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神埼刹那の勘違いその6


葵を傷付けてしまった。


その事実を心の中で消化しきれず、しばらく呆然としていると、階段塔の扉が開く音がきこえた。


まさか、葵か?


俺はどんな表情を作って良いかわからずに、結局無表情で振り返る。


まぁ、無表情を取り繕っている時点で無表情ではないんだけどな。『無表情になり損ねた何か。』というのが正しい表現なのかもしれない。


とにかく、振り返るとそこに居たのはリョウスケだった。



「ん、あっ、えーと、、、色々大変だったね。」

視線を泳がせてそんなことを言うのでさすがにピンときてしまった。わざとなのか、たまたまなのか分からないが、明らかに葵とのやりとりを聞いてたんだろうな。


葵の名誉の為にも、あんまり蒸し返したい話でも無かったので俺は話をガラッと変えることにした。


「いや、、そう言えばアンノウンに最近ログイン?してるか?」

『アンノウン』とは今、そこそこ流行っているネットゲームだ。


俺はそこで、片手に日本刀、片手に拳銃というちょっと厨二なキャラで小規模のギルドに入ってゆる〜く楽しんでいたのだが、、、


「もしかして、姫さんの話?」

あっさりとリョウスケが話にのってきた。


「そうそう、ふざけんなって話だよな?」

俺は拳を振り上げてリョウスケに訴えかける。



「まぁ、そうだね。彼女は酷いらしいね。」



「いや、彼女じゃないって。ちょっと見た目が良いからって、、、、俺からあげるばっかりで、、それで最終的に人のものを使いやがって。普通、人に借りたものであんなことしないだろ?」

そう、姫と名乗るプレイヤーの女の子はとても可愛いアバターと妙に明るく人懐っこいキャラで絡んでいてなかなか楽しい娘だった。


だから、装備とか道具をあげたし、SSS武器の狙撃銃、バレット M82を撃ってみたいというので貸してあげたのだ。まぁ、このゲームの武器の貸し借りは期間を決めていなくても1週間すれば手元には戻ってくるシステムだから物自体はいいのだ。


このゲーム、誰かに銃で撃たれた場合はどの銃で撃たれたか特定できる仕組みになっている。所謂。ライフリングのようなものだ。そして、その銃の持ち主も特定できてしまう。


誰が撃ったか特定出来るのであれば問題なかったのだが、どうやら、俺の銃を使って1kmや2km先からPKを繰り返す誰かのせいで銃の持ち主である俺は色んな奴に狙われることになってしまった。


お陰で、町からで出て三秒で殺されることもあるんだよな。ゆるーくゲームするつもりが俺だけ難易度がナイトメアモードに設定されてしまったみたいな状況に追い込まれてしまった。


ちなみに、彼女は彼女ではなく彼【ネカマ】だということも判明した。だから、『彼女じゃない』と言ったのだ。


本当に踏んだり蹴ったりだよ。




「まぁ、災難だよね。俺でもそんなことされたら殺意が湧くかもしれないね。ところで、話を逸らさないで欲しいんだけどね。」

微笑みながらも目が笑っていないリョウスケは俺を逃してはくれなかった。こういう強引なリョウスケは珍しいな。


「やりとりを見てたんなら俺は何も言うことはないって。ハッキリ言って『俺が悪者なんだ』って今なら分かるし、詳細は話すつもりはないからな」

そう、リョウスケは俺が以前の葵の告白を勘違いしてスルーしたことや、挙げ句の果てに俺をフッたことを責めているのだろう。それは俺が悪いからまぁいいんだけど、やはり葵のいないところでこんな話をするのはちょっと違うと思う。



「ふぅん。ということは今後(葵と)恋人になる事は絶対にないってこと?」

リョウスケは念を押してたずねた。



「そりゃ、そうだろ。」

あんなフり方して次がある訳がない。

だから俺は自己嫌悪をいっぱいに馴染ませた声色で

そう答える。


「わかったよ。また、教室で。」

リョウスケは短く息を吐き出すとそのまま踵を返して屋上を出て行った。


もっと責められると思った。

いや、責めてくれさえしないって事か。


自業自得過ぎて何も言えねぇよ。


結局次に2人に会ったら、なんて話しかければいいか思いつかず、俺はそのままカバンも取りに戻らず家に帰ってしまった。




話は遡り昼休みの神埼刹那視点


昼休みになると凛たちとランチを済ませました。

いつもなら楽しいランチなのに今日は食欲もなくて、せっかく巌さんが作ってくれたお弁当を殆ど残してしまいました。


そして、ランチを終えるとそのまま無意識に屋上への階段を登り、屋上へと続く扉に手をかけたところで、私は我にかえりました。


あれ?


私、なんで、こんなところに来たんだろ?


こんな所まで来ると昨日の出来事を思い出してしまい

、また瞳から涙が溢れてしまう。



なんであんなお弁当作っちゃったんだろう。



後悔の言葉ばかりが浮かんでしまう。


しかし、扉の外にシンヤくんの声が聞こえて思わず聞き耳を立ててしまいました。



「‥してるか?」



「もしかして、姫さんの話?」

もう1人の男の子がシンヤくんの質問に答えました。

『姫』って誰のことなんでしょうか?

そう言えば私も、『なんとか姫』って呼び方をされているみたいですし、もしかして、、、


「そうそう、ふざけんなって話だよな?」

シンヤくんは感情をぶつけるかのような荒々しい口調でそう答えました。


普段温和なシンヤ君からは想像もつかない口調に私は戸惑いを隠せませんでした。


ど、どうしたのかしら?



「まぁ、そうだね。彼女は酷いらしいね。」



「いや、彼女じゃないって。ちょっと見た目が良いからって、、、、俺からあげるばっかりで、、それで最終的に人の物を使いやがって。普通、人に借りたものであんなことしないだろ?」

シンヤくんはそう答えましたが、私はその答えを聞いて愕然としてしまいました。



彼女じゃない?

シンヤくん側からあげるばっかり?

人の三段重【モノ】を借りてお弁当作【あんなこと】りなんてしないだろ?



これ‥どう考えても私の事でした。

勘違いしようがありません。



彼が私に対してこんなに怒っていたなんて全く気付きませんでした。私のことが好きじゃないどころか、私をこんなに憎んでいたなんて。



「やりとりを見てたんなら俺は何も言うことはないって。ハッキリ言って『俺が悪者なんだ』って今なら分かるし、詳細は話すつもりはないからな」」

シンヤくんは私が好きじゃなかったからフッてしまっただけです。別に悪者じゃありません。



でも、こんなに陰口を叩いてしまうほど私のことが嫌いだったなんて全く気付きませんでした。


『私ってなんでこんなに無神経なのかな?』

私の周りは優しい人が多すぎるのでしょう。

だから、私の心は甘やかされて、甘やかされ過ぎて、気付かない内に怪物【モンスター】のようになってしまったのかもしれません。



「ふぅん。ということは今後(刹那と)恋人になる事は絶対にないってこと?」

会話相手の男の子は私が1番聞きたい質問を口にしました。



「そりゃ、そうだろ。」

しかし、その答えは私が1番聞きたくない答えででした。それに、シンヤくんの言葉には嫌悪感が滲み出ていて、私の事が大嫌いなのがダイレクトに伝わってきます。


だから、私の心はそれに耐えられなくなって、そのまま逃げ出してしまいました。

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