第1話 異世界・魔法・仇討ち少女。
お読み頂き有り難う御座います。
第1話です。
俺を真剣な眼差しで見つめる少女。
テーブルを挟んで困り顔の俺。
ちなみに此処は日本でも無ければ、現代の地球でも無い。
そう、俺はなんと異世界に召喚されてしまったらしいのだ。
しかもパンツ一丁で・・・。
何故こんな事になってしまったのだろう?
向こうの世界での最後の記憶は、部屋でギャルゲーをやった後、パンイチでエナジードリンクを飲みながらSNSを開いていた・・・までは覚えている。
突然睡魔に襲われて、気が付いたら目の前に魔法使いの美少女が居たという訳だ。
俺:『あのぅ・・・。』
少女:『はい?』
俺:『とりあえず何か・・・着る物無いかな?さすがに恥ずかしいんだけど・・・。』
少女:『っ!?あっ!ご、ごめんなさい!すぐ持って来ます!』
少女は慌てて席を立ち、別の部屋に服を取りに行ってくれた。
彼女の名はエルシア。
人属の15才で魔法使いの修行をしているそうだ。
最近やっと中級の召喚術を習得したばかりらしい。
ふと見渡すと部屋にはアンティークな感じの品々が沢山あり、まるで中世を思わせる。
地球儀があったので見てみると、やはり大陸や島の地形や、それらの配置は俺の居た世界とは全く異なっていた。
俺:『これ、帰れないとかなりヤバいかもな・・・。』
パンツ一丁・一文無し・法律や文化も分からない・ヤバそうな魔物とかいそう。
てか帰れないと、学校とかバイトとか色々ヤバい。
俺は両親を幼い頃に事故で亡くしたので、昔は従姉の家に暮らしていたが、高校入学を機に親が残してくれた家に独り暮らしをしている。
それを気に掛けてか、近所に住んでいる年下の幼馴染が時々様子を見に来てくれるのだが、俺が居なくなったと知ったらさぞや心配するだろうな・・・。
この世界では、特別な技術を持たない者は魔術を学び、召喚の儀式を行って異能の力を持つ異世界人を仲間として生きて行く風習があるらしい。
正直迷惑な話なのだが、俺は特別な力も知識も無い。
そんな俺が召喚された意味が全く理解出来ないのだ。
しかし彼女の話では召喚者は必ず何かしらの能力を持っているという。
平凡な高校生の俺にそんな力があるとはとても思えないのだが・・・。
エルシア:『あのぅ、どうぞこれを着て下さい。』
彼女が手渡したのは、中世風の木綿の服だった。
俺:『有り難う、助かるよ。』
服を着ると、少女は気まずそうに聞いて来た。
エルシア:『失礼ですが、貴方の御名前を教えて頂けますか?』
俺:『あ、そっか、ゴメンゴメン。俺は神徒、聖 神徒、17才だ。』
エルシア:『え?家名持ち!?貴族か何かなのですか?』
シント:『いや、俺の居た世界ではみんな家名を持ってるんだよ。ちなみに家名がヒジリで名前がシントね。』
エルシア:『それではシントさん。これからは私と共に旅をして頂きます。定住に適した町や都に着いたら、その後の事は話し合いましょう。』
シント:『ちょっと待ってよ!いきなり召喚されて右も左も分からないし、俺には特別な能力なんて無いと思うんだけど?』
エルシア:『召喚されたからには何かしらの能力がある筈です。それに貴方からはとても強大な魔力を感じます。』
シント:『いや、自分じゃ分かんないし、魔法とかどうやって使えば良いかも知らないし。てか向こうの世界の生活とかもあるから出来れば帰して欲しいんだけど?』
エルシア:『・・・残念ですが、元の世界へは帰る事は出来ません。異世界への帰還魔法なんて聞いた事もありませんし、基本的に召喚者はこちらの世界で皆一生を終えています。』
ま、まじかよ・・・。帰還魔法も無いとかどんだけだ!?ほとんど誘拐同然じゃ無ぇかよ・・・。
シント:『いやさぁ、そんなん言われても、こっちの世界の常識とか知らないし、俺にだって事情ってもんがあるんだけど・・・。』
エルシア:『本当に申し訳ないとは思っています・・・。こちらの世界では召喚は当たり前に行われている事ですし、そうでもしなければ生きて行くのも困難なので・・・。』
もうこの際帰れないのは仕方無いとして、まさかこれから魔物とかと戦わなければならんのか?
