


借家は町の南側にある住宅街の一軒家で、リビング付きの2階建てだそうだ。


水道や浴室まで完備している結構豪華な家らしい。


家賃に関しては一月分をギルドが立て替えてくれるそうだ。


ブレア:『それでは借家にご案内させて頂きます。』



ギルドを出て町の南に大通りを行くと西側には住宅街、東側にはバザールがある。


借家は比較的大通りから直ぐの所にあった。


シント:『結構良い家だなぁ。』


エルシア:『本当ね、庭まであるわ。』


レスティア:『アンタ達ラッキーよ?この辺の家は住みやすいから人気があるの。』


ブレア:『一通りの家具は揃っていますし不便は無いとは思いますが、何かありましたらいつでもギルドにお越し下さい。こちらが鍵になります。』


エルシア:『有り難う御座います。』


一旦各自荷物を部屋に置いてから、リビングで今後の事を話す事にした。


レスティア:『さて、改めて自己紹介するわね。私はギルドで三人のゴールドランカーの一人のレスティアだ。年齢は15才、レベルは75で剣士をやっている。この辺りの討伐スポットは熟知しているから何でも聞いてくれ。』


エルシア:『私はエルシア。年齢は15才で町の北東にある旧ラノック村の遺跡に住んでいたの。とある事情で召喚をしてシントさんが召喚されたのよ。』


シント:『俺はシント・ヒジリ。17才でエルシアが言った通りの召喚者です。元居た世界では学生をやってたんだけど、こっちの世界の事はよく分からないんで、色々教えて貰えると助かるよ。』


レスティア:『OK、なんとなく事情は飲み込めたよ。ところでシント君、君って魔法が無い世界から来たそうだね?』


シント:『うん、だからエルシアに魔法の使い方を教わったんだ。まさかこんな事になるとは思わなかったけどね。』


レスティア:『そうだろうねぇ。でもアンタが高い能力を持ってて良かったよ。だって今回の事が無かったら、訓練場で剣術の教官をやらされるとこだったんだもん。』


エルシア:『レスティアさんはゴールドランカーですものね。でも監視役ってどんな事をするんですか?』


レスティア:『別にこれと言って何もしないわよ?だってよほどの悪人でも無い限り、私が報告する事なんて何も無いもの。』


シント:『俺が猫を被ってるとしたら?自分が高い能力を得たなら何かをしでかすかも知れないよ?』


レスティア:『悪いけどアンタがそこまで器用な人には見えないわね。それにもしそんな悪人なら私よりも先にエルシアさんを騙しているはずでしょ?悪人だったら冒険者なんてやらずに盗賊にでもなった方がこの世界ではテキトーに暮らせるもの。』


エルシア:『シントさんとは数日生活を共にして、彼が悪人で無い事は私は分かっているつもりですし、今後も悪事を働く事は無いと信じています。』


レスティア:『それなら私がやる事は討伐の手伝いだけね。それでパーティーリーダーはどっちがやるの?』


シント:『俺は勝手が分からないし、エルシアかレスティアさんがやる方が良いんじゃない?』


レスティア:『私はあくまでも監視役なのよ?エルシアがリーダーをやる方が良いわ。』


エルシア:『分かりました。なら取り分だけでも皆で等分にしましょう。私は必要な分を稼げれば良いので。』


シント:『俺も賛成だよ。ところでお腹減らない?何か食べに行こうよ。』


こうしてシントはこの世界で冒険者になった。


エルシアの真の目的は有るが、シントは自分がこの世界に慣れる事から始めようと思っていた。

お読み頂き有り難う御座いました。

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