表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/34

閑話 ある朝の神埼刹那

告白の日の1週間前の話です。

今回は伏線回なので特に勘違いはないです。

チチチッ 、チチチッ、チチチッ


キセキレイの鳴き声で私は目を覚ましました。

そしてすぐに身支度を整えると、そのまま隣の建物に入り扉を開けます。


「あら?お嬢様。レディの部屋を開ける時はノックしてもらわないと。」

メイド見習いのマリがピアノを弾いていた指を止めて顔を上げて私を窘める。


「ごめんなさい……あっ、ここマリの部屋じゃないでしょ?音楽小屋なんですから。」

反射的に謝ってしまいましたが、ここは私が自由に音楽が出来るようにお父様が防音の音楽小屋を11歳の誕生日にプレゼントしてくれたんです。


冷暖房完備の広さ40畳程度の小屋ですけど毎朝ここに寄って、マリとピアノの連弾したり、歌ったりするのが日課になっています。


「お嬢様、今日は連弾から行きますか?」


「ええ、曲はマリが決めてもいいですよ。」


「フッフッフッ、お嬢様、後悔しても遅いですからね。今日はリストの超絶技巧練習曲の第4番『マゼッパ』でいきますからね。」


「ほんとにやるの?あれ、結構大変なんですよ。」


「メイドに二言はないですから、いきますよ。」


そして、私達は弾き始めました。

しかも、今曲を決めたとは思えないクオリティで難曲をなんなく弾きこなしていくマリ。


2人の指が踊るように鍵盤の上を跳躍していく様は側から見ていると惚れ惚れするようなものですが、弾いている当事者である私は一瞬たりとも気が抜けません。


というか、マリ、、、絶対この曲を隠れて練習してたでしょ?





ふぅっ…やっと終わりました。


「むうっ、お嬢様。なんでノーミスなんですか?音の強弱も絶妙ですし、やっぱりお嬢様も音大を目指すべきですよ。あー、でも、お嬢様の場合はもう1つありましたね。続けてやりますか?」

そう言ってマリは最近流行りの女性アイドルグループのヒット曲を弾き始めた。


それに合わせて私は夢中で歌いました。

ちなみにフリはつけずに棒立ちです。



「♫♫〜♪〜♪」



「うわぁ、相変わらずの魔声〜。アイドルソングで泣かせるとかほんと天はお嬢様に二物を与えてますよね。」

歌い終わると、マリは目に涙を浮かべてそんなことを言うのです。


でも、違います。


「この歌声は天から授かったものじゃないって前からいってますよね。この歌声は「シンヤ君から授かったんでしたよね、お嬢様。」

マリは私の言葉を遮って正解を口にしました。

そうなんです。




あれは私が小学生5年生に上がった春、ある男の子と私はある公園で出会ったのでした。




男の子は何故か公園の真ん中で自転車を持ち上げていました。


そして、私は歌の練習…をしていたのですが…声が出ません。そう、今度音楽の授業で歌のテストがあるのですが、人前に出ることも歌も苦手な私はいつしか人前で歌えなくなっていました。


途方にくれた私を見兼ねて彼は私に声をかけてくれたようです。


「どうしたの?何してるの?もしかして俺と同じで歌の練習をするのか?」


???えっ???

彼はさっきから自転車を持ち上げたり下ろしたりしていただけで歌の練習なんて一切していませんでした。


「えっ?歌の練習…してなかったよね?」

私は人見知りするのですが、この時ばかりは驚きが勝ってそんな問いかけをしてしまう。


「あぁっ?これは歌の練習なんだよ。()()()()()()さんにはちょっと難しかったかな?」

男の子はそう言って得意げな顔を浮かべる。



「私は刹那ってなまえがあるんです。そんなよくわからない呼び方しないでくれませんか?」



「ごめんごめん。でも、ほんとに歌の練習してたんだよ。そうだな、お詫びに君に歌の稽古をつけてあげるから許してくれない?」

彼は人懐っこい笑みを浮かべてそんなことをいうものだから思わずつられて笑みを浮かべてしまいました。


それを肯定と捉えた彼の特訓が勝手に始まるのでした。



「せつなちゃん、腹式呼吸って知ってる?」

彼は徐にそんな質問を口にしました。


「知ってますよ。お腹から声を出すんですよね?」



「せーかい。それで、それが出来ると大きな声や高音もでるし、歌にもあんていかんが出るらしいからな。さぁ、一緒に自転車を「遠慮させていただきます。」

私は彼の発言をさえぎって彼の申し出をお断りしました。だって、あんなにおもいもの持ち上げられません。



「あっ、別にこの荷物でいいからな。よいしょって持ち上げて見て、その時の声の出し方に慣らしていくぞ」

そうして、彼の荷物である小さなカバンを持ち上げること30回…


「♫♫〜♪〜♪」

私は公園のど真ん中で、1人で歌うことが出来ました。隣では自転車を持ち上げている変な男の子がいましたが、いつものように緊張してしまうのではなく、おもいを込めて歌えました。


たぶん腹式呼吸は関係なくて、カバンを持ち上げ過ぎて疲れて余計な力が抜けたんだと思いますけどね。


そして、歌い終わると、彼の精一杯の拍手の音が聞こえました。


音につられて彼に視線を走らせると、彼はとても、ほんとうにとても、嬉しそうに笑ったのです。


それからです。私が歌うのが好きになったのは。



「…て言う話があったんですよね。もう、お嬢様から耳にタコが出来るほど聞いてますのでスキップ機能付けてもらっていいですか?あと、このままいくと例の髪の件にまで話が進んで朝ご飯を食べる時間がなくなってしまいます。」


「もぅ、マリの意地悪。わかりました。また、今晩でも話を聞いてくださいね。」


「うわぁ」

マリは断末魔のような声を上げてから部屋を出ていくのでした。


これは彼に告白される1週間前の朝の出来事です。


彼があんなに変わってしまっているなんてこの時の私は想像すらしていませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