マリたんと友達
俺は家に帰るとベッドに飛び込み、葵のこと、氷結姫のことを考えてみた。
葵とはもう今までのように仲良くできないかもしれないな。大体、葵が割と真面目な性格だって分かってるのに何故俺は罰ゲームだなんて間違えたんだろう。
いや、理由ならわかってるよ。
たぶん、腑に落ちたんだろうな。
俺が女の子に好かれるわけなんてないんだから、葵の告白もきっとそうだって。
ほんとうに葵に酷いことをしてしまった。
償いが出来ないか真剣に考えたけど、気の利いた意見は思い浮かばなかった。
まぁ、スッと出てくるようなものはきっと償いでもなんでもないんだろう。
それこそ葵が言ってくれた自己満足ってやつなのかもしれない。
だから、償いってのは自分の気の済むように行動するって事ではないんだろう。
例えば『葵の何倍もツライおもいをしてででも彼女がこの先、困難にぶつかった時に助けてあげられるようないい男になる。』とか重い覚悟が求められることなんだと思う。
どちらにしても、中途半端はよくないのでまずは氷結姫について考えた。
そして、彼女との出会いから振り返って自分の発言をできる限り思い出してみたのだが‥
結構迂闊な発言をしていることに気付いてしまう。
『責任を取らせてくれ。頑張って働くから』
あぁ〜、まるで「結婚してくれ。」みたいだ。
『こういうのは彼女に聞くことにしてるんだ。』
‥まるで、氷結姫以外の彼女持ちみたいな発言だ。
『必ず責任をとるから、、、それじゃあダメか?』
やっぱり結婚するみたいな発言だ。
『あー、まぁ好きかな。でも、やっぱり2番目かな?』
それでも氷結姫は2番だと言いはる鬼畜な奴。
『まぁ、俺はあのふっくらした感じには敵わないと思っているよ』
ぽっちゃり好き。しかも、氷結姫にもぽっちゃりになるように強要してたような‥
『じゃあ、あそこに行かない?俺もついてってあげるし』
ラブホを指差してそう言う付き合って3日目の彼氏。
『普通っていうか当たり前だよ。こんな大事なこと家族に相談しなくてどうするんだよ?しっかりしろよ。』
ラブホ行きを断るとキレてしまう彼氏。
‥‥氷結姫って、なんでこんなメチャクチャな奴が好きなんだろな?
とはいえ、やはりこのままにしておいて良いわけがない。
やっぱり、氷結姫ともなぁなぁではなくキチンと話し合ってみるべきだろうな。
結局なぁなぁで今まで生きてきた結果がこんなヒドイ結果になっているんだ。
その結果が全部自分に降りかかるんだったらよかったのに。それこそ自業自得だと最高に自虐的に笑えただろう。
でも、結果は自分に一欠片も降り注ぐことなく、俺の大事な人たちを傷つけるだけに終わってしまった。
今更だけど『これじゃいけない。』と気付いてしまったんだよな。
『言葉って思ったほど便利じゃない。』
とか感じるのは俺がバカだからなんだろう。
でも、さすがに『バカを言い訳にするバカ』にはなる訳にはいかない。それってただの甘えだし。
だから、今度は俺からちゃんと氷結姫に告白する。
そこまで決断してしまうと俺も覚悟が決まった。
だから俺はベッドから跳ね起き、氷結姫の屋敷に向かった。
「だからぁ、お嬢様はお会いになりません。お引き取り下さい。と言いたいところですが、明日、7時半には家を出ますので、その時に一緒に車に乗せてもらうよう取り計らいましょう。」
マリたんは真顔でそんなことを言った。
どうやら、彼女は味方らしい。
もちろん、俺の味方という訳ではない。
氷結姫の味方なのだろう。
そのまま家に帰ると俺はまた氷結姫のことを考えていた。
そして、目が覚めた。
なんだか寝足りないな。
昨晩は氷結姫にどうやって打ち明ければいいか考えていたら眠れなくなってしまった。やっと寝れたのは朝方だったからな。
まぁ、とにかく時計を見ると時計は7時40分を指していた。
ん?
7時40分
思わず時計を二度見した俺はボォーッとしながらも『学校に間に合うな』なんて思っていたのだが、意識が覚醒するにつれてマリたんとの約束を思い出してきた。
う、う、うわぁ〜。う、嘘だろ?
