シンヤと葵と過去がたり
30話が長くなりすぎたので分けました。
ですので、残り3話です。
たぶん、1番のシリアス回ですので少し我慢頂けるとありがたいです。
見渡す限り青い空の下、昼休みの屋上に俺は葵と2人でいた。
他には誰もおらず、2人きりだ。
「それで相談ってなんなの?」
俺の相談内容がずっと気になっていたのだろう?
先程からソワソワした様子の葵がそう切り出した。
「それは…」
俺は全てを葵に話してしまった。
合コンでのこと。
氷結姫の告白。
その後の下校。
昨日の昼休みの散弾銃事件。
その後の下校。
屋敷でのマリたんとの会話。
そして、俺が後悔していることまで全てを葵に吐露した。それほどまでに切羽詰まっていたとも言えるし、葵を信頼しているとも言えた。
「うーん。結局、シンヤがどうしたいかじゃないかな?マ‥メイドさんの言うことももっともだと思うよ。付き合わないのに、勘違いを謝るだけって残酷だよ。それって相手のことを考えてるようで、自分がスッキリしたいだけなんじゃない?」
少し考え込んだ後、葵はそう言った。
親しさと彼女特有の優しさ故に一切オブラートに包まれていない正論は俺の心にチクチクとダメージを与えてくれるが、たぶん俺は『こういった辛辣な意見を言ってくれる』って思ったから葵に相談したんだよな。
「そうだよな。後味が悪いけど、この場合謝らないことの方が思いやりがあるんだろう。それを認めたくないってのはやっぱり俺のエゴなのか。うーん、うん、、、、相談にのってくれてありがとう」
話し合うまでのこともない内容なんだよな。
どちらかというと誰かに聞いてもらって俺を叱って欲しかったのかもしれない。
きっと、それこそが俺の甘えなんだろう。
「ううん、別に構わないけど。それにしても、散弾銃と三段重…うーん、そんな勘違いしてしまうのはシンヤっぽいよね。フフフッ、きっと相性がわるかったんだって。気にするだけ無駄だよ。」
そう言って慰めてくれる。
いや、けなしてるだけかもしれないが。
『それに救われている』なんて思える俺は自分が情けなくなってきた。
そして葵が俺の頭を撫でようとしたので躱すと、今度は俺のワキをくすぐった。そう、頭を撫でようとしたのは単なるフェイントだった。
付き合いが長いから俺の行動が読めるんだろうが、
だったらなぜ、俺は葵の行動が読めないんだろうな。
「くっ、や、やめっ、、ウワハハハハッ、ハハハハハッ、ハハハハハハハハッ、ウハハハハハッ、ハハハハハハハハッ、、ハァハァ、ってそろそろヤメろ。息ができない。」
そう言うと、葵は更に物凄くくすぐってきたので俺は
笑い続ける羽目になってしまった。
抵抗しようとすると葵の色んな所が当たりそうになるのでちょっと困ってしまう。
しばらく笑い続けて、酸欠になったところでようやくくすぐり地獄から解放された。
不思議なことに無理矢理でも笑うと少しスッキリするものだ。やっと落ち着いた俺は話を戻した。
「無自覚に女の子をひどく傷つけてしまうなんて、俺はまだ女の子と付き合うとかは早過ぎるのかもしれないな。」
今回の事は反省点が本当に多かった。
まだ、俺に付き合うとかなんとかは早い気がする。
だって、俺にオンナゴコロが分かっていたら氷結姫にあんな悲痛な顔をさせることもなかっただろう。
彼女のあの表情を思い出すだけで胸が締めつけられるように苦しくなる。
というか、あれからズッーっと氷結姫のことばかり考えている。
「そうくるんだ?私となら上手くいくんじゃない?‥ど、どうかな?付き合ってみる?」
しかし、葵は引きつった笑みでいきなりそんなことを言うのだ。
「いや、ひやかしの告白なら中学ん時も聞いたけど、あんまりそういうこと言わない方がいいぞ。今の時代、そういうの本気にしてストーカーになるやつとかいるし。」
これも彼女の優しさなのだろうか?
