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神埼刹那のお弁当大作戦♡【神埼刹那の勘違い5】

前話の神埼刹那視点です。



翌日の放課後、私たちはいつものように手を繋いで歩いていました。


でも、、、


「先輩。恋人じゃないんだから手を繋ぐのはやめませんか?」

シンヤ君の口がそんな悲しい言葉を紡ぐのです。


「あぅ、ダメですか?それって恋人には絶対にしないということなのです?」

私の心から悲しさが際限なくあふれてきて、涙となって私の身体からこぼれおちました。


「いや、よく考えると迷子になったらいけないし繋ぐのはありだな。」

そんな私を見たシンヤ君は、私のワガママを笑って受け入れてくれました。


シンヤ君は本当に優しい素敵な男の子です。


でも、その優しさに甘えているだけでの私ではシンヤ君の恋人に戻る資格がないのかもしれません。


それに、シンヤ君は既に私なんかに興味がなくなってしまったのだと思います。きっと舌打ちやため息、それが彼からのサインだったのに、鈍い私は彼の横に居ながら全くそれに気づきませんでした。



もう一度彼に『好き』だって言われたいな。

もう一度彼とイチャイチャしたいな。

もう一度彼と‥



どうしたらシンヤ君に振り返ってもらえるのかな?

もう二度と振り返ってくれないのかな?


そんなことばかり考えていると、

「それで、シンヤ君はやっぱり私なんかと付き合っても楽しくないと思っているんでしょうか?」

そんな言葉が口からこぼれ落ちました。



「いや、俺は好きでもないのに付き合うのはちょっと違うと思うんだよ。」

彼は優しい言葉で本音をコーティングしてそんなことを言うのです。本当は私が悪かったんだと今なら分かります。


私は自分から彼に何かをしてあげたでしょうか?

彼に何かを与えられたでしょうか?



私はまるで親鳥からエサをもらうひな鳥のように、口を開けて待っていただけだったんです。



「そうなんですか。付き合ってみるとつまらない女の子だって失望してしまったんでしょうか。今度は私のこと好きになってくれるように一生懸命頑張りますね。あっ、ここ右でしたよね。」

そう、もう与えてもらうだけの女の子でいるのはやめます。もっと積極的にアピールするんです。



シンヤ君との会話に集中する為に、昨日一日中マリに貰った地図を眺めていました。だから、道筋は頭の中にバッチリ入っています。


ただ、シンヤ君は暫く無言で歩き続けています。


だからと言って会話がないままシンヤ君の家に近づいていくのを黙って指を咥えてみている訳にはいかないのです。


なんとか私から何か話しかけたいと思うのですけど、何を話したらシンヤ君が喜んでくれるのかさっぱりわかりませんでした。


いい言葉が浮かんだと思ったら消えて、また浮かんでは消えてしまい、その繰り返し。まるでシャボン玉です。


お陰で私の口は開くことはなく、焦りばかりが私の身体の中を這い回るのでした。



しかし、沈黙は永遠に続くことはありませんでした。



「先輩、今から大事なことを言います。質問したいこともあるでしょうがまずは最後まで聞いてください」

暫くたった頃、シンヤ君は真剣な表情を浮かべて私に真実を語りはじめました。




彼は私に告白したのではないこと。


付き合っているつもりではなく、私に怪我をさせてしまったので、私を介護しているつもりだったこと。


なぜかくれたお菓子はお詫びの品だったことなど、衝撃的なものでした。



「‥そうだったんですか?元々私のことなんて好きじゃなかったんですね。ものすごく気を使わせてしまってごめんなさい。でも、、、それでも、、、私と付き合ってもらえませんか?」

緊張のあまり、私は既に泣きそうになっていました。それでも、私は諦めるつもりは全くなかったのです。


だから、なけなしの勇気を振り絞って彼にもう一度告白しました。



「そんなに即答出来ないって。先輩って大体俺のどこが好きなの?」

しかし、彼は困ったような顔をしてそんなことを言うのです。



「かっ‥こ‥いい‥ところ?」

私は思わずそう言いましたけど、それは彼の好きな所のほんの一部でしかありません。


「いや、もっとほかにないんですか?」

シンヤ君は呆れたようにそう言いました。

そうですよね?

本気で好きなら、好きな所を100個位は挙げないと信じてもらえませんよね?



「そうですね。真面目にバカなことをするところ。自分を持っているところ。自然に他人に優しくできるところ。責任感のあるところ。あとは「も、もういいです。先輩は俺を照れ死にさせるつもりですか?1週間しか付き合いがないのにそんなに挙げられますよね」