7時半越えてる…
…このタイミングで寝坊なんて。
自分のバカさ加減に死にたくなる。
連絡先を知らないため、急いで先輩の屋敷に走ったが、やはり彼女はもう屋敷を出ていた。
それに、マリたんすらもう屋敷には居なかった。
やるしかないか?
俺は家に帰り、金をかき集めて、更に親に土下座して金を借りた。そのまま学校に行き職員室に向かうと、修学旅行の予定表を無理矢理奪取して、そのままダッシュして駅へ向かう。
そんな訳がないだろう。
氷結姫の連絡先が無いと話にならない。
俺はマリたんに氷結姫の連絡先を聞くため、1年の教室をしらみつぶしに探すことにした。
残念ながらあと五分で授業だ。
急がないと‥
手当たり次第に教室に飛び込み水上さんの名前を呼び続けるつもりだったが、一発目の教室でマリたんと目が合った。
しかし、マリたんはすぐに目をそらして、これ見よがしに教科書とノートを広げて『話しかけるなオーラ』を展開する。いわゆるフィールド全開というやつだ。
まぁ、想定内だ。俺はズカズカと教室に入って行き、マリたんの側に寄ると大声で話しかけた。
「マリたん、マリたん、マリたん、マリたん、マリたん。畜生、あくまでも無視するつもりか?今から俺と初めて会った時のマリたんを再現するけどいいか?」
俺は氷結姫を見習って、相手の恥ずかしい場面を再現する恐ろしい技を使おうとしたのだ。
しかし、俺がその禁断の必殺技を披露する前に、マリたんは俺の胸ぐらを掴み一緒に教室を出た。
というか引きずって廊下に出されたと言うべきか。
「なんなんですか?頭おかしいんですか?約束の時間には来ないし、私の教室に押しかけるし。もしかして、お嬢様狙いはブラフで実は私狙いなんですか?」
マリたんは絶対零度の眼差しを俺に向けた。
ある種の人間にはご褒美なのだろうが、残念ながら楽しんでいる時間なんてない。
「いや、そうじゃない。先輩になんて話そうか考えてたら寝れなくて、寝たのが日が昇ってからなんだ。それで、寝坊は反省している。今から先輩のところに向かうから、連絡先を教えてくれ。本人がダメならスポーツ先輩のでも構わない。」
俺は頭を下げて懇願した。
「はぁ?そんなことして私になんの得があるんですか?」
しかし、マリたんは心底俺に興味無さそうな目でそんなことを言うのだ。
まぁ、ここまでの展開は想定内だ。
「教えてくれたら、俺が友達を紹介してやる。」
だから、ドヤ顔で俺はそう言ったのだが、
「はぁ?別に彼氏なんて欲しくないんですが。」
マリたんはものすごく嫌そうな声でそう答える。
「はぁ?なんで彼氏なんだよ?マリたんに必要なのは友達だろ?友達を作ってやるって言ってるんだよ」
「えっと、、、何が言いたいのですか?」
マリたんは不機嫌そうに俺に話の続きを促す。
「不審者な俺がズカズカ入ってきてマリたんに話しかけても誰も見向きもしないし。むしろ、我関せずを決め込むような雰囲気があったぞ。
友達いないんだろ?友達欲しいだろ?いい奴知ってるから紹介してやるよ。そのかわり」
マリたんは俺が話しきってしまう前に俺の頰に平手打ちを浴びせた。
「ぐわぁ〜」
思わず断末魔みたいな声が出てしまった。
情けない話だが、平手打ちで完全に目が覚めた。
寝坊して…焦ってたとはいえ、本当に冷静じゃなかった。俺はなんて酷いことを。事実だからって言っていいことと悪いことがあるだろ?
