Act 2
ちょっとホラーかも。タグがあるかもしれません。
正直、目の前の光景には目を疑った。これがただの夢だったら、どれだけ良かったんだろう。
私の記憶が正しければ、座標0,0,0,0,0はアドワン中央平原の、まさに中央だったはず。世界は常に動いていて、全てはその地点を中心としていた。アドワン王国のある惑星はこの世界のとある太陽の周りを回っていて、自転軸はもちろんここではなかったが、そうだとしても、だ。そして、ここは一面に広がる草原だったはず。
でも今は…
赤いような黒いような、均等なような何処かムラのあるような、そんな虚無の上に、あちこちがひび割れた白い大きな円盤が浮いている。私は今、その上に立っている。円盤は半径100m程ありそうで、外周から数mのところに、中央を向いて均等に14枚のドアが立っている。どのドアも1つとして同じものはないし、壁は見当たらない。
しばらく迷って、赤いドアのドアノブを掴んだ。
潰れたイチゴと鬼と、その他いろいろミキサーにかけたような模様。
〈私はいつでもそばにいます〉
〈不明な点についてはできる限りお答えします〉
〈ですので、困ったら頼ってくださいね〉
前から思っていたが、ルシエルは私のもういない母を、どこか思い出させる。
どこか見覚えのある、燃え盛る建物。
ここは…
██大学。
20█年、事件は起きた。最近活発になってきたあの活動家たちは、この時ついに動き出した。昼休みを狙い、食堂に手榴弾を投げ込んだ。彼らお手製の、粗末なものだったらしい。でもそれはしっかりと役目を果たし、██人以上の被害を出す大事件となった。その中には、確か…
〈どうされました?〉
〈もう2分ほどフリーズしてますが〉
…あ。
また下らない光景がフラッシュバックした。『いつかの』はそのせいで現れたのかもしれない。
気を取り直し、赤い扉を開ける。
その先にあったのは、赤ではなく、白い空だった。地面も、何もかもが白い。影がなければ何も見えなかっただろう。そして、後ろの扉だけに色が付いている。
〈あなたもですよ〉
そうだ、よく見れば自分も普通。この部屋(?)は「色無の部屋」って感じかな。よりよく周りを見渡すと、この部屋の大体の特徴がつかめてきた。
・外部のもの以外全てが白。
・沢山の白い直方体のブロックがそこら中に浮いていて、全て平行、垂直。
・一方向に重力がある
・ほぼ無限に続いている
こんな感じかな。…とりあえず、動き出さなきゃ何も始まらない。まずは近くのブロックに飛び乗る。幸い、座標は固定されているようだ。まあ、14歳の女子1人で落下する浮遊物とか失礼極まりないけど。
何時間も進み続けている気がする。歩いては飛び乗り、また歩き…
視界が全部白色で、不安はどんどん大きくなる。
(もう手遅れなんじゃあ?)
いや、まだだ…
(このまま進んで、何もなかったら?)
『いつかの』で戻って他のを調べる!
(へ〜、死んじゃわないようにね ♪)
ああ、うるさい!さっきから囁いてくるのは、…私だ。それも『いつかの』自分。あの頃はもっと、おしゃべりだったらしい。人見知りもなく、気軽で…
色。色が欲しい。何もかも真っ白。自分の手はまだ白い方。とても足しにならない。あ、そうだ、あれなら赤い。鮮やかに赤い。
スマホを操作して、バールの写真を…
不意に、遠くに光るものが見えた。金色に。走る。走って走って、それを拾った。それは…
1枚の、風化したコインだった。
見覚えのあるそれは、フロウによく微笑んでくれた感情の神、アドワンを守る守護神でもあり、世界の一部を預かっていた…
「フェルミウス…」
コインには両面にそれぞれ男女の微笑んだ顔が両側に彫ってあり、彼はこれを弾いて武器に変身させていた。なぜだかわからないけど、私は同じ動作をしていた。コインは変化することなく、私の手に戻る。何か熱いものがこみ上げてきたが、コインをさっさとストレージに入れ誤魔化した。辺りを見回し、これ以上この部屋にいても無駄だと感じる。
私は『いつかの』を発動した。
少し長かった気もします。次は幕間の予定ですのでよろしくお願いします。