Act 1
多分不定期になります。
下手すれば1ヶ月くらい空くかも…
ある日の夕方。
フロウは、一昨日から不機嫌だった。
年齢は、中学生のそれ。過去の出来事が原因で髪は白く変色しており、明らかに外国人な名前、そして青い目を持つ。そんな自分を見られるのが嫌で、滅多に外に出ず、親は既にいないのをいいことに学校には通っていなかった。
今までは、夜眠るたびに「あの世界」へ行って、現実の世界を忘れて親友達と遊んでいた。あっちならこの明らかに日本人ではない名前も、この白い髪のことも気にしなくていい。何せ親友はアルビノだし、かの国ではこの名前も違和感はない。そして何より、友達がいる、という事実が嬉しかった。
しかし、だ。
一昨日から、あの世界に"ダイブ"できなくなった。あの世界の創造主であり、"管理者"であるレッド(本名はなぜか教えてくれない)は行方不明に。頭パソコン男が一所懸命に捜しているようだが、まだ見つかっていない。
でもなんども昼寝して挑戦し続けている。次は入れる、と淡い期待を抱き、今夜もベッドに潜り込む。
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〈ファイルが破損しています〉
〈ワールドベースデータ及びプログラムが著しく欠如しています〉
聞こえる。今のは…
〈アバターを修復しています〉
〈…失敗しました〉
アバターのファイルの破損、そしてベースプログラムの破損。なるほど。私のこの世界でのデータが壊れていた、それがダイブ失敗の原因らしい。さらに、この世界そのものも壊れてしまっている。そしてこの声、思い当たるのは1つ。
〈解析可能なデータを元に、アバターを再生成しますか?〉
〈…いえ、そうすることを推奨します〉
〈久しぶりですね、フロウさん〉
間違いなく、"世界の声"だ。
(久しぶり、ルシエル。まずはアバターを作っちゃえるかな?)
〈わかりました〉
〈アバター生成開始〉
まだ何も見えず真っ暗だが、ルシエルの声は頭に直接響いてくる。何せ、ルシエルは世界の妹であり、かつ独立した人工知能。そうして世界を安定させ続けている。
〈生成完了〉
〈ユニークスキル『万能記憶』の再作成に成功しました〉
〈おめでとうございます〉
気付けば私の体は生成を終え、右手に光の粒子が集まってくる。それらは四角い板となり、現実世界のものと同じ機種、同じカバーの、私のスマホを作り上げた。
ユニークスキル『万能記憶』。何かの「おもいで」をカメラで捉えることで、保存。自身の能力や見た目、武器として行使できる能力だ。世界は楽しいところだけど、戦う術は必須だった。死んだら目覚めるだけとわかっていても、何せ痛みは現実のそれだ。その点私は、いろいろあってバールを主な武器としていた。
ロックを解除して写真アプリを開く。保存されていた写真は、3枚。
1つ目は、自撮り棒で試し撮りしたバールを持った私。能力は当然、『バール』。
2つ目は、親友と一緒に撮ってもらったもの。私はとびっきりの笑顔。しかし、親友の部分は黒塗りのようになっていて、背景のアザーバンドの町まで真っ黒。能力は、『いつもの』。
3つ目は、幼い頃の私の写真。この頃はまだ茶髪だった。前から、何故これに保存されているか不思議だった。気づいたら、入っていた。能力は、『いつかの』。
〈完全に修復できたのはこれだけでした〉
〈申し訳ございません〉
ルシエルは恐らく、ほぼ完全に破壊されたデータからここまで修復してみせた。申し訳ないなんてとんでもない。
「大丈夫だよ、ルシエル。それよりこれからどうすればいいかわかる?」
〈いえ…ただ、座標0,0,0,0,0付近にて残存オブジェクトを確認しました〉
座標0,0,0,0,0。私の初期ダイブ地点であり、この世界の中心であり、私の全ての始まり。
私はいつものようにスマホのロックを解除、『いつかの』を発動する。身体が縮み、本当に『いつかの』姿になる。能力は問題なく使えそうだ。早速特殊効果を発動し、「いつかの場所」へ自分の座標を変更する。もちろんウィンドウに表示されたのは「0,0,0,0,0」。
待ってて、親友、今から助けるから。
読んでくださりありがとうございます。まだまだ続きます。