そう思って忠告してあげた。
しかし、こういった『元気付けるためだけの嘘の告白』は俺を元気付けるには逆効果なんだよな。
俺自身、葵に裏切られたような気になってひどく落ち込んでしまうんだよ。
葵に悪気は無いってわかってるのにな。
「えっ?なに?ひやかしの告白って…中学の時って…」
葵は戸惑いの表情を浮かべているが、まさかこれも演技なのだろうか?やっぱり葵と言えども女の子のことは全然何一つわかりはしない。
そう。中学の時、俺はハッキリと聞いている。
ひやかしの告白を受ける少し前のことだ。
5限目が始まる前に空き教室で葵とクラスの女子が話しているのを聞いたんだ。
「橋本さぁ〜。絶対アオちゃんのこと好きでしょ?アオちゃんといる時だけ表情違うもんねぇ、ほんとわかりやすいよねぇ。ねぇ、ねぇ、私がキューピットになってあげようか?」
楽しそうにその女子が葵に話しかけたので思わず隠れて耳をそばだてる。
もしかして葵も俺のこと…なんて思ったのが、俺の思い上がりだったと直後に知らされることとなった。
「そんなくだらない事言ってないで早く教室に戻るよ。」
葵はそう言い捨てて空き教室を出ようとしたので俺は慌てて隣の教室に飛び込んだ。
俺はなぜだか泣きそうになっていた。
いや、理由なんてハッキリしている。
彼女も俺と同じ気持ちだと思ったんだ。
結果は聞いての通りだ。
聞きたくなかったけどな。
俺が葵に向ける気持ちは『くだらない』らしい。
葵が『私達って気が合うよね』なんて口にする度に胸が高鳴っていた。
葵が『シンヤだけに教えるけど…』なんていう度に充足感で満たされていた。
俺はなんて愚かな道化師だったんだろうな。
悔しくて、悲しくて、俺は暫くその場から動けなくなっていた。
結局、授業はサボってしまった。
少しおちついた俺は部活に行くために教室にカバンを取りに向かうことにした。
道化師と言えば、その前日にクラスのあまり親しくもないギャル系の女子に告白されたな。
ちなみに、見た目は結構可愛い娘で何故だかわからないが、『大天使ちゃん』なんて呼ばれていた。
「橋本、好きなんだけど、付き合わない?」
軽い口調でそんな事言うので、俺はため息を堪えてお断りした。
「付き合わない。なになに?罰ゲーム?」
「さっすがぁ。こういうことしても絶対私を好きにならないから橋本を選んだんだよ。ありがとね。それじゃ」
うん、毒にも薬にもならないつまらない男だけど、罰ゲーム対象としては使えるということか…さすがに、なけなしのプライドすら崩れ落ちそうだ。
まぁ、全然話した事がないクラスメイトだから気にしないことにした。いや、まぁ、気になるけど。
話は授業をサボった後に戻るけど、教室に戻って部活に行こうとしたら教室には葵がただ1人残っていた。
「橋本、お帰り。授業サボってなにしてたの?」
葵は俺の席に座っており、俺に気付くと何故か背筋をピンと伸ばして俺の方に向き直った。
「あぁ、ちょっと眠くてな。あくびが止まらないんだよ。」
そう言って気まずい雰囲気を誤魔化そうとした。
別に『○トラッシュ、僕は、、もう、、眠いんだ、』という訳ではない。
そう、俺はまだ悲しさを引きずりまくったままだったんだよ。
「そっかぁ、ごめん、ちょっとだけ時間くれないかな?」
葵にしては珍しく、上目遣いで窺うような様子でたずねる。
だから、俺は無言で首肯すると、
「あのさ、、、、あの、、、あのさぁ、橋本。
私と。私とね。つ、付き合う気ない‥かな?」
葵はそんなことを言うのだ。
俺はショックで頭がクラクラしてきた。
な、なんなんだよ。
俺が葵を好きなことを『くだらない』っていったじゃねぇか?
お前まで俺を罰ゲームの対象にするのか?
友達としては仲が良いから、これくらいの侮辱は許されるってか?
ほんと、ふ、ざ、け、る、な、よ。
「そんな(くだらない)ことより、今日、麺吉のラーメン半額らしいぞ。食ってこうぜ」
俺は怒りを抑えて皮肉を言い返すのが精一杯だった。
というか、葵に皮肉が通じなかったらしく、麺吉ラーメンになぜかついて来てしまったんだけどな。
気まずいやら、腹が立つやらで、ラーメンの味なんてこれっぽっちも分からなかったよ。
話は現在に戻る。
「あのね。何を勘違いしているか知らないけど私は冷やかしや、冗談で告白したりなんてしないよ。そんなこと、シンヤが1番分かってくれてるかと思ってたんだけど」
葵は真剣な目でゆっくりと、感情を込めてそう告げる。いくら俺でもこれが冷やかしだなんて思えない。
だから、俺は中学の時のことを洗いざらいぶちまけた。
「あの、それ、、『キューピットになってあげる』ってのが『くだらない』って言ったんだよ。
それに、その前日に絵留から罰ゲームの告白を受けてたなんてさすがに知らないよぉっ」
葵が頭を抱えてしまった。
「本当に悪かった。ただ、どちらにしてもやっぱり、俺の中では葵への恋心はとっくに終わってしまっているんだよ。中学2年の時なら即答でオッケーしてたと思うけど、今は葵は親友としか思えない。」
もう、振られたと思ってから1年半以上前経っているんだ。
その間も友達としてズッと一緒にいたしな。
さすがにこの関係に慣れてしまっていた。
今更、好きだの嫌いだのの関係になれるとはとても思えなかった。
「そぅっ。そんなに早く結論出さなくていいって。気が変わるまで待ってあげるし。どうせ2年近く待ったんだから。」
葵はそう言って微笑むが、俺は彼女の目をまともに見ることは出来ず。
「いや、今更あの時には戻れないって、、、本当にごめん。」
俺は深々と頭を下げるのだった。
そう、恋心がフリーズドライかなんかで中二の時から劣化せずにいられたら葵と幸せになれたかもしれない。
しかし、実際は俺の気持ちの中には恋の残骸しか残ってはいない。葵はいい奴だし、好きだが、やはり親友なのは変わらないだろう。
「だ、か、ら、急がなくていいって言ってるでしょ?」
少し短気な葵らしく、怒り気味で反論するけど、
「いや、正直に言うと嬉しいけど。もう、とっくに吹っ切ってしまってるんだよ。でないと、一度好きだった奴に恋愛の相談なんてしないって?」
俺は葵に嘘はつきたくないので正直に答えた。
まぁ、多分それだけではないんだろうな。
きっと、たぶん、、、あの初恋の娘に似た刹那に惹かれ始めてるんだろう。でなければ、俺も氷結姫のことをズッーっと考えたりはしないと思う。
俺の気持ちのベクトルを察した葵は無理矢理の泣き笑いの笑顔を見せてから、ダッシュで走り去って行った。
たぶん、彼女の性格から言って泣き顔とか見られたくはなかったのだろう。
俺は追いかけたい気持ちをグッと堪えて彼女を見送るのだった。