シント:『はぁ・・・。もう分かったよ。でも俺の生活の保証とかはしてくれるんだよね?』
エルシア:『当面の生活費や身の回りの世話は私が何とかします。貴方にはその間に魔法が使える様になって頂き、私と共に討伐やクエストを出来る様になって頂きます。』
シント:『え!?俺に魔法なんて使えるの?それに戦闘経験なんて無いんだよ?』
エルシア:『基本的に魔力の無い方は召喚されません。これから貴方の使える魔法を調べて、その能力を計ります。恐らくは早い段階で魔法が使える様になると思いますよ?』
エルシアは簡単に言っていたが、とてもそうは思えない。
だが現段階では彼女に従うしか無いのも事実だ。
その後2人で外に出た。
外に出て気付いたが、俺が召喚された場所は森の中にある古い教会の様な所だった。
教会の周辺には廃墟が点在している。
まるで遺跡の様な所だ。
エルシアは徐に小さな水晶の様な物を俺に向けて何やら呪文を唱えていた。
呪文を唱え終えると、彼女の目の前に何やら一覧表の様な物が浮かび上がった。
彼女は真剣な眼差しでそれを見ると、次の瞬間には目を見開いて固まっていた。
エルシア:『嘘でしょ!?・・・そんな・・・あり得ない・・・。』
シント:『ね、ねぇ、何か分かったの?』
エルシア:『シントさん・・・貴方のステータスを見たのですが・・・。貴方はこの世界の上級魔法師以上の魔力を持っておられます。すでにかなりの種類の魔法を習得されていますし、格闘能力や剣の腕前も常人離れなレベルです。』
シント:『えぇ!?・・・でも俺自身何も感じないんだけど!?』
エルシア:『それはまだ覚醒出来て無いからかも知れませんね。旅に出るまで少しずつ魔力の使い方を覚えていきましょう。』
どうやら俺は身体的にも精神的にも、まだこの世界のマナに対応しきれていないらしい。
だが未だに不可解な事が幾つかある。
エルシアが固まってしまうほどの高い魔力や技能的スキルが、何故俺に備わっているのか。
少なくとも俺は運動神経が良く無い。
当然格闘技や剣道の経験がほとんど無いんだ。
さらに学力も全国平均をはるかに下回る方だ。
ラノベやアニメに出て来る様なチート転生やチート召喚なら、主人公にある程度それらに関する心当たりとか、神様との出会いとかがある筈だ。
あくまでも俺の憶測だが、今回の場合は召喚対象の人間は誰でも良くて、取り敢えず来た人間に最大値の能力を付与する感じになったんじゃないか?
何かしらの事情があってそうなった可能性は高い。
となれば俺はこっちの世界でそれらの能力を使う為には修行しなきゃ生きて行けないのではないのか?
・・・面倒いなぁ。
エルシア:『シントさん、まずここに書かれてある内容を見て下さい。』
エルシアは先程の一覧表をシントに見せた。
シント:『あれ?字が読める・・・。』
言葉が通じた事もそうだが、こちらの世界の文字も読める・・・知らず知らずのうちに少しずつ覚醒してるって事か?
一覧表を見ると、確かに考えられる限りの魔法やスキルは習得している様だ。
よくアニメやRPGに出て来る様な魔法が並んでいる。
スキルの中には呪文詠唱省略等の便利スキルまである。
て事は魔法の名前と効力が分かっていれば、自在に発動させられるって事なのかな?
シント:『ねぇエルシア、呪文詠唱省略があるって事は、詠唱無しでそのまま魔法が使えるって事だよね?』
エルシア:『はい、もちろん使う魔法の効果や属性・魔力の調整など、シントさん御自身が理解して制御を行う必要はありますが、それさえ覚えてしまえばどんな強力な魔法も詠唱無しで使えます。』
すげぇな・・・。
てかチートとかいうレベルじゃ無ぇぞこれ。
下手すりゃこっちの世界で魔王とかになれるレベルじゃん・・・。
一覧表を一通り確認して分かった事は、俺の目から見ても強大過ぎる力を持っている事と、この力を他人に知られない方が良いという事だ。
大き過ぎる力ってのは、私的に行使するといつの世も良い結果を生まない。
それは学校で習った歴史やドキュメンタリー番組とかでも学んだ事だ。
そしてその力を利用しようとする奴が必ずって言って良いほど存在する。
エルシアがそういう人で無ければ良いのだが・・・。
それから数日は魔法を使う練習をした。
エルシアが言った通り、ほんの数日練習しただけにも関わらず、直ぐにほとんどの魔法が使えるまでに上達する事が出来た。
驚いたのは彼女自身かなり魔法が使える事だ。
よくよく話を聞くとエルシアは剣術の腕前もなかなからしい。
それなりのスキルを持っている筈の彼女が、何故俺を召喚したのだろう?