「前から思ってましたけど、あなたは無神経です。なんでお嬢様はこんなのがいいのかわからな…何してるんですか?や、やめて下さい。」
別にマリたんにいかがわしい事をした訳ではない。
俺が彼女に誠意を込めて土下座をしていたので今度はマリたんが焦ったらしい。
あれ?あっ、ダメだ。
全然冷静になれていない。
こんなとこで土下座しちゃダメだろ。
マリたんのクラスメイトが廊下にいる俺たちを見ている。そう、小声で話していたとはいえ、平手打ちから土下座までの1幕をかせいふ…クラスメイトは見ていたのだ。
「なになに…浮気したのかな、彼氏?」
とかマリたんのクラスから聞こえるんだが、、
「すまない、やり過ぎた。完全に浮気男とそれに激怒する彼女だな。ちゃんと埋め合わせに今度君の願いを叶えるから許してくれ。連絡先はあきらめる。そろそろ行くな。」
そう言って俺は去ることにした。
何しろ教師が近寄ってくるし、マリたんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないからな。
しかし、そこに立ちはだかる者が居た。
ここでなぜが妹であるミナが俺を睨んでいる。
あれ?ミナは中等部だろ、もう教師が来てしまうのになにやってんだよ?
「ミナ?お兄ちゃん、ちょっと用事があるんだよ。そこをとおしてくれないかな?」
「イヤ、あの女のとこ行くんでしょ?行かせないから。」
なんで、こっちも浮気男とその彼女みたいなやり取りなんだよ?
「いや、兄ちゃんは神埼先輩に伝えたい想いがあるんだよ。なんかわからんけど、帰ったら話を聞くから退いてくれないか?」
俺は宥めるように優しく彼女に話したのだが
「そんなこと私が許さ‥葵さん、どうしてここに?」
驚くミナの前に今度は葵が立ちはだかった。
「ミナちゃんの気持ちは嬉しいよ。嬉しいんだけど、今度はシンヤはちゃんと私の気持ちを受け取ってくれたんだよね。そして、ちゃんと真剣に考えて断ってくれたから。もう。うん、もういいんだ。色々、心配かけて、、ごめんね。」
そう言って彼女はミナを抱きしめる。
それは仲の良い姉妹のようだったけど、当事者の俺はどうしていいか考えがまとまらず、しばらく2人を見つめていた。
ミナはしばらく頭を撫でられてウットリとしていたが、我にかえった。
そして、葵から離れるため葵の腰あたりを掴んで引き離そうと華奢な腕に力を込める。
しかし、同じく華奢な体つきの筈の葵の拘束からは逃れられなかった。というか、びくともしなかった。
「ど、ドーピング?」
ミナが思わずそう呟いた。
「シンヤ、急がないとオオゴトになるよ。先輩追いかけるんでしょ?『結局会えなかった』とかだったらもう口聞いてあげないからね。」
気丈にも葵がそんなことを言う。
だから、俺は彼女が涙を流さないように必死に下唇を噛んで耐えているのには気付かないフリをしてそのまま校門まで駆けていった。
閑話 続き
水上マリ目線
「水上さん、大丈夫?水上さん可愛いし、もっとイイオトコ捕まえられると思うよ。あっ、私、野中青葉。ってクラスメイトだから知ってるよね。あっ、ハンカチ返さなくていいからね。」
三つ編みメガネの野中さんはなぜか私にハンカチを手渡しそんなことを言うのだけど、、勘違いしてる?
反応おかしくない?
「あの?別に付き合って…ないし」
私は誤解を解こうとするけど、
「えっ…カラダだけの関係だったんですか?ますますヒドイ男です。あっ、私は宮下レイナです。」
別の女の子も乗っかって来て、話が収拾しない。
「あの?話聞いてくれない?」
私がなんとか誤解を解こうとしたところで
「あっ、先生来ちゃった。また、次の休み時間にゆっくり聞かせてね、マリたん」
先生が来てしまい、誤解は解けず仕舞いだった。
『マリたん、呼びすんなぁ〜。』なんて思ったけど。
そして、誤解を解いている内に2人と仲良くなり、残念ながらあの憎きシンヤの言う通り『友達を作ってやる』という公約は達成されてしまった。
生意気で考え無しな奴に見えるのにこんなに鮮やかに私の悩みを解決してしまうなんて‥
悔しいけど、お嬢様が彼を好きな訳が理由が少しわかってしまった。
ホントにほんのちょび〜っとだけだからね。
誰も聞いていないのに言い訳をしてしまういつもと違う私の頰はなぜだか熱を持っていた。
次回、とうとうラストです。
6000字以上ありますが、、、