まだ、10分の1も挙げていませんでしたがシンヤ君に遮られてしまいました。


よく見ると彼の顔が真っ赤です。


「1週間じゃないです。小学5年の時会ってからですから6年分の想いがつまってます。」

私は6年前のすこし、わんぱくな彼も好きでしたし、今の少し大人しく大人になった彼も好きです。


出来れば彼が変わったその6年間もズッと一緒に居たかったですけど、彼といた公園以外に彼の手掛かりがなく居場所がわかりませんでした。


だから、高校で見かけた時は嬉しくて、ほんとうに嬉しくてその場で静かに泣き出してしまったほどです。



その後は、シンヤ君の好きな食べ物の話になり、シンヤ君が卵焼きを好きだとわかりました。

だから、私は明日こっそりお弁当を作っていこうと決めたのです。





ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ


断続的に鳴り響く電子音で私は目をさましました。

私は急いで着替えて、身支度を整えます。



「ふぁっ」

そして、思わず出た欠伸【あくび】をかみ殺す。

何しろ今の時間はまだ丑三つ時なのです。


でも、今からやらないと間に合いません。


「きゃっ」

首筋に冷たい何かを感じて私は声を上げてしまいました。


「ふふっ、いいリアクションです。さすがお嬢様」

振り返るとイタズラっ子のような笑顔を浮かべたマリが立っています。


既にスッカリ着替えたマリはメイド服をバッチリ決めていました。



「マリは寝てても良かったんですよ。巌さんに教えて頂けますし。」

そう、ウチの料理長の巌さんが私のコーチをかって出てくれたんです。


「いえいえ、こんなおもし‥‥もとい、大切なことに参加しない訳ないじゃないですか。任せてください。料理ならそこそこ得意です。」


「マリ‥‥ありがとう。手伝ってくれる?」


「だから、そう言ってるじゃん‥ですよ。」

そうして、2人で厨房に向かうのでした。




「お嬢様‥もうお腹がいっぱい。というか、もう茶色い卵焼きはウンザリなのですが」

12回目の試食の後、マリがお腹を押さえて苦しそうにそんなことを言いました。


そう、私が失敗した卵を味見係のマリが全て食べてくれていたのです。


「ごめんなさい。もうちょっと。もうちょっとでコツが掴めそうな気がするんです。」


「ほ、ほんとうにもう少しなんですよね?『もう少し詐欺』とかじゃないんですよね?」

マリは私を見つめながらそんなことを言うのですが


「だ、だ、大丈夫です。 ‥たぶん」

あまりにマリが必死な形相で私に顔を近づけるので私は思わず目を逸らしてしまいました。


「お嬢様ぁ〜、そろそろ真面目にやって下さい。それとも実はお嬢様はマリが大嫌いなんですか?」


「そんなことないよ。とにかく頑張るね。」

私はそう言って料理を再開しました。





「出来た。巌さん本当にありがとう御座いました。マリも本当に有難うね。」


「いや、お嬢様の頑張りのお陰ですよ。それよりもケガと火傷した所はちゃんと水上メイド長に見せるといいですよ。あの人、昔は看護士をしていたらしいですからね」

そう言う料理長の巌さんは今日は朝の仕込みをしながらも丁寧に教えてくれました。

本当に感謝してもしきれません。


「いえ、まさか彼氏さんに合わせて7種類も卵焼きを作るなんて思いませんでした。私のお腹は爆発寸前ですよ。ほんと今回限りですからね。」

マリは青ざめた顔でそんなことを言いました。



「すみません、シンヤくんの好みの味がわかりませんでしたので思いつく限りの種類を作ってしまったんです。それに、巌さんの甘鯛の西京焼き、シンヤくんも美味しく食べて頂けると思います。ほんとうにありがとう御座いました。」

そう言って私は深々と頭を下げました。


「お嬢様、そろそろ、登校の時間ですよ、急いでください。」

そういうマリに促されて私は厨房を後にするのでした。






昼休み。

「♬〜♪」

思わず鼻唄を口ずさみながら屋上に向かいました。


そう、『シンヤくんがどんな顔で驚いてくれるんだろう?どんな顔で喜んでくれるんだろう?』

そんなことを考えると気持ちが踊ってしまいます。


屋上に着いて階段棟の扉を開けると

シンヤ君は先に屋上に来ていました。


私は大きな包みを持ってドアを開けると、彼の視線が大きな包みに注がれています。


「なんですか?それ?」


「ひ、み、つ、と言いたいところですが、三段重です。家に丁度いいサイズの物がなくて使用人から借りたんですよ。私も好きな人のために使ってみたくて」

私はお弁当を作るため早起きしたので、少し疲れていました。


それでも、好きな人の喜ぶ顔が見られるかと思うと自然と笑みが浮かんでくる。



しかし、シンヤ君を見た瞬間『お弁当を作ってくるという選択』が間違っていたことに遅まきながら気づいてしまったのです。


彼はものすごく戸惑った表情を浮かべていました。

そして、私が三段重を包んだ包みを広げている間に屋上から逃げ出してしまいました。




「あ〜ね。付き合ってもないのに、いきなり三段重のお弁当を作ってくるとかさぁ、やっぱりひいちゃったんじゃん?」

私が絶望感に打ちひしがれながら教室に帰ると、コトハが特にオブラートに包むこともなく私の失敗を指摘するのです。


う〜〜っ、冷静に考えるとそうですよね?


普段積極的にアピールするのに慣れてない私は、そんなことすら見えていなかったのです。


教室に穴があったら入りたい気分でした。


もちろん、それだけではありません。

『もう一緒に帰ってくれないかもしれない。』

そう思うとご飯が喉を通りませんでした。


そして、放課後は重い足取りでシンヤ君の教室に向かうのでした。

三段重→3段重ねのお重です。

ちゃんと一般的に使われる言葉ですが、

わかりにくかったでしょうか?

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