その日の夕食でその疑問を聞いてみる事にした。
シント:『ねぇエルシア、君は魔法も剣術もそれなりに使えるのに、何で召喚なんてしたの?』
エルシア:『・・・理由は幾つかありますけど、一番大きな理由は、とある魔術師に仇討ちをする事が目的なんです。』
シント:『魔術師に仇討ちをする?』
エルシアは俯きながら鋭い眼差しで話した。
エルシア:『この教会の周辺が朽ちた村なのは分かりますよね?』
シント:『うん、村だった痕跡はあるけど、随分昔に廃墟になったみたいだね?』
エルシア:『ここは私が生まれ育った村なんです。かつてはこの教会を中心に集落が広がっていた良い村だったんです。』
シント:『いったいどうしてこんな廃墟に・・・。』
エルシア:『私がまだ5才の時にデルマーと名乗る魔術師が村にやって来ました。デルマーは村が魔族に襲われると村長に言いました。その日私は村長の使いで隣町の兵士局まで手紙を届けに出掛けたんです。私が村に戻ると、村は炎に包まれていました。村の人達は皆焼け死に、デルマーはその燃え盛る村の広場で1人笑っていました。何が起こったのか聞こうと私が話し掛けると、デルマーは私を蔑む様な目で見ながら何も言わず村を去って行ったのです。その時私は何も出来なかった・・・。ただ泣いて炎が消えるのを待つしか出来なかった・・・。だから誓ったのです。成人を迎えたらデルマーを探し出して必ず復讐すると。』
痛ましい話だとは思う。
彼女の怒り・悲しみ・絶望、その全てに同情する事は出来る。
まだ幼い彼女にとって、その光景は地獄そのものだった事だろう。
こちらの世界で仇討ちが許される行為かどうかは分からないけど、出来る事なら力になってやりたいと思う。
だが俺は彼女を復讐の鬼にしたくは無い。
シント:『君はその魔術師を殺したら、その後どうするの?』
エルシア:『・・・分かりません。私はあの日からそれだけを考えて生きて来ましたから。』
シント:『エルシア、君の心情は理解出来る。その魔術師が危険な人物で非道な事をしたのは確かな様だけど、これだけは覚えておいた方が良い。復讐をしても過去を変える事は出来ない。殺された村人達が生き返る事は決して無いんだ。俺は君に召喚されたし良くして貰ってる。だから君がどうしても仇討ちをしたいなら協力しても良いけど、それが全て終わった後は前向きに生きて欲しいんだ。俺は君の復讐の為に自分の人生を代償に召喚されたんだからね。召喚された俺の今後の人生を共に笑って生きて欲しいんだ。俺がこの世界で頼れるのは、もう君だけなんだから。』
そう言うと彼女は突然我に帰った様に目を見開いて涙を流した。
エルシアはその時、自分の身勝手な復讐心でシントを召喚をしてしまった事を後悔した。
自分が復讐をする為に他人の人生を奪ってしまったからだ。
並外れた能力があるとは言え、もしかしたらシントの命の危険もあるかも知れない。
そう思うと自分を攻めずにはいられなかったのだ。
夕食後、シントは自分が召喚されて普通の人生が送れなくなった事を言い訳にしてしまった事を少し後悔していた。
シント:『余計な事言っちまったかなぁ・・・。』
エルシアが最後に涙を流させてしまった事が、シントの中で引っ掛かっていた。
召喚はこちらの世界で当たり前に行われている事だし、エルシアにはエルシアの人生がある。
シント:『気を付けよう・・・。』
その日はそのまま眠りについた。
お読み頂き有り難う御座いました。